All Chapters of 一通の手紙から始まる花嫁物語。: Chapter 71 - Chapter 80

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25話-4 月を共に見られたなら。

「ほら、今宵の月は美しいであろう?」 「は、はい」 (こんな目を輝かせて嬉しそうなルークス皇帝は初めてだわ) 「身の上話となるが、我はエルバートよりも早く、幼き頃から亡き前皇帝の命令で婚約者候補を与えられていた」 「しかし、どの者も地位や権力目当てで、我は断り続け」 「ここでエルバートと共によく月を見ていた」 (ご主人さまは無心になる為に時々月を眺めるようにしていると前に仰っていたけれど、ルークス皇帝の影響だったのね) ルークス皇帝は月から目線をずらし、フェリシアをじっと見つめる。 「だからエルバート以外と月を見るのはお前が初めてとなる」 「今宵はしばし、こうして隣で眺めていてはくれないか」 (ほんとうは一番にご主人さまと宮殿の月を見たかったのだけれど、ルークス皇帝にそう言われてしまっては拒めない) 「わたしで宜しければ、かしこまりました」 フェリシアは気持ちを押し殺し、承諾した。 * * * その2日後のこと。 フェリシアはエルバートと共にルークス皇帝にお呼び出しを受け、門番により開かれた皇帝の間の扉から、髪を一つにくくり、高貴な軍服姿のエルバートと共に中に入る。 すると王座の階段の前に何者かが立っているのが見え、床に敷かれた長いレッドカーペットの上をそのまま歩いて行く。 王座の階段の前に立っていたのは、美のかたまりの容姿をした高貴な貴族服姿の青年だった。 (白き龍のような美しいお方) 「エルバートは何度か会っているが、この者は、ゼイン・ヴェルト皇子だ」 ルークス皇帝がフェリシアに向けて言う。 (え、この方がゼイン・ヴェルト皇子殿下!? 厨房でルークス皇帝と血の繋がりはないけれど次期皇帝だと噂されていたわ。確かお歳はご主人さまより3歳年下だったはず) 「ゼイン殿下、初めまして。フェリシア・フローレンスにございます」 「フェリシア嬢、初めまして。お噂は聞いておりましたが、やっとお目にかかれ、大変嬉しく思います」 「ではこれより本題に入る」 ルークス皇帝がそのように述べ、フェリシア達は並んで跪き、見据える。 「隣国、エセリアルの第2皇太子ユリシーズ・エセリアルから魔が出現した為、助けて欲しいとの要請の手紙が我の元に届いた」 「それゆえ、我の代わりにゼイン皇子を行かせるによって、エルバート、フェリシアよ、新年の祝賀会
last updateLast Updated : 2025-05-22
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25話-5 月を共に見られたなら。

「かしこまりました」 フェリシアとエルバートは同時に言い、跪いたまま深々と頭を下げた。 * * * その後、エルバートはフェリシアとゼインと共に皇帝の間を出る。 「エルバート様、少し宜しいでしょうか?」 ゼインが問う。 「フェリシア、先にディアムと共に部屋に戻っていろ」 「かしこまりました」 フェリシアはディアムと共に廊下を歩いて行く。 「それでお話とは?」 「最近、フェリシア様とルークス皇帝、良い雰囲気のようですね」 確かに仲の良い噂はあちこちで聞く。 見ていても分かる。 「ルークス皇帝の側近から先日お聞き致しましたが」 「寝室で共に月を眺められたとか」 エルバートが両目を見開くと、ゼインはエルバートの耳元で囁く。 「……ルークス皇帝の方がフェリシア嬢とお似合いだと思います」 エルバートは冷たい顔でゼインを見ると、ゼインは優しく微笑み、それではまた、と言い、去って行った。 * * * その日の深夜。 フェリシアは眠れず、部屋の近くの廊下で静かに灯るキャンドルを見つめているとエルバートと偶然会った。 「フェリシア、一人か?」 「はい。シエルさん達には許可を頂いておりますので大丈夫です」 フェリシアが答えると、エルバードは、はーっと息を吐く。 「見回っていたから良かったものの、お前はそうやっていつも一人で行動するが、お前はもう令嬢なのだぞ。宮殿内は安全とはいえ、何かあったらどうするつもりなんだ?」 「も、申し訳ありません……」 (わたしを心配して怒ってくれたのは分かるけれど、なんだか、ご主人さま、いつもよりお顔が冷たく怒っているような……) 「ゼイン殿下から聞いたが」 「ルークス皇帝と寝室で共に月を眺めたそうだな」 フェリシアの瞳が揺らぐ。 「あ、あの、それはお呼び出しされてっ……」 「やはり、勤めを承諾し、お前を宮殿入りさせるべきではなかった」 フェリシアの心が張り裂けそうになり、その瞳から光が消える。 どうして――――。 (ご主人さまと月を見たくて頑張っていたのに) エルバートはフェリシアの表情を見てハッとする。 「フェリシア、今のは」 エルバートは焦ったように右手を伸ばすもフェリシアは背を向け、「部屋に戻ります」と言い、駆けて行った。
last updateLast Updated : 2025-05-23
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25話-6 月を共に見られたなら。

