Semua Bab 解けない恋の魔法: Bab 61 - Bab 70

88 Bab

第七章 突然かかった魔法 第四話

「緋雪がシンデレラなら、ドレスを用意した僕は魔法使いってことになるじゃん。……王子は香西さん?」 「……あ、そうなりますね」 「嫌だよ! 僕は王子がいい!」 真剣な表情でそう主張する宮田さんを見てケラケラと笑ってしまった。  こういうところは子どもっぽくてかわいい。「緋雪はさ、〇時を過ぎても魔法は解けないよ」 「え……?」 「解けない魔法がかかってるから。今夜はずっと王子がそばにいてあげる」 パーティのときのように、彼はまた私の左手を取って手の甲に口付けた。  彼の唇の感触がとてもリアルで色っぽくて……恥ずかしさで一瞬のうちに頬が熱くなる。「緋雪……」 彼の長い腕が伸びてきて、すっぽりと包み込むように抱きしめられた。  今の傷ついた私の心を、この温かさが癒してくれるみたいな気持ちになる。「そう言えば……呼び名、変わってますね」 「……ん?」 「“緋雪”って」 パーティのあのアクシデントの辺りから、宮田さんは私を“緋雪”と下の名前で呼ぶようになっていた。「あぁ、うん。ずっとそう呼びたかったんだ。……もしかして嫌?」 私の身体を少し離し、その表情を読み取ろうと視線を合わせてくる。  いつもにこにこしている彼の顔が、今はとても不安そう。「……嫌じゃない」 私がそう答えると、彼の顔が照れを含んだうれしそうな顔に変わっていく。  そして、彼の色気のあるやわらかい唇が私の唇をそっと塞いだ。  一瞬で深くなったキスが何度か角度を変えたとき、私はふと俯いてクスリと笑った。  ……思い出し笑いだ。「どうしたの?」 急に笑い出した私に、彼は不思議そうな視線を送る。「また邪魔されるのかなと思ったら、おかしくて……」 キスをしている最中に、コンシェルジュが二度も来たことを思い出したのだ。  香西さんからの私への気遣いだったのに、それは今思えばまるで計ったようなタイミングだった。「もう邪魔はさせないよ」 「でも……」 「誰が来ても出ない。もう止まらないから」 そう言ったかと思うと彼は再びキスを落とし、私をベッドへと押し倒す。  私の上に覆いかぶさる彼を見て、心ごと全部持っていかれたと自覚した。「宮田さんって……意外と肉食だったんですね」 「そうだよ。マチコさんにも言ったでしょ。パーティが終わったらいっぱいイチャつくって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-24
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第七章 突然かかった魔法 第五話

***「緋雪、今晩ちょっと付き合ってよ。相談があるの」 お昼休みが終わろうとする時間に、外から戻ってきた麗子さんが私にそう耳うちしてきた。  この日、特に予定がなかった私は「わかりました」と返事をし、残業にならないように業務をこなす。  麗子さんの相談って、なんなのだろうか?  というか、私のほうがいろいろと悩みを抱えているように思うけど。 私の場合、内容は……もちろんあの人のことだ。  ――― 宮田 昴樹 気がつけば、醜態をさらした例のパーティから今日で四日が経っていた。  香西さんに借りた服は、家に帰ってから当然のごとく近所のクリーニング屋店に出して、今日仕上がってくる予定。  その服も、もちろん返さなくてはいけない。  だけど、私は香西さんの連絡先を知らないのだ。 調べれば、香西さんの事務所の電話番号くらいはわかると思うけれど。  彼になにも告げずに行動を起こすのは……さすがに非常識な気がする。  とは言っても。あの日、ホテルの一室でふたりで朝を迎えたわけで……。  一線を越えた男女の仲になったのだと思ったら、連絡しようにも気恥ずかしさが先に立って、そのまま日が過ぎてしまっている。  彼からは二度ほど心配そうなメールが来ていたけれど、それには無難に返事を返すだけにしておいた。  もちろん、いろんな意味でこのままでいいわけがないし、少し気合を入れつつ、なにもなかったように電話でもすればいいだけの話なのだけれど、なかなかそれができない。「とりあえず、ビールでいいよねー?」 麗子さんと仕事帰りに何度か来たことのある会社近くの居酒屋を訪れた。  今日もふたりでテーブル席へ着くと、麗子さんはメニューも見ずに店員に生ビールをふたつ注文した。  あっという間にやってきたビールのジョッキを傾けて、カンパーイ!とグラスを合わせ、適当に料理を頼む。「緋雪さぁ、やっぱり男ができたんじゃない?!」 仕事終わりのビールって、やっぱり美味しいな……などと呑気なことを思いながらジョッキの中身を身体に流し入れているときに、突然そんなことを言われたものだから、ゲホゲホとむせ返してしまった。  ブーっと漫画みたいに噴出さなかっただけマシだ。「麗子さん! 急に変なこと言うからむせたじゃないですか!」 抗議の意味を込めて、ムッと口を尖らせる。「
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第七章 突然かかった魔法 第六話

