All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 91 - Chapter 100

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新婚約者候補

アスカの真摯な声に、父上が気を利かせたのかウインクを一つ残しそっと部屋から出て行った。父上!気を利かせるべきときは今ではないでしょう!……おかげで俺は逃れられなくなった。「正直、困惑している。言ったろ?俺はお前が好きだ。それはもう認めよう。お前を離すつもりはないし、お前は俺のものだと思っている。だけどな。過去を忘れたわけじゃねえんだ。俺の中に相反する気持ちがあるんだよ。だから、婚約とか結婚だとか、今はまだそこまで考えられないんだ。すまん」アスナの気持ちは何度も繰り返し言葉でも行動でも伝えられているから、疑ってはいない。自分の気持ちの整理ができないだけなのだ。振り回している自覚はある。だがどうしようもない。父上が認めてくれているというのに、本人である俺がこれだ。アスナもさぞかしガッカリしているだろうと思いきや……俺の答えを聞いたアスナは、嬉しそうに笑っていた。「……何が嬉しいんだ?俺はお前のことを好きだと言いながら、婚約も結婚もまだ無理だと言っているんだぞ?」すると面映ゆそうにその頬を掻くアスナ。目をゆるりとさ迷わせた後、言いにくそうにこう口にした。「だってさ。公爵もお前も、俺が人間じゃないことは全く問題にしてねえんだもん。普通はそこが気にするとこだと思うぜ?オマケにさ。お前、気付いてねえの?『今はまだ』とか『まだ無理』って、全然否定になってないからな?それ、要は『待っててくれ』ってことだぜ?本当に無理なら今のお前ならキッチリガッツリ切り捨てるだろ?まあ……そういうことだ」かあああ、っと自分の顔が赤くなるのが分かった。アスナは礼儀正しくそんな俺をみないふりで視線を外に向けてくれている。無意識だった。「今はまだ」「まだ無理」なんて……アスナの言う通り「考えるから、時間をくれ」でしかねえじゃねえか。思わず両手で頭を抱える。なんてことだ!もう答えを言っているようなもんじゃないか!アスナが笑顔になるわけだ。声にならない声をあげて羞恥に耐える俺が落ち着くまで、アスナは黙って外を眺めていた。どれくらいたったのだろうか。少し俺が落ち着いたころ、それを見計らったかのようにアスナが口を開く。「……落ち着いたか?もし……アスカが良ければ……抱きしめていい?変なことはしねえから。ほんと、抱きしめるだけ。ハグ」その口調がまる
last updateLast Updated : 2025-08-02
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翌日

翌日。学園に戻った途端、門の前であっという間にレオンの側近ワイマールとカイザーに捕まってしまった。「申し訳ないが、始業までには戻れるように致します。どうかレオンの話を聞いてやって欲しい」「見守るにも限界があるんですって!あんなレオン見てる方もきつい!!一応まだ婚約者ですよね?責任を取ってください。お願いします!!」申し訳ない、お願い、と言いながらもその表情は「絶対に逃がさない」と雄弁に語っている。そのまま返事をする間もなく有無を言わさず連行される俺とアスナ。拒否することも可能なのだが、こいつらがこうなっている理由には心当たりしかないので、大人しく連れていかれてやることにする。「あー……もう話がそっちにいったのか?」あれから即王宮に乗り込んだようだ。さすがは父上。即断即決だ。「多分こうなるだろうとは覚悟しておりましたが、ただこのスピードまでは想像しておらず……。アスカ様はどうかわかりませんが、普通は心の準備というものがね、あるのですよ……?」「そうです!だって、最近は仲がよさそうにしてましたよね?!レオンだってむちゃくちゃ幸せそうにしてたのに!だから俺たちは、あえて距離をとってお二人を見守ってきたんです!なのにいきなり!!裏切りですよこれは!上げておいて落とすなんて、ちょっと酷すぎません?!」これまでは「立場上」側に付いているのかと思っていたが……違ったようだ。