All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 61 - Chapter 70

114 Chapters

豚は豚だ

「と、とにかく!ボクが言いたかったのは、侯爵が妖精姫に異常なまでに執着しているということなのです。どうやら、過去に婚約を申し込んで断られているようなのですが……お母さまから聞いたことはございませんか?」ふむ。父上のノロケで「マーゴットには多くの輩が惚れていた」だの「私の妻はあらゆる男から憧憬の生刺しを向けられていた」だの「熾烈な争いを勝ち抜いたのが私」だのと聞いたことがある。そういえば「侯爵家の阿呆が権力にものを言わせ『妖精姫は私のものだ』と戯言を抜かしていたのでな。思い知らせてやった」とも言っていたな……もしやそれか?一応確認してみると、アスナもエリオットも額に手をあて首を振った。「絶対それだろ……」「それですね……どう考えても……」よし、纏めてみよう。「つまりは、その豚は恐れ多くも母上に懸想し、母上の実家である伯爵家よりも格上であることから無理矢理に母上を娶ろうと画策してそれを自慢げに吹聴したあげく、実質王国最高権力者に等しい父上にあっけなく返り討ちにされた。それでも未練がましく母上に執着し、図々しくも父上への逆恨みを一方的に募らせていた。母上は父上が公爵家にガッツリと囲い込み守っているから手が出せない。そこで学園という治外法権の場にいる俺で過去の恨みを発散しようとした、というわけか?」こうして口にしてみると……「下らん!実に下らん!要は自分に魅力がなくクソだったから振られただけだろうが!父上と豚を並べてみろ!誰だって父上を選ぶだろう!誰があの豚と結婚したい?身分意外は底辺も底辺。容貌はもとより、人格も下劣極まりない男だぞ?」吐き捨てるように告げれば、エリオットが「あのー……」と手を上げた。「一応言っておきますが、学生時代の侯爵は……豚ではなかったようなのです」「なんだ?猿か?」「言っても信じないと思います」エリオットは懐からメモ帳を取り出し、机の上に置いた。「なんだ?」「ボクがこんなことできるの、内緒ですよ?」なんとそういって紙に念写してみせたではないか。みるみるうちに紙に人物が描き出される。まさか、そんな能力まで?さすが主人公。なかなかチートだな。「おまえ、なんでもありかよ!」「これ便利なんです。実は……本を複写してコッソリ売ってお金を稼いでいたんです。…………できました!これと同じ写真が、例の部屋に飾ら
last updateLast Updated : 2025-06-25
Read more

汚らわしいにも程がある

単に権力欲におぼれた豚だと思っていたが、想像よりも酷い内容に頭が痛くなりそうだ。そんな俺に、エリオットが申し訳なさそうにおずおずと切り出す。「……あの……非常に申し上げにくいのですが……続きが……」「「まだあるのか?!」」思わずアスナと俺の声が被ってしまった。権力を手にするため、という分かりやすい筋書きが、初恋拗らせ逆恨みストーカーだったというゾッとする事実が分かったのだぞ?母上の私物を集めているだけでゾッとするのに、それよりも言いにくそうに言うこととはなんだ?!「……非常に聞きたくない。少し落ち着かせてくれ」大きく深呼吸をする。この上更に酷い内容だったら、俺は確実に奴を殺る。いっそその方が早いし気持ちがいい。一切の憂いを絶てるし、世の中からゴミも減る。いいことづくめだ。いや、もういいんじゃないか?焼き払えば罪なき者にも被害が出るかもしれないが、直接殺る分には問題ないだろう!と、椅子に座ったままの俺にアスナが後ろから椅子ごと抱き締めてきた。抱き締める、と書くと愛情表現のようにもとれるが、ギリギリギリ、と音のしそうなこれは……「おい!何故俺を拘束する?」「話を聞く前にアスカの身柄を確保しておく方がいい気がする」チッ。勘のいい奴め。無理に解くのは簡単なのだが、俺も話の途中で飛び出さない自信がないのでとりあえずこのまま話を聞こう。「……アスナ様、絶対にアスカ様を放さないでくださいね?あと、アスカ様、これはあくまでも侯爵の行動からボクが推察した話であり、確定ではありませんから。そこだけはご了承ください。それと、ボクはこの件に一切関係ありませんので!!いいですか?ボクは無関係!」必死か!そんなに不味い内容だということか。「いいだろう。お前は無関係だ。では話せ」「あの……その秘密の部屋には、妖精姫様のものが沢山集められていたわけなのですが……」「それは先ほど聞いた」「………その中にアスカ様のコーナーが……」ガタン!!「クソ!アスナ、放せ!というか、お前も来い!焼き払うぞ!放さないのならば、遠隔で……メギ…」「ああああ!!ダメだって!やめろっ!それ隕石落とすヤツだろうが!被害甚大すぎっ!!」渾身の力で口をふさがれた。簡単な魔法ならば無詠唱でいけるのだが、さすがに伝説クラスのメギナとなればそうはいかない。しかし、
last updateLast Updated : 2025-06-26
Read more