* * * それから一週間、フェリシアはエルバートとは一切口を聞かず、朝昼晩の食事も別々でシエル達やディアムに心配されつつも年越し前日の夜となった。 今宵も食事室で一人の食事。 (ご主人さまと出会う前のよう) (ご主人さまを怒らせたのはわたしのせい。なのに今もこんな酷い態度を取ってすれ違って) (年が越えたらご主人さまと隣国に行くというのに) これだから自分はだめなのだ。 今となってはもう許してもらえないかもしれないけれど、それでも諦めたくない。 フェリシアはその決意を胸に席から立ち上がり、食事室を出て執務室まで駆けて行く。 「ご主人さま、フェリシアです。執務中に申し訳ありません、その」 フェリシアが扉の前で言うと、内側から扉が開き、必死な顔のエルバートが出て来た。 「フェリシア、何かあったのか?」 一週間も酷い態度を取り続けていたのに、心配してくれるだなんて。 「あります」 「ご主人さま、怒らせたわたしが悪いのに、ずっと酷い態度を取ってしまい、申し訳ありません」 「許させないことは分かっております。でも、わたし」 「ご主人さまと、月が見たい、です」 (あ、ご主人さま、冷たい顔をして……。やっぱりもうだめ――――) 「フェリシア、私の方こそ、怒り酷いことを言ってしまってすまなかった」 エルバートは謝罪し、優しく微笑む。 「月を見に行こう」 * * * しばらくして、フェリシアはある部屋の前にエルバートと共に辿り着く。 「あの、ご主人さま、ここは?」 「宮殿での私の特別な部屋だ。気分を入れ替えたい時にたまにここへ来る」 エルバートは説明して扉を開ける。 キャンドルが美しく灯る、落ち着いた休憩室のような部屋だった。 「先に白ワインでも飲むか?」 「は、はい。わたしが注ぎます」 フェリシアはエルバートの代わりに白ワインをふたつのグラスに注ぎ、 乾杯して白ワインを飲む。 「美味しいです」 「それは良かった」 エルバートは部屋の壁時計を見る。 「もうすぐ、年が越えるな」 「はい」 「年が越えたら共に隣国か」 「ディアムも連れて行くが、ゆっくり出来るのは今だけだな」 白ワインをそれぞれ飲んだ後、フェリシアはエルバートと大きな窓辺まで行き、 エルバートがその窓を開け、共に空を見つめる。 「わあ、とても
last updateLast Updated : 2025-05-23
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26話-1 ご主人さまと隣国へ。

