All Chapters of 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~: Chapter 81 - Chapter 90

99 Chapters

女子会ランチで束の間の休息 PAGE3

「――そういえば昨日、真弥さんから聞きました。去年の秋、絢乃さんが真弥さんたちと解決されたストーカー事件のターゲットって、桐島主任だったんですよね。絢乃さんは主任を守りたくて、ご自分から行動を起こされたとか」 わたしは付け合わせのサラダを食べながら、真弥さんから聞いた話を絢乃さんに確かめた。「あら、真弥さんしゃべっちゃったんだ? ……ええ、実はそうなの。動画では彼のハイキックが目立ってたから、わたしが守られた側みたいに思われがちなんだけど、ホントはわたしが彼を守りたくて動いたのよ」「へぇ、スゴいですね……。絢乃さん、カッコいいです。女性なのにそんなふうに思えるなんて。わたしには多分真似できませんから」「ありがとう。でもね、麻衣さん。大切な人を守りたいっていう気持ちに、男も女も関係ないと思うよ。貴女だってこの先、入江さんが困ったら助けてあげたいって思うようになるはずだから。人を好きになるってそういうことだとわたしは思うな」「……そう、なんですかね?」「ええ」 わたしはちゃんと恋をしたのが初めてだから、あまりピンと来ない。でも多分、絢乃さんのおっしゃるとおりなんだろう。というより、お二人の恋愛を見ていたらその言葉が正しいというのが分かる。絢乃さんと主任は理想的な関係なんだと思う。「なんか……、絢乃さんの方がわたしより大人の恋愛をしてらっしゃいますよね。考え方が大人、というか。わたし、この年齢になってやっと入江くんが初恋なんだって分かったんです。もう二十三歳なのに、遅すぎますよね」「そんなことないと思うけどなぁ。わたしだって桐島さんが初恋だけど、恋に気づいたのは十七歳の時だよ。それでも遅いくらいだと思ってたのに」「えっ、そうだったんですか?」「うん。初恋が早い遅いとか、誰々の方がいい恋をしてるとか、そんなの比べて落ち込む必要なんてないと思う。人それぞれ、恋愛の形は違って当たり前だもの」「……そっか、そうですよね」 絢乃さんは絢乃さんなりの、小川先輩は小川先輩なりの恋愛をしているように、わたしもわたしなりの恋を楽しめばいいんだと思えた。
last updateLast Updated : 2025-08-12
Read more

女子会ランチで束の間の休息 PAGE4

「――麻衣さん、デザートも注文する?」 もうすぐゴハンを食べ終わるという頃、絢乃さんが再びメニュー表を取り上げた。本当に甘いものがお好きなんだなぁ。絢乃さんって本当に可愛くてステキだな。そういうわたしも甘いものには目がないのだけれど。 とはいえ、時刻は間もなく十二時四十分。おしゃべりしながらいつもよりゆっくりと食事をしていたので、もうこんな時間になってしまった。社食ではパパッと食べてしまうと、あとは午後の仕事に備えて早めにオフィスへ戻っているのだ。「いえ、大丈夫です。食べたいのはヤマヤマなんですけど、これ以上食べていたら午後の始業時間に間に合わなくなりそうなので……」「あー、そっか。もうこんな時間? じゃあ、会社へ戻る時間を少し遅らせましょう。会長を接待していたことにすれば、何も咎められることはないから大丈夫! 広田さんにはわたしから連絡しておくから」「そんな、接待なんて……」 むしろ、接待されていたのはわたしの方だというのに。……でも、メニュー表をめくると見た目もキレイで美味しそうなデザートが数種類あって、わたしは思わず誘惑に負けてしまった。「…………やっぱり、デザートも頂こうかなぁ。というわけで絢乃さん、広田室長に連絡お願いします」「分かった。それじゃ、わたしは電話をかけてくるから、デザートの注文お願いね。そうだなぁ……、チョコバナナクレープでいいかな?」「はい。じゃあ、わたしも同じものにします。注文しておきますね」 スマホを持った絢乃さんが席を立つと、わたしは「すみません」と給仕係の男性を呼んで二人分のデザートを注文した。 絢乃さんはほんの数分で席に戻って来られた。「――広田さんに連絡しておいたよ。デザート、注文しておいてくれた?」「はい。もうすぐ運ばれてくると思います。――真弥さんも呼べばよかったですね。なんか、わたしたち二人だけランチを楽しんじゃって申し訳ないです」「真弥さんは貴女のために調査を頑張ってくれてるから。お昼だってきっと内田さんと二人で食べてるでしょう」「……そうですね」 女子会ランチもたまにならいいけれど、やっぱり好きな人と一緒に食べるゴハンの方が美味しいかもしれない。「桐島さんも、わたしと一緒に食事できる方が楽しいみたい。ひとり暮らしだからなおさらでしょうね。でも、結婚したらウチのお婿さんになるから、食卓
last updateLast Updated : 2025-08-13
Read more