この俺に食って掛かるくらい、レオンのことを心配している。俺はそんな二人に、腹を立てるどころか少し微笑ましいような気持ちになった。この二人がレオンの側にいるのには、もちろん権力だとか家のことも理由としてあるだろう。だがそれでもちゃんとした友情や愛情を築いているようだ。こいつらがいれば、レオンの傷もいずれは癒えるだろう。なので特に言い返すこともなく大人しく頭を下げた。「申し訳ないという気持ちはある。が、お前たちも知っての通り、俺は最初から『婚約解消したい』と言い続けてきただろう?レオンとの仲が改善したことは事実だ。だがそれはあくまでも友情なのだ。レオンを友として認めたにすぎん。すまんが、来たるべきときが来ただけだと考えてくれ。お前たちのような忠臣が付いていればレオンは大丈夫だろう。レオンを頼む」言っておくが俺はめったに謝罪することはない。そもそも人と関わらること自体
last updateLast Updated : 2025-08-04
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友とは

俺は少し表情を緩め、気真面目なワイマールの肩を叩いた。こいつは出会ってからずっと俺に対してよい感情を抱いていなかったはずだ。何故なら、彼の主人であり友であるレオンに対する俺の態度がかなり不敬なものだったから。なんならレオンのほうが俺に気を遣い、丁寧に接していたくらいだ。それを見ている彼らの俺に対する印象が良いものであるはずがない。思うところがあっただろうにそれでもこいつらは俺を攻撃したり貶めることはなかった。「レオン殿下の婚約者」として敬意を払った態度を貫き続けた。それはすべてレオンのため。時に強引なこともあったが、俺はこいつらのそういうところが割と好きなのだ。身分だとか立場だとかごちゃごちゃと気にしているようだが、それを言うのならこいつらのレオンへの献身はそんな「形式」をとうに超えている。言葉にするのなら、それは立場を超えた「友情」だろう?だから俺は言った。「立場や身分は無意味ではない。俺も有効活用しているしな。だが、重要なのはそれが全てではないということだ。お前たちとレオンの関係は、主従を超えたところにあるんじゃないか?従者としての誇り?護衛としての誇り?無論!だがそれだけではないだろ?一歩踏み出す勇気を出せ。レオンにはお前たちが必要だ。お前たちはレオンの友としての誇りを持つべきだ」するとカイザーがクシャりと顔をゆがめた。「アンタが……アンタがそれをいうのかよ!レオンを裏切ったアンタが!」これまでどんな時でも「アスカ様」呼びだったカイザーが「アンタ」か。ついに本心を見せたな。良い傾向だ。思わずニヤリと笑ってしまい、余計にカイザーを激高させてしまった。「何がおかしいんだよ!」「元から俺は『レオンの婚約者』には向いていなかったんだよ。だからずっとそう言ってきただろ?レオンもそれを理解している。だから引き下がったんだ。お前の怒りはお門違いだ。理解できたか?俺はもうレオンの婚約者に戻るつもりはない。友にしかなってやれない。だがレオンを拒絶した側の俺とアスナでは、今のアイツを支えてやれないんだ。だから、お前たちがやれ。お前たちにしかできないんだから」本当はもう一人心当たりがある。エリオットだ。エリオットが俺の下僕となった今なら、あいつとレオンがゲームの筋書き通りにくっついても、俺が断罪されることはないだろう。できれ
last updateLast Updated : 2025-08-05
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闇落ちレオン