フェリシアはエルバートと共に瞳を閉じ、涙を流す。 初めてのキスは月明かりのように優しく温かなものだった。 * * * そして年が明けた翌日の朝、フェリシアはルークス皇帝の命令でバルコニーに参列することとなった。 ルークス皇帝が中心に立ち、左隣のエルバート、右隣のゼインに囲まれ、 エルバートの横にフェリシア、ゼインの横にクランドールが立ち並ぶ。 (宮殿にお勤めしているとはいえ、わたしがこのような場に立って良いのかしら……緊張するわ) フェリシアはふと、しっかりなさい、とエルバートの母に言われた言葉を思い出す。 そうだ、自分はもう令嬢に昇格したのだ。 しっかりしなくては。 ルークス皇帝が集まった大勢の民と宮殿に仕える者に向けてお言葉を述べる。 「新年を無事に迎えられたこと、大変嬉しく思う」 「そして、アルカディアの民、宮殿に仕える者全てに感謝し」 「今後も皆の為にアルカディア皇国を守り尽す」 ルークス皇帝がお言葉を述べ終わると、ワァッと歓声が上がる。 ルークス皇帝は笑顔で手を振り、フェリシア達も続けて手を振った。 そして夜、新年の祝賀会が大広間で開かれ、 豪勢で華やかな料理が白いクロスのかかった各テーブルに並べられ、皆がその料理を食べ、ワインを始め、様々なお酒を飲み明かす中、 フェリシアの料理、牛の赤ワイン煮込みはバルコニーに参列した者と皇帝の側近のリンク、エルバートの側近のディアムのみ食すことをルークス皇帝に許された。 「軍師長達だけフェリシア様の料理を食べられるだなんてずるいですよー」 「これが絶対的権力」 赤ワインのグラスを持ったカイとシルヴィオが続けて言うと、エルバートがふたりに冷ややかな殺気を飛ばず。 「ふたりともその辺にしておいた方がいい」 同じく赤ワインのグラスを持ったアベルがなだめ、エルバートが息を吐く。 「私の部下達が失礼なことを」 ゼインはにこりと笑う。 「大丈夫ですよ、このような美しい料理を見たら誰でも食したくなります」 「羨ましがるのも仕方ない、この料理は絶品だ」 ゼインに続き、クランドールが褒め、フェリシアは恐縮する。 「フェリシア、今日は目をずっと合わせないな」 (それは、昨晩、ご主人さまと初めてのキスを交わしたから、だなんてとても言えない…………) 「そ、そんなことは」 エルバ
last updateLast Updated : 2025-05-23
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26話-2 ご主人さまと隣国へ。

フェリシアは両頬に熱を感じながら、コクリと頷いた。 その後、3日間は休暇に入り、エルバートと会うとまた意識をして失礼な態度を取ってしまう恐れがある為、宮殿の部屋でゆったりと過ごし、休暇が終わると残りの3日で出立の準備に取り掛かり、翌日の朝。 フェリシアはゼインと同じ馬車に乗り、高貴な馬に乗るエルバートとディアム、護衛と軍に守られながらアルカディア宮殿の門を出て、隣国、エセリアルに向かう。 祓い姫の力は大変貴重なことから、ルークス皇帝のご命令でゼイン皇子殿下と同じ馬車に乗ることになったけれど、大変恐れ多い。 (それに、年越し前日の夜のご主人さまとの初めてのキスが未だに頭から離れない) (こんな調子で大丈夫かしら…………) 不安に思うと、ゼインが優しく微笑んでくる。 「フェリシア嬢、私を恐れずとも大丈夫ですよ」 「い、いえ、そういう訳には……」 「貴女はルークス皇帝に認められた祓い姫で、アルカディア皇国の宝なのですから」 「微力ながらエセリアル皇国に到着するまで私がフェリシア嬢をお守り致します」 「わ、わたしはそんな守られる大それた者では……」 否定すると、ゼインが右手を差し出してきた。 「フェリシア嬢、本日より、よろしくお願い致します」 「ゼイン殿下、こちらこそ、よろしくお願い致します」 フェリシアは丁寧に返すと、ゼインの右手を握った。 フェリシア達を乗せた馬車は急ぎ足で進んでいくも、エセリアルは隣国といえど遠く、険しい道を通り国境を越え、到着したのはその夜だった。 長めの美しい髪を流した整った顔の紳士的な青年が、温和で太陽のような青年と共に高貴な馬に乗り出迎えてくれた。 恰好からして恐らく、エルバートより2つ年下だとルークス皇帝の側近から事前に聞いていた第2皇太子ユリシーズとエセリアル皇国の軍師長だろう。 そのふたりにエセリアル宮殿まで案内され、フェリシアとゼインは馬車から降り、エルバートとディアムも馬を兵達に預け、宮殿入りする。 「すでにルークス皇帝からお聞き及びと思いますが私はエセリアル皇国の第2皇太子、ユリシーズ・エセリアル」 「そして隣の軍師長はハロルド・ソレイユ。同い年で凄腕の私の側近です」 「宜しくお願い申し上げます」 ハロルドは続けて挨拶をし、会釈をする。 「案内に加え、丁寧なご挨拶をありがとうございます
last updateLast Updated : 2025-05-24
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26話-3 ご主人さまと隣国へ。

