All Chapters of 悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く…はずだったのに話が違うぞ⁈: Chapter 81 - Chapter 90

114 Chapters

新侯爵家

「豚……いや、クレイン侯爵は……あの時のまま正気を失っているんだ。もうまともに話せないだろうね。だから本人の証言の取りようがなく、アスカとエリオット、そして私の証言をそのまま騎士団の手柄に置き換えて採用した。君の思惑通り、かな?罪状は王族に対する反意、謀り。誰かに暴力を振るったことはないようだが、夫人と息子の監督責任もあるからね。彼は爵位はく奪の上、貴族牢送りとなった。もう世に出ることはないだろう。鉱山という話もあったのだが、ああなってしまってはまともに働けるとは思えないからね」「ふん。正気を失ったおかげで生きながら得た、か。まあいい。もう会うことないだろうしな」ここでレオンが何かに気付いたかのように俺をじいっと見つめてきた。まるで観察するような視線。「なんだ?」腕を組んでズバリと指摘してやると、急に狼狽えたように眼を彷徨わせる。「何か言いたいことがあるのならば、言え」もごもごと言い訳のようなことを並べだすレオン。「い、いや……たいしたことではないんだ。少し気になっただけだから。気のせいだろうし……」「気持ち悪い。さっさと吐け。知っているだろう?俺はまどろっこしいのが一番嫌いなんだ。」嫌い、という言葉に反応してレオンがビシっと固まった。「ええ……?じゃあ、言うけど……。君が言えと言ったんだよ?いい?」「煩い。さっさと言え」「………………アスカ、なんだか……色っぽくない?」「………………は?」何を言っているんだこいつは?軽蔑を隠そうともせず、目をすがめて睨んでやれば、慌てたように顔の前で手を振るレオン。「いや、だから言いたくなかったのだ。気のせいだと思うけれど、なんというか君のそのような表情を見るのは初めてだったから……」「へえー?アスカのどんな表情?」アスナが俺の後ろから抱き着くようにして俺の肩に顎を乗せた。面白がったような言い方をしているが、その声音は低く重い。こいつ、機嫌が悪くないか?「アスナ、距離が近すぎないか?私の婚約者なのだぞ?わきまえてくれ」「はいはい」茶化すようにわざとらしく両手を上にあげヒラヒラと振るアスナ。「で?アスカがどんな表情だって?俺に教えてよ。なあ。長年共に過ごした仲だろ?」最後の言葉には脅しのような響きがあった。そう。当たり前のように人のふりをしているが、そもそもこいつは人ではな
last updateLast Updated : 2025-07-20
Read more

新侯爵家2

「前々から気になっていた。確かにアスナは人間ではない。アスカの従魔だ。だが……人間としてアスカと共に生きるのならば、人間としてのルールをわきまえるべきなのではないか?アスカは私の婚約者、君はあくまでも従者だ。従者としての距離を心掛けたほうがいい。理解できるかな?」王族といえどその権威をひけらかすことはないレオンにしては、珍しく高圧的な態度。こうして取り繕うのをやめれたレオンはいかにも王族らしい。こっちの顔がこの男の本性なのだろう。目に見えぬ重圧は、一般の生徒ならば問答無用で地に伏せるレベルだ。だがそれもアスナと俺には通用しない。「ふん!俺はアスカだけじゃなく公爵家からも正式にアスカの側にいることを認められている。公爵からの指示は『何があろうとアスカを裏切るな。何があろうとアスカを護れ。アスカから離れるな』それ以外の指示は受けていない。俺は自分のやりたいようにやる、それが従魔ってものだ。俺に命令できるのはアスカだけ。諦めろ」レオン以上の重圧で押し返した。壁にもたれながら「我関せず」とばかりにそんな二人を観察する俺。いよいよ圧が強まったところで仕方なく二人に声をかけた。「おい、二人とも抑えろ。俺の部屋が壊れる」二人以上の圧を瞬間的に浴びせてやれば、均衡を崩された二人はあっけなく地に伏した。「アスナ、お前の主人は俺だ。その俺が命じる。わきまえろ」「御意」「レオン、お前は確かに俺の婚約者だ。だが、こう付け加えよう。『今はまだ』と」俺の言葉にレオンがピクリと反応した。「どういう意味かな?」「王家には公爵家の後ろ盾が必要だった。父上は俺と釣り合うのはお前くらいしかいないだろうと婚約の話を受けた。だから俺はお前に婚約者となった。もとより公爵家に王家の後ろ盾は必要ない。『俺と釣り合う相手』だと?笑わせるな。そもそも俺は結婚の重要性というものを感じていない。つまり、この婚約で公爵家に利点は無いんだ。今回豚侯爵家の派閥を封じたことで、お前の治世は盤石なものとなった。もう俺の力も公爵家の後ろ盾なども必要ないだろう?安心しろ。婚約者でなくとも友として俺はおまえについてやる。お前の敵に回ることはない。……今のお前は嫌いではないからな」「……私が単に後ろ盾だけのために君と婚約していると?」「………すまん。失言だった。まあ、そういうことにしてお
last updateLast Updated : 2025-07-21
Read more