 麗子さんは、時折すごく勘がはたらく人だ。  なにか誤魔化したいことがあったとして、曖昧にやりすごそうとしてもいつも見破られてしまう。「なーんか、緋雪の肌がうるうるしてるのよねぇ。だから砂漠状態だったところに、雨でも降ったのかなぁと思ったのよ」 ……観察眼が鋭すぎます。  空港の入国管理官とか、そういう職業のほうが向いてるような気がしてくるくらい。「ねぇ、どんな人なの?」 「どんな人、って……」 「まさか……変な人じゃないでしょうね?!」 まさに、変な人ですとも。  なかなかあんなに会話がかみ合わない人も珍しいくらい、変ですよ。「変っていうか……変わってる人、ではありますけど」 苦笑いでボソリと呟くようにそう言えば、怪訝そうにギロリと睨まれた。  こ、怖いんですけど……。「今日は麗子さんの相談を聞くんじゃなかったでしたっけ?」 「そんなのは後よ、後! で、その男、歳はいくつなの?」 ここからはずっと、麗子さんの尋問が続くのだろう。「三十一歳です」 「ふぅ~ん。仕事はなにをやってる人?」 「仕事は……じ、自営業?」 まさかデザイナーで、しかも最上梨子です、なんて言えるはずがない。  だけどウソはつきたくなかったから、そうやってやんわりと誤魔化すしかなかった。「え、なによ、その曖昧な表現は。大丈夫なの? 自分で事業をやってるってこと?」 「あ、はい。そうです。大丈夫ですよ、ちゃんとした仕事ですから」 怪しい職業ではない。  その部分だけを強調して、曖昧に笑みを浮かべる。「年収は? どれくらい稼ぐ男なの?」 「年収? さぁ……どうでしょう。知らないです」 「まさか超貧乏とか?」 「いえいえ。そこまで困ってはいないと思うんですけど」 宮田さんの年収なんて、私が知る由も無い。 香西さんのように確立された売れっ子のデザイナーならば、たくさん仕事が舞い込んでくるし、その結果お金だってたくさん入ってくるはずだ。  あのパーティの規模を考えると、それは容易に想像がつく。  だけど宮田さんに関しては……よくわからない。  もちろんうちだけじゃなくて他所の仕事も入ってるようだし、忙しそうだけれど。  その情報だけで、年収なんてわかるはずもない。「愛はお金で買えないって言っても、相手の年収とか大事よ? 緋雪はそういうと
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第七章 突然かかった魔法 第七話