「あの、枕が一つ多い気がするのですが……」 「枕数は合っておりますよ」 「フェリシア様はエルバート様の正式な花嫁候補であられるとユリシーズ第2皇太子殿下にお聞きしており、ルークス皇帝からもきちんと対応するようにとの仰せつかっているとのことで、エルバート様と共用のこちらの特別な部屋をご用意致しました」 「ベッドも共用でお使い下さい」 フェリシアは執事長から詳しい説明を聞き、固まる。 (まさか、今日からご主人さまと同じ部屋に寝泊まりすることになるだなんて) (しかも、ベッドが一つ…………) 「着衣室はフェリシア様の隣の部屋にございますので、そちらでお着替え下さい」 「魔の討伐につきましては明日、改めてユリシーズ第2皇太子殿下より会議室にてご説明させて頂きます。では夕食をご準備しておりますので部屋に荷物を置き次第、引き続き、食事室までご案内致します」 「フェリシア」 エルバートが名を呼び、戻って来た。 「今から食事室に移動となるらしい」 「わたしも今、執事長からお聞きしました」 「荷物を置いて行くぞ」 「あ、は、はい」 フェリシアは荷物をさっさとエルバートと共に部屋に置き、 ディアムも連れて執事長に案内されながら食事室まで移動し、 ゼイン、ユリシーズも加わり、豪華なローストビーフの夕食を共に食べ、着衣室で着替えをした後、部屋の前で再び固まる。 (い、いよいよだわ…………) 「フェリシア、どうした? 入らないのか?」 明日の最終確認を済ませ、ディアムの部屋から出てきたエルバートが隣から問いかけてきた。 「え、えっと、寝るところが一つしかなく……」 「そんなに気を張るな。いつも通り寝ればいい」 そう言われてしまってはもうどうしようない。 フェリシアは部屋に入り、続けて入ってきたエルバートとベッドまで歩いていく。 そしてエルバートが軍服の上着を脱ぎ、近くの椅子に掛け、ベッドに上がり寝ると、 意を決して同じベッドに上がり、背を向けて横になる。 「そんな寝方では疲れるんじゃないか? 体を壊すぞ」 「だ、大丈夫です。いつもこのように寝ておりますので」 ほんとうは嘘だけれど。 「フェリシア、話がある。少し、こちらを向いてくれないか?」 フェリシアは言われた通り、エルバートの方に向き返ると、美しい銀色の髪を流したエルバートが両
last updateLast Updated : 2025-05-24
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27話-1 討伐後のご褒美は。

* * * そして翌日の朝。フェリシアはエルバートと会議室の扉の前にいた。 後ろにはディアム、ハロルド、執事長もおり、これから会議室に入るのだけれど、 初めての会議ということもあって緊張で心臓の動きが速く、 更に昨晩、エルバートと共に寝た場面が脳裏をちらつき、エルバートの顔を見られずにいる。 これから会議だというのに、こんな調子では先が思いやられる。 いつも以上に気を引き締めなければ。 執事長が前に出て会議室の扉を開ける。 「ゼイン殿下、ユリシーズ殿下、失礼致します」 エルバートが挨拶をし、会議室の中に入った。 フェリシアも続いて入り、ディアム、ハロルドも入ると執事長が廊下側から扉を閉める。 会議室の中央を見るとカーテンが掛った大きな窓の前に大きな四角い長机が置かれ、扉側の一番前の席にユリシーズ、壁側の一番前の席にゼインがすでに着席し、こちらに視線を移す。 「……フェリシア、お前は私の隣の席だ」 エルバートに小声で告げられ、フェリシアは頷く。 エルバートは皇帝の席の迎え側に座ると続けてフェリシアも隣に座った。 するとディアムがゼインの隣に座り、ハロルドもまたユリシーズの隣に座る。 「これより、魔の討伐会議を始める」 ユリシーズの言葉によって、会議が始まった。 「ハロルド、皆に報告を」 「ユリシーズ殿下、承知致しました」 ハロルドは軍師長の顔つきで報告を始める。 「帝都で一番高い天空山にて魔が目撃されたとの報告を受け、第3、第4部隊に討伐を命じたが帰って来ず、我の第2部隊に戦況を見に行かせたところ、全滅していたとのことで、今回ユリシーズ殿下によりルークス皇帝に手紙で援軍を要請した次第でございます」 「そして魔は天空山の谷を越えた山奥で夕方に出現するらしく、更に山奥に行くまでに瘴気で腐敗させる魔共を討伐しなければ、辿り着く前に命を落とすことになるとも報告済である為」 「この後、ここから天空山の谷を目指し、その谷に到着後、テントで一夜を明かし、翌朝から、ユリシーズ殿下の第1部隊、我の第2部隊、ゼイン殿下の部隊、エルバート軍師長の部隊から3名ずつ待機させ、残りの全4部隊が山奥付近の瘴気で腐敗させる魔の討伐に入り、魔を討伐した後」 「本命の魔の討伐を軍12名、ユリシーズ殿下、我、ゼイン殿下、エルバート軍師長、フェリシア嬢、ディア
last updateLast Updated : 2025-05-24
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27話-2 討伐後のご褒美は。