女子会ランチで束の間の休息 PAGE5

「――あの、主任のご家族も納得されてるんですか? 主任が婿入りされることと、お母さまとの同居のこと」「うん。彼は次男だから婿に出しても問題ないらしいし、わたしの母と彼のお母さまも仲よくなれそうだから。両家顔合わせを見た限りではね」「なるほど……」 わたしは絢乃さんのお母さまとお目にかかったことはないけれど、母親同士が親しくなれるなら同居にも問題はなさそうだ。「まあ、ウチみたいな家柄ならともかく、今は誰かが家を継がなきゃいけないっていう時代でもないし。お兄さまもいつかは家を出て行かれるんでしょうけど、彼のご両親はそれならそれで構わないっていうお考えみたいだから」「……そうですね」「……って言っても、わたしが家を継ぐのは義務じゃなくて、あくまで自分の意志だから。現当主である母が健在な間は甘えさせてもらうつもりでいるんだけどね」「はぁ」 わたしが間の抜けた返事をしているところへ、注文していたデザートのチョコバナナクレープが運ばれてきた。「――わぁ、美味しそう!」「でしょ? さ、いただきましょう」「はい!」 女子ふたり、美味しいクレープを味わう。甘いものを頬張って幸せそうな笑顔になる絢乃さんは本当にキュートで、主任は彼女のこういうところにも惹かれたんだなとわたしにも分かった。仕事をしている時のキリッとした姿とはまた違う、等身大の女の子としての魅力を感じた。   * * * *「――絢乃さん、今日はごちそうさまでした」 昼食を終えてお店を出たのは午後一時過ぎだった。でも、絢乃さんが室長に連絡して下さって、わたしが午後の就業時間に少し遅れて帰社することはOKを頂いていたので、堂々と社に戻れる。 支払いも絢乃さんご自身名義のクレジットカード(しかもゴールドカードだ!)で済ませて下さった。まだ十九歳という若さでゴールドカードを持っているなんてビックリ以外の何ものでもないけれど、さすがは国内トップクラスの財閥のお嬢さまという感じだ。「いえいえ、お粗末さまでした……って今時言わないか。麻衣さん、また一緒にランチしましょうね」「はい」「それじゃ、会社に戻りましょうか。広田さんと小川さん、貴女が戻るのを首を長ーくして待ってるはずよ」「そうですね。……わたし、ホントに怒られませんかね?」「だーい丈夫! 会長であるわたしがお願いしたんだもの、怒られる
last updateLast Updated : 2025-08-15
Read more