婚約破棄にむけて

これまでも俺はことあるごとにその言動でレオンに「この婚約は本意ではない」と示してきた。だがこうもはっきりと言葉にするのは初めてだ。アスナが別の存在として現れたことで、俺は初めてレオン本人をきちんと見た。アスナに似た王子、ゲームで俺を断罪したヤツ、というフィルターを通さず、今存在している「レオン」という個人として。ハッキリ言って、これまでの俺の態度は、婚約者としても一人の人間としても褒められたものではなかっただろう。だがそんな俺にもレオンは礼儀を尽くしてくれたし、俺の意志を尊重してくれていた。権力にものを言わせ無理を強いるようなこともしなかった。人を身分で差別することもなく、誰に対しても礼を尽くす。自ら率先して動き、労を惜しまない。俺以外で優秀な人間、といわれれば、俺はまずレオンの名を挙げる。父上が王家からの婚約の打診を受けたのは、それが王家からの要請だったからだけではない。許容できぬとあればたとえ王家の要請だろうとバッサリと切り捨てる、それが父上なのだから。父上が許容し受け入れたのは、相手となるレオンの年齢に似合わぬ大人びた性格とそのスペックの高さゆえ。5歳にして俺の言動は他の子どもとは一線を博した。だからこそ、そんな俺と共に歩めるのはレオンくらいだろうと判断されたのだ。そう言った意味で、王家からの要請だというのみならず、この婚約に利があると判断したのだろう。そんなレオンの何が不満かと言われれば、不満はない。むしろこれまで避けていたのを申し訳なく思うくらいには、レオンへの印象は各段に良くなった。打てば響くような反応が返ってくるし、会話にストレスが無い。俺の言動を咎めることもなくそのまま受け入れる度量がある。おまけに、急な指示にも即座に対処し、俺の意を汲んだ対応をしてくれる。相棒としてはベストだといえよう。アスナのことさえなければ、対等な相手として婚姻を結んでもいいかもしれない。そう思う。そう、アスナさえいなければ。でも、俺はまた出会ってしまった。前世からの未練に。ここまで俺を追ってきたアスナ。全てを捨てて俺のために生きるというアスナの執着が、俺は愛おしい。あんなにドロドロで恐ろしく甘い愛を知ってしまえば、他の愛などでは満たされなくなる。レオンとアスナなら俺はアスナを選ぶ。皮肉なことにアスナと再会できたからこそ、俺は
last updateLast Updated : 2025-07-22
Read more

