All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 101 - Chapter 110

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アスナの懸念

「アスカ、エリオットには気をつけろ」一日の授業を終え寮に戻る途中、アスナが俺に囁いた。「昼のことか?あれはもう済んだ話だろう?どのみち俺とレオンの婚約は既に解消済みだ。エリオットがどういおうとそれは変わらない」そもそも王家と公爵家との間の話。侯爵家当主となったといえど、エリオットにどうこうできるものでもない。するとアスナは俺にむかってどこか憐れむような視線を投げかけてきた。「お前さあ、鈍感だって言われねえ?」「鈍感もなにも……そもそも自分のこと以外に気に掛ける必要があるか?」「……今のお前はそうだったな。てか、そういう意味じゃなくってさあ……!」ぼやいて苛立ったようにクシャクシャと髪を掻きまわし始めた。「あーーー!めんどくせえ!もういい!俺が護ればいいんだしな!あのな、アスカ。よく聞け。とにかくエリオットには気をつけろ。あと、何かあれば必ず俺の名を呼べ。俺とお前は繋がっているからな。どこに居てもすぐに分かる。それと……いざって時に備えて餌をくれ。たっぷりとだ」最後の言葉だけは耳に直接吹き込まれた。おまえ!無駄なイケボを披露するな!「何かあればもなにも、俺に何かできるヤツなどいないだろう?俺はアスカだぞ?俺より強いヤツなどいない」ゾワっとした耳を擦りながら胸を張る俺を、アスナが何とも言えない瞳で見つめる。「でも、お前さ、一度懐に入れた奴には弱いだろ?俺を含め、さ」その声に含まれる優しさに、穏やかさに思わず言葉を失った。サリ、耳を優しく撫でられハッと我に返る。「そ………そんなことはない!お前だろうと、容赦しねえよ?」「ははは!マジで?そりゃ怖え!」おどけるアスナを蹴りながら俺は胸の内で呟いた。アスナ、お前は間違っているぞ。お前は俺をかいかぶりすぎだ。お前を含め、じゃない。俺が弱いのは、アスナだからだ。アスナにだから絆される。アスナだから弱いんだよ。その晩は言葉通りに貪られた。「アスカ……!アスカ………!」囁く声の必死さに。俺を抱き腕の締める腕の強さに。俺は溺れた。なんとか後ろだけは死守したが、……………俺のオレは……まあ察してくれ。ちなみに、アスナのアレは想像通りの代物だった。触れただけだが、アレはヤバい。例えるなら……俺がリボルバーならアイツはライフル。同じ拳銃でも桁違い。比べる方が間違っていた
last updateLast Updated : 2025-08-14
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演習

あれから数日。アスナの懸念は考えすぎだったようで、エリオットの様子に特に変わった点は見受けられなかった。言うならば、時折暗い目をしていたが、今の彼の置かれている状況からすれば当然だろう。短期間で目まぐるしく変わった彼の立場を思えば、むしろ平気な顔をしている方がおかしいのだ。エリオットを残して当主とその妻子が断罪された侯爵家だが、父上が後ろ盾となると公表し実際にそう動いたことで大きな混乱は無かった。取引停止などが数件あったようだが、実家が大商家なだけありすぐにその穴は埋められた。当主としての領地経営については、エリオットの祖父の右腕とも呼ばれる人物が商会を辞し、改めて侯爵家の経理として侯爵家に雇われることで解決。彼は貴族を相手に様々な取引を纏めていたそうで、経営に関しての相談にも乗っていたのだそうだ。父上にして「なかなかのやり手だ」というので、手綱さえしっかり握っておけば彼に任せてしまっても問題はなかろう。ただ、執事だけはそのまま使うわけにもいかず、かといって侯爵家ともなればだれでもいいというわけではない。バードの親族のなかから「彼ならなんとか合格です」というものを取り立て、しばらく家で教育したのちに侯爵家にやることとした。彼が独り立ちするまではなんとかエリオットに「最低限の維持」だけ頑張ってもらっている。さて。そんなエリオットだが……「嘘だろう……。どうやってAクラスに入ったのだ?」なんと、エリオットの魔法は底辺レベルだった。ゲームの中では俺と争うほどの魔法が使えたはずだ。だからアスカも叶わなかった。彼が転生者である影響なのだろうか?元のゲームとはかなり違ってしまっているようだ。俺の方もアスナがいたり婚約破棄したりと既にかなりやらかしてしまっているので、本人の影響か俺に寄る改変の余波なのかは微妙なところ。内にある魔力は感じるから、これは彼自身の魔力の使い方、要するに出力の問題なのだろう。とりあえず俺が転生者であることはまだ秘密なので、特に追及はせずにおく。「魔力はあるはずだぞ?でなければAにはなれん。それなのになぜそんなにも弱い?」驚く俺にエリオットは恥ずかしそうに頭を掻いた。「座学がほぼ満点なんです、ボク。絶対記憶?みたいなのがあるので。魔力もあるはずなんです。だって、ゲームだとチートだったんですよ、ボク!でもボクが入
last updateLast Updated : 2025-08-16
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演習2