女子会ランチで束の間の休息 PAGE6

「――実はわたし、小川先輩から『社長の第二秘書をやってみない?』ってお話を受けたんですけど。まだお引き受けするかどうか迷っていて」 オフィスへ戻る道すがら、わたしは絢乃さんに打ち明けた。本当は食事中にでも聞いて頂きたかったのだけれど……。「そうなの? ……まあ、迷うのは仕方ないよね。入社してまだ一ヶ月にもならないのに、自分の適性なんて分からないもん」「……はい」「わたしだって、会長になりたての頃は色々と悩んでばっかりいたから。でも、貴女には秘書としての適性があると思う」「ありがとうございます。……でも、社長はとてもいい方ですし、お仕えすることをためらっているわけじゃないんです。わたしにはもったいないお話だというのもありますけど、それだけじゃなくて。わたしには他に、この人に付かせて頂きたいという人がいるんです」「そうなんだ……。で、貴女が仕えたい人って?」 それはわたしの中でいつの間にか芽生えていた思いだった。このストーカー問題で助けられて以来、「この人にお仕えしたい」と思った相手はただ一人しかいない。「絢乃会長です。わたし、会長の第二秘書としてあなたをお支えしたいんです。ダメ……ですか?」「ううん、ダメだなんてとんでもない! ありがとう、麻衣さん。すごく嬉しいわ。わたしも第二秘書のことはずっと考えてたから、むしろわたしの方からお願いしたいくらいだった」「よかった、お伝えして。桐島主任、絢乃さんとご結婚されたら役員になられるらしいって小川先輩から伺っていたので、もう一人秘書が居た方が会長も主任も安心されるかな、と思って。主任も、経営に携わりながら秘書のお仕事までこなされるわけにはいかなくなるでしょうし」「そこまで考えてくれてるのね。ありがとう。でもね、彼が役員になるっていうのはまだ決定事項じゃないの。彼に意思確認もしないと。彼の意思を無視して無理矢理やらせるわけにもいかないでしょ?」「そうですね」 それはごもっともだとわたしは思った。  いくらお婿さんになるからといっても、主任にだって役員になることを拒む権利はあるはずだ。それを無視して無理やりやらせたら、立派なパワハラになってしまう。  主任が以前いらっしゃった部署で、パワハラの被害に遭っていたことをご存じなはずの絢乃さんがそんなひどいことをするはずがないのだ。「もし彼が役員の話を受け
last updateLast Updated : 2025-08-16
Read more

入江くんの本気 PAGE1

 ――絢乃さんにもう一度お礼を言ってから重役フロアーの廊下で別れ、わたしは秘書室のオフィスへ戻った。「矢神、ただいま戻りました。遅くなってしまってすみません!」「おかえりなさい、矢神さん。会長から連絡を頂いていたので大丈夫ですよ」「矢神さん、おかえりー。会長との女子会ランチ、楽しかった?」 戻るのが遅れてしまったことを申し訳なく思っていたわたしを、広田室長も小川先輩も温かく迎えて下さった。「はい、楽しかったです。ついついご厚意に甘えてデザートまでいただいちゃいました。――先輩は主任と何を召し上がってきたんですか?」「ラーメン食べてきた。色気ないけどデートってわけじゃないし」「なるほど……、いいと思います」 確かに、男女でラーメン屋さんに行くのは色気がないかもしれないけれど。まあ学生時代の先輩・後輩の関係ならそんなものじゃないかと思う。「でも、主任は会長との夕食でもラーメンを食べに行くことがあるらしいですよ。何でも会長がリクエストされるんだとか」「それなら私も聞いたことあるよ。絢乃会長って、ああ見えてけっこう感覚が庶民的でいらっしゃるから好感持てるのよねー」「分かります。何ていうか、お嬢さまお嬢さましてないんですよね。お高くとまってないというか。親近感が湧いてくるというか」「そうそう!」 仕事そっちのけで先輩とおしゃべりで盛り上がっていると、室長から注意された。「……あなたたち、いつまでおしゃべりしているのかしら? いい加減仕事に戻りなさいね?」「「はっ、はいっ! すみません!」」 室長は普段温厚でめったに怒らない人なので、たまに怒った時はすごく怖いらしいと先輩たちも桐島主任もおっしゃっていたけれど。本当に怖い! しかもブリザード化されるので余計に怖い……!「――あ、そうだ。小川先輩、こないだ伺った、わたしを社長の第二秘書にしたいっていうお話なんですけど」「うん。……で、どうするの?」 わたしと先輩は資料の整理をしながら、大事な話を始めた。これは仕事に関する話題なので、話していても室長から叱られることはないだろう。「わたし、お断りしようと思います」「……そっか。まあ、決めるのは矢神さんだからいいんだけどね。でも理由聞いていいかな?」「わたし、絢乃会長の第二秘書になろうと思って。さっきそのお話を会長にしたら、喜んで下さってい
last updateLast Updated : 2025-08-18
Read more