レオンの答え

「………それ、私に選択肢はあるの?私が君を断罪するとは思っていないのだろう?」「ふは!まあな」「婚約解消したくない、と言えば婚約者でいてくれるのかい?」「……婚約破棄になるだけだ」「じゃあ、答えは一択じゃないか。私に選択の余地などない。君に無理を強いて君に一生避けられたくはない。だから、友となる道を選ぶよ。…………今すぐは無理だが、そのように動くつもりだ。でも、忘れないで欲しい。私は君が好きだ。君を伴侶としたいと思っている。その気持ちは否定しないでくれ」「分かった。お前の気持ちは否定しない。だが俺はお前を友だと思ってそう扱う。それでいいか?」「ああ。仕方がないからね。権力を盾に君の婚約者であり続けることはできるが……そうすると君の心を永遠に失うことになる。ならば、せめて友として共にある未来を選ぶよ」「賢明な判断だ」あーあ、と王子らしからぬ身振りで伸びをするレオンは、どこかスッキリしたような表情をしていた。「振られたな。まさか私が従魔などに負けることになろうとはね。誤算だった」「お前とは年季が違うからな。俺はアスカがこの世界に生まれる前からアスカを思ってきたんだ。お前はたかが10年だろ?」「なんだいそれ。慰めのつもりかい?生まれる前から?そんなのかないわけないじゃないか。ズルいなあ全く」軽口の応酬はいつも通り。だが、二人の間からは殺伐とした空気は無くなっていた。「ズルくていいんだよ。俺はアスカを手に入れるためなら何でもするんだよ」「うん。だろうね。私には背負わなければならないものがあるから……。君が羨ましいよ」最後の言葉には隠しようもない本心が込められていた。「俺が?人間ですらなくなっちまったんだぜ?代償はデカいぞ?」目をくるりと回しておどけて見せるアスナ。「ふふふ。下僕だろうとなんだろうと、アスカは君を選んだ。それだけで十分おつりがでるだろう?」「違いない!」なんだなんだ?なんというか、今にも肩を組んで酒を酌み交わしそうな雰囲気じゃないか。と、レオンが俺を振り返ってニヤリと笑う。「アスカ。婚約を諦めれば私の友となってくれるのだろう?なだば当然君の下僕であるアスナもアスカと共に私の友となる、そう解釈していいのかな?」「まあ、主人と共にあるのが従魔だからな。その解釈でも間違いではなかろう」腕を組みながら答
last updateLast Updated : 2025-07-24
Read more

平和な日常

こうして俺たちに平和な日常が戻ってきた。エリオットは正式に侯爵家を継ぎ、若干15歳にして侯爵家当主となった。だ、当然ながらまだ領地経営なんて分かるはずもなく。しばらくは俺の父上が当主代理として領地を治め、徐々にエリオットに移行していくこととなる。とりあえず片腕であるジェームズをクレインに派遣し、侯爵家の問題点を洗い出すよう頼んだ。うちの使用人も何人かむこうにやって「邸の者全員を躾け直す」と言っていた。まあ、父上が「問題ない」というのなら問題なかろう。俺が後ろ盾となったエリオットの実家の商会からも手伝いを何人か寄越すよう頼んだ。経理に明るいはずだから、使えるはずだ。婚約解消については既に父上に報告済みだ。王家との婚約解消なのだから父上も少しは渋るかと思いきや、あっさりと受け入れられた。むしろ拍子抜けなほどに。「まあ、もともとがお前の意志を無視して結んだものだ。こうなることは覚悟していた。……お前と対等に話せるのは、レオンハルト殿下くらいだと思ったのだ。こうでもせねば、お前は人と関りを持とうとはしなかったであろうからな。だが、すぐにではなくともよかろう。時期を見てからでも遅くはない。殿下はお前のよき友となったようだな?荒療治ではあったが……結果的には悪くなかったろう?」そうか。最初からこうなることも織り込み済みだった、ということか。確かに、婚約者にならなければレオンと関りを持つことは無かった。避けて避けて避けまくったまま、レオンと俺の線は交わることなく終わっただろう。そうなっていたら、こうしてアスナと巡り合うこともなかったのかもしれない。「父上にはかないませんね。確かに仰る通りです。まさかこうなるとは思っておりませんでしたが……。私はレオンが嫌いではありません。婚約者でなく友としてなら、レオンは合格だ。むしろ得難い友だと思っておりますよ」「やはり相性は良かっただろう?」とニヤリと笑う父上。最強と言われる俺だが、いくつになろうとこの人には敵う気がしない。単純に魔力の多さ、という点なら俺が勝つだろう。しかし父上にはそれ以上のものがある。人間としての器がけた違いなのだ。その証拠に、平然とこんなことまで言い出した。「従魔だろうがなんだろうが、戸籍なんぞどうとでもなる。アスナをジェームズの養子としてゴールドウィンから一旦出
last updateLast Updated : 2025-07-25
Read more