そう、騎士団が大物を狩るとはいえ「中級レベル」のものは残してある。学生といえど魔法上級者が共同でチームを組んで挑めば、倒せない獲物ではないからだ。中級を倒せば難易度が上がる分当然ながらポイントも一気に跳ね上がる。だが、討伐にかかる時間と、中級ポイントをチームの皆で平等に分け合わなければならないことを考えれば、初級をペアで倒した場合と比べそこまで美味しい獲物でもない。結果的に自分の手に入るポイントがそう変わらないことを考えれば、リスクの少ない方を取るのが当然。ということで、リスクを避け効率を重視するのならば「中級を避けペアだけで倒せる初級の獲物を狙うルートを選ぶ」というのが一般的な戦略となる。簡単な獲物を数討つ、ということだ。 俺が提案したのは、その逆の選択。案の定、戦術を予め学んできたと思われるエリオットは困惑しているようだ。俺にこう言ってきた。 「でも……中級を避けて初級を数多く倒す、というのがこの演習のセオリーですよね?」「あくまでも『一般的』なセオリーにすぎん。万人に向いたものをセオリーと言っているだけだ。俺を一般レベルで推し量るな。初級など手ぬるい。中級以上を狙うほうが早い。死ぬ一歩手前にした獲物をお前にやるから、お前はそれを倒せばいい。ちょうどいい訓練になるだろう?安心しろ。お前の上達に合わせて徐々に獲物のレベルを調整してやるから」 ここで俺はニヤリと笑って見せる。 「俺たちの敵はアスナだ。そのつもりでいろよ?」 ポンと肩を叩いてやれば、大げさに驚くエリオット。 「ええ?!チームは違っても、アスナ様がアスカ様の敵に回るとは思えません。あの人、アスカ様の行く先に獲物を誘導して並べておくくらいはしそうですよ?」 目を細めてうんざりしたように言うエリオットに、俺はチチチと指を立てて見
last updateLast Updated : 2025-08-17
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演習3

