All Chapters of 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~: Chapter 71 - Chapter 80

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大好きな彼とわたしの本音 PAGE5

「でも、当時まだ十六歳か十七歳で未成年でしょ? 親御さんには何も言われなかったの?」「いや、めちゃめちゃ怒られましたよ。産婦人科から親に連絡が行って、父親には殴られました。ウチの両親、どっちも教育者で。あたしの気持ちより世間体の方が大事だったみたい。『何てことをしてくれたんだ! 親の顔に泥を塗りやがって!』って言われました」「ひどいなぁ、そんな言い方。親なら真弥さんのつらかった気持ち、少しくらい思いやってあげてもいいのに」 真弥さんの相手の男の人がどんな人だったかは分からないけれど、子供に罪はないはず。自分の意思で堕胎したとしても、その喪失感は想像を絶するもののはずなのに、娘さんのそんな気持ちを思いやってあげないなんてひどいご両親だと思う。「麻衣さん、ありがとうございます。でもね、ウッチーはあたしのそういうつらい気持ちとか虚しさを理解してくれたんです。『その空っぽのお腹には、君の虚しさが詰まってるんだな』って言ってくれて。『その喪失感はオレが埋めてやるよ』って」「わぁ、ステキ! そりゃあ嬉しいよね。そんなこと言われたら、わたしでも惚れちゃいそう」「でしょでしょ? でも、惚れちゃダメですよ!? ウッチーはあたしの大事な人なんですからね!?」「分かってるよー。わたしが好きなのは入江くんだけだから大丈夫!」 『――次の停車駅はー代々木ー、代々木でございます』 「……あ、次で降りなきゃ」 真弥さんと恋バナに花を咲かせていたら、次は代々木、という車内アナウンスが聞こえてきた。あたしは駅に停車したらすぐに降りられるよう、席を立って真弥さんの隣に並ぶ。  ――ただ、桐島主任には恋愛感情ではないけれど、憧れの感情を抱いていることは真弥さんにも内緒だ。    * * * * 「――麻衣さん、今日は何も起きませんでしたね」 無事にわたしをマンションの前まで送り届けてくれた真弥さんが、ホッとしたような、少し拍子抜けしたような様子で言った。「うん、よかった。やっぱり女同士だから何もしてこなかったのかなぁ」「いつもこんなに平和ならいいんですけど。――それじゃ、あたしはここで失礼しますね」「送ってくれてありがとう。なんかゴメンね、夕(ゆう)ゴハンくらいごちそうできたらよかったんだけど。今お給料日前だから……」「いえいえ、お気遣いなく」「明後日に初任給入るか
last updateLast Updated : 2025-07-29
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大好きな彼とわたしの本音 PAGE6

「――あれ? 鍵空いてる」 玄関ドアのレバーをガチャガチャやると、スッと開いた、――誰か来ているのかな?「ただいま……っと、ん?」 玄関にあるのは、キチンと揃えられた母の靴。ということは、来ているのは母らしい。わたしも母に倣(なら)って脱いだ靴をキチンと揃え、スリッパに履き替えて部屋に上がった。間取りはワンルームで、単身向け物件なのでユニットバスがついている。「あ、麻衣。おかえりなさい! 今日もお勤めご苦労さま」「ただいま、っていうかお母さん、今日はどうしたの?」「あんたが変な男につきまとわれてるって聞いたから、心配になってね。で、麻衣も仕事で疲れてるだろうから実家までわざわざ来てもらうのも何だし、たまにはこっちで一緒に晩ゴハンを食べようと思って」「それは嬉しいけど……、お父さんは?」「今夜は会社の人と飲み会ですって。帰りが遅くなりそうだって言ってた。というわけで、女ふたりでゴハンにしましょ。今日は奮発してお刺身買ってきたの。ゴハンももう炊けてるからね」「うん。じゃあ、わたしも着替えて手伝うよ」 母が冷蔵庫からお刺身のパックを出してお皿に盛りつけている間にわたしは部屋義に着替え、白いゴハンを茶碗によそった。ちなみに、両親の食器はこの部屋の食器棚にも常備してある。「いただきま~す! ――うん、このサーモン美味しいね♡ やっぱりお刺身とショウガ醤油の相性は最強♪」 わたしはワサビがダメなので、ショウガ醤油につけてお刺身を頬張る。次に、マグロの赤身に箸を伸ばした。「たまにはこういう贅沢もいいでしょ?」「うん! お母さん、ありがとう!」「ところで麻衣、最近仕事の方はどう? もう慣れた?」 母もイカのお刺身をつまんでから、いつかの電話と同じ質問をしてきた。「うん、だいぶ慣れてきたよ。だって、もうすぐ入社して一ヶ月だもん。明後日には初任給が入ってくるし」「あら、もうそんな時期なのねぇ。早いもんだわ」「でしょ? それでね、お母さん。今までここの家賃、全額お父さんに出してもらったけど、これからは半分ずつ返していこうと思ってるんだ。だから、わたしからの親孝行だと思って受け取ってほしいの。幸い、ウチの会社は初任給から高いみたいだし」「あんた、それで生活は大丈夫なのね? だったら遠慮しないでもらっておくわね」「うん、それは大丈夫。……よかった」
last updateLast Updated : 2025-07-30
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迫りくる危機 PAGE1