ハロルドが報告をし終えると、エルバートが口を開く。 「了解した」 「では、魔の討伐会議はこれにて終了。直ちに出立する」 ユリシーズの言葉で会議はお開きになり、 やがて、フェリシアはゼインと長髪を毛先付近でくくったメイド、サフィラと共に馬車に乗る。 廊下で執事長にサフィラのことを聞いたところ、自分より4歳年上でエルバートと同年齢らしく、強くて優秀で料理好きなメイドのよう。 「ゼイン殿下、フェリシア様、サフィラ・ルミナスと申します。本日より、どうぞよろしくお願い致します」 サフィラのハキハキとした挨拶にフェリシア達も続けて挨拶を返す。 「ゼイン・ヴェルトです。よろしくお願い致します」 「フェリシア・フローレンスです。よろしくお願い致します」 挨拶を終え、間もなくして馬車は動き出し、高貴な馬に騎乗したエルバート、ユリシーズ、ディアム、ハロルドとその軍に守られながら帝都内を通っていく。 アルカディアの帝都は眩暈がしそうになる程、華やかだった。 対してエセリアルの帝都は美しく、民達を見る度、助け合っている感じで温かさを感じる。 けれど帝都に一番高い天空山がある。 いつ帝都に魔が出現してもおかしくない。 この民達を守る為にも励まなければ。 * * * フェリシアを乗せた馬車はエルバート達と共に谷を目指して進んでいき、 しばらくして、天空山の谷付近に到着した。 フェリシアはゼインに続き、サフィラに手を添え、馬車から降りる。 エルバート達も馬から降り、谷付近でテント張りが開始され、 フェリシアは谷付近でのテント張りを手伝い、エルバートは特別なテント近くの太い木に高貴な馬をくくりつけ、あっという間に夕食の時間となった。 「料理は軍の命。この私、サフィラ・ルミナスにお任せ下さい」 サフィラが張り切った表情で言う。 するとユリシーズとハロルドの顔が曇り、そのふたりの軍達の顔も引きつる。 「……討伐前に中毒でやられる」 「……フェリシア嬢の料理が食べたいなあ」 「……俺、アベル、シルヴィオのもフェリシア様に作って欲しいなあ」 ふたりの軍達に加え、カイの小声が聞こえると、 エルバートの冷ややかな目線を浴び、軍達とカイは一斉に黙る。 「気持ちは有り難いが、料理は男達のみで作るので大丈夫だ」 ユリシーズが断ると、軍達は生き延びられたと
last updateLast Updated : 2025-05-25
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27話-3 討伐後のご褒美は。