一歩入った途端、ピリッとした殺気を感じた。恐らく魔獣の縄張りに入ったのだろう。相手にもそれは伝わったようで、大きな魔力の塊が猛烈な勢いで近づいてくるのが分かる。「魔物ですか?」「ああ。縄張りを持つ魔物……恐らく魔獣だろう。マッドベアかヘルドッグ……。ヘルドッグなら群れで来るぞ。用心しろよ」「なんでうれしそうなんですかあ!どっちも中級ですよね?しかも、上級に近いヤツでしょ?!」「?向こうから来てくれるのなら手間が省けて大助かりだろう?」などと言っているうちに、来たようだ。足の速さからするとヘルドッグだな!「エリオット!下がれ!群れだ!」攻撃の余波を喰らわぬようエリオットの前に念のため見えないシールドを展開しておく。「この影で大人しくしていろ!」言い捨てて、俺一人だけ宙に身を躍らせた。と同時に茂みから一斉にヘルドッグが姿を見せる。彼らの視界に入ったのは……宙に居る俺ではなく正面にしゃがんで震えるエリオット。「ああああっ!!きましたあああっ!」いいぞ、エリオット!叫んでくれたおかげでちょうどいい囮になった。獲物がエリオットに気を取られているおかげで無駄なく攻撃できる。「フリーズ・ガトリング!」これはいわば氷の散弾銃のようなもの。正面から打つよりも上から打つ方が、満遍なく広範囲にダメージを与えられるのだ。地に落ちる数秒の間に、上から数発ヘルドッグの群れに打ち込んでやった。メテオなら一瞬でカタがつくのだが、それではエリオットの練習にならない。ほどよく間引きつつ瀕死状態にするにはこれくらいでちょうどいい。「キャイン!」スタン、と地面に落ちた時にはちょうどいい仕上がりに。生き残った何頭かが毛を真っ赤に染めて憎しみを込めて唸っている。今にも飛びかからんとするそれを威圧でおさえつつ、エリオットを呼んだ。「よし!エリオット、行け!」「ええええっ!めちゃくちゃ怒り狂ってますよね?牙を向いてますよね?!瀕死どころかまだまだ初級レベルには程遠い状態じゃないですか?無理ですよっ!」「死にそうになったらヒールしてやるから。安心して行け!」ドン、と押し出してやれば「う、嘘でしょおおおっつ!」と悲鳴を上げながらも、そのまま獲物の中に飛び込んでいった。やればできるじゃないか。「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイア
last updateLast Updated : 2025-08-19
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不測の事態

拗ねたのか一人でどんどん奥に入って行ってしまう。「おい、そっちにはもう何もいないぞ?行くのなら反対の……クソっ!エリオット、待て!」ザッ。木の陰に入った瞬間、空気が変わった。「?!」いつの間にかすぐそばに来ていたエリオットがニコッとほほ笑む。「なんだかんだお人よしですよね、アスカ様って。ボクなんて放っておけばよかったのに……」何だ?様子がおかしい。「おやすみなさい、アスカ様」その言葉を耳にした途端、身体が重くなり意識が遠のく。「……何を……した………」即座にアスナに呼びかける。気付け、アスナ!主人を助けに来い!必死で目を凝らした最後の視界に、ぱあっと地面が光ったのが見えた。魔法陣?!グラリと空間が歪む。クソ!転移か!一体どこに飛ばされるんだ?ここでブラックアウト。俺の意識は闇に沈んだのだった。アスナ……。ふ、と意識が戻る。いつもの癖で目を開ける前に周囲にサーチをかけた。うん。近くに生き物の気配はない。危険は無さそうだ。ゆっくりと目をあけあたりを見渡せば……部屋か。それも……貴族の別邸か?まるで王族の部屋のようだ。ふんだんに装飾の施されたベッド、フカフカの寝具。調度品もそこらの既製品などではなく全てオーダーメイドだと思われる。どこだ、ここは?そうだ、エリオット!エリオットがここに連れてきたのか?いったい何故?とりあえずベッドから下りてあたりを探索しようとして、不快なものに気付いた。「なんだこれは!」俺の脚に足環のようなものがついていた。そこから伸びたチェーンが俺の座るベットの脚に繋がれている。「ハッ!拘束のつもりか?つまらん!『破壊』」?何も起こらない。どうした?よく見るとご丁寧に足輪には魔封じの紋が刻まれている。どうやらこの足輪は俺の魔力を封じるのと同時に俺の動きを制限するという、二つの役割を果たしているようだ。用意周到なことだな。つまり、エリオットは明確な意志で罠をはり、俺を捕らえ、拘束しているということか。アスナの懸念は当たっていた。エリオットは黒。だがその理由がわからん。ゲームのようにレオンを攻略したいというのなら、もう俺はレオンの婚約者でもなんでもないのだ。レオンと婚約したければそれはエリオット次第。俺の関与するところではない。俺を攫っても意味がない。エリオットのいう
last updateLast Updated : 2025-08-20
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不測の事態2