 ――夜八時ごろに母は帰っていき、さて、シャワーでも浴びようかと着替えとバスタオルを用意していたら、スマホにメッセージが受信した。 差出人は真弥さんだ。〈例のSNSの書き込みについて、さっそく明日から調べてみます。 あの投稿のスクショを撮って送ってもらえますか? 投稿主のプロフだけで大丈夫なので〉 わたしはさっそく言われたとおり、例の投稿のアカウントをスクリーンショットにしてメッセージに添付して返信した。〈これが投稿した人のプロフィールみたいだよ。調査お願いします〉 真弥さんからはすぐに、「ありがとうございます」と可愛いネコちゃんがペコンと頭を下げているスタンプが送られてきた。 わたしはスマホを充電ケーブルに繋ぎ、シャワーを浴びた。パジャマに着替えて髪を乾かすと、スマホを座卓の上に置いたままの状態で入江くんに電話をかける。『――もしもし、矢神? こんな時間にどしたん?』「入江くん。あの……、今日のお昼休み、ひどいこと言っちゃってゴメン。入江くんだってもどかしいんだよ? なのにわたし、自分の気持ちばっかり押しつけちゃって、ホントにゴメンなさい」『あー、あのことか。オレは別に気にしてねえからいいよ。謝るなよ。人任せにしてるのは事実だしな』「ううん、そんなことない! あれはわたしが言い過ぎたの。反省してる。……でも、わたしのことが大切だから心配してくれてるのも事実なんだよね?」『……お前なあ、そういう恥ずいことズバッと言うなよ』 入江くんがぶっきらぼうに抗議してきた。電話だから顔は分からないけれど、彼はきっと照れているんだと思う。「ゴメン……」『でも図星、かな。オレはお前のことすごく大事に想ってるから、お前をここまで怖がらせてるアイツが許せないんだよ。今まではずっと人任せにして逃げてきたけど、いざって時にはもうオレは人任せにしない。矢神のことは、オレが絶対に守ってやるから』「入江くん……、ありがと。やっとその言葉が聞けた」 彼のその言葉は、ハッキリと「好き」って言われたわけじゃないけれど、わたしにとってはもう彼からの告白と同じようなものだ。「入江くんがそこまで想ってくれてるだけで、わたし幸せだよ。だからもう、あんなこと二度と言わない。……わたしも、逃げてばっかりじゃいられないかな」『ん? 何て?』 わたしも彼のことが好きだって自覚
last updateLast Updated : 2025-08-01
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迫りくる危機 PAGE2

『――そういや今日、調査事務所の女の子とやらに送ってもらったんだろ? 宮坂に出くわさなかったか?』 「うん、大丈夫。何もなかったよ。真弥さんっていうんだけど、まだ高校生だから一緒に電車で帰ってきたの。電車の中でも、降りてからも宮坂くんには一度も会わなかった」 『そっか、よかった。でも、明日からも油断はするなよ? いくら空手の有段者が一緒だっていっても、アイツは何しでかすか分かんねえヤツだからな』 「分かってるよ。真弥さんだけじゃなくて、わたしも用心するようにする。特に帰りが危ないよね」  宮坂くんの危険性は、真弥さんも指摘していた。今日はたまたま何もなかっただけで、「女の子と一緒だから何もしてこない」というのも安心材料にはならないのかもしれない。 「ホントは入江くんがクルマ持ってて、送り迎えしてくれるのがいちばん安心なんだけどな」 『……おい』 「ゴメン、ただのわたしの願望だから。忘れて」 『……お、おう。分かった』  入江くんはわたしと同じ新社会人なのだ。主任みたいにクルマを買ってほしい、と言うのはちょっと酷かもしれない。 「――あ、そうだ。今日ね、マンションにウチのお母さんが来てて、一緒にゴハン食べたんだ。その時にね、入江くんのことも話したの」 『オレのこと? っつうか、お前のおふくろさんってオレと面識なかったっけ? 一体何て話したんだ?』  確かに、高校時代に彼が他の友だちとウチの実家へ来た時(確かグループ学習の時だったと思うけれど)、わたしは母に入江くんのことを紹介していた。だから彼と母には面識があったのだけれど、「好きな人」として話したのは初めてだった。 「わ
last updateLast Updated : 2025-08-02
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迫りくる危機 PAGE3

