Semua Bab いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?: Bab 11 - Bab 20

86 Bab

9 そんなに大きい胸じゃなかった

 雨が苦手だと言う人はいるけれど、全身に広がる憂鬱感はきっと誰よりも強いだろうと芙美は思っている。 雨が降るごとに感じる鬱々とした気分を自分でどうにかコントロールしたいと思っては来たが、特に進展はないままだ。 我慢できない程ではないが、こんな不意打ちの雨に来られては心構えもなにもない。「雨苦手なの?」 智に聞かれて、芙美は「うん」と頷いた。咲が腕に手を絡めたまま、「大丈夫だよ」と微笑む。「俺も晴れてる方が好きだけど。だったら俺が芙美ちゃんの家まで送って行こうか?」「智の家は逆方向だろ? 芙美を送っていくのは私の役目だからな」 咲が前のめりに主張すると、湊が「はぁ?」と眉を寄せた。「海堂の家はすぐそこだろ。普通に考えて、電車通の俺が一緒に帰ればいいだけじゃないの?」 店の入口で押し問答が始まって、芙美は慌てて「ごめんなさい」と両手を振った。「みんなありがとう。雨はちょっと苦手なだけだから大丈夫だよ。今日は湊くんと一緒に帰るね」 湊が「オッケ」と頷く。「分かったよ。じゃあそういうことで。だったら咲ちゃんは俺が送って行こうか?」「いや、それは遠慮しとく」 スネる咲に、智は「了解」と笑った。 「また明日」と別れて、電車組の3人はすぐ側にある駅舎へ駆け込んだ。制服を濡らす雨を払うと、背中から咲が智を呼ぶ。「智」 3人が同時に振り返ると、咲はいつになく真面目な表情で声を張り上げた。「私も智に会えて嬉しかったよ」「ありがとね、咲ちゃん」 笑顔で手を振る智の横で、芙美は湊と顔を見合わせた。智にとっては『さよなら』の延長線に過ぎないのかもしれないが、いつも彼女と一緒に居る身からすると『らしくない』と思えてしまう。「どうしたんだ、アイツ」 小さく呟いた湊に、芙美は心配顔を傾ける。校長が智の転入を教えてくれた時から、咲の様子がいつもと違う事には気付いていた。 芙美がこっそり智を見上げると、「どうしたの?」と目が合った。「智くんは、咲ちゃんとも友達だったの?」「いや、今日初めて会ったんだよ」 とても嘘をついているようには見えない。咲の様子に不安を垣間見たところで、電車の来るアナウンスが流れる。「行こう」と2人に促され、芙美は咲に手を振って駅舎の奥へ移動した。   ☆ 上り電車が発車した後も、咲はまだ田中商店の軒下に居た。ホームにはまだ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-21
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10 お兄ちゃん

 咲と同じ雨を仰いで、芙美は憂鬱な空に背を向けた。 天気のせいか電車の中はいつもより客が多い。窓に沿ったベンチシートに湊と並んで、不安をかき消すように大きく深呼吸した。「今日の海堂、ちょっと変だったな」「湊くんも思ったよね? そう言えばこの間プールに行った後、咲ちゃん熱出したんだって。まだちゃんと治っていなかったのかな?」「体調が悪いようには見えなかったけど、それもあり得る……か」 ボディーガードという名目で咲が湊を誘い、三人で広井町のプールに行ったのは、つい一週間前の事だ。あの日はたまたま来ていた絢と養護教諭の佐野一華にプールで遭遇するというハプニングが起きたり、咲が他校の男子に声を掛けられたりと色々あったが、これといって風邪をひくような事をした覚えはない。いつも下ろしている髪をポニーテールにしたからという訳ではないだろう。「もう雨は平気?」 向かいの窓を伺って、芙美は「うん」と答えた。暗い雲で覆われた空はまだ晴れる気配を見せないが、今こうして電車の中にいるせいか自分が思う以上に落ち着いている。「そっか。さっきは不安にさせてごめんな」「12月に現れるっていう魔物の事? ううん、本当の事聞きたいって言ったのは私たちだし、ちゃんと話してくれただけなんだから、気にしないで」「荒助(すさの)さん……」「それより、湊くんはハロンを倒したら元の世界に戻っちゃうの?」 ふとそんなことが気になって尋ねると、湊は「いや」と首を振った。「向こうの世界のアッシュとラルは死んでからこっちに来てるから、もう向こうに戻る場所はないよ。ルーシャの力で、魂をこっちの身体に継がせたんだ。顔や体も今の親に貰ったものだよ」 そういえば智が言っていたが、湊は前の身体では眼鏡を掛けていなかったらしい。「じゃあ、昔の記憶はあるけど、今の湊くんはずっとそのままなんだね」「そういうこと」「なら良かった。戦いが終わってお別れになんて事ことになったら寂しいって思ったから」「寂しいって、思う?」 少し照れた顔を隠すように、湊は口元に手を当てた。芙美が「うん」と大きく頷くと、彼は一瞬迷ったように視線を漂わせ「ありがとう」と目を細める。「俺たちはリーナとの別れを選ばなかった。何も言わずに彼女を残して転生してきたんだ。言ったらきっとついてくるって言うと思ったし、そんな彼女を跳ね除け
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-22
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11 そしてお兄ちゃん

