昼ご飯を食べた後駅に向かい、湊と二人で白樺台を目指す。 いつも空に近い車両は休みのせいか他に乗客が5人もいて、賑やかだと思ってしまった。それでも目的の駅に下りたのは2人だけで、芙美は「だよね」と笑って発車する電車を見送る。 午前中は智の見舞いへ行って、午後は一華に会いに行く。 彼女がメラーレだと知ってからずっと話がしたいと思っていたのに、テストのせいでなかなか都合がつかず、廊下で挨拶を交わすぐらいしかできなかった。 今日も湊が彼女と会うのに便乗しただけで、芙美はおまけのようなものだ。ハロン戦で折れてしまった剣を鍛冶師である彼女に預けたままになっているらしく、湊が一華に呼び出された次第だ。 白樺台駅から出た所で、芙美のスマホがメールを受信する。 相手は咲だ。午前中送ったメールの返事だとドキドキしながら開いてみたが、そこに書かれていたのは『月曜日に話すね』と先延ばしにする内容だった。 ──『咲ちゃんって、お兄ちゃんと付き合ってるの?』 その答えはもう聞かなくても分かるのに、お互いが一歩ずつ踏み込めていない。 「んもぅ」と拗ねて画面を見せると、湊は「仕方ないね」と苦笑する。「そういう話はメールじゃなくて、ちゃんと本人とした方がいいよ。それに、否定しないってことは間違いじゃないってことだろ?」「はぁぁあ」 芙美は大袈裟に肩を落とす。「まぁ頑張って。それより、一華先生から学校に来てって言われたんだけど……」「保健室ってこと?」「なのかな」 湊は「どうだろう」と首を傾げる。「制服じゃないけどいいのかな?」「それは構わないって言ってたよ」 ハロン戦の後に来た夜の学校も初めてだったが、部活動をしていない芙美は休日の学校も初めてだった。 時間は二時を過ぎたところで、校庭では近所の小学生が鬼ごっこの真っ最中だ。校門を潜ると、音楽室の方向から合唱部の綺麗な歌声が聞こえてくる。 二人が昇降口に向かったところで、今度は湊のスマホが着信音を鳴らした。「先生だ」 「はい」と出た湊が、何やら彼女の話に「えっ」と眉を顰める。 湊は建物の手前で足を止め、真横に鎮座する二宮金次郎像を困惑顔で見上げた。「それって本気で言ってるんですか? 鼻? えっ? ちょっと待って下さい」 動揺する彼の視線は石像の顔に釘付けだ。スマホの奥から小さく響く声は確かに一華
Last Updated : 2025-07-30 Read more