 ――その二日後の、初給料日。真弥さんは約束どおり、会社帰りに銀行まで付き合ってくれた。といっても彼女は店内には入らず、わたしがATMでお金を引き出している間、外で怪しい人が来ないか見張ってくれていた。「――真弥さん、お待たせ! お金下ろしてきたよ」「はーい、ご苦労さまです。ねえ麻衣さん、ちなみに初任給っていくらあったんですか?」「えーっとね、給料明細に載ってた金額が全部で三十万円で、手取りが二十四万円! でも一度に全額は下せないから、今日は差し当たり十万円だけね」「へぇー、スゴい! 篠沢商事ってそんなにお給料いいんですね。初任給でそれくらい高いってことは、桐島さんクラスになるとどれくらいもらってるんですかね?」「桐島主任は役職手当も付いてると思うから、手取りで四十万円以上はあるんじゃないかな? 明細見せてもらったわけじゃないから、ハッキリとは分かんないけど」 わたしも広田室長から手渡された給料明細を開いた時、「えっ、こんなに!?」とビックリした。さすがは東証一部上場の大手総合商社だ。初任給からこれだけもらえる企業は今の世の中そうそうないと思う。中でも、わたしが配属されている秘書室はトップクラスでお給料の額が高いらしいけれど、入江くんや佳奈ちゃんもそれなりにいい金額をもらえているんじゃないだろうか。  ちなみに、ウチの会社の給料査定は年功序列ではなく個人評価のシステムを採用しているらしく、家賃補助も希望すれば付けてもらえるらしい。。小川先輩の明細を見せてもらったところ、彼女のお給料は手取りでだいたい三十五万円くらいだった。主任の方が年下なのにお給料が多いのは、会長秘書としての手当プラス主任としての役職手当と家賃補助も付いているからだろう。「――ところで麻衣さん、さっき外に怪しそうな男がいましたよ」「えっ? 怪しそうって……どんなふうに?」「麻衣さんがお金を下ろしてる時に、外から店内にいる麻衣さんをジーッと見てたんですよ。あたしも声をかけようと思ったんですけど、そのままフラッとどこかに行っちゃったんでもういいかと思って。――確か麻衣さんと同い年くらいで、背はそんなに高くなくて、ヒョロっとした瘦せ型の男で……。目が異様にギラギラしてましたね」「それ……多分、宮坂くんだ。宮坂耕次くん。……わたしのストーカー」「ええっ!?」 最近は大人しくしていた
last updateLast Updated : 2025-08-05
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迫りくる危機 PAGE4

 ――初任給をもらった翌日の朝。真弥さんに会社まで送ってもらって出社したわたしの元へ、いつもと様子の違う佳奈ちゃんが駆け寄ってきた。「お……、おはよ、麻衣」「おはよ、佳奈ちゃん。どうしたの? 何か顔色悪いよ?」「うん。実はさぁ、昨日あたし残業で。給料日だったから帰りにすぐ近くのコンビニでお金下ろしたのね」「……うん」「そしたらさ、店出たところで変な男に絡まれて。そいつ、何か麻衣のことボロカスに言ってたのよ。『あの女は男をとっかえひっかえしてる魔性の女だ』とか、『アイツは俺の女なのに』とかって。何か怖かった」「わたしのことを……」 佳奈ちゃんの話を聞いていると、わたしには「もしかしたら」と思い当たる人物が一人。「ね、佳奈ちゃん。その人って、身長が百八十ないくらいで痩せてて、わたしたちと同じくらいの年齢に見えなかった? 何か目がギョロッとしてて」「そうそう! そんな感じの男だった。……麻衣、まさかその男って」「多分だけど、わたしのストーカー。宮坂くんで間違いないと思う。実はわたしも、昨日銀行のATMでお金下ろしてるところを外からじーっと見られてたんだって。ボディーガードをしてくれてる真弥さんって女の子が言ってた」「えーーっ? じーっと見られてるだけっていうのも不気味だよね……」「うん……。このこと、入江くんとか桐島主任にも話しておいた方がいいかな?」「そうだね。桐島さんに話しておけば、自然と会長のお耳にも入るだろうしね。あたしもそうした方がいいと思うな」 主任と会長にこの話が伝われば、お二人から真弥さんと内田さんにも伝わるだろうから。直接危害を加えられたわけじゃないけれど、危機がすぐそこまで迫ってきているということになるので、真弥さんの仕事もわたしの送迎だけというわけにもいかなくなるだろう。「……そういえば、あのSNSの書き込みについては何か分かったの?」「ううん、まだ時間かかってるみたい。小坂リョウジの時は有名人だったから早かったんだと思うけど、今回は相手が一般人で、しかも本名じゃないからね。特定するのに時間かかるみたいなんだよね」「ふーん、そういうもんなんだ? 早く分かってくれたら麻衣も安心できるのにね」「うん……。でも、わたしは調べてもらってる立場だし、早くしてなんて催促できないよ」「う~ん、それもそっか……。でもさ、麻衣に
last updateLast Updated : 2025-08-06
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迫りくる危機 PAGE5