「お兄ちゃん」 芙美の声に振り向いたのは、兄の蓮(れん)だ。大学生の彼はあと少し夏休みが残っている。 片手に傘を2本ぶら下げて改札の向こうで「お帰り」と手を振る彼の視線が、芙美の横にいる湊を見つけた。訝し気に頭を下げる蓮に、湊が柵越しに「こんにちは」と挨拶する。「同じクラスの相江(あいえ)湊くん。電車が一緒だから送ってもらったの」 雨が降り出してすぐ、蓮から大丈夫かとメールが来ていた。もう帰るからと返したきりだったが、中途半端な返事のせいで心配させてしまったらしい。 蓮は呆れ顔を芙美に送ると、改めて湊に礼を言った。「雨降ったから泣いてるんだろうと思ったけど、わざわざ送ってもらってすみません」「同じ方向だったんで気にしないで下さい。じゃあ、俺はここで。荒助(すさの)さん、また明日ね」「うん、ありがとう湊くん」 踵を返した湊の背中に、蓮が「あの」と声を掛ける。「うちの妹、こんなんですけど。よろしくお願いします」「こんなって何よ」 みささぎがムッと兄を睨むと、蓮が「こんなんだろ」と笑った。 そんな二人の様子に、湊が不思議そうな顔をする。「仲良いんですね」「まぁ、兄妹だしね」「そう……ですね。わかりました。じゃあまた、雨が降ったら送ってきます」「よろしくな」 満足そうな蓮の笑顔と芙美の「またね」を背に、湊はホームの奥へと戻って行った。   ☆「俺来たのマズかった?」 広井駅から芙美の自宅までは徒歩で10分ほどだ。車通りの少ない路地を選んで、芙美と蓮は傘を片手に並んで歩く。「どうして?」「だってお前、彼氏に家まで送って貰うつもりだったんだろ?」「彼氏って。湊くんはそういうのじゃないよ」 動揺する芙美に、蓮は「そっか」と一人で納得して、ニヤリと口角を上げた。「まだ告白して貰ってないって事か。いじらしいな」「だから、そういうのじゃ……」「馬鹿か、お前は」 必死に否定する妹を、蓮はバッサリと切り捨てる。「お前、アイツの前で雨が怖いって言ったんだろ? それで家まで送ってくれようとするなんて、向こうは好きって事なんじゃないの?」 いつもながらに兄は単純だ、と芙美は思う。その言葉がまかり通るなら、送ってくれると言った咲や智もそうなってしまう。 ムスリと膨れ面をする芙美に、蓮は「怒るなよ」と笑った。「まぁ別に、彼氏作るくら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-23
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12 彼に似ている彼女