父上、キレる

「エリオット、お前は馬車を拾って校門前で待て。俺は学園長に休みの報告をしてくる。……3日あれば足りる、か?アスナ、お前はレオンに公爵邸に来いと伝令を頼む。巻き込むぞ。あいつが居れば後の処理が格段に楽になる。面倒ごとは押し付けてやろう。よし、行け!」「ええー?3日ですか?!ボク、入学した初日なんですけど……っ」エリオットが何やらわめいているが、知るか!こっちは今この時にも、豚が俺や母上の写真に何かしらしているかもしれないのだぞ?どちらが優先かなど語るまでもあるまい。「後でどうとでもしてやる。さっさと行け!」「あのさ、今授業中じゃね?レオンのクラスに殴り込めって?」「婚約者の精神的貞操の危機なのだ。仕方あるまい。『アスカの命令だ。学園長の許可は得ている』と言えばいい」「はあ?精神的貞操の危機……まあ間違いでは……ない……か?俺の戻りが遅かったら先に行け。後で追いかける」「分かった。頼んだぞ!」後は振り返りもせず学園長室に殴り込……乗り込んだ。ノックと同時にドアを蹴り飛ばす。「失礼する!学園長はいらっしゃるか?」「うわあ!な、な、なんだっ?!」「アスカ・ゴールドウィンだ。私と、私の従者アスナ・ゴールドウィン、本日A‐2に入ったエリオット・クレイン。そして王太子レオン・オルブライト。私の精神的貞操の危機に対処すべく、本日より3日間の休学を申請する。場合により延長する可能性もあるためご承知おきを。以上、可及的速やかな対処を望む。急いでおりますゆえ、異論は認めぬ。では、失礼する!」返事も待たずに飛び出した俺を、学園長は茫然として見送ったのだった。廊下を滑るように疾走すれば、授業終了のチャイムが。教室から次々と生徒たちが廊下に溢れ出てきた。「え?!あ、アスカ様?!」チッ!邪魔だな。「道を開けろ!」前方に向かって威圧を放てば、面白いほどさあっと左右に人が別れた。俺に近い数人は腰を抜かしてしまったようだ。申し訳ないが、緊急事態なのだ。許せよ。「……どうされたのでしょう?」「何かあったのかしら?」ざわつく生徒たちを残し、生徒の間を一瞬のうちに通り抜ける。「感謝するぞ!」学園長室に向かってからここまで5分。戻るころには馬車も準備できているだろう。はたして、校門前にはエリオットと馬車がスタンバイしていた。「あ
last updateLast Updated : 2025-06-28
Read more