「――ということがあったんです」  就業開始前にわたしは会長室を訪ね、会長と桐島主任に、佳奈ちゃんとわたしの身に起こったことを報告した。話し終えたわたしはもう喉がカラカラに渇いていて、主任が淹れて下さったカフェオレをカップ半分くらい一気に飲んだ。今日も熱すぎない適温で飲みやすい。 「……あ、主任。カフェオレ、ありがとうございます」 「いいよ、ここでは僕もホストだからね」 「矢神さん、彼の言う〝ホスト〟って、ここではもてなす側っていう意味ね。水商売の方のホストじゃないから」 「分かってますよ、会長」  会長が大真面目に補足説明を入れたので、わたしは思わず吹き出してしまった。会長って案外天然なのかもしれない。 「……それはともかく。麻衣さんがじーっと見られていたことは真弥さんから聞いたけど、宮坂さんが貴女だけじゃなく、お友だちにまで接触してきたっていうのは気になるよね。しかも貴女のことを悪く言うなんて、彼は一体何がしたいんだろう?」 「多分、わたしを精神的に孤立させたいんじゃないかと思います。それで、わたしの心が自分一人だけに向くよう仕向けたいんじゃないですかね。宮坂くんがそこまでするような人だとは思いませんでした」  今までは仮にも同級生だったからというのもあって、彼のことを少し甘く見ていたのかもしれないし、わたし自身にも信じたくない気持ちがあった。でも、さすがにここまでされると彼という存在が本当に恐ろしい。 「この件は、わたしから内田さんにも報告しとくわね。ここまでエスカレートすると、警察に介入してもらうことも視野に入れないといけないかもしれない。お二人には矢神さんの警護体制を一度見直してもらう必要があるかも」 「そうですね。――矢神さん、真弥さんから
last updateLast Updated : 2025-08-07
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迫りくる危機 PAGE6

 ――絢乃会長からのお願いで、真弥さんは調査を急いでくれることになった。でも、宮坂くん本人が接触してくるようになったので、わたしにとってあの書き込みはもうそれほど脅威に感じなくなってしまったのだけれど。 そしてお昼休み。わたしはいつものように、入江くんと佳奈ちゃんの待つ社員食堂へ行こうとしていたのだけれど……。「――矢神さん、ちょうどよかった。今からお昼でしょう?」「あ、会長! はい。これから社食へ行こうと思って。……あの、主任はご一緒じゃないんですか?」 エレベーターホールへ向かう廊下で、会長に呼び止められた。でも桐島主任はご一緒ではなく、彼女お一人だった。「ええ。彼は今日、小川さんと一緒に外で食べてくるって。というわけで、たまには女同士、外でランチなんてどう? わたしがごちそうするから」「はい、それじゃお言葉に甘えて。……でも、その前にちょっと、社食に顔を出してもいいですか? 友だちが待っているので、一声かけてから行きたくて」「いいよ。急がないから行ってらっしゃい。わたしは食堂の入り口のところで待たせてもらうね」「分かりました。話は手短に済ませますので」 ――エレベーターで社員食堂のある十二階へ下りていくと、ちょうど入江くんと出くわした。彼はわたしが会長と一緒にいることに目を丸くしている。「――あれ? 矢神、今日は会長と一緒なのか? 珍しいじゃん」「あのね、入江くん。今日はこの後、会長にランチをごちそうしてもらうことになったんだけど、その前にちょっと入江くんに話があって」「えっ? オレに話って……。会長、いいんすか?」「ええ、どうぞ。わたしのことはお構いなく」 会長はそうおっしゃって、わたしたちに背中を向けられた。「わたしは聞いてませんよ」という態勢を取られたようだ。「……で、何だよ話って?」「実はね……、昨日、宮坂くんが佳奈ちゃんに接触してきて、わたしのことを何か色々と悪く言ってたみたいなの。わたしのところにも現れて、何もされてないけど怖かった」「マジかよ。お前の前に現れるのはまだ分かるけど、なんで中井にまで……。アイツ、ワケ分かんねえ」「多分、わたしを精神的に孤立させようとしてるんじゃないかと思う。佳奈ちゃんにわたしのあることないこと吹き込んで、わたしをキライになるように仕向けたいんだよ」「ひでえな。……オレに、何かで
last updateLast Updated : 2025-08-08
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女子会ランチで束の間の休息 PAGE1

