All Chapters of いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?: Chapter 11 - Chapter 14

14 Chapters

9 そんなに大きい胸じゃなかった

 雨が苦手だと言う人はいるけれど、全身に広がる憂鬱感はきっと誰よりも強いだろうと芙美は思っている。 雨が降るごとに感じる鬱々とした気分を自分でどうにかコントロールしたいと思っては来たが、特に進展はないままだ。 我慢できない程ではないが、こんな不意打ちの雨に来られては心構えもなにもない。「雨苦手なの?」 智に聞かれて、芙美は「うん」と頷いた。咲が腕に手を絡めたまま、「大丈夫だよ」と微笑む。「俺も晴れてる方が好きだけど。だったら俺が芙美ちゃんの家まで送って行こうか?」「智の家は逆方向だろ? 芙美を送っていくのは私の役目だからな」 咲が前のめりに主張すると、湊が「はぁ?」と眉を寄せた。「海堂の家はすぐそこだろ。普通に考えて、電車通の俺が一緒に帰ればいいだけじゃないの?」 店の入口で押し問答が始まって、芙美は慌てて「ごめんなさい」と両手を振った。「みんなありがとう。雨はちょっと苦手なだけだから大丈夫だよ。今日は湊くんと一緒に帰るね」 湊が「オッケ」と頷く。「分かったよ。じゃあそういうことで。だったら咲ちゃんは俺が送って行こうか?」「いや、それは遠慮しとく」 スネる咲に、智は「了解」と笑った。 「また明日」と別れて、電車組の3人はすぐ側にある駅舎へ駆け込んだ。制服を濡らす雨を払うと、背中から咲が智を呼ぶ。「智」 3人が同時に振り返ると、咲はいつになく真面目な表情で声を張り上げた。「私も智に会えて嬉しかったよ」「ありがとね、咲ちゃん」 笑顔で手を振る智の横で、芙美は湊と顔を見合わせた。智にとっては『さよなら』の延長線に過ぎないのかもしれないが、いつも彼女と一緒に居る身からすると『らしくない』と思えてしまう。「どうしたんだ、アイツ」 小さく呟いた湊に、芙美は心配顔を傾ける。校長が智の転入を教えてくれた時から、咲の様子がいつもと違う事には気付いていた。 芙美がこっそり智を見上げると、「どうしたの?」と目が合った。「智くんは、咲ちゃんとも友達だったの?」「いや、今日初めて会ったんだよ」 とても嘘をついているようには見えない。咲の様子に不安を垣間見たところで、電車の来るアナウンスが流れる。「行こう」と2人に促され、芙美は咲に手を振って駅舎の奥へ移動した。   ☆ 上り電車が発車した後も、咲はまだ田中商店の軒下に居た。ホームにはまだ
last updateLast Updated : 2025-05-21
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10 お兄ちゃん

 咲と同じ雨を仰いで、芙美は憂鬱な空に背を向けた。 天気のせいか電車の中はいつもより客が多い。窓に沿ったベンチシートに湊と並んで、不安をかき消すように大きく深呼吸した。「今日の海堂、ちょっと変だったな」「湊くんも思ったよね? そう言えばこの間プールに行った後、咲ちゃん熱出したんだって。まだちゃんと治っていなかったのかな?」「体調が悪いようには見えなかったけど、それもあり得る……か」 ボディーガードという名目で咲が湊を誘い、三人で広井町のプールに行ったのは、つい一週間前の事だ。あの日はたまたま来ていた絢と養護教諭の佐野一華にプールで遭遇するというハプニングが起きたり、咲が他校の男子に声を掛けられたりと色々あったが、これといって風邪をひくような事をした覚えはない。いつも下ろしている髪をポニーテールにしたからという訳ではないだろう。「もう雨は平気?」 向かいの窓を伺って、芙美は「うん」と答えた。暗い雲で覆われた空はまだ晴れる気配を見せないが、今こうして電車の中にいるせいか自分が思う以上に落ち着いている。「そっか。さっきは不安にさせてごめんな」「12月に現れるっていう魔物の事? ううん、本当の事聞きたいって言ったのは私たちだし、ちゃんと話してくれただけなんだから、気にしないで」「荒助(すさの)さん……」「それより、湊くんはハロンを倒したら元の世界に戻っちゃうの?」 ふとそんなことが気になって尋ねると、湊は「いや」と首を振った。「向こうの世界のアッシュとラルは死んでからこっちに来てるから、もう向こうに戻る場所はないよ。ルーシャの力で、魂をこっちの身体に継がせたんだ。顔や体も今の親に貰ったものだよ」 そういえば智が言っていたが、湊は前の身体では眼鏡を掛けていなかったらしい。「じゃあ、昔の記憶はあるけど、今の湊くんはずっとそのままなんだね」「そういうこと」「なら良かった。戦いが終わってお別れになんて事ことになったら寂しいって思ったから」「寂しいって、思う?」 少し照れた顔を隠すように、湊は口元に手を当てた。芙美が「うん」と大きく頷くと、彼は一瞬迷ったように視線を漂わせ「ありがとう」と目を細める。「俺たちはリーナとの別れを選ばなかった。何も言わずに彼女を残して転生してきたんだ。言ったらきっとついてくるって言うと思ったし、そんな彼女を跳ね除け
last updateLast Updated : 2025-05-22
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11 そしてお兄ちゃん