この屋敷は単なる貴族の別邸ではない。そもそも、この部屋はおかしい。部屋に窓が全くない上に、このベッドの置かれているのも普通ではありえない位置なのだ。 通常ベッドは部屋の奥か隅に置かれることが多い。手前にソファや椅子、テーブルなどを配置し、奥にベッド、もしくは寝室に通じる扉、左右のどちらかにバスとトイレ等の洗面、更に追加で衣装部屋、というのが一般的な私室となる。寝室と居室を兼ねている場合も同様。寝室に通じる扉の無い分部屋は広くなり、奥にベッド、ということになる。稀に中央に置かれることもあるが、それは居室を兼ねない場合。 この部屋は結構な広さ。書棚や書き物机、ソファセットなども置かれており、この部屋で昼間を過ごすことも想定されている。ならば中央にベッドを置くのは不自然きわまりないのだ。  だがこのベッドは部屋の中央に置かれている。そして、この足につけられた鎖は、書棚、風呂、トイレなど生活な必要な個所に丁度届くように長さが調整されていた。それはつまり、部屋の主の鎖をつけたままの生活を想定しているということに他ならない。 「……監禁部屋、か。悪趣味な……」 ベッドの脚をよく見れば、通常のベッドとは違いここだけ金属でできていた。……ふむ。鉄……いや、鋼か。鎖の端と一体化しているところを見ると、もともと監禁用の道具として特注されたもののようだ。 俺をここに繋いだのはエリオットとみて間違いは無い。理由は分からないが、ご丁寧に魔封じまでしたところをみると、遊びというレベルではないだろう。 部屋の四隅に彫り込まれた精巧な文様。一見すると「飾り」としか見えぬあれは、古代の呪文だ。
last updateLast Updated : 2025-08-21
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不測の事態3

振り返りもせずに告げる俺に、呆れたような声がかけられる。「……もう!アスカ様ったら、ご自分がどんな状況にあるか分かってないんですか?ボクが言うのもおかしいけど、もっと警戒心を持ってください」エリオットがぼやいているがそれに付き合ってやる義務はない。並べてある本の中に、違和感を感じた。「……見つけたぞ」にんまりと緩む頬。美しい本の中で一冊だけ少し掠れた背表紙。引き出してみると、案の定。本来表紙にあるべきタイトルや作者名の記載がない。「……何を見つけたのですか?」ひょい、と後ろから覗き込む気配。それに答えることなくワクワクする心のままに表紙を捲る。「君が今この部屋に居てこれを手に取っているということは、君か君をこの部屋に縛り付けたもののどちらかが私と同じ道を辿ったのだろう。これは私のプライベートな記録である。君たちが私と同じ後悔をすることのないよう、私の過ちをここに記す。君がこの部屋の主なら、言っておく。この部屋に未来などない。この部屋を残したのは、私の未練と自身への戒めのために他ならない。この部屋は新たな主を認めぬ。私と同じ過ちを犯すな。君がこの部屋の主でないのならば、どうかこれを君を閉じ込めた者に渡して欲しい。憐れな道化の最期の願いだ。私はこんな未来など望んでいなかった」ここまで読んで俺はようやくエリオットを振り返った。「おい、新たな道化。お前の先住者の日記のようだぞ?これをお前に渡せと言っている。だが、悪いが俺の読んだ後でいいか?こんな面白いものめったに手に入らないからな!あ、喉が渇いた。茶の種類はそれでいい。が、メーカーが違う。メディソン商会のものを持ってきてくれ。茶請けには………そうだな、マカロンがいい。本を汚さずに摘まめるしな」ぱちくりとエリオットが瞬きする。「えっと……一応ボク、あなたを攫って監禁したんですけど……」「ああ。お前、魔法が下手だという触れ込みだったが、使えんるじゃねえか。騙しやがったな?ゲームの俺が断罪されたっていうからおかしいと思っていたんだ。つまり、お前の方が俺よりも強かったということか。単純に力の差だったんだな。ゲームの俺が何故大人しく断罪されたのかが疑問だったんだ。納得だ。で、お前もそのままの力を踏襲していたのだな。それなのにわざわざ隠していたのは、こんなくだらん
last updateLast Updated : 2025-08-23
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不測の事態4

