Semua Bab いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?: Bab 41 - Bab 50

87 Bab

39 図書室のアイツ

 お泊り会から、あっという間に10日が過ぎた。特に進展もないまま、いつも通りの日々が続いている。 あの日『好きという気持ち』について咲と話をした。自分なりに出した答えを胸に留めているのは、月末に控えた秋祭りに4人で行く約束をしたからだ。咲に言われた「急ぐ必要はない」という言葉に甘えて、その日までは今の関係を壊したくないと思う。「咲ちゃんは、あれからお兄ちゃんと連絡とってるの?」 お泊り会の帰りに咲が蓮に電話番号を渡していた。恋愛に発展するような出来事はなかった気がするが、実際の所はどうなのか気になってしまう。 咲は「いやいや」と手をひらひらさせて、食べ終わった弁当の蓋を閉めた。「連絡先交換しただけだよ。芙美にもし何かあった時の為だって言っただろ?」 そのまま受け止めれば納得がいくし、幾多のナンパ男を蹴散らして来た咲が特定の男に興味があるとは思えない。「だよね、しかもウチのお兄ちゃんなんてね」 最後に取っておいたウインナーを食べて、芙美は「ごちそうさま」と手を合わせる。連絡先を交換したくらいで、考えすぎだ。「ここの所お兄ちゃんバイト忙しいみたいで、毎晩くたくたになって帰って来るんだよ」「あぁ、夜のコンビニって大変そうだよな」「あれ? お兄ちゃんのバイトがコンビニだって咲ちゃんに話したっけ?」「えっ」 弁当箱をしまう咲の手が止まる。「この間泊りに行った時、本人に聞いたんだよ。芙美、トイレにでも行ってたんじゃないか?」「そっか」 何故か咲が動揺している。「それより芙美、図書室行くんじゃなかったっけ?」「ああっ、忘れてた! 行ってくる」 先日、宿題の資料のために借りた本の返却が今日までだった。朝までは覚えていたのにすっかり頭から飛んでいて、芙美は慌てて弁当箱をしまい教室を飛び出た。   ☆ 高校の図書室が開いているのは、昼と放課後の二回だけだ。電車の時間を考えると、今のうちに返しておきたかった。 生徒数の割に広い図書室には、生徒の姿は殆どない。「お願いします」とカウンターで読書中の図書委員に本を返却したところで、「荒助(すさの)さん」と窓際から突然名前を呼ばれた。クラスの盛り上げ役・鈴木だ。「鈴木くん、読書中?」「うん。昼はここにいるのが多いかな」 午後の授業までまだ時間があることを確認して、芙美は彼に近付く。二人きりで話
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-20
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40 ジェラシー

 芙美は寝不足だった。 昨日鈴木に薦められた恋愛小説を、一晩で読み切ってしまったからだ。本の内容といえば、不治の病に侵されたクラスメイトの男子に恋をする、女子高生が主人公の王道ラブストーリーだ。 勢いで借りてはみたものの本の厚さにうんざりして、正直パラパラっとめくって概要が分かればいいと思っていたのに、いざ読み始めたら止まらなくなってしまった。あと少しだけを何度も繰り返して、ラストに辿り着いた時にはカーテンの向こうがうっすらと明るくなっていた。「眠い……」 眩しい太陽の日差しに瞼を開けているのが辛い。蓮に叩き起こされて家を出たものの、駅までの足取りは重かった。今日の体育はまたハードルだと絢が言っていたのを思い出して、このまま家に引き返したくなってしまう。 物語の男の子は結局ラスト間際で死んでしまった。彼との思い出や周りに支えられて頑張る主人公――そんな切ないラブストーリーの余韻に浸っていたいのに、眠気とハードルという現実が邪魔してそれどころではない。 駅に着いていつも通りの電車に乗ると、がらんどうとした車両で湊が「おはよう」と芙美を迎えた。開いた扉とは反対側の、ベンチシートの端が彼の定位置だ。「おはよう、湊くん」 睡眠不足のぐったりした顔を、精一杯笑顔に変える。 他に席は幾らでもあるのに、当たり前のようにそこへ行っていいのだろうか……いつものように自問自答しながら隣に座ると、湊は「あれ」と芙美を覗き込んだ。「荒助(すさの)さん寝不足?」「えっ、分かる? 昨日徹夜で本読んじゃって」 最悪だ。クマでもできているのだろうか。 下瞼を指でぎゅうっと押さえると、湊が「眠そうだよ」と笑った。「どんな本だったの?」「恋愛小説……だよ」 それを口にするのがちょっとだけ恥ずかしい。「へぇ。女の子って好きだよね。けど眠いなら無理しないで」「うん、ありがとう」 実は鈴木に勧められたものだとは言えなかった。小さく笑った湊の横で、電車の緩い振動が心地良い。 視界がスッとぼやけて、芙美はそのまま眠りに落ちた。   ☆ 夢を見た。 こういう時は、読んだばかりの本の内容が反映されそうなものなのに、何故かラブストーリーとは真逆のスリル満点な内容だった。 夢の主人公である少女が芙美の意識とリンクして、山奥の崖っ淵に立っている。剥き出しの岩肌が谷の底まで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-21
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41 バレないわけがないけれど

