All Chapters of 【完結】婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~: Chapter 31 - Chapter 40

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第5話・付き合うまでのお試しデート その2

  ――眞子ちゃん、明日時間ある?(ゆうた) 明日の予定かぁ…。園で会議も無いし、定時で上がれそう。大丈夫とメッセージを送った。――デートしない? 映画でも見に行こうよ(ゆうた) 映画かぁ。遅くなるから週末がいいかな。――じゃあ、仕事の差しさわりが無い金曜日がいいな! その代わり、明日はご飯でも行かない?(M)――オーケー。美味しいもの食べにいこう! という経緯があり指定の駅で待ち合わせ。今日はゆうた君オススメの美味しいお好み焼きやさんに連れて行ってくれるって。嬉しいな。  彼を待っていると、カジュアルルックなゆうた君が現れた。待ち合わせの駅からすぐのお店に連れて行ってくれた。狭くて昭和感のあるレトロなお好み焼き屋さんだった。ソースの香ばしい匂いが漂っている。食欲増進の匂いだぁ。  小さなテーブルに鉄板が敷かれた席に案内され、ゆうた君と向かい合って座った。彼イチオシの海鮮ミックスを二枚オーダーしてくれた。「ゆうた君は仕事帰り?」「ううん。今日は休みだったんだ。久々にジム行って楽しかったよ」 あ、だからカジュアルルックなんだ。仕事帰りの服装には見えなかったので納得した。「ゆうた君は、どんなお仕事しているのか聞いてもいい?」「ああ。なんかITの雑用みたいな仕事してるよ。エンジニアって聞こえがいいように言いたいけれど、仲間内でわいわいするような、なんかそんな仕事。社風も自由だし、結構ゆるい会社なんだ」「へえ、すごいね。私はパソコン苦手」「こっちからすれば幼稚園の先生の方が大変そうだって思うよー。よく聞くけどさ、やっぱ実際モンペとかいるの?」 い ま す よ ぉ!  「私の担当クラスにとんでもないモンスターがいるよ」「わ。それはご愁傷様。ちなみにどんな人?」「一言では言えないなぁ。とにかくモンスター! この前なんか、幼稚園のイベントで自分が担当している当番をサボっちゃって。無茶苦茶だったの」「それは酷いねー。あ、お好みきたよ」 ゆうた君の興味が反れてお好み焼きに集中してしまった。自分で話を振っておいて…と思ったけれど、そんなに長く続ける話でもないし、仕方ないか。  でもきっと、玄さんだったら続きの話も聞いてくれそうだ。あの人いつも短い文章だけれど、私を気遣うメッセージをくれるから――なんて…比べちゃいけないよね。彼には彼のよ
last updateLast Updated : 2025-04-29
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第5話・付き合うまでのお試しデート その4

  ――そうか。聞いておいてよかった。あと、苦手なものや食べられないものはあるか?(玄) えっ。そんなの聞いてくれるんだ。  有難すぎる気遣い。この人絶対モテるよ。一体何者なんだろう?――牡蠣だけが食べられないけど、あとは何でも食べるよ!(M)――牡蠣ね。オーケー。それは外すようにする。じゃ、来週の都合のいい日にしよう。眞子のスケジュール教えて。(玄) 私は玄さんに空いている日を送り、次の約束が決まった。今週の金曜日は残念と思ったけれど、別の日に決まって嬉しくなる。また、会いたい。  でも、玄さんは謎だらけだ。  お互いなにも知らない者同士。だからこそ食事の前に苦手なものや食べられないものを聞くのはマナーのように思えた。  ゆうた君は決して悪気があったわけじゃない。美味しいものを食べさせたい、喜んで欲しいっていう気持ちは嬉しかったし、牡蠣がちゃんと食べれるなら、なんの問題もなかった話。私もきちんと伝えなきゃいけなかった。遠慮しちゃったから結果こうなっただけ。 次、ゆうた君に会ったらちゃんと言おう。  理世ちゃんは同時進行でもいいって言ったけれど、やっぱり私はそんな器用な事は出来ないし、玄さんと約束が被って残念と思ってしまうのは、ゆうた君に失礼だ。 それで気付いた。私、玄さんが気になっている。 まだ、好きとかそういうのじゃないけれど、もっと話をいっぱいして、どんな人なのか知りたいって思う。  玄さんのことを考えていると、ピロンピロンと通知が入ってきた。  最近SNSの方に大量のメッセージが届くのだ。あおいさんに心ない事を言われてから嫌になってあれ以来触っていないけれど、ダイレクトメッセージが鬼のように届く。見るのもいやだけれど、初期登録した時にメッセージが入ると通知メールが届くようになっていて、それが次々と入ってくるのだ。  更に幼稚園でも、私宛の無言電話や真っ白の手紙が投函されるようになった。些細なことだけれど、嫌だなと思っていたら、ゆうた君と約束していた金曜日、事件が起こる。   &n
last updateLast Updated : 2025-04-29
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第5話・付き合うまでのお試しデート その5