「おい、レオン。なんだその顔は」声をかけるとわずかにビクリと身を震わせ、だが瞬時に何事も無かったかのような笑みを浮かべて見せるレオン。「ああ、アスカ。おはよう。どうしたんだい?こんな時間に君が顔を見せるなんて珍しいね?」本人は普通にしているつもりだろうが、俺からしてみれば仮面を被っているようにしか見えない。「お前が腐っているからだろうが。そこのお前のお友達に連行されたんだよ。『レオンを何とかしてくれ』ってな」側近コンビが慌てたように唇の前に指をあて「黙っていろ」とジェスチャーしてきたが、そんなことは俺の知ったことではない。「……ワイマールとカイザーが?」目を軽く見開いて側近に視線をやるレオン。以外だ、という表情。「忠犬だな」本心を混ぜて茶化してやれば、少しの信愛を乗せて苦笑された。「まあな。……二人がすまなかったね?勝手に気を回したようだ」「気を回られたくなければ、そんな顔を見せるな」グイっと顎の下に手を入れ、顔を持ち上げてやる。「寝てないだろう?目の下が黒い。おまけに顔色も悪いな」見たままを指摘してやると、パシッと手をはたかれまるでイヤイヤするように顔を背けられた。「そりゃあ……10年も想ってきた婚約者に捨てられたんだ。仕方ないだろう?こういうのは、見ないふりをするのがマナーなんじゃないか?」フッと漏らされた笑みはらしくもなく皮肉げで暗いものだった。いつも陽の光を背負っているようなレオンがこんな顔を見せるのは初めてだ。今までどれだけ俺が拒絶しようと、毒を吐こうとこんな顔をしたことはなかった。それを言うなら、俺の手をはたくなんて今までのレオンならあり得ない。それだけ弱っているのだということか……。本当は放っておく方がいいのだろう。俺は振った側になるのだから、猶更。だが……「断る」「なら………は?!え?君、いま『断る』と言ったのか?!何故?」驚きのあまり暗い感情もどこかにいってしまったらしい。素で驚いているレオンに、してやったりと渾身の笑みを贈ってやった。「俺がこれまでお前の話を大人しく受け入れたことがあったか?俺はどんな時もやりたいようにやるし、言いたいことを言う。こうするのだと決めたらたとえ断頭台の前に立とうとやる。それが俺だ。これまでキラキラした顔しか見せなかったお前が弱ってるんだぞ?そんな面白い顔、見
last updateLast Updated : 2025-08-06
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闇落ちレオン2

とたん、笑顔の仮面がするりと顔から剥がれ落ちる。「酷いことを言うんだね?私だって……覚悟はしていた。だが、こうもいきなり解消されるとは……。落ち込む時間も貰えないのかい?」いつもは奇麗に整えられている前髪がはらりと目にかかる。それを払いのけることもせず、髪の隙間からうっそりとした視線を俺に寄越すレオン。「お前とエリオットの噂のせいだろうが。友情をはぐくむのも、ほかのものをはぐくむのも構わんが、もっとうまくやれ。俺にとばっちりが来る。時間を置けば、気を利かせた王家が動きかねんだろうが。その場合悪者にされるのは俺だ。降りかかる火の粉を払っただけだ。仕方あるまい」腕を組んで「文句を言いたいのは俺の方だ」と伝えれば、不思議そうな顔をされた。「え?だってアスカは前から解消したがっていただろう?渡りに船だったんじゃないのか?」「『円満に解消』するために我慢していたんだろうが!今回だって、落ち着いたころを見計らってまずは『俺とレオンは政敵排除のため政略的に婚約していたが、無事問題が解決したので円満に婚約解消となって』『アスカ様は自ら解消を望まれ、臣下となってレオン殿下をお支えする道を選ばれたらしい』ってな感じにするつもりだったんだよ。その間にお前の心の整理もつけさせるはずだった。順番にしかけていく予定だったのだが……あのままだとエリオットの件で俺が当て馬扱いされちまうだろ?急ぐしかなくなっちまった」肩を竦めて見せれば、レオンは拍子抜けしたように肩の力を抜いた。「……………私と過ごすのが嫌だからと無理に解消を急いだのではないのか?『友として』と言っていたのは詭弁だったのかと……」「はあ?言ったろ?友としては気に入っている。むしろ好きな部類に入るぞ?便利だしな」するとそれまで空気になっていたアスナが慌てて俺の口を塞ぐ。「しっ!アスカ、最後の言葉は余計だっ!レオンがまた気にするだろうが!」「褒めたんだぞ?レオン程使い勝手のいい奴はいない。頭もいいしな」「……アスカ………もう少し言葉を選ぼうな?」ボソボソとアスナと話していれば、カイザーが呆れたような声を出した。「アンタそれわざとだろ?全部聞こえてるぞ?!頼むからレオンをこれ以上いじめるな!可哀そうすぎるだろうが!」「こ、こら!カイザー!お前も黙れ!」慌ててカイザーに飛びつき口をふさ
