Semua Bab 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~: Bab 41 - Bab 50

65 Bab

宮坂耕次という男 PAGE2

 桐島主任は「分かった」というようにわたしに頷いて見せ、電話の保留を切った。 「――お待たせしました。お客様には、『矢神は本日お休みを頂いています』と伝えて頂けますか? あと、『お約束のない来客はお取り次げない決まりになっております』と。……はい、よろしくお願いします」  主任がわたしの拒絶の意味を汲み取って下さってホッとした。受付の人をどうにか納得させてくれて、彼は受話器を戻した。 「……主任、ありがとうございました。ご無理を言ったみたいですみません」 「いやなに、部下を守ることも上司の大事な務めだからね。矢神さんの怯えようが何だか尋(じん)常(じょう)じゃなかったから、会わせない方がいいと判断したまでだよ」 「……そうですか」  主任に助けてもらえたことは素直に喜ぶべきなんだろうけれど、巻き込んでしまったことが本当に申し訳ない。 「宮坂って人、矢神さんが会いたくない相手なんだよね? 詳しい事情は訊かないけど、もし困ってるなら小川先輩に相談するといいよ。男の僕には言いづらいことも、女性同士なら話しやすいかもしれないしね。彼女は君の指導係だから頼って損はないと思うよ」 「はい、ありがとうございます。そうします。……あの、主任。このこと、会長には……?」 「君が報告してほしいって言うなら、僕からお伝え
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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宮坂耕次という男 PAGE3

 ――宮坂くんは入江くんと違って、大学からの同級生だった。彼は入学した時から、わたしのことをロックオンしていたらしい。 もっと可愛い子なんて他にもいっぱいいたのに、どうしてわたしみたいな地味で目立たない子がよかったんだろう? それは今でも不思議に思っている。 ……と、ここまではよくある一目ぼれだったのかもしれないけれど、宮坂くんの異常さはここからだ。 わたしは二年生の頃に一度、彼から告白されたけれど、ずっとハッキリとは返事をしていなかった。それにも関わらず、彼はわたしの彼氏になったつもりでしつこくつきまとってきたのだ。そのうえ、わたしと付き合ってもいない入江くんを目の敵にするようになった。 それ以来、彼はことあるごとにわたしのスマホに電話攻撃や大量のメールやショートメッセージを送りつけてくるようになり、それを無視すれば「どうして返事をくれないんだ」「どうして電話に出てくれないんだ」と所かまわず構ってちゃんになる。「俺たち付き合ってるのに」と。 入江くんにはこのことで何度も相談に乗ってもらったし、彼から何度も宮坂くんに「やめろ」と注意してもらったけれど、恋敵だと思い込んでいる相手の忠告なんて素直に聞き入れてもらえるわけもなく、彼のつきまとい行為はずっと続いている。 そしてとうとう、会社にまで乗り込んできた。こうなったらもう、迷惑を通り越して恐怖でさえある。両親にもこのことはまだ話していないので、どう対処していいのか分からなくて困っているのだ。「……わたしも悪かったんだと思います。告白された時に、ハッキリ『あなたとは付き合えない』って断ればよかったのに。ずっと返事を曖昧にしてたからこんなことに――」「矢神さん、それは違うんじゃない? このテの男は、たとえ断ってもしつこくつきまとってくるよ。私もこれまで色~んな男を見てきたから分かるんだけどさ。だから、『自分も悪い』なんて思っちゃダメ。あなたは悪くないから。ねっ?」「…………はい。ありがとうございます」「って言ったところで、警察に頼っても何もしてくれなさそうだし。どうしたもんかなぁ?」「そうですよね……」 こういう時、頼れる相手が少ないというのは困りものだ。とりあえず入江くんには話すつもりだけれど、やっぱり最終的には会長の力を借りるしかないのかな? あまりご迷惑をかけたくはないのだけれど……。「
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宮坂耕次という男 PAGE4

