しばらく意識を手放していた私がぼんやりと目を開けると、そこには逞しい胸板があった。 私を腕枕していた手が肩を掴んで、ギュッと身体ごと抱き寄せる。「起きた?」 声のするほうを何気なく見上げると、やさしい眼差しが向けられていた。 目が合うと先ほどまでの情事を思い出して、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。「緋雪は恥ずかしがり屋さんなんだね」 そう言ってこめかみにキスを落とす彼は、余裕綽々だ。「あ、そうだ。頼まれてたデザイン、出来たんだけど」 「デザインって……」 「もちろんブライダルドレス。海のやつね」 「え?!」 以前に彼が自分で採点をしてボツにしたデザインじゃなくて……。 まったく新しいものを描き直してくれたのだと思うけれど。「出来たって……納得できるものが描けたってことですか?」 「うん。けっこう自信あるよ。自分の中じゃ手直しは要らないと思うくらい」 「え~、すごい!」 食いつくように目を輝かせる私を見て、彼がクスリと笑った。「最近、仕事が絶好調なんだよね。急になにか降臨してくるみたいに、ポーンとデザインが頭の中に浮かぶんだ」 「そういうのを、天才って言うんですよ」 「そうかな? 緋雪と結ばれた次の日から急にそうなったんだけど」 香西さんが、最近の彼のデザインを見てパワーアップしてると言っていたし、素晴らしい才能だと絶賛していたことを思い出す。 やっぱりこの人は、天才なんだ。「出来たデザイン、見せてください」 「ごめん、今ここにはないんだ。事務所にあるから」 「じゃあ、明日事務所に行くので……」 「僕が緋雪の会社に持って行くよ」 「え?」 明日の予定を思い出しながら、何時に事務所を訪問しようかと思考をめぐらせていると、宮田さんから意外な言葉が発せられた。 私がデザイン事務所を訪れることが、普通になっていたのに、どういう風の吹き回しだろう。「うちの会社に、来るんですか?!」 「うん。どのみち出来上がったデザインは袴田さんに見せることになるよね? だったら僕が行ったほうが早いから」 「それはそうですけど……」 「あ、緋雪は一番に見たい?」 その質問には素直にコクリと頷く。 自分が担当だということもあるから余計に、誰よりも早くそれを見たい気持ちがあるのはたしかだ。「じゃあ、袴田さんに会う前
Last Updated : 2025-04-30 Read more