雅美はその言葉を聞くと、冗談でも聞いたかのように声を出して笑った。「ようやく自分の父親だってことを思い出したのね!」「もういい、俺が家の件を片付ける」静雄はこれ以上言い合う気にもなれなかった。まさか自分がこれほど焦る日を迎えるとは思わなかった。泣きじゃくる芽衣を横目に見て、静雄の胸には罪悪感とやりきれなさが込み上げてきた。「大丈夫か?」「平気...... おば様のおっしゃったことに間違いはないです。私が悪いんです」芽衣はしゃくりあげながらも言葉を続けた。「静雄、私は本当にあなたを深雪さんに返してあげたい。でも......できない。私はあなたを愛してしまったの。あなたがいなきゃ生きられない。あなたを失ったら、私は死んでしまう!」そう言って彼の袖を必死に握りしめる芽衣は、ほとんど狂気にも似た執着と依存に濡れていた。だが静雄が最も好むのはまさにこうした病的な愛情表現だった。こうしてすがられてこそ、自分が必要とされていると確信できるのだから。彼は芽衣の頬をつまみ、にやりと笑った。「お前を手放すことはないさ。馬鹿だな」「静雄......怖いの」芽衣は肩に顔を埋め、甘えるように囁いた。彼女自身も驚いていた。まさか深雪がここまで大胆に出るとは本当に松原家の一族を旧宅から追い出そうとするなんて。やがて静雄は芽衣を伴い、深雪の病室へ姿を現した。延浩は仕事で席を外しており、病室には深雪がひとり残されていた。静雄が必ずやって来ると分かっていたが、まさか芽衣を連れて来るとは思わなかった。「本当に彼女を大事にしてるのね。こんな時にも連れてくるなんて」二人が指を絡めて立つ姿を見て、深雪はふっと笑った。「静雄、あんたは最初から私のことなんて、好きじゃなかった。それならどうして結婚なんてしたの?私が妊娠したとき、どうして堕ろさせなかったの?どうして結婚前に、好きな人がいるって言わなかったの?結婚したくないって言わなかったの?」何も知らず、誠意と期待を抱いて踏み入れた結婚生活。なのに今や、すべてが彼女の罪にされている。問い詰められても、静雄は無表情のまま沈黙し、冷えた声で言った。「......条件を言え」やっぱり。深雪は自嘲気味に笑った。この男が自分に向けるのは、いつも合理性だけ。
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