「年収、大事ですかねぇ?」 私の中では、相手の収入だとかは実はあまり重要ではないんだ。  普通にきちんとした仕事をしている人であれば、それだけで十分。「そりゃ大事よ。だから結婚相談所なんかでも、女はみんな相手の年収を気にするんじゃないの!」 「なるほど」 「年収はわからなくても、住んでるマンションとかでわからない?」 「……へ?」 「家賃が高そうなマンションに住んでたら、お金持ちってことでしょ!」 麗子さんにそう言われたことで、とある事実に行き当たった。  なぜか今の今まで、それに気づいていなくて……  私自身、知らなかったことにビックリだ。「私……その人のマンションに行ったことがないんです」 「まだ行ってないの?」 「まだっていうか……どこに住んでるのかも知りません」 「え?!」 私と彼が会う場所は、仕事だから当然あのデザイン事務所のアトリエ部屋だ。  あそこは彼のイメージで満たされている空間だけども、居住スペースではない。  ……デザインや仕事をするための部屋だ。ということは、会社と同じ。  仕事が終われば、あの事務所を後にして、帰る自宅が別にあるということ ――  そんなこと、今まで気にしたことはなかったのに。  こうして話題に上ると、それはどこなのだろうと気になりだしてしまう。「ちゃんと、付き合ってるんでしょ?」 「……」 「え? 遊びなの?」 「いえ! そんなことは」 「緋雪は遊びで男と付き合うタイプじゃないもんね。でもさ。じゃあなんで間があいたのよ?」 麗子さんのその追及に、フーっと小さく溜め息を吐いた。  ちゃんと付き合ってるのか?と聞かれれば、正直微妙だと思ったから。  答えられずに間があいたのは、そのせいだ。 たしかに、パーティーがあった日は男女の関係になってしまったけれど。  このままなにもなかったように終わってしまう可能性だってある。  付き合ってはいないけど、ずるずると身体の関係だけが続いたり?  ――― さすがにそれは嫌だな。「あー、まだ付き合い始めたばかりなんだ」 だから自宅も知らないわけね、と麗子さんはひとりで答えを出して納得し始めた。「麗子さん、“ちゃんと付き合う”って、どういう状態のことを言うんですかね?」 「……は?」 いったいなにを言っているの?とばかり
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-25
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第七章 突然かかった魔法 第八話

「彼は好きって言ってくれてるんでしょ?」 その質問に、照れながらゆっくりと首を縦に振った。  最初は冗談めかしてだったけれど。  ここ最近は、堂々と誰の前でも私のことを好きだと公言していた彼を思い出す。「でも緋雪は純粋だからなぁ。ウソをつかれたり、騙されたりしなきゃいいけど」 私が彼のことをよく知らなかったり、ちゃんと付き合うってどういうことかを聞いたせいだろうか。  もしも彼が悪い男だったら……と、麗子さんを心配させてしまったみたいだ。「彼は……そういう人ではありません」 はっきりとした口調でそう言うと、麗子さんは苦笑いを浮かべて「ごめん」と謝ってくれた。  たしかに私は、宮田昴樹という人を、まだ詳しく知らない。  だけど ――――「緋雪は、すごく彼が好きなのね」 少し前まで、こんな気持ちを抱くなんて思ってもみなかったから。  私にとって、かなり想定外の出来事だ……。 『もう唾つけといたからね。』と、初めてキスをされたあの日から……  きっと宮田さんのことを、ひとりの男性として意識しはじめていた。  自分でも気づかないうちに、好きになっていたのだと思う。「好きな気持ちって、突然やって来るんですね」 「そんなもんよ。ラブストーリーなんて突然始まるの」 昔の名曲のタイトルみたいなセリフを言って、麗子さんが艶っぽくウフフと笑う。「実は私もね、突然やってきたのよ」 「……え?!」 驚いて顔を上げれば、枝豆を手に取りながら、麗子さんが恥ずかしそうに顔を赤らめていた。「そんなに驚くことないでしょう? 私だって恋愛くらいするわよ」 「麗子さんが魅力的な女性だって、それはわかってますけど」 四歳年上の麗子さんは、私なんか比べ物にならないくらい色気のある女性で、社内の男性からも人気は高い。  そんな麗子さんに、彼氏ができた?「いつのまに彼氏できたんですか?」 「違うのよ。まだ彼氏じゃないの。私がね、ただ好きなだけ。要するに片想いよね」 麗子さんが片想いなんて、意外すぎて言葉に詰まった。  好きな人には好きだと、はっきり言うタイプの人だと思っていたのだけれど。「私、三十路でしょ? 焦ってるわけじゃないけど、次にする恋は結婚に結びついたらいいなと思っていたのよ。だから慎重になってたの。だけど本当に突然やってきちゃうんだね」
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第七章 突然かかった魔法 第九話