父上、キレる2

平日だというのにいきなり客を連れて戻った俺に、家人は大騒ぎだった。「アスカ様?どうされたのですか?何かございましたか?」「バード、彼はエリオット。クレイン伯爵の息子で私のクラスに遅れて入学してきた。彼がある恐ろしい情報を俺に与えてくれた。父上に報告する必要がある。すぐに父上を呼んでくれ。あと……母上の気をそらせ。どこかに連れ出して欲しい」最後の言葉は小声で伝える。バートは俺の様子でただ事ではないと察したようだ。素早く使用人に指示を出す。「マーゴット様にはアスカ様が戻られたことは内密に。温室に新種の花が咲いたことをお伝えし、そこでのティータイムをお勧めするのだ」「かしこまりました」「ご主人様に、アスカ様が重要な話があるとお伝えしろ。そして第二ダイニングに。」ここで改めてバートはエリオットに向き合った。「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。ようこそお越しくださいました。私はこの屋敷で執事をしております、バードと申します。」「ボクこそ突然失礼いたしました。エリオット・クレインです。エリオットと」「では、エリオット様。客間へご案内させて頂きます。主人が参りますまでしばしお待ちくださいませ」バートが先導しようとするのを片手をあげて止めた。「ああ、いい。私が案内するから。バードは父上の所に頼む。その方が早い」執務中の父上は、バードでないと動かないだろう。「ありがとうございます。ではそのように」素早く、しかし美しい礼を残してバードが去ると、エリオットがガクリとその場に崩れ落ちた。「はあ!焦ったアアア!心臓に悪いですよ、アスカ様!ボク、もともと平民なんですよ?いきなり公爵家なんて荷が重すぎます!怖かったあ!」「何をそんなに固くなっているのだ。侯爵家だって似たようなものだろう」「全然違いますよっ!あっちは……なんというかギラギラしてまるでセットを見ているみたいなんです。でもここは空気が……格式、とか荘厳、とか。とにかく全く違いますっ」「そうか?ここも単なる家にすぎん。気にするな」行くぞ、とエリオット促し第二ダイニングへ。こちらはほとんど使用しない、いわば予備の客間のようなもの。温室からは一番距離があるうえ、母上の部屋から温室までは南側通路、父上の執務室や玄関ホールからここまでは北側通路を仕様する。そのため行き来に母上とすれ違
last updateLast Updated : 2025-06-29
Read more

父上、キレる3

アスナにも手伝わせて二重三重に結界を張り終えれば、そのタイミングで父上が現れた。「火急の話を聞いたが、何があった?!マーゴットには内密にということだが、彼女に関して何かあったのか?」既に魔力が駄々洩れだ。初めて父上と対面したエリオットが「ひえ…!」と小さく叫び、身を震わせている。仕方ない。さりげなくエリオットを背に庇い、父上の圧を遮断してやった。「アスカ。後ろに隠したのはなんだ?そ奴が何か関わっているのか?」ブワッ!明確な殺気がエリオットに向かって放たれた。庇ってやったのに、無駄だったようだ。エリオットはもはや声すら出ず、蛇に睨まれた子ネズミのようにブルブルと震えている。「父上!射殺しそうな視線を向けるのはやめて下さい。彼はこの件の協力者です。ひとまずその魔力を押さえてください。俺やアスナはいいが、彼は慣れていない。倒れられては話ができません」「そうか。すまなかった」どの部分が父の心に響いたのか、シュっと圧が消滅した。「さあ、さっさと話せ」……父上に響いたのは「倒れられて話ができない」という部分だけだったようだ。まあいい。俺もさっさと済ませたい。「こちらはエリオット・クレイン。クレイン侯爵が外で作った三男です」父上がフンと鼻を鳴らした。「あの俗物か。見たところ、お前はヤツとは似ていないようだ。良かったな、アレに似ずにすんで。中身も似ていないことを祈ろう」「幸い豚とは別物です。彼は良い母と祖父に恵まれましたからね。彼はその良心に従い、俺にある話を聞かせてくれたのです」「ふむ。話と言うのはクレインに関わることか。あ奴が関わり、マーゴットを離さねばできぬ話……嫌な予感しかせぬ」「結論から申し上げます。クレインを潰します」「ほう」父上の眉が「面白い」と言わんばかりにクイっとあがった。「完膚なきまでに叩きのめし、二度と立ち上がろうなどという気にならぬようその足をもいでおきましょう。それだけのことを奴はしでかしました」「…………ほう………」二度目の「ほう」には隠しきれぬ殺気と冷気が。既にあちこちでピシっピシッと部屋の悲鳴が聞こえだした。「それを前提の上で、落ち着いて聞いていただきたい」アスナがさっとエリオットと自分に結界を張った。良い判断だ。「奴は母上を諦めておりませんでした。むしろまるで女神のように崇め
last updateLast Updated : 2025-07-01
Read more

