「ほら、今宵の月は美しいであろう?」「は、はい」(こんな目を輝かせて嬉しそうなルークス皇帝は初めてだわ)「身の上話となるが、我はエルバートよりも早く、幼き頃から亡き前皇帝の命令で婚約者候補を与えられていた」「しかし、どの者も地位や権力目当てで、我は断り続け」「ここでエルバートと共によく月を見ていた」(ご主人さまは無心になる為に時々月を眺めるようにしていると前に仰っていたけれど、ルークス皇帝の影響だったのね)ルークス皇帝は月から目線をずらし、フェリシアをじっと見つめる。「だからエルバート以外と月を見るのはお前が初めてとなる」「今宵はしばし、こうして隣で眺めていてはくれないか」(ほんとうは一番にご主人さまと宮殿の月を見たかったのだけれど、ルークス皇帝にそう言われてしまっては拒めない)「わたしで宜しければ、かしこまりました」フェリシアは気持ちを押し殺し、承諾した。* * *その2日後のこと。フェリシアはエルバートと共にルークス皇帝にお呼び出しを受け、門番により開かれた皇帝の間の扉から、髪を一つにくくり、高貴な軍服姿のエルバートと共に中に入る。すると王座の階段の前に何者かが立っているのが見え、床に敷かれた長いレッドカーペットの上をそのまま歩いて行く。王座の階段の前に立っていたのは、美のかたまりの容姿をした高貴な貴族服姿の青年だった。(白き龍のような美しいお方)「エルバートは何度か会っているが、この者は、ゼイン・ヴェルト皇子だ」ルークス皇帝がフェリシアに向けて言う。(え、この方がゼイン・ヴェルト皇子殿下!? 厨房でルークス皇帝と血の繋がりはないけれど次期皇帝だと噂されていたわ。確かお歳はご主人さまより3歳年下だったはず)「ゼイン殿下、初めまして。フェリシア・フローレンスにございます」「フェリシア嬢、初めまして。お噂は聞いておりましたが、やっとお目にかかれ、大変嬉しく思います」「ではこれより本題に入る」ルークス皇帝がそう言い、フェリシア達は並んで跪き、見据える。「隣
Terakhir Diperbarui : 2025-05-22 Baca selengkapnya