「相談があるって言ったでしょ? 実はこのことなの。緋雪とね、好きな人がカブっちゃったら嫌だなって思ったんだけど……違ったみたいね」 「え……ということは、社内の人ですか?」 麗子さんのその口ぶりからすると、どうも私の知ってる人のようだ。  そうなると、絶対に同じ会社の男性だろう。「誰だと思う?」 そう聞かれて、麗子さんと仲の良さそうな男性社員の顔を思い浮かべる。  うちの部の栗山さん? それとも生花部の広川さん?「あ! 営業部の本多さんだ!」 本多さんは麗子さんと同期で、休憩室で一緒になったときにもよくふたりで話をしている姿をみんなが目撃している。  スーツの似合う、キリリとした感じの人。  だけど……ふたりが付き合っていると噂が出ては、麗子さんがそれを打ち消していた。「違う! 本多とはそういう関係じゃないってば」 ついにふたりは恋人同士になったのかと思ったのだけれど違うようだ。  そう思われたのが不本意だったのか、麗子さんはブンブンと激しく首を横に振って否定した。「私たちの、もっと近くにいる人よ」 「……?」 「いるじゃないの。センスがよくてお洒落な四十歳の独身男が」 「え?! 部長ですか?!」 私たちの周りにいる男性で、麗子さんが今言った条件に当てはまる人なんてひとりしかいない。  それはきっと……袴田部長だ。  麗子さんと部長っていう組み合わせは、正直ピンと来ないけれど。  同じ部にいて仕事で関わりが深いわけだから、そこで恋愛感情が生まれたとしてもなんら不思議は無い。「部長、いい男じゃない?」 「はい……でも、いつから好きなんですか?」 「それは最近。仕事を手伝ってるうちにね、部長のやさしさとか気配りとか男らしさとか意識するようになっちゃったの」 もちろん麗子さんは、私よりも部長とは付き合いが長いはずなんだけど。  最近になって急に意識し始める……なんてことが、男女の間には起こりうるようだ。「でも、部長は緋雪のことがお気に入りみたいだし。正直ね、私が知らないだけでふたりが付き合ってたらどうしようって思ってたの」 「えぇ?!」 「だって、最近の緋雪は恋してそうな色気が出てたし。相手は部長なんじゃないかって。……違ったみたいだけど」 そんなことを言われて驚きを隠せない私に、麗子さんが綺麗な顔でアハハと笑
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-26
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第八章 サイアク 第一話

***「もしもし。すみません……お忙しいですか?」 麗子さんと飲みに行った翌日。  私は気まずさや気恥ずかしさをなんとか払拭して、宮田さんに電話をかけた。  つとめて普通に振舞った……つもりだ。『ごめんね緋雪、僕も連絡しようと思ってたんだけど……ちょっと忙しくなっちゃって』 申し訳なさそうに言う電話の彼の声の向こうに、ざわざわと他の人の声が混じる。「今、外ですか?」 『うん。縫製の担当と打ち合わせ中』 「すみません、そんなときに電話してしまって」 謝罪の言葉を述べると、電話口からクスっと笑い声が聞こえた。『なに言ってるの。僕も緋雪の声が聞きたかったよ』 そんな甘い言葉を言われると、胸がキュンとする。  その事実がまた、これが恋なのだと私に自覚させるんだ。『今晩、一緒に食事でもする?』 そう誘ってくれたのは嬉しいけれど。  今、彼の背景で聞こえるざわざわした声が、仕事の忙しさを強調している気がした。「今日は、私も仕事が立て込んでるので……」 咄嗟に断りの文句を口にしていた。  本当は、彼に会いたい気持ちのほうが強いのに。『そっか。残念だな』 「あ、えっと……この前、香西さんにお借りした服を返したいと思ってるんですけど。私が直接お詫びして返したほうがいいですよね?」 間接的に宮田さんに返しておくっていうのも香西さんに失礼だと思う。  ちゃんとお礼が言いたいし、やっぱり直接顔を見てこの間の失態をお詫びしたい。『あー、あれね。もらっておいても文句は言われないと思うけど』 「そんなわけにいきませんよ!」 香西さんにとっては、適当な服を用意してくれただけで大したことじゃないのかもしれないけれど。  貰うだなんて、そこまで香西さんに甘えるわけにはいかない。『じゃあ、明後日』 「明後日?」 『香西さんが仕事を請け負ってるアパレルメーカー主催でショーがあるんだ。僕も見に行こうと思っていたし、緋雪も一緒に行ってそのとき挨拶しながら返せばいいよ』 そんな忙しそうなときに行って大丈夫だろうかと、疑念を抱いたけれど…。  挨拶程度なら大丈夫だと、納得させられてしまった。  挨拶とお詫びだけして、服を返したらすぐさま立ち去ろう。  そんな所で部外者がウロチョロするなんて、邪魔以外の何物でもないんだから。 迎えた翌々日。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-26
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第八章 サイアク 第二話