 ――お昼休み。わたしはいつもどおり社員食堂に来て昼食を摂っていたけれど、何だか食欲が湧かなかった。「…………はあぁぁ~~~~っ」 注文していたのは焼きサバ定食のゴハン少なめ。お魚を選んだのは、お肉よりもあっさりしていそうだからこれなら食べられるかな、と思ったからだったのだけれど……。あまり変わらなかった。何だか胃がキリキリ痛んで、ゴハンが喉を通らないのだ。 こういう時、佳菜ちゃんでもいてくれたら少しはおしゃべりして気が紛れるのだけれど、『今日は同じ部署の人にランチを奢(おご)ってもらうから』とメッセージが来ていた。まあ、彼女にだって彼女なりのお付き合いがあるんだし、それは仕方のないことなんだけど。「――あれ? 矢神、お前昼メシそれだけ? ちゃんと食わねえと午後からもたねえぞ」「あ……、入江くん。今日はなんか食欲なくて」「なんで? どっか悪いのか?」 心配そうに訊いてくれた彼に、わたしはあのことを話すべきか悩んだけれど、結局打ち明けることにした。「そういうわけじゃないんだけど……。今日の午前中にね、宮坂くんがわたしを訪ねてこの会社に来てたみたいなの」「何だって? アイツが!?」「ちょっ、入江くん! シーッ! 声大きいよ。入江くんはただでさえ地声が大きいんだから、気をつけないと」 彼が大声を張り上げたので、周りの人が「何だ何だ」とこちらのテーブルを振り返ってくる。その中には会長と桐島主任のカップルもいたので、わたしは慌てて彼をたしなめた。「あ、悪(わ)りい。……でも、まさか会社まで押しかけてくるなんてな。お前、大丈夫なのか?」「うん。受付からの内線電話を取って下さったの、桐島主任だったんだけど。わたしの怯えようを見て、機転を利かせて追い返すように言って下さったからわたしは会わずに済んだの。これから先も、宮坂くんのことは取り次がないようにって受付の人に釘を刺してくれたって」「そっか、それならいいけど……。よし、決めた! 今日から帰りはオレがお前をマンションの前まで送ってく。あと、朝もマンションまで迎えに行くよ」「ええっ!? いいよそんなの! なんか申し訳ないよ! 朝もなんて、早起き大変だよ?」 いくら何でも、それは過保護すぎないだろうか? 彼がわたしのことを心配してくれている、その気持ちはものすごく嬉しいけれど……。「オレのことはこの
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宮坂耕次という男 PAGE5

「でも、宮坂くんがあんなふうになっちゃったのってわたしにも原因があるんだよね。やっぱり、告白された時にハッキリ断わってたらこんなことには――」「それは違うだろ。アイツ、出会ったばっかの頃からお前にやたら執着してたし、元々ヤベえヤツだったんだって。だからお前が責任感じることなんかねえよ。そんなふうに思ってたらお前、アイツの思う壺じゃん。だから、『自分が悪い』なんて考えるな。分かった?」 入江くんは美味しそうにカツカレーをガツガツ食べながら、小川先輩と同じようなことを言ってわたしを慰めてくれた。彼はわたしと(友だちとしての)付き合いが長いので、言いたいことはズバッと言ってくれる。「……うん、だね。っていうかさっき、小川先輩にも同じようなこと言われたなぁ」「だろ? 誰が聞いたっておんなじこと言うよ。とにかく、今はちゃんとメシ食えよ」「うん」 入江くんと話せたことで、少し食欲が戻ってきたわたしは、焼きサバ定食をキレイに平らげたのだった。   * * * * ――その日の帰り、入江くんは入社式の日の夜と同じように、わたしをちゃんとマンションのエントランスまで送り届けてくれた。「入江くん、送ってくれてありがと。お疲れさま。気をつけて帰ってね」「オレは大丈夫だよ。つうかお前こそ気をつけろよ。ちゃんと戸締りして、インターフォン鳴ったら相手確かめてから出るようにしろ。不用心に玄関に出るなよ」「うん、分かった」 宮坂くんが会社まで来るようになってしまった以上、このマンションにまで来るだろうことは簡単に想像できる。インターフォンが鳴っても、出るのが怖いくらいだ。「でも、いつまでこんなのが続くんだろうな。いや、オレは別に構わねえんだけどさ、お前息詰まっちまうよな……」「それなら大丈夫。今度の日曜日にね、佳菜ちゃんと遊びに行くことになったから。映画観て、帰りにわたしの服、佳菜ちゃんが見立ててくれるって」「おー、そっか。よかったじゃん。気分転換に二人で行ってこい」「うん! ホントは入江くんも一緒に行けたらいいんだけど……ムリだよね」 こんなことを言ったら彼を困らせるだけだとわたしも分かっているし、彼に依存じているみたいなのが自分でもイヤだ。彼にも彼の都合というものがあるはずだから。「うん……。その日はオレ、ちょっと別の用事があるんだ。ゴメンな。あっ、でも相
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-18
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宮坂耕次という男 PAGE6