数か月後

あれから数か月。レオンとの婚約は形だけ継続。新たにレオンの婚約者候補が見つかり次第、解消に向けて動くこととなった。変わったことと言えば……「アスカ様。いらしておりますよ?」「ああ、今行くと伝えてくれ」そう。ランチをレオンとエリオット、アスナ、俺でとるようになったことだ。あの後、事後処理の説明を兼ねてなんどか共に昼食をとるうち、いつの間にかこうなっていた。レオンが毎回俺たちのクラスまでやってくる。そして4人揃ってあの「レオン専用の部屋」に行けば、レオンが王級から持参したスペシャルなランチが並んでいる。当初はそれぞれランチを持参していたのだが「同じものを食べ親睦を深めたい」とレオンが主張し、メインをレオンが、デザートを俺が、茶をエリオットが持ち寄ることで落ち着いた。本日のデザートはチーズケーキとプリンだ。ちなみにチーズケーキは昨晩アスナが焼いた。あれからこれといった事件もなく、暇を持て余したアスナがついに料理にまで手を出し始めたのだ。手始めに「アスカが好きなデザートから」というので、今は毎日チーズケーキづくりに余念がない。最初は単に混ぜて固めただけのレアチーズケーキだったのだが、今はチーズスフレ、バスクチーズケーキと多種多様なものを作れるようになった。ローストビーフの入った豪華サンドイッチをぺろりと平らげ、もそもそとチーズケーキをつつきながら、エリオットがぼやく。「ねえ、アスナ様あ。なんで毎日チーズケーキなんですか?確かに美味しいですけど!もっと他にあるでしょ?」「は?昨日はチーズタルトだろ?今日のはバスクチーズケーキ。全然違うだろうが。こっちの方が難しいんだぜ?」憮然とした表情でむくれるアスナが、「嫌なら食うなよ」とエリオットのフォークを取り上げた。「ああっ!嫌だなんて言ってないでしょっ」と慌ててフォークを奪い返すエリオット。「そうじゃなくって、チーズというジャンルを攻めなくてもいいんじゃないか、って言ってるんです。桃のタルトとか、アップルパイとか、タルトタタンとか、色々あるでしょ?」「ああ、アスカがチーズ好きなんだよ」「え?アスカ様、チーズがお好きなのですか?」「ああ。デザートだけじゃなくチーズ自体も好きだ。トマトとモッツァレラのサラダはいくらでも食える。チーズを使った料理も好きだぞ?子羊に香草とチーズをのせて焼いたもの
last updateLast Updated : 2025-07-26
Read more

数か月後2

そんな俺たちの様子は周囲に好意的に受け止められた。俺とアスナは家族であり従者だし、俺とレオンは(一応)婚約者。つまり俺とアスナとレオンは共にいても不思議ではない。当初は俺が一方的にレオンを避けてることはよく知られていたので「何故急に仲良くなったんだ?」という疑問はあったのだろうが、婚約者としては今よりももっと親しいくらいが本来あるべき姿なのだ。不本意ながら途中からは何故かレオンとアスナに囲まれて食事をするようになっていたこともあり、もう既に「レオン殿下とアスナ様でアスカ様を取り合っている」と思われている。だが例外はエリオットだ。アスナが転校生であるエリオットの案内役に名乗りを上げた。それはいい。外面のいいアスナは「面倒見のいい人気者」の地位を確立している。だがそこに俺とレオンも加わるとなると、話は別。エリオットに関しては、初対面の際に俺としては割と好意的な態度を見せていた。しかし、だからといってレオンまでエリオットを受け入れるとは思っていなかったに違いない。エリオットとレオンはおかしなところで意気投合してしまっていた。そう「アスナが気に食わない者同士」という点で。「確かにアスカは君を選んだ。だが、あくまでも君はまだ従者なのだ。プライベートはともかく、学園ではわきまえるべきなのではないか?」「ですよねえ!僕もそう思います!学生とはいえ、社交の場でもあるのですから」「はあ?従者だが、アスナの横でアスカを護れるようにと、ゴールドウィンの籍に入ってるんだdぜ?そこんとこ理解してる?てか、負け犬が何を言ってもむなしいだけだぞ?」「はあああ?!負けてませんし!そもそも、アンタの存在自体、認めたわけじゃありませんから!」「エリオット、わきまえろ。アスナは俺の犬だ。つまりアスナを否定することは俺を否定することだと思え。お前は可愛いペットだが、あくまでもアスナの下だからな」俺の言葉にエリオットが複雑な表情になった。「はいはい。分かっておりますってばあ!……アスカ様、取り繕わなくなりましたよね。いえ、悪い意味じゃなくて!最初お会いした時の『私』っていうアスカ様より、僕、こっちのアスカ様の方が好きです!僕の知るアスカ様とはだいぶ違いますけど」「ふふふ。確かに。言葉遣いは乱暴だが、私も今のアスカの方が親しみを感じるな」レオンまでそれに同意する。
last updateLast Updated : 2025-07-27
Read more