「もしもし。おはようございます」 スマホの通話ボタンを押すと、私はそっと自分のデスクを離れ、誰もいない廊下へと移動した。『緋雪、ごめん。今日ちょっと……予定変更できる?』 焦った様子の彼の声に、何かあったのだとすぐに察しがつく。「どうしたんですか?」 『香西さんのスタッフで急病の人が出たらしくて。僕に手伝ってくれないかって、香西さん本人から連絡が来たんだ』 「え?!」 『香西さんはお世話になってる人だから協力したい。緋雪と一緒に会場まで行くつもりだったけど、僕は今から向かわなくちゃならないんだ』 今日は、宮田さんと一緒に香西さんの元を訪れる予定にしていた。  だけど……宮田さんが、そのスタッフの代理を?「わかりました。私のことは気にしないでください」 お詫びや服を返すのが遅くなるのは、心苦しいけれど。  今日はこういう緊急事態なのだし、私のことなんて後回しになって当然だ。  私の用件は、また近日中に香西さんの事務所を訪ねればいい。  それなのに……。『場所さえわかれば、緋雪ひとりで来れるよね?』 「え?」 『場所はあとでメールしておくから、おいで?』 「でも……お邪魔ですし……」 『挨拶するくらいなら別に邪魔にならないよ。それに、僕が緋雪に会いたい。顔を見られないと元気が沸いてこないからさ』 結局。僕に元気を分けて? なんて言う彼にほだされてしまった。  十五時には行きます、という旨を伝えて通話を終える。  最近の彼は、なにもかもが甘い感じがして参るなと思いながら、その場でスマホを握り締めた。  家から持って来ていたクリーニングのかかった香西さんから借りた服。  それをロッカーから取り出して、私は会社の外に出た。  時計を見ると、十四時を少し回ったところだ。  宮田さんからショーの会場である場所の住所と地図がメールで送られてきていたけれど、私は有名パティシエのいる洋菓子店へ向かった。  そこで私なりに大奮発をして、高価な菓子折りを手土産に買った。  手土産なんかで、あの夜の失態がなかったことになるとは思っていないけれど、私から香西さんへのせめてものお詫びのしるしに。 電車で移動し、会場に着いて関係者らしき女性に名前を言うと、宮田さんが話を通しておいてくれたからか「どうぞ」とその女性が案内してくれた。  ど
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第八章 サイアク 第三話

