三ヶ月が過ぎた。拓也は依然として薫に関する何の手掛かりも掴めずにいた。周囲の誰もが口を揃えて言う。「薫さんはもう亡くなった。生きているはずがない。前に進むべきだ」と。ただ一人、拓也だけが信じなかった。彼は今も、薫がどこかで生きていて、温かい食事を用意して待っていると確信していた。この短期間、富豪の世界は激変していた。かつての名門・倉橋家が音もなく没落したのだ。拓也は七年かけて、倉橋家を崩すための決定的な証拠を集め上げた。彼は倉橋由紀子を愛したことは一度もなく、今も同じ気持ちだった。かつて誰もが羨んだ倉橋家の令嬢・由紀子は、今では狭い賃貸アパートで両親と暮らす身となった。皮肉にも、彼女は自分が最も軽蔑していた「庶民の姿」そのものになっていた。仕事に追われる日々の中でも、拓也は薫を探すことを諦めなかった。深夜、酒に酔って目を覚ます時だけ、薫がまだ傍にいるような気がした。「薫……見てくれ。俺、やったんだ。両親の仇を討った」「薫……会いたい」「あの由紀子ももう二度とお前に手を出せない。ちゃんと仕返ししてやったぞ」「薫の言うこと……ずっと信じてたんだ」「指輪、買ってきた。お揃いだ。俺に……はめてくれないか?」たった三ヶ月で、拓也は憔悴してやつれ細った。過労で瞳の奥が濁り、それでも酒で意識を飛ばさねば眠れなかった。一方、山間の村で暮らす薫の日々は穏やかだった。想像していたような不便さはなく、むしろ清々しい時間が流れていた。最初の頃は夜ごと拓也のことが頭をよぎった。食事は摂っているか、接待で飲み過ぎた時はちゃんと二日酔いの薬を飲んでいるか……時が経つにつれ、そんな自分に嫌気が差し始めた。これまでずっと拓也を中心に生きてきたせいで、旧友との繋がりも薄れ、アルバイト先さえ彼の都合で選んでいた。しかし村の子供たちと過ごすうち、薫の心は洗われていった。無邪気な笑顔に囲まれることが、何よりの癒しだった。三ヶ月後、薫は真面目な働きぶりを評価され町の学校へ異動になった。それが……新たな波乱の始まりだと気付かぬまま。
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