「あれ?蟇田さん、もういなくなっちゃった」「佐加江、来てください。先ほどの大きなせいろです」「ほんとだ!!蒸かしたての温泉饅頭なんて、食べたことない」 はしゃぐ佐加江の横で、青藍が温泉饅頭を注文していた。「ひとつだけ?」「夕餉が食べられなくなってしまうでしょう。佐加江は、ただでさえ食が細いのに。コミコミプランの夕飯は海の幸、山の幸をふんだんに使った豪華懐石料理なのですよ」「ちょっと、早く言ってよ。食べ損ねるとこだったじゃん。ってか、熱ッ!!」 店頭の大きなせいろが開けられると、モアっと湯気が立ち上った。青藍が普通の顔をして半分にした饅頭をくれたが、熱すぎて危うく落としそうになった。「あふっ」 それを冷ましもせず、佐加江は口へ放り込む。ハフハフと口から蒸気機関車のように白い息を吐き、両手で頬を押さえて満面の笑みを浮かべていた。「おいしいぃぃ」 佐加江は少し涙ぐみながら、何度も頷いている。「美味しいですね。墓にお供えしてあるおはぎとは違う」「ねえ。それ、食べに行ってたの?」「子供の頃の話ですよ。彼岸は蘇芳と墓へおはぎを食べに行くのが定番でしたから。ちなみに、お盆は駄目です。あんこからすえた臭いがして、でも我慢できずに食べて何度、腹を下したことか」「子供の頃の青藍、美味しそう」 小さな青藍が、お墓でおはぎを食べる姿を想像すると思わず笑みが漏れてしまう。「美味しそう?」「そんな事、言ってないよ!お饅頭、閻魔様に買ってく?」「良いですね、そこらあたりをうろついている死神殿に頼めば、届けてくれるでしょう。今、確かに私が美味しそうって」「言ってない。桐生さんにも買って帰ろ。はは、お土産を買って帰る人がいるのも嬉しいものね」「……そうですね」 佐加江は蘇芳にもと、たくさんの温泉饅頭を買った。そして太郎にだけ、学業成就と効能が書かれた小さな天然石を買って、別の紙袋へ
Terakhir Diperbarui : 2025-06-29 Baca selengkapnya