Semua Bab あやかし百鬼夜行: Bab 31 - Bab 40

88 Bab

百鬼夜行①

あの後、せっかく良くなった顔色を悪くした青藍は、たくさん謝っていた。そして 、見計らったようにやって来た天狐夫夫と酒盛りになってしまい、青藍はベロンベロンに酔ってしまっていた。 天狐のおかげで、こちらに戻って来れば一時間程度しか時間は経っていなかった。が、疲労感がひどかった佐加江は数日、寝込んでしまった。桐生は番になった今でさえ、子供達同様、たまにこちらに出てこないと体調を崩すことがあるらしい。 本紋がない自分があやかしの世に長居する事が、どんなに難しいか、佐加江は痛感した。 次の発情まで一緒に過ごせない時間を埋めるように佐加江は深夜にコソッと家を抜け出し、鬼治稲荷へ行っている。 ある日の夜、月明りを受け、境内で静かに佇む青藍の姿に見惚れてしまった。おとぎばなしとは違い、鬼とは美しいあやかしだ。 「青藍。僕がここへ来たら祠の扉をコンコンってするから、そうしたら出て来て」 「なぜです。待っていては、駄目ですか」 「誰かに見つかりでもしたら……」 美しい青藍を誰にも見せたくない、それが佐加江の本音だった。改めて家へ来てはダメと言ったのも、青藍が誰かに見つかりでもしたらと思うと気が気ではなく、鬼治稲荷だったら天狐の結界があり安心だからだ。 毎日のように、佐加江は風呂上がりの背中を鏡に映している。 まるで天使の羽根でも生えてくるのではないかと思うほど、本紋がそこへ刻まれる日を心待ちにしている 。その一方で越乃に言い渡された謹慎は、今まで育ててくれた恩返しをしたい佐加江にとって大切な、意味のある時間となっていた。 「佐加江」 「なに?」 「こっちへ来なさい」 深夜に起きているから昼間、眠たくなってしまうのは仕方がなく、昼寝でもしようかと布団に入ったところだった。 「どうしたの?」 つい先ほど、軽トラの音が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-19
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百鬼夜行②

「……なぜ、それを知ってるんですか」 「父から聞きました。実は俺、アルファなんです」 「え?」「おかしいと思いませんか。世の中、アルファもオメガも産まれなくなったはずなのに、家族の中で父と末っ子の俺だけがアルファなんです。母も兄たちもベータなのに」 オメガと診断されてから文献を探して読んだ佐加江にとって、その答えは明白だった。 アルファ男性は、アルファとオメガの男性同士の掛け合わせでしか産まれない。 この簡単な方程式は、佐加江の脳裏に深く刻み込まれていた。つまり、浩太は婚外子。藤堂には妻とは別に、番になったオメガ男性がいるという事になる。「だから佐加江さんのことを聞いた時、他人事には思えなくて。俺たちは似てるように思いました」「そんな。アルファなら浩太さんはお勉強もスポーツも、何でもできるでしょう。僕なんか、駆けっこはいつもビリだったし、勉強もあまり……」「でも、美人だ」「美人ってのは、女の人に使う言葉だよ。それくらいは出来の悪い僕でも分かる」 「佐加江は、出来が良すぎるくらいだよ。小さい頃から素直で誰にでも優しくて」 フォローしようとしたのか、越乃が佐加江の肩に手を置いて笑っていた。「二人は歳も近いから、うちで預かって欲しいって村長に言われたんだ。仲良くできそうで良かった。部屋は佐加江の隣の部屋を使ってもらうおう。浩太君はこの村は初めてだから、荷物を置いたら案内してあげなさい」「うん。浩太さん、行きましょ」 案内すると言っても商店も駅もない。「きっと都会の人にはこんな田舎、退屈でしょうね」 自分も二年前まで東京に住んでいたと言うのに、佐加江はすっかりこの村の人間のような口ぶりだった。 物置代わりの蔵や外便所を案内し、敷地を出た。ゆるくカーブした道をいろいろな話をしながら浩太を連れ、佐加江はのんびり歩いた。「あそこが神社ですか」 浩太が指差したのは桜とともに植えられている常緑樹が、こんもりと小山のようになっている鬼治稲荷だった。その裏には岩肌が見える切り立った崖。そこへは案内したくない、そんな気持ちから佐加江は田んぼの畦道を通り、遠回りしているところだった。「鬼治稲荷神社です。太古の昔、鬼を治めるために狐の神様と一緒に祀られたの」 祀られたのは、青藍ではない。荒くれ者だった先代の鬼だ。「太古の昔?」 浩太は鬼治稲荷
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-20
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百鬼夜行③

