「俺に逆らいやがって!」陽翔はスプレーにやられ、目を押さえて喚き散らした。その隙に深雪は一切ためらわず踵を返し、廊下へ駆け出した。長い廊下を抜ければ、きっと助かる。だが、それは甘い期待にすぎなかった。陽翔はすぐに追いすがり、彼女の髪をわし掴みにして力任せに後ろへ引き倒した。「この女、調子に乗りやがって......今日はしっかり味わわせてやる。俺に逆らったらどうなるか思い知らせてやる!」「欲しい物を出せ!さもないと骨の髄まで後悔させてやる!」陽翔は口先だけでは飽き足らず、深雪の頬を二度、思い切り平手打ちした。痛みに耐えながら、深雪は歯を食いしばり、睨み返した。「まだ監獄に戻りたいの?」「ハッ、お前が今日帰れると思うなよ!」陽翔は愉快そうに笑い声を上げた。その瞬間、深雪は悟った。これは単なる静雄の教訓などではない。陽翔は本気で自分の命を奪うつもりだ。「静雄......陽翔......二人で罠を張って、私を殺す気なのね」背筋が凍る恐怖に襲われながらも、深雪は顔を上げ、必死に笑みを作った。「殺して何になるの?欲しいのは金でしょう?21億円なんて取るに足らない。私の手元にはまだ松原商事の株があるわ。私が死ねば全部静雄のものになる。でも、私が生きていれば、それを君に渡せるわ」「ほぅ?」陽翔は鼻を鳴らしたが、すぐには手を離さない。「口先だけで誤魔化す気か?」再び、鋭い平手打ちが頬を打った。「違う、本当よ!」深雪は耐えながらも必死に言葉を継いた。「命を握られているのに、どうして嘘がつけるの?金なんて身外のもの。私は死にたくない。だから、信じてくれる?」「......本気か?」陽翔の足取りが僅かに緩んだ。効いてる。深雪は心の中で息を呑んだ。陽翔は決して賢い男ではない。強欲だからこそ、餌をちらつかせれば釣られる。「今すぐ役場に行き、そこで譲渡すればいい。ほら、小切手もあるわ。誠意を見せる」深雪は震える手でポケットから小切手を取り出し、差し出した。「見て」さらに彼女は小さな鍵を握らせた。「これは貸金庫の鍵。中には古美術や宝飾品があるわ」陽翔はそれを奪い取り、にやりと口角を吊り上げた。「へぇ、最初からそうすりゃよかったんだ。大人しくしてりゃいいのに。
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