会長はスマホを開いてペアリングの写真を見せて下さり、「この裏側にお互いのイニシャルと結婚式の日付を彫(ほ)ってもらうの」と嬉しそうにおっしゃった。「でね、ウェディングドレスがこれで、お色直しのドレスがこのデザインで淡いピンクのドレスよ」 続いて見せてもらったのは、二着のドレスをお召しになった会長の写真。ウェディングドレスは真っ白なベアトップのドレスで、フワッとした可愛らしいシルエットが会長らしい。お色直し用のドレスは、肩から胸元にかけて透け感のある上品なレース素材になっているオフショルダーのドレスだ。「わたしはこの、二着目の方も捨てがたかったんだけど。そしたらね、式場の衣装係の人が『このデザインで色違いにして、お色直し用のドレスをお仕立てしましょうか』って言ってくれたの」「わぁ……、どちらもステキですね。会長はデコルテがおキレイなので、どちらもよくお似合いだと思います」「ありがとう、矢神さん。……あ、そうだ! 矢神さんも式に招待しようかな。入江さんも一緒に、どう?」「えっ、いいんですか!?」「ええ、もちろん。招待客のリストはこれから作るから、その中にお二人の名前も入れておくね。そんなに大勢招待するわけじゃないし、仰々しい式じゃないから気楽な気持ちで出席してくれたら嬉しいな」「ありがとうございます!」「――会長、僕のいないところで勝手に決めないで頂けますか?」 そこへ、三人分のカップが載ったトレーを抱えた桐島主任が戻って来て、会長に鋭いツッコミを入れた。「ごめん! つい女同士で盛り上がっちゃって。でも、貴方は反対なの? 矢神さんたちを式に招待するのに」「いえ、反対というわけでは……。ただ、僕に相談してから決めてほしいと申し上げているだけです」 主任は口を動かしながらも、テキパキとローテーブルの上にカップを並べる手を止めない。さすが、バリスタを目指していただけのことはある。カップからはコーヒーのいい薫りが立っていて、わたしの分は多分だけれど来客用の上等なカップだ。「…………分かりました。あ、コーヒーありがとう。矢神さんも、遠慮しないで頂きましょう」「はい、頂きます。……でも、いいんでしょうか? わたしの分のカップって来客用ですよね?」「いいんだよ。ここに相談しに来る社員はみんなお客さまみたいなものだから」「ちょっと桐島さん! わた
Last Updated : 2025-06-29 Read more