 白樺台へ向かう電車は、相変わらずの貸し切り状態だ。 いつになく穏やかな様子で横に座る湊に、芙美は昨日送って貰った礼を言って蓮としたゲームの話をする。その後に何度か会話が途切れたりもしたが、彼は一度も空を見ようとはしなかった。「湊くん、智くんが来て雰囲気変わった?」「え、そう?」「うん。ちょっと明るくなったって言うか……」「俺ってそんなに暗かったの?」 困惑する湊に、芙美は「ちょっとだけだよ」と嘘をつく。本当は大分変わったと思っていた。「智くんに会えてよかったね」「うん。まぁ……ね」 そう言って湊が見せた照れくさそうな笑顔に、芙美は昨日の蓮の言葉を思い出す。 ──『向こうは好きってことなんじゃないの?』 急に恥ずかしくなって、彼から目を逸らした。「荒助(すさの)さん?」「な、なんでもない」 隣の車両に駆け込みたい気持ちを抑え付けて、芙美は彼の隣に留まった。   ☆ 駅で待ち構える咲の横に、今日は智が居る。二学期2日目はいつもと少し違う朝だ。昨日の雨はすっかり止んで、空にはスッキリとした青が広がっている。「荒助さん大丈夫? 具合悪いなら帰って寝てた方が良いんじゃないかな」 俯いたままの芙美を湊が心配すると、咲が「どうした?」と顔を覗き込んだ。「気分でも悪いのか? 何ならウチで休んでても構わないけど」「だ、大丈夫。少し電車に酔っただけだから」「なら良いけど、無理するなよ?」 湊を意識してしまったなんて、本人のいるこの状況で言えるわけがない。その場しのぎに胡麻化して、芙美は大きく深呼吸した。「ありがとう、咲ちゃん」「昨日の雨だいぶ長かったけど、芙美ちゃん無事に帰れた?」「まさか湊、送り狼になって芙美に変な事してないだろうな!」「はぁ?」 湊に向かって吠える咲に、芙美は慌てて「何もないよ」と口を挟む。「お兄ちゃんが迎えに来てくれたから、駅の改札で別れたの。傘持って来てくれたんだ」「そういうこと。まさかお兄さんが出て来るとは思わなかったけど」「へぇ。芙美ちゃんも、お兄さんが居るんだ」「も?」 芙美が首を傾げると、湊が横で苦い顔をしたのが分かった。智は何故かクツクツと笑いだして話を続ける。「リーナにもヒルスっていうアニキが居たんだよ。なぁ湊、芙美ちゃんのお兄さんはまさかアレじゃないんだろ?」「普通の人だよ。優
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-24
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13 ブルマのお姉さんはちょっと苦手です

 風紀委員・伊東先輩のスカートチェックを、いつものように瞬間的に切り抜けた咲は、二宮金次郎像の横で再びクルクルとウエストを詰めていく。 さっきまで落ち込んでいた気分は、そのやりとりで一旦治まったようだ。「一時間目は体育だから、すぐに着替えなきゃだよ?」「少しの時間も大事なんだよ。私のスカートが長いだなんて、世の男たちが悲しむよ」 「いいのいいの」と咲はスカートの長さとプリーツの折り目を入念にチェックして、「ようし」と満足げに笑った。「それより、体育やだなぁ」「芙美ちゃん運動苦手?」「走るのは嫌いじゃないんだけど、ハードルがちょっとね」 二学期が始まって最初の授業がハードルだということを思い出して、芙美は憂鬱な気分に肩を落とす。さっき電車を降りて気分が悪いと嘘をついたまま、家へ引き返せば良かったとさえ思った。 それでも雨が降ればいいなんて安直な考えには至らず、刻々と迫る始業時間へ大きく溜息を漏らす。「まぁ授業なんだし、気楽に跳べばいいと思うよ」「少し鈍臭い芙美も可愛いって。私が応援してるからな」「否定したいけど、否定できない……」 芙美は苦い顔で「ありがと」と礼を言って、石像の台座に重い気持ちを預けるように手をついた。智が「そういえばさ」と金次郎の顔を見上げる。「二宮金次郎って、高校になくない?」「そう……かな?」「ほら、これって小学校にあるイメージだから」 芙美は首を傾げる湊と顔を見合わせる。当たり前のようにそこに鎮座する薪を背負った読書家の少年を、不思議に思ったことはなかった。けれど、他から来た智の目には奇妙に映ったらしい。「確かに中学にはなかったな」「うちの中学にはあったぞ? まぁウチは田舎だから小学校も一緒だったけど」「別にそこまで問題にする事でもないんじゃないか? ここは私立だし、校長先生が置きたかったんじゃないの?」「あの爺さん骨董好きそうだもんな。校長室に変な壺とか飾ってありそう」 湊の言葉に咲が面白がって、悪ノリを始めてしまう。 学校の理事長を兼ねる校長に直接聞けたら良かったが、生憎今日は校門にその姿がなかった。「俺はそういう意味で言ったんじゃ……」「別にどっちだってかまわないよ。ただ、この学校ってちょっと変わったトコあるよね」 智の視線を追って、芙美は「あぁ」と頷く。それは入学当初から芙美も感じて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-25
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14 思いもよらぬ展開?