 初めて彼と言葉を交わしたのは入学式の翌日で、芙美から声を掛けた。行きと帰りの電車が一緒で、クラスメイト――それだけの共通点が少しずつ距離を縮めて、横に居るのが芙美にとっての日常になった。 この関係が『友達』なのかどうか、自分でも良く分からない。 ――「今日はこのまま俺とサボってみる?」 湊の唐突な提案に戸惑ってしまうが、断る理由なんて何もなかった。 芙美が「うん」と頷いたまま驚いた顔を貼り付けていると、湊はきまり悪そうに眼鏡の奥の眼を逸らして、「本当にいいの?」と聞いてくる。「湊くんと一緒なら、サボりたいな」 行かなかったらきっと後悔するだろうと思った。湊は少し恥ずかしそうに「じゃあ、決まり」と笑顔を零す。「なら荒助(すさの)さんは、海堂にメール入れといて。駅で待ってるだろうから」「二人で休むって?」「いや、俺の事は良いから風邪だとか適当に。電車下りたら学校にも連絡しないとね」「そっか」 確かに手回しは必要だ。何も言わずにサボったら、学校から家に連絡されてしまう。 芙美は早速、咲に『今日、お休みします』とメールを打った。理由を書けずにいると案の定すぐに返事が来て、『大丈夫か?』と心配される。『大丈夫だよ』と答えると、『お大事に』というスタンプが飛んできた。「まぁどうせ、俺とだってすぐバレると思うけど」「けど、湊くんはいいの? テストだって近いのに」「一日サボったところで問題ないよ。どっか行きたいとこある? 制服だし、あんまり人のいる所は止めた方がいいとは思うけど」 高校のある白樺台駅までは、あと一駅だ。電車はお互いの家がある方角とは真逆に進んでいる。 芙美は少し考えて、「じゃあ」と横目に湊を見上げた。「湊くんたちが修行してたあそこに、また行きたい」「あそこって、何にもないけどいいの?」「うん。あそこなら誰にも見つからなそうでしょ?」 人目につかない場所が良いと思ったら、真っ先にあの広場が浮かんだ。言った後にまた絢の『何しちゃってもいいわよ』という言葉を思い出して、急に恥ずかしくなる。「わかった。じゃあ、一駅向こうに下りて歩こうか」 芙美は緊張を滲ませながら「うん」と答えた。   ☆ 白樺台駅でドアが開いて、芙美は息をのむ。「気付かれませんように――」 湊と二人で椅子の上にかがんで、窓から見えないように扉が閉ま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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42 元親友の恋

