◇ ◇ ◇「はぁぁ……ったく、なんだったんだよ今日のアレは……」夜、俺は風呂から上がると、ぼふんっと自室のベッドにうつ伏せに倒れ込んでぼやく。そして一旦枕にため息をぶつけてから、左薬指で忌々しく輝くソレを見つめた。どれだけ眺めても消えない婚華の指輪。圭次郎いわく、アイツらの世界の物だからみんなには見えないらしい。 確かに悠やクラスメート、先生や母ちゃんからは一切指摘されなかった。その点だけは救いだ。意識すると指の付け根に薄く締め付ける感触がある。 慣れなくて落ち着かない。むず痒くて、やけに左手が重く感じてしまうそれが、俺とアイツが結婚してしまったあり得ない現実を突き付けてくる。こんなの無効だろ! と必死で授業中に指輪を外そうと奮闘した。 でもどれだけ動かそうとしても指先は滑るだけだし、まるで指に貼り付いたように微動だにしない。そんな俺の様子を、圭次郎は隣でほくそ笑みながら観察していた。「これが俺への仕返しかよ……性格悪ぃ……」あのキレイで性悪な笑みを浮かべた圭次郎の顔を思い出した途端、沸々と怒りが湧いて俺は顔を引きつらせる。延々と不機嫌全開なムスっと顔だったのに、授業中ずっと笑ってやがった。 そんなに人の不幸が楽しいか? まるで俺の困った姿が、世界で唯一の娯楽みたいな楽しみ方しやがって。性格悪すぎだ。しかも巻き込むだけ巻き込んだクセに、後で説明するって自分で言っておきながら、未だ説明ゼロ。休み時間も放課後もどこかに行っちまって話ができないって……。 うう……状況が謎過ぎるし、圭次郎の性悪笑いが頭にこびりついて、ずーっと胸がモヤモヤする。視線を指輪から窓に移してみれば、百谷家の庭が今日は光っていない。いつもならこの時間に光っているのに……もしかして誰も帰っていないのか? 俺を巻き込んじまった挙句に結婚なんかしちまったから、大騒ぎになってたりして――。「本物の王子様だもんなあ。スゲーややこしいことになってそう……面倒クセー」
Terakhir Diperbarui : 2025-04-08 Baca selengkapnya