 校庭の入口で、クラスメイトたちがどよめいた。 昨日教室で智と湊が抱き合った時とは毛色が違い、困惑を含んでいる。 体育教師の絢が、白のTシャツに何故か紺色のスタンダードなブルマという姿で生徒を待ち構えていた。生徒は男女とも指定のTシャツにハーフパンツで、絢一人が常軌を逸している状態だ。ただでさえ巨大な胸が無駄に色気をアピールしている。 絢の年齢を聞いた事はないが、少し前に『私みたいのをアラサーって言うのよね』としんみり零していたので、そのくらいなのだろう。褒めればいいのかツッこめばいいのか微妙な空気が漂う中、鳴り出した始業ベルに生徒たちは慌てて彼女の前に整列した。 そんな空気を無意識に切り裂いたのは、テンション高めの鈴木だ。「何で先生だけブルマはいてるんですか?」「おかしいかしら?」 足の付け根ギリギリまで露わになる細い脚を見下ろして、逆に絢が問い返す。この状況の異様さに本人は自覚がないらしい。 鈴木はいつになく顔を真っ赤にしながら、「先生がブルマをはくなんて、エロくないですか? 俺ちょっと興奮してますよ」「えっ、そうなの?」 「嫌ぁ」という女子の軽蔑するような冷たい視線が、鼻息の荒い鈴木に集中する。 絢は満更でもない顔で両手を胸の前でクロスさせるが、問題はそこじゃない。「体育の授業に先生がブルマだなんて、誰かに入れ知恵されたんじゃないですかぁ?」 咲が悪ノリして尋ねると、鈴木が何食わぬ顔で便乗した。「もしかして先生の彼氏の趣味だったりして!」 けれど、そのセリフで絢がいきなり真顔になった。「ふざけないで。そんなことあるわけないでしょう?」 強めの声で否定されて、鈴木が途端に「すみません」と怯んだ。 そんなやり取りを遠巻きに眺めながら、芙美はこのまま雑談が続いて授業時間が短くなればいいなと思っていた。 ハードルは既にトラックの外側に整列済みだ。あまり背の高くない芙美には、ハードルが壁のように見える。少しでも飛ぶ回数が減りますようにと祈っていたが、ブルマ騒ぎも絢の「おしまいよ」という声で呆気なく終了してしまった。「けど、あれはあれでいいんじゃないか?」 ふざけた智が湊にそんなことを言うと、咲が横から「ほぉ」と意味深な笑顔を突っ込んだ。「お前、本当の事を知ったら絶望するぞ」「はぁ?」「まぁせいぜい今のうち、アラサーの魅
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-26
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15 二人きりの保健室

 「大丈夫、一人で行けるよ」と言ってみたものの、芙美は智の申し出を断りきることができなかった。 怪我の具合はと言えば、少し痛みはあるが擦りむいただけで介添えなどなくても普通に歩く事ができる。保健室に行くだなんて、体育をサボる口実だ。 そっとハードルのスタート地点に目をやると、智の行動に騒ぐ咲の後ろに湊が居た。こっちを向いているのは分かるが、表情までは見えない。「行こう、芙美ちゃん。保健室まで案内してね」 智に促されて、芙美は「うん」と視線を戻す。 少しだけ、心が痛んだ。   ☆「あれ、先生いないのかなぁ」 保健室は校庭を望む校舎の一階にある。入口を何度ノックしても返事はなかったが、智がそろりと扉を横に滑らせて「失礼します」と中に入った。 いつも机で仕事をしている養護教諭の佐野一華は不在で、二台あるベッドのカーテンも開いている。「じゃあ、私ここで先生のこと待ってるよ」 二人きりと言うシチュエーションに芙美は気まずさを覚えたが、「先生来るまで俺も居させて」 智はそんなことを言って部屋の奥へ進んでいった。 「えっ」と戸惑う芙美に、智は肩越しに振り返って悪戯な笑みを見せる。「俺もサボらせて、ってこと」 意識した自分が恥ずかしくなって、芙美は「分かった」と彼を追い掛けた。「けど、俺やっぱり保険の先生呼んでこようか? 職員室とかにいるんじゃないかな」「ううん、待ってようよ」 体育の授業をサボりたい気持ちなら、芙美も同じだ。窓の向こう側では、ハードルを飛ぶクラスメイトが小さく見える。二人きりという緊張よりも、少しでも長くサボる方を優先してしまう自分がおかしくて笑ってしまった。「芙美ちゃんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」 智は長い脚を大きく開いて側の丸椅子に座ると、芙美に応接セットのソファを勧める。 芙美は「ありがとう」と膝を庇いながら深く腰を下ろした。「そういえば智くん、オデコの傷はもう平気なの?」 芙美は自分の額を指差す。昨日彼が絆創膏を付けていた場所は、薄っすらと赤黒い傷跡が残っていた。「あぁ、これくらい大したことないよ。素振りしてたらちょっと掠っただけだから」「素振りって野球の?」「いや、剣の。まぁ本物ではないんだけどさ」「そっか。智くんは戦う為にこの世界に来たんだもんね。修行してるんだ!」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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16 突然の告白