入江くんの本気 PAGE2

「そっか、分かった。矢神さん、もう決めてるのね? じゃあ、第二秘書の話は私から社長にお断りしとくよ。残念だけど、あなたがもう決めてるなら仕方ないよね」「はい、すみません。お願いします」「うん、任せといて」 小川先輩は本当に残念そうだったので、もしかしたら小川先輩から社長にわたしを推薦して下さったんじゃないかと思う。期待して頂いていただけに本当に申し訳ない気持ちだけれど、わたしの決心は変わらない。「でも、社長にも第二秘書がいらっしゃらないと何かと不便ですよね……」「それは心配しないで。私と室長と桐島くんの三人で相談して決めるつもりだし、中途採用で募集をかけてもいいって社長もおっしゃってるから」「そうなんですね。分かりました」 安心したところで、わたしはまた仕事に集中することにした。 社長秘書と会長秘書だけに限って言えば、何も社内の人間でなければいけないことはないらしい。それぞれ個人秘書を持つこともできるので(桐島主任だって、肩書では篠沢絢乃会長の個人秘書を兼ねているのだから)、専門職として秘書を外部から募集してもいいらしいのだ。   * * * *  ――その日の終業時間の少し前。わたしは会長室から戻って来られた桐島主任に呼び止められた。「――矢神さん、今日は退勤前に会長室へ寄ってほしいんだけど」「はい、大丈夫ですけど……。主任、何かあったんですか?」「ついさっき、真弥さんから連絡があったんだよ。あのアカウントの持ち主を特定できたって。それで、もうすぐ彼女が会長室へ来るらしいから」 真弥さん、仕事が早い。絢乃さんから頼まれたのは今朝だったというのに、もう特定できてしまったなんて。「なるほど、分かりました。それじゃ、帰り支度を終えたら会長室へ伺います」「待って、矢神さん。僕も一緒に行くよ。カバンを取りに来ただけだから」 ――そして終業時間後、主任と二人で会長室へ行くと、真弥さんと内田さんの他にもう一人、意外な人物が会長室に来ていた。「…………えっ、入江くん!? どうしてここにいるの!?」「矢神さん、わざわざ寄ってもらってごめんなさいね。彼、帰ろうとしたら一階でたまたま真弥さんに出くわしたらしくてね。その時に彼女から聞いたらしいの。あのアカウントが誰のものなのか分かったって。それで真弥さんと一緒についてきたのよ」「……オレ、なんか
last updateLast Updated : 2025-08-19
Read more