レオン、キレる

ちょうどいいタイミングでレオンが到着したようだ。コンコン。「失礼致します。レオンハルト殿下がご到着されました。こちらに案内しても?」「ああ。話は済んだ。私たちが出よう。バード、少し留守にする。忙しくなる。どのような事態にも対処できるよう備えておけ」「御意」「さあ、行くぞ」怒りを漲らせた父上が、部屋を出るよう促してきた。「アスナ、エリオット、お前たちも……」「あ、あの……。す、すみません……足が……」情けない声に視線をやれば、何とか立とうとするのだが、足が震えてしまってまた床に座り込むエリオット。防御したのだが、初対面であれはさすがに厳しかったようだ。「俺は問題ない。いつでも動けるぞ?こいつはどうする?」「担いで付いてこい」「了解!」アスナがひょいっとまるで俵でも担ぐかのようにエリオットを肩に担いだ。完全に荷物としての扱いだが、まあいいだろう。素早く廊下を移動しながらエリオットに確認しておく。「エリオット、確認だ。同じクラスの者として、教授から俺がお前の世話を任された。そこでお前は『今後世話になるのだから、交流を深めたい』と俺を屋敷に招待。常ならば断わるのだがお前が元平民と聞いて興味を持った俺は、侯爵家への招待を受け、お前に同行した。そこで油断したところに魔封じの腕輪を嵌められてしまったのだ。理解したか?」「はい。そういうことにしろ、ということですよね。もうアスカ様のやり方は理解いたしました。ところで、あの…アスナ様、もう少し丁寧に運んでくれませんかあ?ボク、君みたいに頑丈じゃないんですけど……」「姫様抱っこされたいのか?」「アスカ様にならともかく、アスナ様にされてもね……。いいですよ、これで。でもあんまり揺らされると出ますからねっ!」「……絶対に出すなよ?出したら捨ててくぞ?」「そうならないようにしてよね、ってことです!」「……すっかり仲良くなったようで何よりだ」「「仲良くねえ(ありません)が?」」息ぴったりじゃないか。下僕コンビを連れてホールに戻れば、既に父上が何やら伝えていたようで、顔色の悪いレオンが救いを求めるような表情で俺たちを迎えた。「あ、ああ。アスカ、遅くなってすまなかった。これでも大急ぎで来たのだぞ?婚約者の精神的貞操の危機と聞いたのだが……ゴールドウィン公は何故このように悋気を……?」
last updateLast Updated : 2025-07-02
Read more

突撃

俺たちは王家の馬車で侯爵家の正面に乗り付けた。王家の家紋がついているので、もちろん門はフリーパスだ。門番は大慌てで屋敷に連絡に走っていく。「一応ボクがクラスメートを招待した、という形にするんでしたよね?ボクが先に行くのがスムーズだと思いますので……」エリオットが自ら先陣を切る。まあ、これから裏切るとはいえ、一応今はまだ自分が住む邸。それが妥当だろう。父上とレオンは不服そうだったが「俺と母上の肖像画や私物は先に回収します。その時間稼ぎは必要では?」というと黙った。邸と共に始末してもいいのだが、俺のものはともかく、大半は母上の肖像画だぞ?豚が描かせたものとはいえ、画に罪はない。母上が描かれているのならば猶更。家族である俺たちが保護せずして誰がするというのだ。執事が出てくるのを待たず、勝手知ったるとばかりにさっさと扉を開けるエリオット。問答無用で俺たちも後に続く。玄関ホールでエリオットが俺とアスナにだけ聞こえるように囁いた。「右手奥に階段があります。そこを上がって右の突き当り。扉には鍵がかかっていますが、アスナ様なら開けられますよね?」「無論。じゃあ俺はここで別れる。俺のことは気にするな。どうとでもなる」走り去ろうとするアスナの襟首をグイっと捕まえた。「褒美の先渡しだ」口渡しで魔力を吹き込んでやれば、「ああっ!」とエリオットから小さな悲鳴が。「婚約者の前ですよ?!何をされているんですかっ?」「言っただろ。褒美だ」「ええ?レオンハルト様、よろしいのですか?」アスナの正体を知っているレオンは、苦り切った表情で、でも黙って頷いた。「……良くはないが仕方は無いと理解している」その言葉に呆れたように口を開けたエリオット。「ええ?まさかの、婚約者公認?!なら、ボクにも!ボクにも後でご褒美をくださいっ!アスカ様だけなんてズルいですっ!」「このクソチワワが図々しい。俺は特別なんだよ。アスカ、さんきゅ!じゃあ、また後で!」ウインクを一つ残し、嬉々としながらアスナが去った。さすが動きにキレが出ている。無事に全て回収しろよ?そのための先渡しなのだからな?父上が憐憫の眼差しを浮かべレオンの肩を叩いた。「私はアスナでも良いと思っているのだ。全てはアスカ次第。覚悟しておくように」「レオンには塩対応の父上が珍しい」と思ったら、慰めるどこ
last updateLast Updated : 2025-07-03
Read more