last updateLast Updated : 2025-08-07
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ワイマールが思わず口にした「友」という言葉にレオンの目が僅かに見開かれた。そうだ。俺と違って、お前は二人ときちんと関係を構築してきただろう?それは「王子」と「護衛」というだけのものではなかったはずだ。「ワイマール、お前の言う通りだと思うぞ?友としてのレオンを俺は認めている。不満などないさ。ただ……レオンがアスナでは無かったというだけのこと。すまんな。俺も非常に不本意ではあるのだが、俺にはアスナしかないらしい。お前たちとレオンとの間に見えぬ絆があるように、見えているものだけが全てではない。俺とアスナにも、俺たちにしかわからないものがあるのだ」「しかし……!」食い下がろうとするワイマールを制したのは、レオンだった。「もういい、ワイマール。ありがとう」激高するワイマールに片手を伸ばし、その肩をポンポンと叩いて宥める。「……アスカ、うん、君のいうことは……分かる気がする。見えるものが全てではない。現に、これまで君は私を嫌って裂けているように見えた。だが実際の君は私を友としてなら好ましく思ってくれていた。婚約者として、ではないのが残念だけれどね。それを嬉しく思うべきなのだろう。私が知る以外にも、君とアスナにはなにかあるということか……。そして、それは追及しないほうがよいのだろう。相手がアスナということにはまだ複雑な気持ちはあるが……私が選ばれないのだということは既に先日君の口からもきいているから、覚悟はしていた。だが、こんなにすぐにとは思っていなかったものだから……少し……心の準備が足りなかった」自嘲気に口元をゆがめ、真剣な表情で俺を真正面から見つめるレオン。「ねえ、アスカ。無理を言えばなんとかなるのかな?それとも……私は友としての君を失うことになる?」最後の言葉には、懇願に似た響きがあった。だが、だからこそ俺はしっかりとレオンの目を見つめ返して答える。「そうできるのにしないお前だからこそ、俺は友と認めたのだ」「そうか……」クスっと笑ったレオンの目には、覚悟を決めたような光が戻っていた。「ねえ、私はよい王になれる?」「ああ。断言しよう。少なくとも俺は、お前が王になる国だから支えてやってもいいと思った」「貴族は国に仕えるのが当たり前なのですけれどね……」思わずという体でワイマールがため息をついた。それにアスナがしれっ
last updateLast Updated : 2025-08-08
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エリオット

慌てて教室に向かえば、授業の始まるギリギリだった。「申し訳ない。レオンに呼ばれていたのです。詳細はのちにレオンから説明がありますので」さっさと言い置いて返事を待たずに席に座った。「さあ、授業を始めてください」「あ、ああ。……では、授業を始めよう。第三章、五節からだ……」心配そうに俺とアスナを見ていたエリオットが、小さな声で声をかけてきた。「アスカ様?大丈夫でしたか?あの……もしかして、例の噂のことでしょうか?アレは本当に単なるうわさなのです。ボクとレオン殿下には…小声で話していたのだが、しっかりと教授の目にはとまってしまったようだ。ジロリと睨まれてしまった。「そこ!エリオットくん、静かにするように!」教授の注意を受け、慌てて教科書を開くエリオット。だがどうしても話をしたかったようで、今度はごそごそとノートの端に「後でお話があります」と書いて差し出してきた。アスナと俺が黙って頷けば、ようやく安心したように少しだけ肩の力を抜く。無視をされるとでも思ったのだろうか?安心しろ、お前とレオンのことは全く疑ってなどいないから。面倒なことになるな、思っていただけで。授業が終わったとたん、さっそくエリオットが俺とアスナを廊下に引っ張り出した。一目の無いところで、という配慮だろう。つまり、人に聞かれたくない内容だということだ。