 ――その日から、入江くんは毎日朝と仕事帰り、ボディガードも兼ねて本当にわたしをマンションの前まで送迎してくれた。そのおかげなのか、その間には宮坂くんから何のアクションもなく、わたしはホッとしていた。 何より、最近になってやっと「好きなんだ」と自覚した相手が側にいてくれることが心強い。恋ってやっぱりすごいんだな……。 そして日曜日、わたしは佳菜ちゃんと二人で朝から映画を観に行って、その後通勤用やおしゃれ着などの服を彼女に選んでもらった。ちなみに観た作品はなんと恋愛映画! 女同士でよかったなぁと思った。入江くんと一緒だったら気まずくて観られたもんじゃなかったから……。 そして、服はファストブランドのお店で買ったので出費は抑えられた。まだ初任給が入るまで日にちがあるので、なるべくお金はかけたくない。マンションの家賃は実家持ちなので、そこは心配しなくていいのだけれど。 お給料が入るまでの生活費も、実は実家からの仕送りで賄(まかな)っている。これからは、その分を実家に返していかないと。「じゃあね、麻衣! また明日、会社でね!」「うん、また明日。今日はいい気分転換になったよ。ありがとね」 ――佳菜ちゃんと代々木駅前で別れて、わたしはひとりでマンションへ向かって歩いていた。……でも、その時にふと、わたしの後をついてくる足音に気づいて背中を冷たいものが伝った。 足を速めて、マンションへと急ぐ。けれど、もうすぐマンションというところで足音の主がわたしを呼び止めた。「――麻衣。なんで俺から逃げるんだよ? 連絡しようとしてもブロックされてるし、会社に会いに行っても追い返されるし」 その声は、紛れもなくあの宮坂耕次のものだった。わたしは振り返ると、ありったけの拒絶の気持ちを込めて彼を正面から睨みつける。本当は怖かったし、手足の震えが止まらないけれど。「め……っ、迷惑だからに決まってるでしょ? もういい加減、わ、わたしにつきまとうのやめてよっ! だ……っ、だいたい、付き合ってもないのに下の名前で呼ばないで!」「麻衣、お前が自覚してないだけだ。俺たちは付き合ってるんだよ。三年前、俺が告った時からずっとな」「そ……っ、それが迷惑だって言ってるの! どうして分かってくれないの……っ!?」 話が堂々巡りになり、わたしはもう泣きそうだった。――そんな時、救世主が現れた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-21
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本当に助けてほしい人は…… PAGE1

 思わぬヒーローの登場に、わたしはとうとう幻覚が見えるようになってしまったんだろうか? 主任の後ろに隠れると、背中からは何だか後光が差して見える。 「麻衣、何なんだ? 誰なんだよ、この男? お前のオトコなのか?」 「僕は矢神さんの会社の上司だけど。もう一度訊くよ。君は、矢神さんにどんな用があるのかな?」  取り乱す宮坂くんとは対照的に、わたしが答える前にクールに淡々と彼に接する主任。今日ほど主任のことを頼もしく思ったことはないかもしれない。 でも、わたしが本当に助けに来てほしかったのは……。こんなこと思ったら、せっかく助けて下さった主任に失礼かな。 「主任……、彼が宮坂くんです。こないだ会社に来てた」  わたしが主任のジャケットの袖を掴んで小声で言うと、主任は小さく「うん」と頷いて下さった。彼に対して抱いている恐怖心も理解して下さったらしい。もしくは、さっきの彼とのやり取りが主任の耳にも入っていたのだろうか。 「矢神さんはどうやら、君に迷惑してるみたいだ。今日はこれで帰ってくれないかな? それでもしつこくここに残るっていうなら警察呼ぼうか? それとも僕が相手になってやろうかな。これでもキックボクシングやってるんだけど」  主任が指の関節をボキボキ慣らし始めると、宮坂くんの顔色がみるみる青ざめた。どうやら「キックボクシングをやっている」と主任が言ったのをハッタリだと思っていたらしい。 「いえ……、今日は帰ります。――麻衣、また来るよ」 「もう……二度と来ないで!」  わたしは震える声で、精一杯の虚勢を張った。でも、宮坂くんの姿が見えなくなった途端にヘナヘナと体の力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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本当に助けてほしい人は…… PAGE2