 一時間に一本もない真っ白な時刻表を貼り付けたバス停の前に湊と並んで、芙美はスマホの通話ボタンを押した。最初に出るのが担任の中條先生ではありませんようにと祈るのは、嘘など簡単に見透かされてしまいそうな気がしたからだ。 コール三回で「白樺台高校です」と出た声が女性だったことにホッとする。養護教諭の佐野一華(いちか)だ。 「やったぁ」と音にせず伝えると、湊がすぐ横でスマホをいじりながらこくりと頷いた。「あの、一年の荒助(すさの)芙美です。今日ちょっと体調が良くないので、お休みします」『芙美ちゃん? おはよう、大丈夫?』 後ろめたい気持ちで「はい」と答えると、一華が声を潜めた。『もしかして、そこに相江(あいえ)くんもいるの?』「えええっ」 びっくりして湊を振り向く。先に学校へ電話をしたのは彼だが、どうしてバレているのだろう。 芙美は慌ててスマホを耳から遠ざけた。ビデオ通話の機能はなかったはずだ。 『芙美ちゃん』と遠くに声が聞こえて耳にスマホを戻すと、一華は楽しそうに声を弾ませる。『やっぱりそうなんだ。相江くんにも連絡貰ってたから、そうなんじゃないかって思ったの。担任の先生には適当に言っておくわね。こっちは私に任せて、芙美ちゃんは頑張って来て!』「は、はい。ありがとうございます」 咎められるどころか、鼻息も荒い感じに応援されてしまった。通話が切れて、芙美は困惑気味に湊を見上げる。「一華先生にバレちゃった」「保健の? さっき俺がかけた時も同じ先生だったけど」「うん。怒られなかったけど、すごく楽しそうだったっていうか」 「へぇ」と眉を上げる湊は、さっきからずっとスマホをいじっている。「メール?」「あぁ。智がうるさくて。荒助さんといるの? って」「そっちもバレてるんだ……」 保健室で告白された時、智に『気持ちが変わったら教えて欲しい』と言われた。あの時の返事を先延ばしにしてしまっている事に心が痛む。「智くんに、何て答えたの?」「そうだよって言ったら、それっきり」 湊は不敵な笑みを浮かべて、スマホを鞄にしまった。「大丈夫かな……」「まぁ言いふらして騒ぐヤツじゃないよ。海堂にはバレてるだろうけど」「そういうことだよね」 芙美はメールを確認するが、咲からの新着はなかった。「智の方が良かった?」 意地悪っぽく言う湊に、芙美は黙
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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43 たぶん気のせい

「どうしたの?」 広場に着いた瞬間、フワリと甘い匂いが芙美の鼻をかすめた。綿あめのような、砂糖を煮詰めたような、そんな匂いだ。けれどそれはすぐに消えてしまう。 辺りを見回しても、それらしきものは何もない。気のせいだと思って、芙美は「何でもない」と首を振った。 9月も終わりに近付いたせいか、山の中はこの間来た時よりもひんやりとしている。なのに二人きりだというシチュエーションに胸がずっとドキドキして、芙美は汗ばんだ掌を強く握りしめた。「湊くん、修行する? 私ここで見てるよ?」「今日はそんなつもりで来たんじゃないよ。折角だし少し休まない?」 クールダウンしなければと思って声を掛けたが、湊は木の根元に腰を下ろして芙美を横の平たい岩へと促した。 空を仰ぐ湊の横顔に何を話そうか考えながら、芙美は彼の側に座る。ここまでの道中は学校の事や友達の話題が多かったけれど。「湊くんは、前の世界でずっと戦ってたの?」 先日見せてもらった魔法やら模擬戦の記憶が蘇って、その事を聞きたくなった。「そうでもないよ。戦後に傭兵をしてた父に付いて回ってた数年と、ハロンが出たあの時だけ。訓練は小さい時から欠かさなかったけどね」「お父さんも強い人だって言ってたよね?」 懐かしむように語る湊が、父親の話題に一瞬眉をひそめた。「荒助(すさの)さんは、パラディンって分かる?」「騎士……の称号? 強い人って事だよね?」 蓮とやったゲームの知識でいまいち曖昧だが、湊は「そう言う事」と肯定する。「父親がパラディンで、俺の自慢だった。いつかあぁなりたいと思ってたけど、結局追いつけないまま、あの人は死んだんだ」「……ごめんなさい」 ラルの父親が戦争の後に亡くなったという話は、前にも聞いている。「俺が話したくて話したんだから謝らないで。俺が弱いのは事実なんだから」 苦笑する湊に、芙美はふるふると首を振った。「父親が死んだあと、俺はリーナの側近になった。父親が生きてたらそうはならなかっただろうし、これはこれで運命なのかもしれないと思ってる」「湊くんは、戦う事が怖くはないの?」「怖くないよ。戦ってる時は倒す事しか考えていないしね。けどもし死んだら、あぁ俺は負けたんだって思うんだろうな」「死んじゃダメだよ。死なないで」 あまりにも淡々と『死』を口にする湊に、芙美は思わず声を上げた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-24
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44 お前とキスなんてできるわけがない