 彼女が差し出した画面には私がホテルのバイキングで食事をしているシーンがバッチリ顔出しで映っている。相手はわからないけれど、このホテルは確かTakaさんと行った蓮見リゾートホテルだ。  この写真はどうやらSNSの投稿記事の一部のようで、ハッシュタグには『#Mさん』『#僕の彼女』『#運命の女性』『#探しています』『#早く会いたい』等と書いてあった。 なにこれ、気持ち悪っ…。  これを投稿したのは、きっとTakaさんだ。しかも私の写真隠し撮りして勝手にSNSに上げてるの?  信じられない!「Mさんって貴女のことよね。それにこの投稿者は、貴女のことを『運命の女性』って探し回っているのよ。勇太に付きまとっているウザい女だから何とかして、って言っておいたから」「言ったって…無断で私のSNSの情報をこの人に教えたの!?」「付き合っているんでしょ?」「そんなわけないよ。勝手なことしないで!」「勝手はどっち? 勇太とムーミンカフェに行って、スカイツリーでデートまでして、どこまで男をたぶらかせば気が済むワケ? もう彼氏いるんだから、勇太にちょっかい出さないで!」 つり目の彼女は私を物凄く睨んでくる。  どうしてこんな展開になっているの?「私、ゆうた君とも、この人とも付き合ってない。誤解しないで」「とぼけてもムダ。同じ日の同じテーブルで写真アップしてるじゃない。位置情報も同じだし。ムーミンカフェの時もそう。貴女のSNSはずっとチェックしているからわかるもの。たーくさん書き込みもしたし、ね?」 待って。ずっとチェックしてるって…。  しかも書き込みまで…。まさかこの人―― 「その顔、私が誰だか気付いたようね?」  彼女は――あおいさんだ!  だから私が羽鳥さんの事で疲弊していた時、やたら攻撃的だったんだ。  あおいさんがゆうた君の彼女だったなんて。だからゆうた君と出かける私が面白くなくて、チェックしていたんだ。「私はゆうた君から、女生徒は誰とも付き合っていないと聞いたわ。あおいさんのような
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第5話・付き合うまでのお試しデート その6

