この世は、昼も夜も逢魔が時の空の色。 時間の感覚が鈍くなるから人は体調を崩しやすい、と桐生の助言を聞いた青藍が雑貨屋で様々なものを買ってくる。人の世の時計、カレンダーなど、庭が見渡せる寝室には物が少しづつ増えていった。 時計の類いは誰でも知っているような有名メーカーの品物ばかりなのに、朝、起きると決まって二時五十七分。日めくりカレンダーは、鬼治で神事が行われた日になっている。しかし、じっと見つめていると、時計はクルクル回りだし、雪のように千切れた日めくりカレンダーもバサバサと捲れあがって、人の世の今になる。 町を歩けば、あやかしばかり。今さら驚くこともないのだが、いったいそれが何を意味しているのかは、謎だった。「蘇芳。お前は、いつまでいるのですか」 「たまに、あっちの様子は見に行ってるから平気だ。死神もここで仕事が二つ済むんだから、大助かりだろ」 盆を手に、佐加江は書斎のある地下へと降りて行く。通った後には、ふわっと幸せな匂いが漂っていた。「青藍、お昼にパンを焼いたの。食べる?」 首の傷はまだ癒えないが、佐加江は桐生と買い物に行ったり、庭で仔狐と遊んだり、好きな花を眺めたりと穏やかな時間を過ごしている。「入って平気ですよ」 書斎の扉をノックして待っていると、青藍の声がしたのに出てきたのは蘇芳だった。本当に二人は良く似ている。角を隠して、目と髪の色を同じにしたらそっくりだ。「ぱん?」 焼きたてを、と冷めないように掛けていた布をとった蘇芳が、一番きれいに焼き色がついた見栄えの良いミルクパンを大きな口に頬張る。それは、青藍に食べて欲しかったパンだ。「こんなの腹の足しにならねぇな」 「別に蘇芳様の為に焼いたわけじゃ……」「お前も、言うようになったねぇ」 青藍は盆にのったパンを、餅のようだと眺めている。「佐加江、これがパンというものですか」 「うん。乾物屋さんで干しブドウ
Last Updated : 2025-06-09 Read more