記憶の石に込められた運命は、次元隔離の魔法だという。 もしこの戦いに決着がつかない時は、前世と同じようにハロンを次元の外へ追い出して、再び別の世界で迎撃する──そのメンバーは、この世界での生を絶たなければならないのだ。 選ばなければならない未来への選択肢の一つがそれだというのか。「ふざけるなよ」 怒りに捕らわれて、咲は声を震わせた。「そんなの駄目に決まってるだろ? 折角また会えたんだぞ? まだ一年も経っていないじゃないか」「咲ちゃん……」「僕は我儘なんだ。蓮とも別れたくないけど、芙美とだって絶対に別れたくない」「私だって、使いたくないよ」 芙美はそれを最終手段だという。けれど戦局が思う方へ向かず、葛藤しているのがひしひしと伝わってくる。 ハロンと必死に戦っている湊を信じてはいるけれど、芙美の焦りが伝わってきて、咲は苛立ちを募らせた。「湊はあの必殺技を使うことができるのか?」 剣士が出せるという必殺技は、兵学校で習ったわけじゃない。そんなのがあるという噂を聞いて、見様見真似でそれっぽいことをしただけで、結局ヒルスは技を取得することができなかった。 湊が使えるかどうかはわからないが、技の存在を知らないはずはないだろう。 昔の記憶が蘇って、咲は唇を噛む。 あれは魔法使いの真似事だ。魔法使いに嫉妬した剣士が面白半分に生み出した技だという。「分かるよな、湊」 咲は小さな声で問いかけるように呟いた。その技を生み出したのは、ロイフォン──パラディンである彼の父親なのだ。 ハロンの正面に飛び上がった湊が、厚い皮に覆われた腹に剣を滑らせて着地したのを確認し、咲は声を張り上げた。「湊! お前は必殺技を打てるんじゃないのか?」 それは地表と剣を同化させ、地面を揺るがす技だ。 咲の声に気付いた湊が、一瞬ギャラリーの方を向く。闇に陰った表情は見えないが、彼もまた何かに迷っているようだった。「打てないのか……いや、打つことができないのか?」 その可能性を垣間見て、咲は戦場を見渡した。その技が放たれる瞬間を見たことはないが、辺り一帯の風景を入れ替えるほどの威力だと聞いている。 もし仲間を守る使命感に駆られているのなら、そんなのはお門違いだ。「湊、僕たちに遠慮することなんてないんだからな!」 雨が重い。湊にその声が届いているのかどうかは分から
Last Updated : 2025-11-07 Read more