 週明けの月曜日に、私はそのことを別の職員から聞かされた。  ブスが二股かけている、ビッチを辞めさせろ、等、手紙には誹謗中傷に当たる記載があったらしい。それを聞いて、思い当たるのはつり目の彼女。  あおいさん――ゆうた君とはもう関係なくなった私に、ここまでするの?  でも、おかしいな。どうして私がこの幼稚園で働いているって知っていたんだろ…。  もしかして、何らかの方法で職場を突き止めたのかな。本当に怖い。 SNSの通知はもう既に切ってあるけれど、恐らくとんでもない数のダイレクトメールが彼女から届いているだろう。内容は誹謗中傷だろうな。  SNSは怖くてもうログインしていない。折角時々友達と繋がったり、リアルでない仮想の世界の友人とも仲良くなれたりして、楽しかったのに。 考えるのに疲れてしまった。今年はクラス担任としても辛いし、プライベートまで辛くなってしまうなんて。 もう、全部やめたいなぁ。  私、何も悪い事していないのに・・・・。 でも幼稚園にまでやって来て、わざわざ手紙入れるなんて酷い事をするかなぁ、と考えてみるけれど、ゆうた君に粘着しているあおいさんなら、迷惑を省みずやってしまうのかも?  誰に相談したらいいのかと思っていたら、明日は玄さんと約束している日だ。ちょっと相談してみようかな?  翌日。待ち合わせした駅で玄さんと再会。通行人も振り返る程のイケメンぶりは相変わらず。  本当にこんな人と知り合いになれたのか。なんかすごいな、マッチングアプリって。普段だったら絶対に知り合いにならない人だもん。「眞子」 名前を呼ばれ、爽やかに笑う玄さんに心はトキめいてしまう。  ああ…嫌な気分とかそういうの、全部吹っ飛んじゃうなぁ。「玄さん、会えて嬉しい」「そっか。俺も嬉しい」 危うく本気にしそうになるが、こんなのぜったい社交辞令。イケメンが庶民に会いたいとか、そんなわけ無い。真に受けないようにしなきゃ。「で? 眞子は俺と付き合う気になった?」「まだだよ。何度かデート
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第5話・付き合うまでのお試しデート その7

「幼稚園のメニューには牡蠣の入ったものは全然出ないし、プライベートでも食べないようにしていたから、つい忘れてた。牡蠣を食べて気持ち悪くなっちゃうって、どちらかと言えばアレルギーに近いような気がする」 この前ゆうた君とお好み焼きを食べた時、久々にしんどくなった事を思い出した。「先生にも苦手があるって言うのは、園児に言えない秘密だな」「そうそう。バレないようにしなきゃ。威厳が崩れちゃう」「眞子の話を聞いていると、幼稚園は毎日楽しそうだな」「うん。楽しいよ。子供たちは可愛いし、もうすぐお泊り保育なの」「どんなことするの?」「宿泊施設に一泊するんだけれど、ついたらまず宝探しをするの。いっぱい遊んで、カレー作ってみんなで食べて、夜はキャンプファイヤーとか。次の日は想い出の写真を入れるフォトスタンドを手作りするんだよ」「へえ。どれも楽しそうだ」 男の人はこういう話に興味はないと思っていたのに玄さんは違うみたい。興味ある感じで私の話を聞いてくれる。嬉しいな。「園外だったら、モンペの攻撃も心配しなくていいな」「まあね」「どうした。なにかあった?」 思わず浮かない顔をしてしまった私を心配して玄さんが聞いてくれた。丁度いいから手紙の件を相談してみよう。「あのね、玄さん。実は園に嫌がらせの手紙を毎日入れられているの」「えっ」 予想外の言葉に彼は切れ長の瞳を開き、驚いた。「誰宛てとか特に無いけれど、多分私に向けてだと思うの」「どうして眞子だって解るんだ?」「犯人に心当たりがあるから」「心当たりって…まさか、モンペが?」「ううん、違うよ。直接の知り合いじゃないけれど、うっすら知っている感じの人につけ狙われている感じ」「複雑そうだな」「相談に乗ってくれる?」「いいよ。アドバイスできることがあるかもしれない」 そう言ってくれたので、友人男性の別れた彼女に勘違いされて攻撃された翌日から、その嫌がらせ手紙が入るようになった詳しい経緯を語った。玄さんは私の話を真剣に聞いてくれた。犯人があおいさんという女性であると思うという自分の考えも。「その彼女に眞子の自宅は知られているのか?」「わからない。でも、知られてないと思う。家に手紙は届かないの。幼稚園だけ」「心配だな」 玄さんは長い指を顎に当て唸っている。私の相談ごとを真剣に考えてくれているんだ。
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第5話・付き合うまでのお試しデート その8

