──『駄目じゃよ。その魔法は絶対に使ってはならんのじゃ』 まだ芙美がリーナだった頃、ハリオスにそんなことを言われた。 いつどんなシチュエーションだったかまでは覚えていないが、リーナがこの青い魔導書を手に取るのは初めてではないような気がする。 駄目だと言われたそのページを見たことがあるかもしれない──そう思ったけれど、曖昧な記憶から内容を引き出す事はできなかった。「その魔法を使うと何が起きるの?」「恐ろしい事じゃよ。だから儂がページを破ったんじゃ。分かってくれるな?」 耕造は何も教えてはくれなかった。 芙美がルーシャを振り向くと、彼女はじっとこちらを向いたまま首を横に振る。「ごめんなさい、おじいちゃん。じゃあ、智くんを治してあげられる魔法を教えて」 芙美は謝って、咄嗟に話題を逸らした。 ハリオスが一度「駄目だ」と言ったら、それを曲げるのが到底無理なことは知っている。「分かった。どれじゃったかな」 耕造は芙美から魔導書を受け取って、ページを捲っていく。ちょうど真ん中あたりの所で「これじゃ」と広げて見せた。 確かにそれは治癒魔法だ。温泉に貼ってある効能よろしく、切り傷、打撲、と見覚えのある単語が並んでいる。「えっ、一つの魔法でこんなに覚えることあったんだったっけ……」 発動の文言もそうだが、ごちゃごちゃと文字の刻まれた魔法陣も一度はきちんと頭に入れなくてはならない。 ターメイヤの魔法使いは、炎や水に意思を同調させる素質を持った人間を指す。彼等が文言を唱えたり魔法陣を発動させる事で、それらの魂を呼び起こすのだ。「当たり前でしょ。貴女が息をするように魔法を発動できるのは、ちゃんとリーナがそれを頭に叩き込んでいるからなのよ?」「ねぇルーシャ、これって本を持ちながら唱えちゃ駄目なの? そしたらまだ覚えていない魔法も色々使えそうな気がするけど」 昔やったゲームのキャラに、魔導書を持ったまま戦う魔法使いが居た気がする。 我ながら良い考えだと思ったけれど、絢は呆れ顔で「無駄よ」ときっぱり否定した。「ちゃんと覚えなさいよ。ターメイヤのウィザードがそんなことしたらカッコ悪いじゃない。そんな分厚い本、普段から持ち歩くつもり? ページ捲ってる間にやられるわよ?」「それは付箋紙でも挟んでおけば……」「やめて。いい、リーナ。そのくらい覚えられないよ
Last Updated : 2025-08-09 Read more