「ねぇ、芙美ちゃん。俺と付き合わない?」 その言葉があまりにも突然で、芙美は「えっ」と口を開いたまま暫く動くことができなかった。何か言おうと出しかけた言葉が、音になる前にどこかへ消えてしまう。「びっくりした?」 爽やかな笑顔で聞いてくる智に、芙美は無言で何度も頷いて見せる。 びっくりした――そう、それが今の心境だ。「昨日会ったばかりで告白するなんて、コイツ何言ってるんだろうって思うだろうけど。俺、最初見た時から芙美ちゃんのこと気になってたんだ。こういうのって、好きっていうんじゃないかな」「どうなの……かな」 はにかんだ智に、芙美は何と答えて良いか分からなかった。昨日蓮に言われた言葉が、再び蘇ってくる。 ――「家まで送ってくれようとするなんて、向こうは好きってことなんじゃないの?」 そんなこと、あるわけないだろうと思っていたのに。 まっすぐな智の視線を逃れて必死に答えを探すが、思いをはっきりと纏めることができない。そんな芙美の様子に、智は「ごめんね」と謝った。「一目惚れってのもちょっと違うんだけど。一応、俺の気持ちだって受け止めといて欲しい」「……うん」 うまい返事ができず、申し訳ない気持ちのまま芙美は頷く。「それとも芙美ちゃん、湊のことが好きだった?」「湊くん……?」 その音にゴクリと息をのんで、芙美はふるふると横に首を振った。湊への気持ちさえ、自分でも良く分からない。「ごめんなさい。そういうの、ちゃんと考えたことなかったから……」 思いのままに伝えると、智は「気にしないで」と優しく微笑む。「だったら今は、友達として側に居させて欲しい。ダメでもいいから、気持ちが変わったら教えて」「うん、ありがとう。智くん……」 ふいに衝動が起きて、目の前が潤んだ。どうしてかは分からないけれど、泣いちゃ駄目だと涙を堪える。「芙美ちゃん?」 智が慌ててテーブル越しに手を伸ばす。芙美の髪に彼の指先が触れるその手前で、ガタリと廊下で音が鳴った。「ひえっ」 女性の声に驚いて、二人が顔を見合わせる。そろりと同時に振り向くと、10センチほど開いた扉の隙間に、白衣姿の彼女が立っていた。「一華(いちか)先生!」「ご、ごめんなさい。入るタイミングが掴めなくて……」 熊柄のマグカップを片手にもう片方の手で「ごめん」のポーズを作る彼女は、養護教諭の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-28
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17 彼女の友達は恋多き女子で?