  「眞子、困ったら遠慮なく俺に言うんだぞ」 玄さん…。嬉しい反面、ますます彼に謎を感じた。「聞いてもいい? どうして私にそこまでしてくれるの? ただ、アプリで出会った素性も知らない人間だよ?」「俺は眞子が気に入ったし、君が気になるからだ。それだけじゃいけないか?」 その言葉は嘘に聞こえてしまうのが悲しい。婚活アプリで出会った他の三人は、みんな色々と訳アリだった。玄さんみたいないい男が、私みたいな庶民にアプローチする意図が解らない。  もしかして玄さんって、カタギじゃないとか?  飲食店って、的屋(てきや)――縁日や盛り場などの人通りの多いところで露店や興行を営む業者のこと――だったりして!  縁日のお店なら子供も利用するし、だったら彼は…鋭そうな瞳や時折物憂げに見せる顔やしぐさ。気品も色気もある玄さんは、若頭的な立ち位置とか? それなら納得だ。やっぱり彼には、深入りしないように気を付けなきゃ。 玄さんが普通の男性だったらきっと他の女性が放っておかない。知り合って間もないけれど、優しいし気も利くし、私の話をちゃんと聞いてくれる。その上ブラックカード持っているようなお金持ちで、イケメン。売れ残っているはずがない。そもそも売れ残りなんていう失礼な言葉ではくくれない。「ありがとう。困ったら頼りにするね」 頑なに否定するよりも肯定しておいて頼らなければいい話。もう、玄さんの謎には深く追求しないようにしよう。きっと彼は、危険な男だ。 それから余すことなくデザートも堪能した。ふわふわ白玉の抹茶きな粉添えという可愛らしい白玉団子に抹茶を混ぜたきな粉がまぶしてあった。  柔らかくてモチモチしていて、とても美味しかった。和菓子好きだから、余計に。「ご馳走様でした」 二時間の食事コースはあっという間だった。玄さんと楽しく話が盛り上がり、相談事だけじゃなくて趣味とか映画の話で盛り上がった。こんなに話が合う人は初めてだ。話が合うというよりも、何というか直感みたいなものが、合う気がする。彼と話していると居心地が良くて、楽しくて、時間の流れが早い。今日も気が付けば食事の時間が終わっていた。「名残惜しいけれど今日は解散しようか。タクシー呼んておいたからそれで帰って欲しい」「何から何までありがとう、玄さん」「大したことはしていないよ。眞子が心配なだけ。また次
last updateLast Updated : 2025-05-01
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第5話・付き合うまでのお試しデート その9

 『眞子っ。大丈夫か!?』「玄さっ…ごめんなさい。こんなこと初めてで……」 震える涙声の私に向かって玄さんは優しく言ってくれた。『無理しなくていい。相手が女性とはいえ、ストーキングされるのは怖いよな。あの…良かったら今から家に迎えに行こうか? ホテル取るから、そこで休んだらどうだ? 今、一人でいるのは怖いだろ?』 パニックになっていて、正常に考えられなかった。 とにかく一人でいるのが怖くなって、玄さんに伝えた。「できればそうしたい。あの、玄さん…た、頼ってもいい……?」『勿論だ。すぐ行く! 眞子の自宅を教えてくれるか?』 見張られているみたいで恐怖がすぐ傍に迫っていると感じた私は、玄さんに住所を伝えた。ホテルから幼稚園に仕事へ出られるように、着替えを詰めて必要最低限の持ち物を用意して彼の到着を待った。 玄さんはタクシーで家に戻っている途中だったみたいで、私からの連絡を受けて引き返し、足立区までやって来てくれた。登録した玄さんの番号から家の前に着いたと連絡があり、慌てて自宅を飛び出た。「眞子っ」「玄さん!」 玄さんに駆け寄り思わずしがみついてしまった。そうしないと震えが止まらなさそうだ。「怖かっただろう。もう大丈夫だ」 心地よく響く低い声。玄さんの声に心底安心した。 本当の彼女でもなんでもない私にここまでしてくれる優しい人。彼の正体は全く謎に包まれているのに、こんなにも安心するのはどうしてかな?「近くのビジネスホテルまで行ってくれますか。場所はどこでもいいです」 震える私を抱きしめながら玄さんがタクシーに乗せてくれ、運転手に行先を告げてくれた。 江北駅前にはホテル等が無い為、自宅からタクシーで十分ほど走った近距離の駅近ビジネスホテルへ連れて行ってくれた。正直震えていて外の景色を見る余裕がなかったため、着いた先がどこなのかわからなかった。「降りれるか?」「ありがとう」 手を
last updateLast Updated : 2025-05-01
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第5話・付き合うまでのお試しデート その10