噂の払拭

「どういう意味だ?」そうするのは簡単だが、その後が面倒だろう?一応これでも貴族の一員。それなりの配慮は必要だ。何しろゲームのアスカは俺と同じスペックでも断罪されたのだから。俺がいかに強くとも、俺には家族という守りたいものがある。父上も母上も十分強いが、だからと言って俺のわがままから家族や家を巻き込むわけにはいかない。有象無象といえど集団の力となれば侮れないからな。要するに、国家というものの力を舐めてはならないということだ。「敵に回さなきゃいいんだろ?こっちから協力してやればいい。つまり、逆の噂を流すんだ」「どんな?レオンとエリオットの噂に対抗する噂、かつ王家を敵に回さぬもの……。つまり、『レオンがエリオットに好意をもっているのではと気付いた俺が、自ら身を引く』というものか?婚約解消を望んいるのだから結果的に同じことではある。が。俺ではなくエリオットが選ばれたから、というのが許しがたい。普通に考えてみろ。俺はエリオットに劣るか?」要するにプライドの問題だ。案の定アスナも「えー?ここでそれ持ち出しちゃうのか?」と呆れた顔をした。「黙れ。お前にすれば、たかがプライドかもしれない。だが、ハッキリ言うぞ?俺からこの自負を捨てたら何が残る?この誇りこそが今の俺を形作るものなんだぞ?前世の俺はいつも周りを優先して生きていた。だが、俺はもう決めたんだ。俺は俺のためだけに生きる。そのために元からのスペックだけじゃなく、努力して他に負けないだけの力を手に入れた。これでも鍛錬は欠かしたことがないんだぞ?知っているだろう?」「……ああ。知ってる。お前の能力は元からあるものだけじゃない。お前の努力により手に入れたものだ」「そのうえで聞くぞ?俺はエリオットに劣るか?」アスナは首の後ろに手をあててコキリと首を慣らすと、ため息をついた。これは負けを認めた時のアスナの癖だ。案の定、アスナは折れた。「……すまん。無理があったな。レオンがお前よりエリオットに惚れるという設定自体が間違いだった」「ならばどうすればいい?」「さっさと婚約解消を早急にごり押しする。それしかねえな」「俺もそう思う。このまま放置すれば『レオンの側の有責』で婚約解消したように見えてしまうからな。それを避けるために王家は『俺の有責』を作らねばならなくなる。要は、噂が広まり切る前に『
last updateLast Updated : 2025-07-29
Read more