叫びのような言葉と共に、身体にドンという衝撃。エリオットが俺を押し倒して圧し掛かってきた。「なんで……なんでアイツなんですか!ボクがどれだけあなたのことを想ってきたか分かってるんですか?!この世界にボクが来たのは、きっと推しであるあなたを救うために違いないって……!だから、だからボクは侯爵家の養子になることにしたのに……!あんな豚に従ったふりをして……!アイツだけはダメです!あなたが不幸になったら、何のためにボクはここに………!!」ドン、ドン、と胸を叩かれる。が、力の入っていないその手は、俺に何の傷みも齎すことは無かった。ポタリ、ポタリ。エリオットの涙が俺の顔に落ちる。彼は流れ落ちる涙を拭いもせず、切ない瞳で唇を噛み締めていた。「……おい、そんな顔をするな。とても誘拐犯のするような顔じゃないだろう」「………そんな余裕でいいんですか?あなたは、ずっとここで暮らすんです。安心してください。欲しいものは何でも用意しますから!アスカ様のお陰でボクは侯爵家の当主です。なんでもできる立場になったのですから。祖父から現金も融通できますし。ここに居れば、あんな得体の知れないヤツに利用されることもありません。あなたの身の安全は保障します。ね?ボクに……愛されてください。レオン様には敵いませんが……アイツより大切にしますから。アスカ様なんです。アスカ様を幸せにするために、ボクはいるんだ!あなたのためにボクはここで生きてきた……!!ボクがここにいる意味はそれしかないのに……!!」そうか、こいつは望んでここに来たわけじゃなかったのか。なにかの偶然か、運命か。彼は俺と同じように前世の記憶を持ったままこの世界に生まれた。推しのいる世界とはいえ、ここを望んで来た訳じゃない。俺とは違い、現世に想い残したことが多いのだろう。彼はその未練を、想いを全て「推しを救うため」という意義に変えていたのか。だからあれほどまでに俺に献身的だったのか……。俺はそっと手を伸ばしてエリオットの涙をぬぐった。「違うだろう?」俺の言葉にエリオットの唇が皮肉気に形作られた。「……何が違うんですか?あなたにボクの気持ちが分かるとでも?」「ふん!分かるはずがないだろう。俺はお前ではないのだからな!」鼻で笑ってやったのが意外だったのか、エリオットの顔がくしゃりと歪
last updateLast Updated : 2025-09-01
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不測の事態5