「僕は木に磔にされて、下から火をつけられたんだ」 校庭の隅にある滑り台のてっぺんで弁当を広げる咲は、ミートボールの刺さった箸を手に熱弁する。「えぇ、マジで? 俺そういうのじゃなくて良かったわ」 階段の上で咲に背を向けて座る智は、ぞっと肩を強張らせた。芙美と湊の居ないランチタイムは、二人の校庭独占状態だ。「それしか方法がないって言われて渋々従ったけど、あれって死の直前にルーシャの魔法で魂を転移させるんだろ? 死ぬ方法なんて別に何でも良かったんじゃないかって気がしてならないよ」「俺もそんなこと聞いた気がする。けど、まさかリーナもそうやって来たの?」「いや、アイツはお前たちと同じように崖から行った。ひどい話だろ? アイツは僕の目の前でお前たちを選んだんだぞ?」 崖からリーナが飛び出していくシーンが、何度も夢で蘇る。小学生の頃はその度に大泣きして、姉の凜に心配された。「俺なんて一瞬で意識が飛んだけど。お前は頑張ったんだな」 労う智に咲は「だろぉ?」と訴える。「僕もこっちに来れたからいいけど、あの炎の痛さは絶対に忘れないよ。熱いとかじゃないんだ、もうあれは……」 箸を握る拳に怒りを込めて立ち上がると、智が「見えるぞ」と咲を見上げた。「パンツ見たヤツは千円取るからな」「やめてよ。俺の傷心モードに付け込むつもり?」 ため息交じりに言う智に、咲は「フラれたな」と口角を上げた。 朝、智が湊にメールで確認して、二人が一緒だとわかった。湊が無理矢理連れ出すという事はないだろうから、芙美も同意なのだろう。「ラルってさ……まぁ湊もだけど、ちょっと冷たいとこあるじゃん。話し掛け辛いって言うか。リーナは何であぁいうのがいいんだろ」「僕はラルなんて大嫌いだけど、あぁいうのに優しくされると、ギャップ萌えするんじゃないのか? 最近テレビとかでそういうの聞くだろ」「えぇ、何それ。女の子らしい意見じゃん。もしかして咲ちゃん、男に興味あるの?」「僕は男だ! 一般論を言っただけだからな」 面白がる智を怒鳴りつける。カッと血が上って火照った顔を、咲は慌てて後ろへ逸らした。「お前は昔からリーナばっかだもんな。けど、そんな顔してたらモテるんじゃないの? 咲ちゃん可愛いから」「可愛いのは認めてやる。何だ智、芙美から僕に乗り換えようってのか?」「まさか。中身がヒルスだって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-25
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45 好き

 崖の底へと落ちる夢は、リーナの記憶なのだろうか。 「リーナなのか?」という湊の言葉に期待を垣間見て、芙美は口をつぐんだ。やっぱり今でも彼はリーナの事が好きなのかもしれない。 もし本当にリーナの生まれ変わりならと、会った事のない彼女を自分に重ねてみるが、湊や智よりも強い魔法使いだなんてどう考えてもありえない。想像する事すら恐れ多い気がして、芙美は「ごめんなさい」と謝った。 気まずい空気を振り払うように、湊が「そうじゃないよ」と頭を下げる。「荒助さんを困らせたい訳じゃなくて、そんな可能性もあるのかなって少し思っただけだから。俺の方こそごめん」「ううん、大丈夫だよ」 湊は、もしそうなら良かったと思っているのだろうか。折角2人きりなのに、要らない答えばかりを想像してしまう。芙美は苦しくなる感情を胸の奥に閉じ込めて、「お昼にしよう」と促した。 持ってきた弁当を食べ終えると、また睡魔が襲って来る。寝てしまうのは勿体ないけれど、流石に二時間程度の睡眠では身体がもたないらしい。大あくびを我慢したところで意地を張って起きていることもできず、「ちょっと動いて来る」と立ち上がった湊に手を振ると、芙美は太い木に寄りかかって静かに目を閉じた。   ☆ 湊の動く足音と風が心地良い。 またリーナの夢が見れたらと思うのに、何もないまま眠りから覚めた。ぼやけた視界に、剣を振る湊の姿が飛び込んでくる。相変わらずの木の棒だけれど、真剣な彼の表情に思いが込み上げた。「好き……です」 彼に聞こえないように、そっと呟く。耳に届いた自分の声に恥ずかしくなって、唇を手でぎゅっと押さえた。リーナの記憶なんてない。彼の期待に沿うことのできない現実に、このまま時間が止まってしまえばいいと思う。 けれど湊はすぐ芙美に気付いて剣を下ろした。「おはよう、荒助さん。ちょっとは寝れた?」「うん。湊くん、おはよう」「結構時間も経ったし、そろそろ戻ろうか」 立ち上がって時計を見ると、もう普段の下校時刻を過ぎていた。楽しい時間なんてあっという間だ。 本当は帰りたくない気持ちを込めて「うん」と頷くと、湊は側に来て「荒助さん?」と芙美を伺う。「さっきのこと気にしてる?」 芙美がリーナかもしれないという事だろう。寝てる間ずっと考えていたのだろうか。 芙美は「ううん」と首を振る。「そうだったらいい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
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46 兄へ託した最後の魔法