入江くんの本気 PAGE3

「え……? あー……うん。ありがと」「――あのー、そこのお二人さん、ちょぉーっと待ってもらえます? あたし、状況が読み込めてないんですけど」 入江くんがわたしをガードしてくれるという話がまとまりかけたところで、一人置いてけぼりを食らっている真弥さんがすかさずストップをかけた。ちなみに、真弥さんたちは入江くんにすでに自己紹介を済ませているらしく、入江くんと名刺交換もしているみたいだ。「――とりあえず、みなさん、応接スペースへ移動しましょう」 絢乃さんの提案で、わたしたちは全員で移動した。ソファーには四人までしか座れないので、内田さんと入江くんは立っていることになった。「――えっと、ちょっと情報を整理しますけど。入江さん、あなたは麻衣さんのことを守りたいんですね?」「ああ、そうだけど」「でも今のところ、彼女をガードするように絢乃会長から依頼されてるのはあたしなんです。なので絢乃さん、どうしましょうか?」「その前に、真弥さん。わたしにも教えてほしいの。あの書き込みをしたアカウント、ホントに宮坂くんのだったの?」「はい、宮坂耕次のアカウントで間違いないです。彼はあのSNSで初めての投稿だったんですけど、他のSNSで実名で投稿したコメントを見つけて、その時に使用されたIPアドレスがあのアカウントと一致したんです」「……そうなんだ。ありがとう」 改めて聞くと、やっぱりショックだ。あれだけ怖い目に遭わされても、わたしは元同級生だから彼を信じたい気持ちが少しはあったのに。それが見事に裏切られてしまった。「会長、桐島さん。実はオレ、この真弥って子の話を聞いて、改めてお二人にお願いしに来たんすよ。虫のいい話かもしれませんけど、矢神のこと、オレに任せて頂けないかと思って」 最初に会長たちにわたしのガードをお願いしたのは入江くんだった。でも、あの時とは状況が違っているし、入江くんだって本気でわたしのことを宮坂くんから守ろうとしてくれているのだ。 もちろん、空手の有段者である真弥さんに守ってもらえるのはわたしも心強いけれど、やっぱりわたしの本心としては、大好きな入江くんに守ってほしい。彼なら宮坂くんがどういう人物なのかもよく知っているので、対処法も心得ているはずだし。「そうね……。ここはやっぱり、矢神さんの意思を尊重すべきだとわたしは思う。――矢神さん、貴女は
last updateLast Updated : 2025-08-20
Read more

入江くんの本気 PAGE4

 これがわたしの本音。入江くんにだけは伝えたことが何度もあったけれど、こうして他の人たちの前でハッキリと言葉にしていったことはなかった。 「……そう、分かった。麻衣さんがそうしてほしいなら、わたしはそうすべきだと思うけど。みなさんの意見は?」 「僕もそれでいいと思います。入江くんが矢神さんのことを大事に想っていることも分かりましたし、何より彼女の希望ですからね」 「あたしも、麻衣さんの本心は知ってましたから。別にお金もらってガードを引き受けたワケじゃないし、そういうことならいいんじゃないですか。ね、ウッチー?」 「そうだな。いいんじゃねえか? オレも賛成だな」  桐島主任、真弥さん、そして内田さんの三人が全員わたしの意思を尊重して下さって、誰からも反対意見は出なかった。 「……というわけだから、入江さん。ここにいるみんな、貴方が矢神さんを守ることに賛成です。しっかり彼女のことを守ってあげて」 「はい、会長。オレにドーンと任せて下さい!」  入江くんは絢乃さんの期待に応えた後、わたしにも「うん」と大きく頷いて見せる。 「入江さん、麻衣さんのことお願いします。でも、一応念のため、あたしもついて行きますね」 「ええっ!? 何でそうなる!?」  思いも寄らない展開に、入江くんが小さくブーイングをした。 「何が起こるか分かりませんし、腕の立つ人間がいた方がいいかと思いまして。麻衣さんだって、一人より二人の方が心強くないですか?」 「うん……、それは確かに」  わたしは別に、入江くんと二人きりで帰りたくないわけで
last updateLast Updated : 2025-08-21
Read more