* * *――翌日の朝。ユリシーズの第1部隊、ハロルドの第2部隊、ゼインの部隊、エルバートの部隊により3名ずつ優秀な者だけを残し、全4部隊が山奥付近の魔の討伐に入った。魔の討伐は順調に進んだようで、夜には瘴気で腐敗させる魔は全て討伐したとアベルよりエルバートは報告を受けた。しかし、エルバートはどこか腑に落ちない。山奥付近の魔が本命の魔より例え弱かったとしても、第3、第4部隊が全滅した程の魔、討伐完了するのが早すぎる。(私とゼイン殿下の援軍部隊が強かった影響もあるかもしれないが)この天空山、何かあるのかもしれない。「ご主人さま、少し宜しいでしょうか?」特別なテントの外からフェリシアの声が聞こえた。「入れ」エルバートが許可を出すと、フェリシアが特別なテント内に入ってくる。「どうした? 何かあったか?」「あの、ご主人さま、明日より本命の魔の討伐に入る為、ユリシーズ殿下に今日の高貴な者の夕食はわたしに作って欲しいとお願いされたのですが、作っても宜しいでしょうか?」「わたしもご主人さま達の力になりたいです」断りたいところだが、フェリシアにそう言われてしまっては仕方ない。エルバートは息を吐く。「分かった。許可しよう」「ありがとうございます」それから間もなくして、フェリシアの夕食、シチューが出来上がり、ユリシーズの広いテントでエルバートはフェリシア、ゼイン、ディアム、ハロルド、サフィラと共に夕食を食べることとなった。「ユリシーズ殿下、如何でしょうか?」「温かく、心に沁み渡り、とても美味しいです」ユリシーズがフェリシアに返すとハロルドが深く頷き、サフィラが歓喜の声を上げる。「美味しすぎて涙が出てきました!」ゼインとディアムが、はは、と笑う。フェリシアの料理はやはり美味い。特にこのシチューは寒い夜には格別だ。だが、皆の心まで捉えてしまう。本当に厄介なものだな。* * *そして翌日の朝。フェリシアはエル
last updateLast Updated : 2025-05-25
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27話-4 討伐後のご褒美は。

今までの魔達は人に近かった。けれど、この魔は――。 闇の魂が集結して出来た翼のない異形なアンデットのドラゴンの形をしており、空に浮かんでいた。 この姿こそが、魔に乗っ取られし人の最後の形だと言い張るように。 「現れたな。作戦開始!」 ハロルドが叫び鞘から高貴な太陽の模様で装飾された剣を抜くと、ユリシーズは王冠、エルバートは月、ゼインは光、ディアムは翼の模様が入った剣を同じく抜き、 ユリシーズの第1部隊2名、ハロルドの第2部隊3名、ゼインの部隊2名、エルバートの部隊2名、アベル、カイ、計9名は剣を、 ユリシーズ、ゼインの部隊から各1名ずつ、エルバートの部隊からはシルヴィオの計3名は銃を抜いて祓いの力を放ち、魔を引きつけ、 その間にユリシーズとハロルドをエルバート、ゼイン、ディアムが援護しつつ、 ユリシーズとハロルドは魔に近づいて行く。 すると魔が大きな口を開け、闇に染まった弾を放ち、計12名は吹き飛ばされた。 ユリシーズ達5名は結界で堪え、フェリシアもまたサフィラの結界で守られると、魔はユリシーズとハロルドに向けて空中から物凄い速さで突っ込んでくる。 そして魔が地面との距離が近くなった瞬間、ユリシーズとハロルドは祓いの力で飛び上がり、同時に魔に斬りつけた。 しかし、魔の体は硬くて斬れず、ユリシーズ達の剣が真っ二つに折れ、2人はそのまま地面へと着地し、魔は再び空中へと飛翔する。 「そん、な」 フェリシアは動揺の声を上げ、隣のサフィラも両目を見張った。 * * * 「斬れないならば。ゼイン殿下、共闘を」 エルバートの申し出にゼインが頷き了承すると、共に剣を突き上げる。 すると空まで祓いの力が放出され集まり、同時に剣を振り下ろす。 まさにその寸前だった。フェリシア、巻キ添エ。エルバートの精神に強き魔の声が響き渡る。 その声に瞳が揺らぎ、躊躇し、エルバートは剣を振り下ろせない。 隣のゼインもまた精神を乱され、剣を振り下ろせず、硬直する。 「ご主人さま!」 フェリシアが叫び、駆け寄ろうとしている足音が聞こえた。 「お前の手助けは必要ない!」 エルバートはとっさに強い否定の声を上げる。 その声でフェリシアが足を止めたのが分かった。 (軍師長である私が、心配され、手助けされそうになっていてどうする) 「フェリシア、守らせろ
last updateLast Updated : 2025-05-25
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