 俯いたまま店の奥まで入って、咲は二人掛けの席に座った。 テーブルに肘をついて、固く握った拳に額を押し付ける。覚悟を決めた答えを吐き出してしまいたい気持ちと、冷静になれという真逆の感情に深呼吸を繰り返した。「悩んでるなら帰ってもいいのよ?」 絢は「おごりよ」とクリームソーダを咲の前に置いて、向かいの椅子に座った。 ボリューム多めのパニエが、バサリと音を立てる。今日の彼女は赤いチェック柄のロリータ服を着ている。頭につけた大きめのリボンといい、相変わらず年齢的に無理がある。「今日あの二人休んだんだって? ラルもやるわね」 咲はスプーンを手に取るとむっつりした顔で絢を睨み、「いただきます」とアイスをすくった。「僕はラルが嫌いだし、転生しても全く変わってなかった湊も嫌いだ。けど、あの二人が親密になるのなんて最初から分かってたんだよ。だから大した問題じゃない……嫌だけど」「なんだかんだ言って貴方はそういうトコ優しいわよね。だったらその陰気な顔の理由は何?」 頬杖をついた絢が興味あり気に咲を覗き込む。「昼間、智に聞いてみたんだ。運命は受け入れるものか、抗うものかってね。そしたらアイツ、受け入れるって言ったんだよ」「貴方、彼に10月1日にハロンが来るって話したの?」「話す訳ないだろ!」 お前はもうすぐ死ぬんだと言えば、智の返事は変わるだろうか。「アイツは自分が生き残ることで他に犠牲が出るなんて知れば、否応なく死を受け入れるだろうよ。僕も最初は逆の答えが出てくると思ったけど、今思えばアイツはチャラい癖に聞き分けが良すぎる所があるから」 智は死に物狂いで反抗したりはしない。ラルとこの世界に来るのを決めた時も、ラルとリーナの事も、すんなりと受け入れてしまっている。 絢も少し考えて「確かにそうかもしれないわね」と苦笑した。「だったらもうそれが運命だと割り切って、このまま月を跨ぐのが良いのかなと思ったんだ。それならルーシャに言ってしまおうって。明日からの三連休、家に一人でいたら頭がおかしくなりそうだから」 咲はスプーンを置いて、膝を両手で掴んだ。「だから僕は、何も知らないふりをして10月1日を迎えるつもりだ」 運命のままに結果を受け入れようと――それが答えだ。「そんな思い悩む顔で言ってほしくなかったけど。いいわ、じゃあ一つ質問させて。貴方はリーナ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-27
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47 今日がすぐ終わってしまわないように