 封筒を見つめているとコンコンとノックされたので扉を開けた。入室許可を得た玄さんが戻って来てくれたのだ。「ごめんなさい、私のことで迷惑をかけてしまって」「いいよ。眞子を置いて帰る方が心臓に悪い。心配だから」 嫌そうな顔はされなかったけれど、よく考えたら迷惑をかけていることに変わりない。「その封筒が一緒に見てほしいってやつか?」 玄さんはテーブルの上に乗せた封筒を見つけて聞いてくれた。「自宅のポストに投函されていた白い封筒よ。幼稚園に嫌がらせで届いている封筒とまったく同じもので…。怖くて開けれなくて…」「見ようか」 優しい顔つきだった玄さんの目が一気に鋭くなった。この人はこういう顔も出来るんだ。やっぱり反社(反社会的勢力の略で、暴力や威力、あるいは詐欺的な手法で不当な要求行為により、経済的利益を追求する集団や個人の事を指す。暴力団・半グレ集団・犯罪組織等をまとめて呼ぶ)の人なのかな?  でも、玄さんは優しい。だからきっと違うと思いたいけれど、反社の人は一般人に優しいって聞くし…。  玄さんが反社の人かもしれないと、どうしても変なことを深読みしてしまう。  そんなわけ無い、彼は違う、と自分に言い聞かせた。とにかく私の傍に居て問題を解決しようと尽力してくれるのは、紛れもなく玄さんだけだ。「眞子、どうした?」 黙ってしまった私に、玄さんが声を掛けた。 「ごめんなさい、考え事しちゃって。なにが書いてあるんだろうってあれこれ考えたら、怖くて」 反社の人ではないかと疑っていたとは言えずに誤魔化した。「それもそうだな。良かったら俺が先に見てもいいか?」「うん。ありがとう。そうしてくれると助かる」 こんな精神的に弱っている時に誹謗中傷の内容を見るのは正直言って辛い。玄さんの有難い提案に乗る事にして彼に封筒を託した。「じゃあ、俺が開けるな。あと念のため撮影しておこうか。証拠になるかもしれない」「そ、そうだね。考え付かなかった。だめだね、私…」「こんな時にあれこれ考え
last updateLast Updated : 2025-05-02
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第5話・付き合うまでのお試しデート その11

