雨が苦手だと言う人はいるけれど、全身に広がる憂鬱感はきっと誰よりも強いだろうと芙美は思っている。 雨が降るごとに感じる鬱々とした気分を自分でどうにかコントロールしたいと思っては来たが、特に進展はないままだ。 我慢できない程ではないが、こんな不意打ちの雨に来られては心構えもなにもない。「雨苦手なの?」 智に聞かれて、芙美は「うん」と頷いた。咲が腕に手を絡めたまま、「大丈夫だよ」と微笑む。「俺も晴れてる方が好きだけど。だったら俺が芙美ちゃんの家まで送って行こうか?」「智の家は逆方向だろ? 芙美を送っていくのは私の役目だからな」 咲が前のめりに主張すると、湊が「はぁ?」と眉を寄せた。「海堂の家はすぐそこだろ。普通に考えて、電車通の俺が一緒に帰ればいいだけじゃないの?」 店の入口で押し問答が始まって、芙美は慌てて「ごめんなさい」と両手を振った。「みんなありがとう。雨はちょっと苦手なだけだから大丈夫だよ。今日は湊くんと一緒に帰るね」 湊が「オッケ」と頷く。「分かったよ。じゃあそういうことで。だったら咲ちゃんは俺が送って行こうか?」「いや、それは遠慮しとく」 スネる咲に、智は「了解」と笑った。 「また明日」と別れて、電車組の3人はすぐ側にある駅舎へ駆け込んだ。制服を濡らす雨を払うと、背中から咲が智を呼ぶ。「智」 3人が同時に振り返ると、咲はいつになく真面目な表情で声を張り上げた。「私も智に会えて嬉しかったよ」「ありがとね、咲ちゃん」 笑顔で手を振る智の横で、芙美は湊と顔を見合わせた。智にとっては『さよなら』の延長線に過ぎないのかもしれないが、いつも彼女と一緒に居る身からすると『らしくない』と思えてしまう。「どうしたんだ、アイツ」 小さく呟いた湊に、芙美は心配顔を傾ける。校長が智の転入を教えてくれた時から、咲の様子がいつもと違う事には気付いていた。 芙美がこっそり智を見上げると、「どうしたの?」と目が合った。「智くんは、咲ちゃんとも友達だったの?」「いや、今日初めて会ったんだよ」 とても嘘をついているようには見えない。咲の様子に不安を垣間見たところで、電車の来るアナウンスが流れる。「行こう」と2人に促され、芙美は咲に手を振って駅舎の奥へ移動した。 ☆ 上り電車が発車した後も、咲はまだ田中商店の軒下に居た。ホームにはまだ
Last Updated : 2025-05-21 Read more