入江くんの本気 PAGE5

 ――入江くんも、まだ高校生なので当然のことながら真弥さんもクルマを持っていないので、帰りは三人で電車に乗ることに。「ごめんなさい、麻衣さん。ウッチーも一緒だったら車で送ってあげられたんですけど」「ううん、いいよ。だいたい、わたしはともかく入江くんまで一緒に乗るわけにもいかなかったし」「そうだよ。それだとオレが一緒の意味なくなるじゃん」「ああ~、それもそうですよねぇ」 今日も帰宅ラッシュの真っ最中で、電車内はちょっと混んでいる。わたしだけ空いている座席に座らせてもらい、入江くんと真弥さんは吊革につかまって立っていた。「入江さん、麻衣さんの隣の席が空いたら、あたしに遠慮せずに座って下さいねー。あたしまだ若いんで、立ってても平気ですから」「……あのなあ、オレだってまだ今年で二十三だっつうの。オッサン扱いはやめてくれる?」「まあまあ、入江くん。真弥さんも悪気があってそう言ってるわけじゃないから」 真弥さんにからかわれ、突っかかる入江くんをわたしは宥める。真弥さんが本当はわたしたちに気を回してそう言ってくれているのだとわたしには分かったから。「だったらいいけどさ」 そう言いながらため息をついた彼は、わたしの隣の席が空いたら本当にそこに座っていて、わたしは「本当に素直な人だなぁ」とほっこりした気持ちになった。   * * * * 代々木駅で下車してからわたしの住むマンションへ向かっている間にも、二人はわたしの周囲を警戒しながら歩いてくれていたのだけれど……。「――入江さん、何か、誰かに尾行けられてる気がしませんか?」 警戒心強めの真弥さんが、ふと足を止めて入江くんにそう言った。そういえば、駅前からずっと誰かの足音が聞こえている気がする。「いや、確実に尾行けられてるな。多分宮坂だろ。――矢神、オレの側を離れんなよ」「うん……」 宮坂くんが隣に来て、わたしの手をギュッと握ってくれた。あったかくて頼もしい、大好きな人の手だ。「あたしが後ろに回って宮坂を引き受けますから。お二人は先に行って下さい」「分かった。……矢神、行こう。ここは頼んだ」「真弥さん、ありがとう。気をつけてね」「了解!」 わたしと入江くんは早足になって、急いでその場を離れることにしたのだけれど……。後ろをチラッと振り返った時、宮坂くんと思しき人物
last updateLast Updated : 2025-08-22
Read more

入江くんの本気 PAGE6

 ――わたしと入江くんがマンションのエントランスに辿り着いてからしばらくして、真弥さんが息を切らしながらわたしたちに追いついてきた。「真弥さん、大丈夫だった? ケガはない?」「ええ、ケガはないですけど……、ごめんなさい! ヤツには逃げられちゃいました」「逃げられた!? 何やってんだよ!」 それを聞いた途端、入江くんが声を跳ね上げる。きっと、自分だったら逃がさなかったのに……と言いたいんだろう。「アイツ、刃物持ってたんだぞ! そんな危ねえヤツに逃げられたって」「大丈夫です。ナイフならあたしが蹴り飛ばしましたから。多分アイツ、今ごろ右手首にデカいアザができてますよ。下手したら骨折してるかも」「……真弥さん、いくら何でもケガさせるのはやりすぎなんじゃないかなぁ」 わたしは危うく殺されるところだったかもしれないのに、何だか宮坂くんが気の毒になった。「そんなことないです、麻衣さん。言ったじゃないですか。ああいうヤツには鉄拳制裁食らわせたってバチ当たりませんって。ケガしたのだって自業自得です」「そう……なのかなぁ?」 真弥さんの言うことにも一理あるかもしれないけれど、やっぱりケガをさせるのはよくないと思ってしまうのは甘いのかな……?「――とにかく、あたしはこのことを絢乃会長に報告しなきゃいけないので、今日はここで失礼します。入江さん、あとはよろしく」「分かった」「うん、真弥さん、ありがと」 そうして真弥さんとは別れることになったけれど、入江くんももうすぐ帰ってしまうのかな……と思うと何だか心細くなった。「……じゃあ、オレもそろそろ帰――」「待って、入江くん!」 わたしは帰ろうとしていた彼の袖をギュッとつかんだ。「……えっ? 矢神、どした?」「あの……っ、あともうちょっとだけ……一緒にいてくれないかな? わたし、一人になるの怖くて……」 戸惑う入江くんを、「もう少しだけ側にいてほしい」とダメ元で引き留めてみる。わたしのことが好きらしい彼はきっと断らないだろう。「ダメ……かな?」「いいよ、矢神。お前が安心できるまで、オレが一緒にいてやるよ」「……うん。ありがとう」 その夜、入江くんはわたしの部屋までついてきてくれた。――どうしよう? わたし、入江くんを好きな気持ちが抑えられない……。
last updateLast Updated : 2025-08-23
Read more
PREV
1
...
5678910
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status