「もう話し合う余地はないか?」私はきっぱりと言い切った。「ない」一時間後、変装を終えた私と浩賢、それに俊明は、求職者を装って貨物運送会社へと向かった。聞けば、あの運転手の事故以来、ここの警備員や清掃員、後方スタッフの多くが怖くなって辞めてしまったらしい。だからこそ、今こうして臨時採用の募集が出ているのだ。私たちの設定は「田舎から出てきた世間知らずの三兄弟」。就職ポータルサイトに騙されて面接に来たという筋書きだ。服装の「ダサさ」は、俊明がわざわざスタイリストに頼んで仕上げたもの。運送会社に入ると、まだ営業はしているものの、全体的にどこか寂れた雰囲気が漂っている。「しょうがねぇよ。あんな大騒ぎになっちまったしな。社長がしばらくは身を潜めるって言ってたんだ」警備員は隠すこともせずに言った。「でも安心しな、給料もボーナスもちゃんと出る。損はさせねぇよ」私は浩賢と目を合わせ、へらりと笑って「ありがとうございます」と答えた。そんな会話を交わしながら、私たちはオフィスビルへと案内された。壁に貼られた案内図を一瞥すると、医務室はこの建物の二階にあると書かれている。三人で軽く視線を交わし、警備員に従って会議室へ入った。採用担当は四十代半ばの男で、私たちの履歴書をざっと見てから、いくつかの簡単な質問を投げかけた。俊明はこういう場面に慣れていて、途中で方言まで交えて笑いを取った。そのおかげで、面接官はすっかり上機嫌になったようだ。時間を見計らい、私は低血糖になったふりをして、額を押さえながら倒れそうに見せた。浩賢がすかさず支えてくれた。「すみません。妹が長旅の疲れでちょっと具合悪くて……」俊明は焦ったように言った。「参ったな、ここ辺鄙だし、病院なんて近くにないだろうし……」面接官は私をうさんくさそうに一瞥し、上を指さした。「二階に医務室がある。そこ行って見てもらえ。ただしな、検査で不合格なら採用はなしだぞ」浩賢と俊明は笑顔で礼を言いながら、私を支えて階段を上がった。医務室に入ると、デスクに座る白衣の人物が目に入った。浩賢がすぐに口を開いた。「山本(やまもと)先生、妹が体調を崩しまして、診ていただけますか?」眼鏡をかけた中年の医師が、静かに顔を上げた。「私は山本先生じゃありません。山本先生は家庭の事情で帰りまし
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