「ああ、僕の住んでるアパート、このすぐ近くなんだよ。今日はこれから出かけるところだったんだけど、偶然通りかかったら君が男につきまとわれて困ってるみたいだったから」「そうだったんですか。お出かけっていうと、会長と……ですか?」 ……なんだ、偶然だったのか。そりゃそうだよね、主任には絢乃会長というステキな婚約者さんがいらっしゃるんだもの。でも、ガッカリはしない。「うん。これから二人で、結婚指輪を注文しにね。そのついでに食事したりとか、ドライブデートしようかな、って」「そうなんですね。でもわたし、実は別の人が助けに来てくれたらよかったのになぁって思っちゃいました」「もしかしてその人って、入江くん?」 主任に訊ねられたわたしは素直にコクンと頷いた。 わたしって分かりやすいのかな? 自分でも最近になってやっと自覚したはずの彼への恋心が、上司である桐島主任にまでバレバレなんて。「……すみません、せっかく助けて下さったのに」「いやいや、それは別に構わないよ。僕も近所のよしみで助けたようなもんだし、困ってる部下を助けるのは上司として当然の務めだからね」「そう……ですか。ところで主任、そろそろ行かれた方がいいんじゃないですか? 会長をお待たせしてるんじゃ」「ああ……、そうだよね。――おっと、ウワサをすれば、絢乃さんから電話だ。ちょっとごめん」 主任はわたしに一言断ってから、スマホの応答ボタンをスワイプした。ここで一つ、発見があった。彼は会長のことを、プライベートでは「絢乃さん」と名前で呼んでいらっしゃるらしい。「――すみません、絢乃さん。アパートの近くでちょっと、矢神さんがトラブルに巻き込まれていて。彼女を助けてあげていたので……。はい、もう解決したので、これからお迎えに上がります」「――会長、お怒りじゃありませんでした?」 わたしは少し心配になって、電話を終えられた主任に訊いてみる。別に浮気をしたわけではないけれど、これからデートという時に他の女(それも会社の部下だ)と会っていたと知ったら、会長だっていい気持ちはしないんじゃないだろうか。「いや、大丈夫だよ。むしろ、会長は君のことを心配されてるみたいだ。ストーカー被害のことを知ったら、きっと『力になりたい』っておっしゃるはずだよ」「そうですか。わたしも、一度会長に相談に乗って頂こうと思ってたんです
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-25
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本当に助けてほしい人は…… PAGE3

「……分かった。会長には僕から話しておくよ。――ところで矢神さん、君はどこかへ行った帰り?」 主任がここに来て、今さらな質問をしてきた。わたしがちょっとオシャレめの私服姿で、しかもアパレルショップの袋を提げているからだろうか。「あ、はい。友だちと……労務課の中井佳菜ちゃんっていう子なんですけど、朝から映画を観に行って、お洋服を選んでもらってきたんです」「そっか、じゃあ後は帰るだけだね。部屋に着いたらキチンと戸締まりして、インターフォンが鳴ったらちゃんと相手を確認してから出るようにね。……まあ、あの男も僕の牽制(けんせい)が効いてしばらくは近寄らないと思うけど」「分かりました。……あの、わたしは大丈夫なので、主任はもう行って下さい。会長がお待ちなんでしょう?」「そうだった……! じゃあ、また明日、会社で」「はい、また明日」 慌てて駐車場へ駆け込んだ主任を見送ったわたしは、思わず笑ってしまった。「桐島主任、入江くんと同じようなこと言ってる……」   * * * * ――わたしは部屋に帰ると、キチンと戸締まりをしてから入江くんに電話をかけた。『――矢神、どした?』「あのね、入江くん。今日、アイツがわたしのマンションの近くまで来てたの」『えっ!? で、お前、大丈夫だったのか!? 何もされなかったか?』「大丈夫だよ。桐島主任が通りかかって助けてくれたから。……あ、たまたま近くに住んでるんだって」 わたしは彼に誤解を与えないように、「たまたま」の部分を強調して言った。『そっか、よかった。……でもオレ、ちょっと悔しいな』「……え?」『なんでお前を助けたの、オレじゃなかったんだろうって。近くに住んでねえのがもどかしくてさ』「わたしも……、助けてくれたのが入江くんならよかったって思ったよ。主任には申し訳ないけど」『…………そっか。けどまあ、お前が無事でホッとしたわ。桐島さんには感謝だな』「うん……」 ――彼との電話を終えてから、わたしは思った。 やっぱり、不安でたまらない時、わたしがいちばん側にいてほしい人は入江くんなんだ。わたしは本当に彼のことが好きなんだ、と。 ただ、この想いは依存と紙一重でもある。好きだからこそ、これ以上彼に依存してはいけないような気もしていた。「……そうだよね、これはわたしの問題だもん。わたしだけの力で何とか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-27
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本当に助けてほしい人は…… PAGE4