「白紙だ」 玄さんが私に中身を見せてくれた。ハガキの大きさの、何時も幼稚園に届くものと同じ白い用紙には、彼の言う通り何も印刷されていなかった。「はく…し」  それを見て余計に混乱する。  あおいさん、一体どういうつもりなの――? 「憶測だから真意は定かではないけれど、この封筒を投函した人物は眞子を怖がらせることが目的だろうな。幼稚園になら、不特定多数の誰に送ったか言い張れるが、君のマンションのポストだと話は変わってくる。確実に眞子を狙っている。警察なんかに相談されても、真っ白の封筒をポストに入れた程度では、ストーカーや嫌がらせ行為として考慮してもらえない。なかなか厄介な相手だな」 あおいさんは厄介な相手――なるほど。だからSNSでも写真からターゲットを絞って私に辿り着いたりできたんだ。SNSもくまなく探せば、私が幼稚園の教員をやっていることはわかるだろうし、更に辿ればさくら幼稚園勤務ということがわかるかも。過去に園行事の事に触れたり、卒園式の事を書いたりした。勿論、写真はアップしたりしていないけれど、×月×日、今日卒園式で、というような内容から、その日行事があった園を探せば、大体アタリを付ける事ができる。 ほんの少しのヒントから、あっという間に辿り着くことができる怖さ。  SNSって、本当に怖い。もう絶対やらない! 「とにかく、眞子の知り合いの男性に、その女性からのつきまといを止めるように言ってもらった方がいいな。俺と付き合っていると、そういう風に言えばいい」「え…そんなこと言ってもいいの?」「眞子が俺との付き合いを本当にオーケーすれば話が早いんだけど」「それは…もう少しお互いのことをよく知ってから……」 どうしてお付き合いをする方向に持って行こうとするんだろう?  こんなハイスペックな男性が、私みたいな平凡な幼稚園教員に情熱を傾けてくれるなんて、なにか理由が無いとおかしい。やっぱり反社なの…?「まあいい。慎重な方が眞子らしいし、攻略し甲斐があって燃える」 ゲーム感覚なんだろうか。私を落とせるかどうか、みたいな?  だったら嫌だな。やっぱりこの人に心を傾けるのはダメだ。気を付けよう。「とにかく今は気を付けることだな。毎日電話して安否確認しよう。眞子に連絡が取れない時は、さっき教えてもらった自宅に向かうようにする。いいか?」「うん
last updateLast Updated : 2025-05-02
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第6話・忍び寄るもの その1

 翌日からお泊り保育前日まで、事情を説明して百花の住居にお邪魔させてもらった。間のいいことに、旦那様は出張で今週いっぱいは不在で、快くお泊りを許可してくれた。渡りに舟だ。 それから、お泊り保育の前日の帰り際マンションの管理人さんに会った。七十歳くらいのおばあちゃんだけれど、足腰もしっかりしていて元気よく挨拶してくれる。  不審な手紙が投函されていて、この辺りをウロウロする女性がいたら教えて欲しいと彼女に頼んでおいた。すると、パトロール回数を増やしてくれた。結果不審者はいないが、昨日私の兄が訪ねて来てくれたと聞いた。なんでも妹が心配だから、と。変わったことが無いか色々と尋ねてくれて、きちんと免許証も見せてくれたと言っていた。  お兄ちゃん…。 きっと百花がこっそりお兄ちゃんに言って様子を見に来てくれたんだろうな。家族の存在は本当に有難い。  とにかく、みんなのお陰であれからあおいさんの嫌がらせの手紙は自宅には届かない。園の方には相変わらず投函が続いているけれど、みんな慣れてしまったようで、封も開けずに収納ボックスへ入れている。どうせ変な手紙で重要なものではないからと、そういう理由だ。ただ、証拠のために残そうと、捨てずに不要ボックスへ入れて保管している状態。 無事に家に帰ったので、玄さんに連絡っと。スマートフォンを操作し、電話をかけると一瞬で玄さんが応対してくれる。きっと、私の帰りを待っていてくれたんだ。「もしもし、眞子だよ。今帰った」『無事?』「うん、無事だよ。今日は久々に自宅に戻ったの」『なにか困ったことは無いか?』「大丈夫。明日からお泊り保育へ行ってくる」『そうか。気を付けて』「ありがとう。玄さんもお仕事頑張ってね。お店は順調?』『ああ。眞子の応援のお陰で、順調そのものだ』「今度、招待してくれる?」『業種を当てられたらな』「わかった。考えておくから」 的屋と言いそうになったが、それはまた次の機会に聞いてみよう。  それよりドキドキが止まらない。玄さんの
last updateLast Updated : 2025-05-02
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