 ――絢乃会長がわたしを連れてきて下さったのは、会社の近くにある一軒のオシャレな洋食屋さんだった。 「――いらっしゃいませ、篠沢様。今日は桐島様はご一緒ではないんですね」 「こんにちは。今日は彼、先輩とランチだそうで。新人秘書の彼女と一緒なんです」 「あ……、どうも」  給仕係の人と思しき男性との会話からして、会長はこのお店の常連さんらしい。こんなに素敵なお店によく来られるなんて、セレブってやっぱりすごい……。わたしの収入では、とてもじゃないけれど通い詰めるところまではいかないだろう。 「では、席へご案内いたします。いつもの窓際の席でよろしいでしょうか」 「ええ、お願いします」  案内されたテーブル席に着くと、わたしはメニュー表を開くのもそこそこに会長に訊ねた。 「会長、……このお店には主任とよく来られるんですか?」 「矢神さん、ここでは名前で呼んでくれると助かるなぁ」 「えっ? そんなことおっしゃられても……。じゃあ……〝絢乃さん〟ってお呼びしましょうか?」 「うん、それでオッケーよ。わたしも〝麻衣さん〟って呼ばせてもらうね。――質問の答えだけど、ここにはよく彼と来るのよ。最初は彼が連れてきてくれたの。わたしの十八歳の誕生日をお祝いしてくれるためにね」 「へぇー……、そうだったんですか。桐島主任が……」  こういうお店をあの人が選ぶイメージがなかったので、ちょっと意外だった。てっきり、元々会長の行きつけのお店で、彼女の方から誘った
last updateLast Updated : 2025-08-09
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女子会ランチで束の間の休息 PAGE2

「――ところでかいちょ……じゃなくて絢乃さん。今日はどうしてわたしをランチに誘って下さったんですか?」  注文していたお料理が運ばれてきて、それを味わいながら、わたしは絢乃さんに訊ねた。二十三歳の新入社員であるわたしが、四歳下のグループ会長と同じテーブルで顔を突き合わせてゴハンを食べている光景って、客観的に見たらちょっと不思議な光景だ。 「ここのオムライス、美味しいですね。社食のも美味しいですけど、味が本格的で。やっぱり洋食屋さんのは違いますね」 「でしょ? ――今日貴女を誘ったのはね、たまには美味しいものでも食べながらガールズトークをしたかったから。会長室では桐島さんもいるし、なかなかそういうわけにもいかないから。麻衣さんも、上司の目があったら話しづらいこともあるでしょ?」 「そうですね……。会社の中ですし、仕事に関係のない話題は話しちゃいけないって自分の中で牽制してしまう部分もあります。最初はストーカー被害のことも、仕事とは無関係なので相談するのをためらっていたくらいで」  いくら会長が「何でも相談に乗って下さる」といっても、それは仕事や職場の人間関係に関する悩みじゃないといけないのだと、わたしは勝手に思い込んでいた。それ以外の悩みを相談したところで、会長にご迷惑をかけてしまうんじゃないか、と。 「でも、そのストーカーが会社にまで押しかけてきたから、麻衣さんはわたしたちに相談することにしたのよね。さすがに仕事に支障が出るようじゃ、『仕事と無関係』っていうわけにもいかなくなるから」 「……はい。今では思い切ってご相談してよかったと思ってます。まだ問題が解決したわけではないですけど、とりあえず助けて下さる人がいるっていうのは安心材料になりますから」 「そうだね。わたしだけじゃなくて、今では桐島さんも、内田さんと真弥さんも貴女を助けてくれてるもの。そ
last updateLast Updated : 2025-08-10
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