 つまり咲が望めば、リーナの記憶も魔法もすぐ芙美に戻るという事だ。「リーナの最後の魔法って……戦いが終わった時に消したんじゃなかったのかよ」 ハロンとの戦でボロボロになったリーナを戦場に戻さない為、ラルとアッシュが彼女の魔法を消すようにルーシャに頼んだと聞いている。以後、ヒルスは彼女が魔法を使っている姿を見た事がなく、当然そうなったと思っていた。「実際は抑え込んだだけよ。もしもの為にって、私とリーナで口裏を合わせていただけ」「ならアイツ等も知らなかったって事かよ。何で……」 ラルとアッシュが異世界へ飛んだと知って沈み込んでいたリーナが、転生先でアッシュが死ぬという予言を聞いて、自分も行くと言い出した。「やっぱりリーナは最初からアイツを助けるつもりだったのか」「あの子も最後の最後まで悩んでいたのよ? それを貴方に託したんだから、選んであげなさい。貴方が望まなければ、もうずっと芙美のままで居させることもできるわ」 咲は絢の言葉に愕然とする。「けどアイツはウィザードに戻りたいと思ったから、僕にそれを託したんだろう? なぁルーシャ、もし智を助けたら、この世界はどうなるんだ?」 芙美が智を助けたいと思っていることは分かった。けれどその不安を払拭する事ができず、出した決断を取り消すことができない。「この世界の終わりが来るかもしれない」 絢はうっすらと笑みさえ浮かべて、残酷なことを口にする。「脅してる?」「脅してなんかいないわ。二人を追って転生する事が未来を軽視する事になるからこそ、リーナは悩んでいたんだもの。けど、何も起きないかもしれない。分からないのよ」 絢は横に首を振って、「アイス溶けてる」と咲のグラスを指差した。咲は言われるままにスプーンを掴んで、呆然としながらメロンソーダに沈むバニラを少しずつ口に運んだ。「ついでだから話してあげる。私たちターメイヤから来た大人組が、貴方たちと違う理由をね」 それは、向こうの世界で賢者だったハリオスこと田中校長に言われたことだ。 ――『儂らは戦わんよ。儂らはお前たちと事情が違う』「貴方たち4人は向こうで一度死んでからこっちに生まれ変わってるけど、私たちは死んでいないのよ。十年前にこの世界に転移してきたの。転移者は異世界に踏み込めない領域があってね、だからハロンとの戦いに介入することができないのよ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-28
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48 会いたかった

智を犠牲にして他の全員が助かるか、彼を救って訪れる結果を受け入れるか――。「そんなの、選べるかよ……」 呟いた声が、電車の騒音に掻き消える。窓の外に広がる闇が咲の不安を募らせるが、同じ車両に他の客が居るお陰で、どうにか取り乱さずにいられた。サラリーマン風の男が端の席で居眠りをして、ガーガーという鼾が咲のところまで聞こえてくる。 スマホのスイッチを押すと、蓮からメールが来ていた。ちょうど田中商店を出た頃で、振動に気付かなかったらしい。『今日バイト休みだから、後で電話してもいい?』 彼の声を聞きたいと思うのは、誰かと話したい気分だからだ。吐き出したい気持ちをぶつける相手が、他に思い浮かばなかった。 ターメイヤとは関係のない蓮に逃避したかっただけなのかもしれない。 咲は通話ボタンを押そうとした指を一旦止めた。今話せば電車だという事がばれてしまう。広井駅に向かっていると知られれば、彼はきっと会いに来るだろう。 だからもう少し静かな場所に移動してからと思って、まずは姉の凜にメールを入れる。芙美の所に泊まると言ったら、案の定『本当?』と疑ってきた。けれどそこは『本当だから』と嘘を押し切る。 もちろん芙美の家に泊るつもりはない。あてもないが、自分の部屋でいつもの夜を過ごすのは嫌だった。夜を屋外で過ごすことも、外で寝ることも、ヒルスの時は良くあったことだ。「大丈夫」 そう呟いて、咲はスマホを握りしめたまま暗い窓の外を眺める。ポツリポツリとあった光が次第に増え、闇を飲み込んだところで電車は駅のホームに入った。 ☆ 都会の駅は夜でも想像以上に人が多く、咲は外へ出て近くのコンビニの裏路地に入り込んだ。頼りない街灯の下は、田舎を装うくらいには静かだ。 毎日のようにメールはしているが、蓮に電話するのは初めてだった。会ったのもお泊り会の時だけで、声も忘れかけている。 通話ボタンを押すと、少し長めの呼び出しコールの後に蓮が出た。『咲ちゃん?』 彼の驚いた声に胸で泣いた夜の記憶が蘇って、咲はぎゅっと肩をすくめる。「蓮……」『どうしたの? 急に』「えっと、そこに芙美はいないか?」 そういえば、そこが荒助(すさの)家だということをすっかり忘れていた。蓮とメールのやりとりをしている事を、芙美には内緒にしている。『アイツなら今、風呂入ってるよ。芙美に用事
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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