「豚……いや、クレイン侯爵は……あの時のまま正気を失っているんだ。もうまともに話せないだろうね。だから本人の証言の取りようがなく、アスカとエリオット、そして私の証言をそのまま騎士団の手柄に置き換えて採用した。君の思惑通り、かな?罪状は王族に対する反意、謀り。誰かに暴力を振るったことはないようだが、夫人と息子の監督責任もあるからね。彼は爵位はく奪の上、貴族牢送りとなった。もう世に出ることはないだろう。鉱山という話もあったのだが、ああなってしまってはまともに働けるとは思えないからね」「ふん。正気を失ったおかげで生きながら得た、か。まあいい。もう会うことないだろうしな」ここでレオンが何かに気付いたかのように俺をじいっと見つめてきた。まるで観察するような視線。「なんだ?」腕を組んでズバリと指摘してやると、急に狼狽えたように眼を彷徨わせる。「何か言いたいことがあるのならば、言え」もごもごと言い訳のようなことを並べだすレオン。「い、いや……たいしたことではないんだ。少し気になっただけだから。気のせいだろうし……」「気持ち悪い。さっさと吐け。知っているだろう?俺はまどろっこしいのが一番嫌いなんだ。」嫌い、という言葉に反応してレオンがビシっと固まった。「ええ……?じゃあ、言うけど……。君が言えと言ったんだよ?いい?」「煩い。さっさと言え」「………………アスカ、なんだか……色っぽくない?」「………………は?」何を言っているんだこいつは?軽蔑を隠そうともせず、目をすがめて睨んでやれば、慌てたように顔の前で手を振るレオン。「いや、だから言いたくなかったのだ。気のせいだと思うけれど、なんというか君のそのような表情を見るのは初めてだったから……」「へえー?アスカのどんな表情?」アスナが俺の後ろから抱き着くようにして俺の肩に顎を乗せた。面白がったような言い方をしているが、その声音は低く重い。こいつ、機嫌が悪くないか?「アスナ、距離が近すぎないか?私の婚約者なのだぞ?わきまえてくれ」「はいはい」茶化すようにわざとらしく両手を上にあげヒラヒラと振るアスナ。「で?アスカがどんな表情だって?俺に教えてよ。なあ。長年共に過ごした仲だろ?」最後の言葉には脅しのような響きがあった。そう。当たり前のように人のふりをしているが、そもそもこいつは人ではな
Last Updated : 2025-07-20 Read more