エリオットは俺たちを空き教室に押し込むや否や、怒涛のように話出した。「いったい何があったのですか?レオン殿下はどのような御用で?あの、もしもクと殿下の噂のことですが、あれは単なる噂にすぎません!アスカ様から殿下を奪おうなどと大それたことは思ってもいませんのでっ!そんなことをするくらいなら、最初からアスカ様に協力などしておりませんっ!どうか信じて下さいっ!!」目に涙を浮かべて必死の形相だ。俺とレオンが噂のことでもめているのではと勘違いしたらしい。「時期に公表されるはずだから、もういいだろう。話というのは、俺とレオンの婚約解消が正式に決まった件についてだ。レオンがあまりにも落ち込んでいたのでな。心配した側近にレオンと話をして欲しいと頼まれたんだ。確かに噂も原因のひとつではあるが、どのみち予定していたこと。その時期が早まっただけだから、俺としては何の問題もない。気にするな。お前の責任ではない」それを聞いて安心するかと思いき
last updateLast Updated : 2025-08-10
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エリオット2

その日はそれで納得したように見えたエリオットだが、それ以来時々どこ暗い目をするようになった。気にはなったが、俺とレオンの婚約解消の件が公表され周囲が騒がしくなったので「若くして侯爵家当主となったのだがら大変なのだろう」とそのまま様子をみることにする。婚約解消については「クレイン侯爵の悪行」「侯爵家一門の断罪」と同時に公表されたので、そこまで違和感なく受け入れられた。実際のところ、「クレイン侯爵家の不祥事」については公表するまでもなく既に広まっていたので、それが正式に公になったというだけなのだが。最近は違うとはいえ、昔から俺とレオンの不仲は有名だったし、むしろ「解消が決まっていたから誤解されぬようあえて距離をとっていたのだろう」「全てことが終わり婚約解消が整ったからこそ、友として本来あるべき距離に収まることができたのだ」と勝手に解釈された。エリオットの件に関しても、「断罪の功労者」「正義を貫いた」として「正式な侯爵家の当主とする」と王家から声明を出したため、スムーズに受け入れられた。レオンと仲が良く見えたのも、その打ち合わせを兼ねていたのだと言われ、エリオットとレオンの噂も一気に終息に向かう。タイミング的に、驚くほど全てがスムーズにまとまった。人というのは信じたいものを信じるものだ。今回の件も、ほんの少し誘導してやっただけで「こう考えれば納得がいく」と都合よく信じてくれた。エリオット一人がこっちに寝返るだけでここまですべてが上手くいくとは。エリオットさまさまだな。おかげでいらぬ断罪の心配もなくなり、面倒な婚約解消の理由まででっちあげることができた。下僕、ペットではなく友に格上げしてやってもいいくらいだ。そんなにスムーズにいっているのなら、何が騒がしいのか、と思うだろう?それが……スムーズにいったからこそ騒がしくなったのだ。俺とレオンが婚約解消となる、それすなわち「優良物件が一気に二件も市場に出された」ということ。俺とレオンには婚約を希望する有象無象が次々と押し寄せるようになったのである。こうなってみると、アスナとの婚約をさっさとしてしまえばよかった。しかし、考えてもみてくれ。婚約もしていないというのに、俺とアスナは……なんというか……まあ、軽い触れ合いをしている。俺から進んで行っているわけではないが、アスナの方は「隙あらば」といった
last updateLast Updated : 2025-08-11
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婚約者騒動