「お兄ちゃん」 芙美の声に振り向いたのは、兄の蓮(れん)だ。大学生の彼はあと少し夏休みが残っている。 片手に傘を2本ぶら下げて改札の向こうで「お帰り」と手を振る彼の視線が、芙美の横にいる湊を見つけた。訝し気に頭を下げる蓮に、湊が柵越しに「こんにちは」と挨拶する。「同じクラスの相江(あいえ)湊くん。電車が一緒だから送ってもらったの」 雨が降り出してすぐ、蓮から大丈夫かとメールが来ていた。もう帰るからと返したきりだったが、中途半端な返事のせいで心配させてしまったらしい。 蓮は呆れ顔を芙美に送ると、改めて湊に礼を言った。「雨降ったから泣いてるんだろうと思ったけど、わざわざ送ってもらってすみません」「同じ方向だったんで気にしないで下さい。じゃあ、俺はここで。荒助(すさの)さん、また明日ね」「うん、ありがとう湊くん」 踵を返した湊の背中に、蓮が「あの」と声を掛ける。「うちの妹、こんなんですけど。よろしくお願いします」「こんなって何よ」 みささぎがムッと兄を睨むと、蓮が「こんなんだろ」と笑った。 そんな二人の様子に、湊が不思議そうな顔をする。「仲良いんですね」「まぁ、兄妹だしね」「そう……ですね。わかりました。じゃあまた、雨が降ったら送ってきます」「よろしくな」 満足そうな蓮の笑顔と芙美の「またね」を背に、湊はホームの奥へと戻って行った。   ☆「俺来たのマズかった?」 広井駅から芙美の自宅までは徒歩で10分ほどだ。車通りの少ない路地を選んで、芙美と蓮は傘を片手に並んで歩く。「どうして?」「だってお前、彼氏に家まで送って貰うつもりだったんだろ?」「彼氏って。湊くんはそういうのじゃないよ」 動揺する芙美に、蓮は「そっか」と一人で納得して、ニヤリと口角を上げた。「まだ告白して貰ってないって事か。いじらしいな」「だから、そういうのじゃ……」「馬鹿か、お前は」 必死に否定する妹を、蓮はバッサリと切り捨てる。「お前、アイツの前で雨が怖いって言ったんだろ? それで家まで送ってくれようとするなんて、向こうは好きって事なんじゃないの?」 いつもながらに兄は単純だ、と芙美は思う。その言葉がまかり通るなら、送ってくれると言った咲や智もそうなってしまう。 ムスリと膨れ面をする芙美に、蓮は「怒るなよ」と笑った。「まぁ別に、彼氏作るくら
last updateLast Updated : 2025-05-23
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12 彼に似ている彼女

 白樺台へ向かう電車は、相変わらずの貸し切り状態だ。 いつになく穏やかな様子で横に座る湊に、芙美は昨日送って貰った礼を言って蓮としたゲームの話をする。その後に何度か会話が途切れたりもしたが、彼は一度も空を見ようとはしなかった。「湊くん、智くんが来て雰囲気変わった?」「え、そう?」「うん。ちょっと明るくなったって言うか……」「俺ってそんなに暗かったの?」 困惑する湊に、芙美は「ちょっとだけだよ」と嘘をつく。本当は大分変わったと思っていた。「智くんに会えてよかったね」「うん。まぁ……ね」 そう言って湊が見せた照れくさそうな笑顔に、芙美は昨日の蓮の言葉を思い出す。 ──『向こうは好きってことなんじゃないの?』 急に恥ずかしくなって、彼から目を逸らした。「荒助(すさの)さん?」「な、なんでもない」 隣の車両に駆け込みたい気持ちを抑え付けて、芙美は彼の隣に留まった。   ☆ 駅で待ち構える咲の横に、今日は智が居る。二学期2日目はいつもと少し違う朝だ。昨日の雨はすっかり止んで、空にはスッキリとした青が広がっている。「荒助さん大丈夫? 具合悪いなら帰って寝てた方が良いんじゃないかな」 俯いたままの芙美を湊が心配すると、咲が「どうした?」と顔を覗き込んだ。「気分でも悪いのか? 何ならウチで休んでても構わないけど」「だ、大丈夫。少し電車に酔っただけだから」「なら良いけど、無理するなよ?」 湊を意識してしまったなんて、本人のいるこの状況で言えるわけがない。その場しのぎに胡麻化して、芙美は大きく深呼吸した。「ありがとう、咲ちゃん」「昨日の雨だいぶ長かったけど、芙美ちゃん無事に帰れた?」「まさか湊、送り狼になって芙美に変な事してないだろうな!」「はぁ?」 湊に向かって吠える咲に、芙美は慌てて「何もないよ」と口を挟む。「お兄ちゃんが迎えに来てくれたから、駅の改札で別れたの。傘持って来てくれたんだ」「そういうこと。まさかお兄さんが出て来るとは思わなかったけど」「へぇ。芙美ちゃんも、お兄さんが居るんだ」「も?」 芙美が首を傾げると、湊が横で苦い顔をしたのが分かった。智は何故かクツクツと笑いだして話を続ける。「リーナにもヒルスっていうアニキが居たんだよ。なぁ湊、芙美ちゃんのお兄さんはまさかアレじゃないんだろ?」「普通の人だよ。優
last updateLast Updated : 2025-05-24
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