突撃2

客間らしき部屋に案内されると、父受けはまっすぐ上座にあたるソファに向かい、どかりと腰を下ろした。王家のレオンハルト殿下、一応豚といえどこの屋敷の主人である侯爵がいるにもかかわらず。豚が唖然と口をあけるが、気にも留めない。俺も父上に習い、その横に。レオンも苦笑しつつも大人しく俺の横に座った。そして有無を言わさずエリオットが父上の正面に。この席次では、父上、俺、レオンの順で上の席次となる。その次の席次は息子であるエリオットに取られてしまった。となれば残されたのは一番の下座。エリオットが座ったことで一瞬ムッとした表情を見せたものの、王族である王子を無視した席次に、オロオロと立ち尽くす侯爵。それが分かっている癖に意地悪く問いかける父上。「どうした?座るがよい。そのまま立っているつもりか?」威風堂々たるその姿は、私が王だとでも言わんばかりである。わが父上ながら惚れ惚れしてしまう。「は、は、い、いえ!座らせて頂きます!」ビクリと身を固くし、慌てて下座に腰かける侯爵。これではどちらがこの屋敷の主か分からんな。侯爵は母上に懸想していた有象無象の一人だったそうだが、母上からすれば視界にも入らなかったに違いない。そもそも父上とは人間としての格が違うのだ。こんな小心者がよくぞ俺を陥れようなどと考えたものだ。父上の先制により侯爵はすっかり蛇に睨まれたカエルになり果てた。いや、ここはオオカミに睨まれた豚、か?後はアスナがブツを回収するまで、じっくりこやつをいたぶってやろう。「ああ」俺はわざとらしく大きな声で侯爵の注意を引き付けた。「そういえば、エリオットから聞きました。侯爵は父上や母上と同時期に学園に通っていらしたとか?」「あ、ああ。そうなのです。……妖精姫様はとてもお美しかった……」「当時侯爵はかなり異性から人気があったそうですね」今は見る影もないがな、とは心の中でだけ呟く。わざと持ち上げてやると、豚は嬉々として乗ってきた。鼻の穴を広げ、自慢話に花が咲く。「いやあ、それほどでも……。まあ、お父上ほどではありませんが、私もそれなりの地位も能力もありましたからね。多くの女性から慕われていたのは事実です。はっはっは!いやあ、それはそれでなかなかつらいものですよ」見る影もない今の姿を棚に上げて過去の栄光にすがる侯爵に、エリオットはうんざり
last updateLast Updated : 2025-07-04
Read more

