……ん。なんか姫乃さんが人気あるのが分かった気がした。この人、悪意がないし雰囲気がとてつもなく柔らかい。包み込まれるような感覚に飲み込まれそうになって、はっと我に返った。「いやー、いいよね。姫ちゃんのその笑顔、癒しだったなぁ」早田さんがしみじみと言った。確かに癒しだ。なんだこれ、世の中にはこんな人がいるんだな。こんな、その場にいるだけで穏やかな雰囲気になる人が。不思議な気持ちに、姫乃さんを不自然にならないようにチラチラと観察した。彼女は積極的に話をするタイプではない。皆の話をニコニコしながら聞いて、相槌をうっている。話を振られれば、柔らかく穏やかな声音で話をする。だけどひとつだけ。彼氏の話を振られるととたんに慌てだす。照れているのかと思っていたけれど、なんか違和感。何かを言いたそうで言えない感じ。そこを本橋さんと近田さんが畳みかけていくので、姫乃さんは困ったように笑う。ふと、目が合った。何でもないようにニコッと微笑まれる。「ビールおかわりする?」「あ、じゃあ。どうも」遠慮なくグラスを差し出した。トクトクと注がれるビール。隣のテーブルからの視線も、ちょっとばかり痛い。姫乃さんからの二回目のお酌。「大野くんって飲んでもあまり変わらないんだね」「あー、うーん。多少酔ってるとは思いますけど」「そうなんだ。羨ましい」「そうですか? 姫乃さんは飲まないんですか?」グラスを見れば半分ほどしか減っていない。これが何杯目かは知らないけど。「私は酔うと大変なことになるから飲まないようにしてるの」内緒だよ、とこっそり教えてくれる。え、なにそれ。内緒なの? 俺に教えていいわけ?あざといな。うん、あざとい。だけどこの人、計算してないだろ。自然体だろ。むしろ天然か。真相はわからないけど、そう思うくらいに姫乃さんは自然。自然すぎて思わずドキッとしてしまう。あー、なるほど。これも人気の秘訣か。俺も今、可愛いなって思ってしまった。一緒の空間にいるとペースを乱されそうになる。隣の先輩たちといるよりずっといい。すごいな、姫乃さん。そんな気持ちがバレたのだろうか、俺は先輩たちに呼び戻された。どうやら嫉妬されてしまったらしい。なんでだよ。自分たちが行け行けって言ったくせに。「いいよな、朱宮さん」「マジ癒し。職場に癒しがいるって最高じゃね?
Last Updated : 2025-05-01 Read more