物心ついた時にはもう、戦争の始まる気配を感じていた。 これは後に2年続く世界大戦まであと半年という、メラーレがまだ八歳の頃の話だ。 ターメイヤの城下はまだ平和だったが、刀鍛冶を生業とする祖父が目に見えて忙しくなっていた。「ねぇ、おじいちゃん。この世界は怖いことになってしまうの?」 剣を叩く祖父・ダルニーの横で母の焼いたビスケットをかじりながら、メラーレはぼんやりと尋ねた。 おじいちゃんとはいえ、ダルニーはまだ若い。いつも汗まみれになって鉄を叩いているせいで腕の筋肉は隆々としているし、眼鏡も老眼用ではなく若い頃から掛けているものだ。 町でたまに見かける賢者のハリオスと同じ歳らしいが、ダルニーの方がずっと若く見えた。「今この国に城付きのパラディンは居るが、ウィザードは何年も不在じゃ。今開戦にでもなったら厳しいかもしれん。国王は戦力不足を懸念して武器や魔法使いの確保に尽力を尽くしているが、どうじゃろうな」「えぇ」「じゃが心配するな。戦争が起きて城下が攻め入られるようなことになれば、潰れる前に敗北するじゃろ。儂が元気なうちは、食う事にも困らんよ」「うぅん……良く分からないけど、ご飯が食べれるならいいのかしら」 メラーレはくるくると巻かれた髪を空いた手で弄びながら、大きく伸びをするダルニーを見上げた。「アッシュも戦争に行くのかしら」 アッシュは近所に住む一つ年上の男の子だ。彼はメラーレが初めて会った魔法使いだった。 魔法を使える人間は稀で、よく二人で丘に遊びに行ってはその炎を見せてもらった。「ヤマさんとこの子倅か。いやぁ、あれはまだ兵学校にも入っていない歳だろう? いくら魔法が使えるからと言って、即戦力にはならんよ」 兵学校は魔法使いや兵士を育てる全寮制の大きな施設で、城に併設されている。女子禁制だと聞いて、メラーレはいつも側を通るたびに中から聞こえる剣や魔法の音に心をときめかせていた。「そうなの……アッシュは凄いのよ? 彼が手を広げるとね、パアッと花火みたいに赤い炎が広がるの」 メラーレは、小さな眼鏡の奥の瞳を輝かせる。 ダルニーは額の汗を腕で拭って立ち上がった。彼女の横にそっと立ち、宥めるように肩を叩く。「戦争に行くという事は、死ぬかもしれないという事じゃ。行かなくてもいいもんを、わざわざ送り出すことはないんじゃよ」「死んでな
Terakhir Diperbarui : 2025-07-10 Baca selengkapnya