「……来る」面倒ごとを避けるため、ひょいっと足環を取り外す。「?!え?は?……ええっ?」「言っただろう?普通の人間用の魔封じなど俺にとっては意味がない。俺の魔力を上回るものでないと、俺を抑えることなんてできねえぞ?」ハッと目を見開いたところを見ると、豚の処理の際のやり取りと思い出したのだろう。「あ、あれ『そういう体にしよう』というんじゃなかったんですか?」「そういう体でもあり、事実でもある。それとな、念のためお前の魔力も込めてあったようだが……全然足りてねえからな?魔力をうまく使えないふりで俺を油断させるまでは合格だ。演習を利用して俺を誘い出したのも、なかなか良かった。この部屋も非常に興味深い。また使ってやろう。だが、これはいただけないな」外したチェーンをぐるぐると振ってやる。「こんな飾り、俺には意味がない。まあいい余興にはなったが」ドガーン!!「アスカ、無事かっ?」膨大な魔力と共にアスナがやってきた。「遅いぞアスナ。もっと早く来るか、いっそもっと遅く来い。中途半端なんだよお前は」息を切らすアスナの目に飛び込んできたのは、足を組みニヤニヤしながらベッドに腰かける俺と、足元の床で青ざめながら正座するエリオット。ガクン、とアスカの顎が落ちた。「………あー………どういう状況だ?これ」この顔が見れただけでもエリオットの目論見に乗ってやった甲斐があったというものだ。要するに、この世界に来たエリオットは、まず元居た世界に戻れないことに絶望した。(恐らく元の世界のエリオットはもう死んでいるだろう)そしてここが大好きだったゲームの世界で自分が主人公のピンク頭だと気付くと、「推しの悪役令息を救うことこそボクがここに来た理由なのだ」と思い込む。ゲームのルートをたどりつつ、諸悪の根源である豚を養豚場に送ろうと心に誓った。そして、本来ならば入るはずもないAクラスに入り俺と接触することに成功。俺と共に事件を解決し、「こうしてお姫様は王子様と幸せに暮らしました」というハッピーエンドを望んだというわけだ。しかし、計画におかしな異物が混入した。アスナだ。ゲームに全く登場しない、しかも王子様そっくりのアスナが俺の横にしっかりがっつりと付き従っている。おまけにどうやら、王子様の方は俺に気があるのに、俺の方にその気がない。エリオットは混乱
last updateLast Updated : 2025-09-02
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不測の事態6

しばらく口を開けたり閉じたりと何かを言いかけてはやめ、やめては言いかけるのを繰り返していたエリオットだったが、ようやく理解が追い付いたようだ。「ええ?!な、なんですぐに教えてくれなかったの?俺、言ったじゃん転生者だって!しかも同じ日本人なんでしょ?おまけにチートじゃん!なんで?!俺、アンタのこと『推し』って言ったよね?そりゃゲームだと俺は敵だし、絡みたくないのは分かるけど!分かるけどさああ!敵じゃないって分かったんだから、せめてあのクソ豚始末した時に教えてくれてもよかったんじゃないのっ?どおりでおかしいと思った!だってアスカ様ってば、ツンデレハイスぺなのにちょっとなんていうか箱入り息子で陽とのこと疑わないでしょ?だからあんな主人公に嵌められちゃって断罪されちゃうんだし。そこが可愛かったのに!俺が守ってあげたかったのに!なのに、アンタってばツンデレにしてはなんつーか、わりと常識的だし。意外と優しいしさあ!おまけにそんなヤツくっつけちゃって!断罪だってサクサクっと回避してレオン殿下にも好かれまくってるし!どう考えてもおかしいじゃん?!でもそれって俺が転生したせいで変化があったのかな、って思ってたのに!思ってたのに!まさかアンタも転生者かよおお!それに、なんだよそいつ!前世からくっついてきた?そんなのアリ?絶対に敵わないじゃん!運命じゃんそんなの!ズルいよ!ずる過ぎるでしょ!!人間じゃないってチートがすぎるし!従魔なんて完全にあのゲームとは別もんじゃん。別ゲーじゃん!俺が転生したせいで変わったんじゃない。このゲームを変えたのはアンタたちだったんだ。じゃあなんで俺、こっちに来たんだよおおお!何したらいいんだよおおお!」ガクリと崩れ落ちて床ドンしながらの弾丸トーク。「……エリオット、お前……自分のこと『俺』って言うんだな。そっちが素か」「え?!ここ、慰めたり謝ったりするところじゃないの?!ひっかかったの、そこ?!そんなことはどうでもいいでしょうがっ!」「確かに。アスカ、ちょっとくらい慰めてやれよ。なんつーか、不憫」「お前の慰めなんぞいらねえんだよっ!俺は!アスカ様、いや、アンタに慰めて欲しいの!偽アスカ!慰めろ!!」「……良かったじゃねえか。俺が本物のアスカだったら、断罪を回避したらお前なんぞごみクズみたいに捨てているぞ?
last updateLast Updated : 2025-09-03
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