「はあ………」憂鬱だ。「おはようございます、アスカ様、アスナ様!」「おはよう!」門をくぐった途端、大勢が俺たちに走り寄ってくる。目線だけを投げる俺と、微笑み付きで片手を振ってこたえるアスナ。ここで時間を取られるわけにはいかない。足を止めればあっという間に囲まれて面倒なことになる。「おはようございます、アスカ様!これ、よろしければ召し上がって……」「シェフとアスナ以外の手作りは食わないことにしている。すまんな」「アスカ様!あのお……もしよろしければ昼食を……」「却下!」次々と掛けられる声を捌きながらひたすら足を動かし続けた。「貴様ら、もうホームルームの時間だろう。さっさと散れ!」しっしっと追い払う仕草。以前ならばこれで散ったのに……「いやあん!ご心配下さるのですか?お優しいですわねっ」「アスカ様、丸くなられたよなあ」「だよなあ!背負われていた重荷をおろされたからじゃないか?使命のために仲の悪い婚約者を装ってご無理されていたのだろう」これだ。その視線だけで有象無象を近寄らせなかった「絶対強者」である俺は、アスナとレオンのお陰でとっくにどこかに行ってしまった。後に残ったのは「意外と可愛らしい一面がある」「恥ずかしがりや」「ツンデレ」だのという嬉しくもない「本当のアスカ様」。身に纏っていた「近寄り難さ」という鎧は一気に引き剥がされてしまった。そんなところに円満な婚約解消。あり得ない「チャンス」を狙った学園生たちが「イチかバチか」とばかりに隙あらば俺に話しかけてくるようになったのだ。教室のいつもの席に座れば座ったで机の中からカード付きのプレゼントがゴロゴロと転がり落ちて来る。入りきれなかった分は机の上や横に。それをまず袋に詰めて片付けるのがアスナの朝一番の仕事となっている。彼らとて俺と本当にどうこうなれると思っているわけではない。アスナがいうには「いわゆる推し活」。「遠くで見つめているだけだったファンが、推し触れ合うチャンスに飛びついた」というわけだ。そういわれるとあまり無下にするのも……ああ!違うだろう!そう、最もイライラするのはこの俺自身の思考回路なのだ。前の俺ならばっさり切り捨てても何も感じなかったのに!有象無象の連中はよく見ている。確かに俺は変わってしまったようだ。ぐったりと机にひれ伏す俺にエリオットが言
last updateLast Updated : 2025-08-12
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婚約者騒動2

一方、レオンはレオンで大変な目にあっているらしい。そもそも王家から俺に婚約の打診がきたのは「家格と年齢と能力」が王家にふさわしいと判断されたからだ。というより、公爵家の後ろ盾が欲しかったこと、さらには幼くしていかんなく才能を発揮していた俺を王家に取り込みたかったからだろう。では、俺以外に……となると…… 「そもそも、アスカの後だよ?候補はいても、比べられるわけないよね?家格は仕方ないにしても、その能力も美貌もアスカの半分もあればいい方だ。君のせいで私の理想はすっかり高くなっているからね。……一生独身でもいいかもしれない」 有象無象から逃れてのランチ中、ぐったりとしたレオンから恨めしそうに言われてしまった。 「いるだろう、ちょうどいいのが。家格は劣るが俺とは別方向に顔がいい奴。能力もあるし、聞き分けもいい。頭も悪くないぞ?」「ちょっとお!それ、ボクのことですか?本人を前にしてよく言いますね。それってペットについて語る言葉じゃないですか?」「俺のペットだろう。間違ってはいない」「そもそも私を何だと思っているんだ、アスカ。そこまで節操無しだと?アスカがダメなら誰でもいいというわけではない。そもそも私が婚約を結んだのは、もともとアスカに好感を抱いていたからだ」「おいおいレオン。それだとエリオットがダメみたいだろうが。こいつこれでも学園では上位だと思うぞ?」「これでも、って何ですか!アスナ様の方が酷いでしょ!言いましたよね、本来はボクが主役!スペック高いはずなんですから!」「主役?どういう意味だ」「ああ、レオン、そこは気にするな。エリオットの妄想だ」 ここでエリオットが居住まいを正し、レオンに向き直った。 「そもそも、本来ならレオン様とアスカ様が結ばれるのが正しいはずなんです!ここのレオン様はボクなんかにたぶらかされなかったでしょう?今のレオン様とならアスカ様
last updateLast Updated : 2025-08-13
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