公爵家、動く

父上にエリオットとレオンの噂を報告すれば、やはり既に父上はそれを知っていた。そのうえで俺がどう動くか静観していたようだ。アスナにした話と同じことを伝えれば……「……ふ……っ、ふははははは!そうきたかアスカ!うん!いいな。合格だ!攻撃される前にこちらから攻める。さすがは我が息子!最高だ、アスカ!」父上は引き出しから小さな魔道具を取り出した。俺とアスナの前にかかげ、悪戯っぽい表情で唇の端を上げる。「これは、音声を録音できる魔道具だ。10年前、私は王国からの婚約の申し出を受けた。だがな、ただ単に受け入れただけではないのだ。これはその際の音声になる」再生したとたん、手のひらに乗るような小さな箱から、少しのざわめきと父上の声が流れてきた。『申し訳ございませぬ。ここより、私の言葉を証拠として記録させて頂きます。将来息子に聞かせる機会がくるやもしれませぬゆえ、どうかお許しを。いいでしょう。婚約のお申し出をお受けしましょう。息子は少し……年齢にしては大人びておりましてな。同じ年頃に話の合う相手がおらぬのです。殿下は年齢に似合わぬ賢さをお持ちだ。殿下ならば息子の心を開いてくださるかもしれません。しかし、不敬ではございますが条件がございます。敢えて申し上げます。この婚約により受ける恩恵は、元より我が公爵家には不要なもの。私がこのお申し出をお受けするのは地位や名誉のためではございませぬ。あくまでも我が息子の為。なれば、最終的には息子の意志に任せたいと存じます。婚姻前に息子より婚約解消の申し出があれば、婚約は解消となる。この条件でよろしければ婚約をお受けいたしましょう』『……王家の婚約の打診にたいして、そなたの方が条件をつけるか』『これも国を思えばこそ。息子の魔力は既に私を超えております。成長すれば他の追随を許さぬ力を有することでしょう。そのような息子を御せるものがおりましょうか。未来のことはわかりませぬ。万が一にも息子の反意を王家に向けるようなことになってはなりませぬゆえ……』『………分かった。致し方あるまい。その条件を飲もう。ここに誓おう。我が息子レオン・オルブライトとアスカ・ゴールドウィンの婚約の婚約は、婚姻前にアスカ本人が希望すれば解消することを認める。これでよいか?』『ありがとうございます。このゴールドウィン、心からの忠誠を陛下に
last updateLast Updated : 2025-07-30
Read more

王家に

正直この俺ですら「俺に釣り合うのがレオンくらいだから」と想いはしても、まさか単に「息子に友達を作ってやる」だけのために王家の打診を利用して婚約させたとは思いもよらなかった。父上は俺が思う以上に親バカだったようだ。「父上、王には何と申し出るおつもりですか?」「ん?聞いただろう?先ほどの約束があるからな。お前が言った通りで問題なかろう。こんなところだな。『婚約を解消し、友人であり臣下としてレオンハルト殿下を支えていきたいと息子は望んでおります。王妃となれば容易く動くこと叶いません。いつでも動ける懐刀として、忠実なる臣下として、殿下を支えていきたいのだと。また、息子の魔力は王国屈指。既にこの私をも超えております。王より強い光を放つものを王の隣に置くべきではありませぬ。こう申してはなんですが……その光が他を惑わす可能性もありますゆえ。これ以上我が家門が力を増せば、国に予定な軋轢を生みかねませぬ。息子に関しては、臣下としておくのが妥当かと』これで異論があるようなら先ほどの録音を出してやればいい。反逆者をあぶり出して王家の敵を一掃してやったばかりだ。王も我が公爵家を敵に回すようなことはしたくなかろう。世間には『殿下の命を護り反逆者をあぶり出すための婚約だった。役目を見事果たし、婚約解消となった』とでも言い訳すればよい。いいタイミングだったな、アスカ。アスナもよくやった」ここで父上はニヤリと笑って片目を瞑って見せた。「婚約解消と同時に、今まで隠されていた本当の婚約者としてアスナの名を出せばいい。だろう?」「な、な、な……!」やられた!まさかアスナの前で言い出すとは!思わず言葉を失う俺に対し、アスナが爆笑。「あっはっはっはっは!スゲエなオッサン!」思わず叫んだとたん父上がアスナをはたいた。「誰がオッサンだ!わきまえろと教えただろう!」「失礼いたしました、侯爵様!しかし……念のため再度確認させて頂きますが、私は人に見えても人ではありませんよ?私は従魔。この身体もアスカの魔力と私の力で練り上げたもの。本来は実体のない精霊のような存在です。理解されておりますか?」アスナの瞳がすうっと細くなる。普段は抑えている元来の力の片鱗を会えて解放して見せるアスナ。並みの人間ならば気分を悪くするか、倒れてしまうだろう。人とは異なる魔力。だが父上は平然
last updateLast Updated : 2025-08-01
Read more
PREV
1
...
789101112
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status