突撃3

逆上する侯爵に頓着せず、場違いなほどの優雅な仕草で父上がゆったりと首を回した。「そろそろいいか?十分時間は与えたと思うが?」侯爵のコレクションの回収はできたか、という意味だ。「ええ。アスナは影収納が可能ですからね。もう十分でしょう」「よし」とたん、父上が一瞬で侯爵の足を凍らせた。「ひっ……!」「動くな。バランスを崩して倒れでもすれば、その足がもげるぞ?」「な、なにを……っ!」「不快な口も開くな」言葉と共に、まるで縫い付けられたかのように侯爵の口が閉じた。いや、実際文字通り縫い付けになっていたのだ。氷点下の礫により、侯爵の唇はひとつにくっついていた。開くためには自らその唇の皮膚を剥ぐしかあるまい。「ん゛ーー!!ん゛ん゛ーーーっ!!」諦め悪く喚くのを父上がこの一言で黙らせる。「鼻も塞いだ方がよいか?」「父上、ならば俺が」俺の言葉に侯爵が「魔法が使えるのか?」と言わんばかりに俺の腕にはめられた「魔封じの腕輪もどき」に視線を送る。高位貴族の間では割と知られた魔封じの紋をわざと刻んでやったから、エリオットが用意しうまいこと俺につけさせたのだと思っていたのだろう。それもあって油断していたのだと思われる。「ああ、これか?これは単なる飾りだ」目の前で、腕輪を外して握りつぶしてやれば、分かりやすく侯爵の顔が絶望に染まった。俺が偽の魔封じをこれ見よがしに身に着けていた意味を悟ったようだ。意外と馬鹿ではないな。うん。これが見れただけでもここに来た甲斐があった。満面の笑みを浮かべた俺に、エリオットが震えながら言う。「あの……鼻までふさいだら息ができませんよね……?」「当たり前だろう?」「何か問題が?」表情一つ変えずに返す俺と父上に、侯爵がガクガクと震えだした。プライドを優先している場合ではないとようやく悟ったのだろう。ジロリと睨んでやれば、ピタリと動きを止めた。と、そこへアスナが戻ってきた。「お待たせ。全部回収済みだ。いや……すごかったぜ……。完全にストーカー」思い出したのか、ブルリと身を震わせるアスナ。「ご苦労だったな。何も残っていないな?」「ああ。とりあえず根こそぎ突っ込んできた。あとで選別すりゃいいだろ」俺たちの会話に何かを悟ったのか、侯爵の目が見開かれた。ぐるぐるとまるで犬のように喉を鳴らし、必死で何かを訴えてい
last updateLast Updated : 2025-07-05
Read more

今後の筋書きを教えてやろう

こほん、と咳をひとつ。もはや進退窮まった侯爵は、証拠を消そうと自ら邸に火と放ちました……。なんとか火が広がるのは防ぐことができましたが、侯爵は気が触れておしまいになられ……。侯爵ご自身から証言を得ることはかなわなくなってしまいました。しかし、運がいい。こうなる前に私は侯爵自身から証拠となる侯爵直筆の指示書を手に入れていたのです」話を聞く侯爵の顔はもはやどす黒く色を変えていた。焦り、憤怒、あらゆる負の感情がその顔にあらわれては消える。俺は腕にはめた銀色の腕輪を見せつけるように侯爵に示した。「どのような証拠なのかご説明いたしましょう。エリオットに連れられてのこのこと自分の屋敷にやってきた『魔封じの腕輪』を嵌めた私の姿を見て、侯爵は息子であるエリオットが私を無力化したのだと、自分が勝利したのだと、勘違いされたのでしょう。侯爵自ら、私に証拠となるものを差し出しました。ここにございます」『アスカは侯爵家と婚姻を結び、侯爵家に絶対の忠誠を誓う』『侯爵家が王家に成り代わるため、尽力することを誓う』『このことは決して他言しないことを誓う』と記載した用紙を高々と掲げて見せた。予めこちらで用意しておいたものだ。「彼はこれにサインするよう私に迫りましたが、『運悪くそこになかなか帰らぬ私を心配した父上が訪ねてきた』。そう。ここで初めて父上がこの場に登場致します。まあ実際は既にいるわけですが」ここで父上がニヤリと笑ってお茶目にも片手をあげて見せたので、思わず笑ってしまった。「ふふっ。父上、おやめください。まだ続きがあるのですから。失礼いたしました。エリオットに騙されて魔封じの腕輪を嵌められていた私ですが、幸いなことに、その効力を私の魔力が上回っておりました」手首から偽の腕輪を外し、魔法で溶かして床に落とす。「侯爵が父上に気を取られている間に、私は腕輪を溶かして壊した。そして侯爵反逆の証拠になりうる書類を手にすることができたというわけです」自分を無視して勝手に作られた筋書きに、話すことを封じられた侯爵の顔に滝のような汗が伝う。「この証書は魔法契約がかけられておりましてね。サインしていたら、いかにこの私でも従わざるを得なかったことでしょう。エリオットが良心の声に従ったこと、イレギュラーで登場した父上、そして魔封じを破ることができたことで、私はなんとか窮地を
last updateLast Updated : 2025-07-07
Read more
PREV
1
...
56789
...
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status