アスカの真摯な声に、父上が気を利かせたのかウインクを一つ残しそっと部屋から出て行った。父上!気を利かせるべきときは今ではないでしょう!……おかげで俺は逃れられなくなった。「正直、困惑している。言ったろ?俺はお前が好きだ。それはもう認めよう。お前を離すつもりはないし、お前は俺のものだと思っている。だけどな。過去を忘れたわけじゃねえんだ。俺の中に相反する気持ちがあるんだよ。だから、婚約とか結婚だとか、今はまだそこまで考えられないんだ。すまん」アスナの気持ちは何度も繰り返し言葉でも行動でも伝えられているから、疑ってはいない。自分の気持ちの整理ができないだけなのだ。振り回している自覚はある。だがどうしようもない。父上が認めてくれているというのに、本人である俺がこれだ。アスナもさぞかしガッカリしているだろうと思いきや……俺の答えを聞いたアスナは、嬉しそうに笑っていた。「……何が嬉しいんだ?俺はお前のことを好きだと言いながら、婚約も結婚もまだ無理だと言っているんだぞ?」すると面映ゆそうにその頬を掻くアスナ。目をゆるりとさ迷わせた後、言いにくそうにこう口にした。「だってさ。公爵もお前も、俺が人間じゃないことは全く問題にしてねえんだもん。普通はそこが気にするとこだと思うぜ?オマケにさ。お前、気付いてねえの?『今はまだ』とか『まだ無理』って、全然否定になってないからな?それ、要は『待っててくれ』ってことだぜ?本当に無理なら今のお前ならキッチリガッツリ切り捨てるだろ?まあ……そういうことだ」かあああ、っと自分の顔が赤くなるのが分かった。アスナは礼儀正しくそんな俺をみないふりで視線を外に向けてくれている。無意識だった。「今はまだ」「まだ無理」なんて……アスナの言う通り「考えるから、時間をくれ」でしかねえじゃねえか。思わず両手で頭を抱える。なんてことだ!もう答えを言っているようなもんじゃないか!アスナが笑顔になるわけだ。声にならない声をあげて羞恥に耐える俺が落ち着くまで、アスナは黙って外を眺めていた。どれくらいたったのだろうか。少し俺が落ち着いたころ、それを見計らったかのようにアスナが口を開く。「……落ち着いたか?もし……アスカが良ければ……抱きしめていい?変なことはしねえから。ほんと、抱きしめるだけ。ハグ」その口調がまる
Last Updated : 2025-08-02 Read more