 ――昨夜はほとんど眠れず、気がついたら朝六時に目が覚めていた。 かといって二度寝する気にもなれなくて、わたしはシャワーを浴びてサッパリすると早々に身支度を整えた。選んだのは入社式からずっと着ていたフレッシャーズスーツではなく、昨日佳菜ちゃんが選んでくれた真新しいビジネススーツだ。これで童顔のわたしも、少しは大人っぽく見えるかな? 冷蔵庫に入っている母が持ってきてくれたおかず――ミニハンバーグや唐揚げ、ポテトサラダなど――と自分で作った卵焼き、ふりかけをかけた白いゴハンをお弁当箱に詰めてお弁当を作り、食欲は湧かないながらも朝食を摂ってから普段どおりに家を出た。   * * * *「――うっす、矢神」「あ、入江くん。……おはよ」 篠沢商事のビルのエントランスで、入江くんが普段と変わらない様子で声をかけてくれた。 もう彼のことが好きだと自覚してしまっているため、これ以上彼に依存してはいけないという戒めの気持ちからあえて素っ気ない態度を取ろうと試みてみたけれどうまくいかず、何だかぎこちない中途半端な笑顔になってしまう。「あっ、そのスーツ、初めて見たな。昨日、中井と一緒に買いに行ったヤツ?」「……えっ? うん、そうだけど。どう……かな?」「よく似合ってるじゃん。ちょっと大人に見える」「ありがと……」 彼に新しいスーツを褒めてもらうと、わたしは自然とにやけてしまう。……ダメダメ! 麻衣、しっかりしないと!「…………あ、あのね、入江くん」「なに?」 偶然なのか、わたしたち二人以外に一緒にエレベーターに乗った人はおらず、二人きりになった。何だか気まずい……。「ごめん。昨日、電話でわたしが言ったことは忘れて? わたしも、入江くんに言われたことは忘れるから」 宮坂くんの問題で、これ以上彼を煩わせたくない。迷惑をかけたくない。だから……、あんな告白めいた言葉はなかったことにしたかった。「これからも、わたしは入江くんといい友だちでいたいから。血迷ってあんなこと言うべきじゃなかったね。ホントにごめん」「…………うん、分かった」 入江くんは困惑したのか、長い沈黙の後に頷いた。でも、これがわたしの精一杯の強がりだということを、彼には見抜かれているかもしれない。「友だち、な。お前がそうしたいって言うんなら、オレはそれでもいいよ。オレの方こそごめんな。お
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-27
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本当に助けてほしい人は…… PAGE5

 広田室長が挨拶返しもそこそこに、わたしにそう言った。……わたしの話って、もしかして昨日のことかなとすぐにピンと来た。そういえば、桐島主任の姿も見えない。ということはすでに会長室にいらっしゃるんだろう。「はい、分かりました。――あの、でも仕事は……」「ええ。ここに戻るまで、午前の仕事は免除してあげて、とも言われてるから。仕事のことは気にしないで行ってらっしゃい」「分かりました。じゃあ……ちょっと行って参ります」 わたしは会長室の重厚な木製ドアをノックした。「おはようございます。秘書室の矢神です。広田室長から、こちらへ来るように言われました」「矢神さん、どうぞ入って」 という返答の後、主任が中からドアを開けて下さった。「失礼します。――あの、会長。おはようございます。……わたしの話というのは、ストーカー被害のことでしょうか?」「ええ。……まあ、ここで立ち話も何だし、奥の応接スペースへどうぞ」 デスクの椅子から立ち上がられた会長が、わたしに応接スペースのソファーを勧めて下さった。「ありがとうございます。失礼します」「――貴女(あなた)がストーカーの被害に遭ってることは、桐島さんから聞いた。昨日も大変だったそうね。彼のおかげで助かったらしいけど」 わたしがソファーに腰を下ろすと、会長と主任はわたしと向かい合わせに座られ、本題を切り出された。「あ、はい。実はわたし、昨日までこのことを会長にご相談しようかどうか迷ってたんです。でも、やっとお話しする決心がつきました。ただ、どこからお話ししていいか……」「そうだよね……。まずは少し気持ちを落ち着けてから話してもらった方がいいかも。――桐島さん、コーヒーを淹れてきてくれる? わたしと貴方と、矢神さんの三人分ね」「はい、かしこまりました。――矢神さん、味の好みとかあったら教えてくれるかな?」「じゃあ……甘めのカフェオレで。ミルク多めでお願いします。あの、わたしもお手伝いしましょうか?」「いや、いいよ。今日の君は相談者だから、座ってて。では、淹れて参ります」 桐島主任が給湯室へ行ってしまうと、わたしと会長の二人だけになった。――さて、何を話せばいいものか? そういえば昨日、お二人が結婚指輪を注文しに行かれていたことを思い出した。「……あの、そういえば会長。結婚指輪は昨日注文されたんですよね?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-28
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