「朝日奈さん、頭をあげてよ。前も言ったけど、謝らなきゃいけないのはこっちのほうだから」 「え……」 「せっかくパーティに来てくれたのに、怪我させてしまって悪かったね」 「いえ、そんな……」 私の怪我のことをそこまで気にかけてくれていたんだと思うと、香西さんの人柄とやさしさに涙が出そうになった。「これ……あの時、貸していただいた洋服です。本当にありがとうございました」 手に提げていた紙袋をそっと差し出すと、香西さんは一瞬驚いたような顔をした。「せめてものお詫びのつもりだったから貰ってくれてよかったのに。気に入らなかった?」 「いえいえ! そんなことは決して!」 「だったら……」 「逆に私なんかがもったいなくて貰えないです!」 思ってもみないことを言われ、私はブンブンと手を顔の前で横に振り、受け取れないと頑なに強調して見せた。  そんな私の態度を見て諦めたのか、香西さんは笑って私が差し出した紙袋を手にする。「それとこれは……ほんのお口汚しなんですが」 「……?」 「先日、ご迷惑をかけたお詫びのしるしです」 ボーっと立ち尽くす香西さんに、無理やりそれを受け取らせるように目の前に差し出した。「お詫びじゃなくて、差し入れってことで、これは貰っとこうかな」 「はい!」 必死な私の返事に、元気がいいねと香西さんはにこやかに笑う。  そして、紙袋に書かれた店の名前を見て、有名店だと気づいたようだ。「これ、うまいって評判の店だよね。中身は……ケーキ?」 「いえ、クッキーです。焼き菓子のほうが手も服も汚れにくいと思ったものですから」 ケーキ類にしようかと思ったけれど、スタッフがもっと気さくに食べられるもののほうが良いと考えてクッキーにした。  ケーキは胃にも重いし。  それに香西さんに伝えたように、焼き菓子のほうがこぼしたり汚したりしにくい。「朝日奈さん、トラウマになっちゃってるね」 「そ……そうみたいですね」 ふたりで苦笑いを浮かべた。  あのドレスのように、どろどろに汚れるアクシデントは滅多にないだろうけど。「性格が悪いのは……耳にしてるんだけどね」 香西さんが誰のことを言っているのか、主語はなかったけれど。  おそらくハンナさんについてなのだろうと直感して、私は苦笑いを浮かべた。  たぶん香西さんも気づいていると
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-26
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第八章 サイアク 第四話

「彼女、今日もどこかにいるから。気をつけてね」 「はい。お気遣いありがとうございます。でも私、まだ仕事の途中ですのでこれで失礼します」 「え? ショーは見て行ってくれないの?」 「すみません。すごく残念なんですけど」 「でも、彼には会っていくでしょ?」 その問いかけには、「少しだけ」と、照れながらゆっくりと頷いた。「今日は彼には助けてもらって感謝してるよ。モデルのそばでアシスタントをしてもらってるんだ」 「そうなんですか」 「考えてみたら贅沢だよね。彼にアシスタントをやらせるなんて。だって彼……最上梨子だよ?」 そんなことをポロリとこぼす香西さんをよそに、周りに聞いてる人がいないかとドキドキしてしまう。「宮田さんは、香西さんを慕ってて……尊敬しているみたいですから」 「僕も彼は好きだよ。でも、そっちの気は一切ないから安心して?」 思わず例の“ゲイ疑惑”を思い出して、噴出して笑ってしまった。  本当はゲイではなく……兄と弟みたいに仲が良い関係で微笑ましい。「そういえば宮田くん、最近なにかあった?」 「え?」「今日会ったらすごく楽しそうでイキイキしてるし。彼のデザイン画を何枚か見てほしいって頼まれたんだけど……めちゃくちゃパワーアップしてたからさ」 顎をさすりながら、香西さんがうれしそうにそう言う。  だけど、私にその理由を聞かれてもわかるはずもなく、首をかしげて話の続きを待った。「前から彼の才能は認めてるというか、感服するものがあったけど。今日ほど彼の才能を素晴らしいって思ったことはなかった」 「……」 「朝日奈さんが影響してるのかな?」 「え?!」 私はなにもしていない。本当ならもっと、依頼したブライダルドレスの為になにかしてサポートしなければいけないくらいなのに。「今日確信したよ。最上梨子はもっともっとすごいデザイナーになるって」 「……」 「朝日奈さんが彼の傍にいてくれればね」 俺もウカウカしてられない、って香西さんが冗談めかして笑った。 香西さんから「宮田くんはあの辺りにいるはずだから」と教えられた方角へと足を向けた。  人がたくさん居て、ざわざわとしているエリアだ。  本来は仕事をしている人たちの邪魔になるから、あまり立ち入ってはいけない場所だと思う。  キョロキョロと視線を彷徨わせて彼の姿を探
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-27
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