 ふわりと漂うコーヒーの香りに、ツンとしたアルコールの匂いが混じる。 芙美が膝についた砂を水道で流すと、一華はピンセットで挟んだ丸い脱脂綿に消毒液をたっぷりとしみ込ませて幹部へと塗り込んだ。アルコールが染みて、芙美は「くぅ」と痛みを堪える。じわりという感覚は、小学校以来な気がした。「痛ぁい」「ふふっ。芙美ちゃん、もう少し我慢してね」 一華は天使の微笑みを浮かべながら脱脂綿を何度もあて、痛みに悶える芙美を面白がっているようにも見える。傷口がびっしょりと消毒液に塗れたところで、「このくらいかしら」 じんわりと血の滲む脱脂綿を捨てて、一華は大きな絆創膏を貼り付けた。真ん中の白いガーゼをちょんと指で突く。「これでばっちりよ」「ありがとうございます!」 芙美は頭を下げ、ふと柱の時計を見上げた。一時間目終了まではまだ10分も残っている。思ったよりあっという間の処置で、今戻れば再びハードルを跳ばなくてはならない気がした。「戻りたくないなら、チャイムが鳴るまで休んでいく? あとちょっとだから構わないわよ」「本当ですか! なら居させて下さい!」 芙美の意を汲み取って、一華は「どうぞ」と立ち上がり、隅にある冷蔵庫から麦茶を出してくれた。チラリと見えた冷蔵庫の中には、薬瓶に紛れてお菓子の袋や箱がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。「ここ座るわね」 一華は熊柄のマグカップを片手に、芙美の向かいに腰を下ろした。さっき智が座っていた場所だ。 芙美はイチゴ柄のグラスに入った麦茶を一口飲んで、そっと彼女に聞いてみる。「あの、先生」「なぁに?」「さっきの、本気だと思いますか?」「付き合ってほしいって言われた事? 転校生の長谷部くんだっけ?」 「はい」と芙美は頷く。 一華とはこの間プールで会ったり学校外でも何度か顔を合わせたことはあるが、こうして話すのは初めてだ。智とのことを見られて気まずい気持ちもあるが、咲に相談すると大事になる気がして、まずは大人の意見を聞いてみたくなった。「悪い人じゃないのは分かるけど、昨日会ったばかりでそんなこと言われてもピンとこなくて」「芙美ちゃんも困っちゃうわよね。一目惚れなんて、彼よっぽど運命感じちゃったのかしら」「本人はそうじゃないって言ってたんですけど、どうなんだろう」 コーヒーにふぅっと息を吹き付けて、一華は「そうねぇ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-29
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18 お兄ちゃん好みの彼女

 更衣室に入ると休み時間は残り5分を切っていて、クラスメイトはもう誰も残っていなかった。 じんわりと暑い空気と制汗剤の匂いを窓の外へ逃がし、急いで制服に着替える。先生の目を盗みながら駆け足で教室へ戻ると、智が席で「お帰りなさい」と芙美を待ち構えた。平常心を装った「ただいま」に重ねて、二時間目の始業ベルが鳴る。「ギリギリセーフだね」「う、うん」 何事もなかったように前を向く智の広い背中を見つめながら、芙美は落ち着かない心臓の鼓動をぎゅっと押さえつけた。斜め前方の席からこっそり手を振ってきた咲に振り返すのがやっとで、授業は半分も頭に入らない。 その後、智とは何度か話をしたけれど、お互いに保健室での事には触れなかった。   ☆ 放課後、昇降口を出たところで咲が突然ピタリと足を止めた。のんびり教室を出たせいで、周りに他の生徒の姿は殆どない。先に出た智や湊は、もう駅に着く頃だろう。「芙美……」 咲は肩に掛けた鞄を両手で握り締め、何故か深刻な表情で俯いている。「どうしたの? 咲ちゃん」 もしや保健室でのことがバレているんじゃないかと息を呑むが、彼女の悩みは全く別の事だった。 この時を待っていたかのように改まった顔をして、咲は目を潤ませる。「芙美は、芙美のお兄ちゃんの事が好きなのか?」「えぇ? そっち?」「そっちって何だよ。私に何か隠し事でもしてたのか?」「ううん、そういうのじゃないけど」 芙美は慌てて否定する。そういえば咲は朝も兄の蓮に嫉妬するような素振りを見せていた。彼女にとって蓮が何故地雷なのか、芙美にはさっぱり分からない。「お兄ちゃんって、そりゃ兄妹だから嫌いじゃないよ。けど、咲ちゃんが考えてるのとは違うと思うの」 それこそ湊たちの話を思い出して、妹にベタベタしていたというリーナの兄を重ねてしまう。 リーナが兄をどう思っていたのかは分からないが、蓮が自分にベタベタしてきたら、やっぱり気持ち悪いなと芙美は思った。「やっぱり、お兄ちゃんの事が好きなんだな?」「だから、そうじゃないよ」 オーバーな解釈をして、咲は「うおぉ」と咆哮する。そして悲劇のヒロインにでもなったように、側にあった二宮金次郎像の台座に片手をついた。 絶望に打ちひしがれる彼女の背中に何と声を掛けていいのか分からない。「咲ちゃん……」「けど、芙美にお兄ちゃんが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-30
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