越乃は幼い佐加江を連れ、頻繁に村へ帰ってきていた。 最後に鬼治を訪れた前の年だったと記憶しているから、十八年くらい前だろうか。その出来事は、いまでも鮮明に覚えている。『今日は、外へ出てはいけないよ』 越乃にそう言われた。 誰もいない、じぃじの家。 昼間なのに雨戸は閉めきられ、いつも開いている玄関に鍵をかけて越乃は出かけて行った。 電気がつけっぱなしの居間で、佐加江は遊んだ。一人でも平気だったのは、この家に我がもの顔で住む、かすりの着物を着たおかっぱ頭の座敷童子がいたからだ。 大好きなアニメが映し出されるテレビの前で三角座りをしながら、二人でオープ二ングの曲を元気に歌っていると雷鳴が聞こえた。 このころの佐加江は、鬼を連想させる雷が嫌いではなかった。 佐加江はピカッと光る稲妻を見ようと雨戸に走り、隙間から外を覗き見た。が、外はキンとは冷えた冬晴れ。雨すら降っていない外に見えたのは、白装束を着た醜い鬼の大行列だった。雷鳴かと思ったのは、太鼓の音。神輿を先頭に鬼の行列は鬼治稲荷へと続き、雄叫びをあげ、神輿を壊しにかかろうとする恐ろしい鬼達の様子に、佐加江はおもらしをしてしまった。 それから一年近くして鬼治を訪れたのが、青藍と最後に会った時だ。『佐加江?』『はい』『ああ……。会わない間に、こんなに大きくなって。すっかりお兄ちゃんだね。先生は良くしてくれてる?ご飯はきちんと食べているの?』 鬼治稲荷へ向かおうと、人目を盗んで外便所の裏に隠れていた佐加江に話しかけてきたのは、見知らぬ男性だった。やせ細っていて、腹だけが妙にぽっこりと突き出ている。隠れていたことを笑ってごまかそうとした佐加江は、その胸に抱きしめられた。 懐かしい匂いがして、なぜだか鼻の奥がツンとした。 やつれた男性は「ごめんね」と何度も繰り返し、佐加江のクルッと緩くカールしてしまうくせっ毛を梳いた。佐加江と同じような髪の男性は寂しげではあるが優しく微笑みながら、目に焼き付けるように佐加江を暖かい眼差しで見つめていた。『これからも、先生の言う事をきちんと聞くのですよ』 先生とは、きっと越乃の事だ。白装束を着た男性は腹を摩りながら、たくさんの村人が出入りする蔵へとーー。 佐加江は浩太のジーンズの泥を払う手を止め、遠い日の鬼治での出来事を思い出していた。「な、何?!」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-21
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百鬼夜行④

大げさに転び、わざとらしく痛がる浩太を睨みつけた佐加江はひとり先に帰り、部屋へ引きこもった。 怪我をさせた浩太に謝りもせず、そうなった理由を越乃が尋ねても何も言わず、佐加江は気分が悪いからと部屋から出ようとしなかった。 波風を立てる事が苦手で温厚な佐加江が、これほどまで強固な態度を取るには、それなりの事があったのだろうと越乃はそれ以上、何も言わなかった。「佐加江が、申し訳ない」 「大丈夫ですよ。こんな掠り傷、大したことありませんから。それよりも佐加江さん、大丈夫ですか。気分が悪いって」 開け放たれた窓の外からは、耳鳴りのように松虫や鈴虫の声する。 頬杖をついた浩太はサラダには一切手をつけず、シチューに入っていたカボチャをスプーンの先でグチャグチャと潰していた。「大丈夫だよ。少し疲れただけだろう」 「佐加江さんは、素敵な方ですね。越乃さんが、大切に育てたんだろうなって」「それは、どう言う意味かな」「父の受け売りです。あっ、そうだ! 佐加江さんにシチュー持って行ってあげよう。美味しかったから」 使った皿を持った浩太は、越乃から死角になる台所へ向かった。そこにはバターソテーした海老が五尾ほど残っている。「この海老、食べてもいいですか」 「構わないよ。佐加江は、甲殻類アレルギーだからシチューには入れないでくれるかな」 浩太は食べ残したカボチャがある自分の皿へ海老をすべて入れ、まだ温かいシチューを盛り付けた。「番になる僕の好きなものが食べられないって、どう言うことですか」「アレルギーだ、仕方ないだろう」 腕を組んでいた越乃が浩太を見ずに立ち上がり、夕飯の片付けを始める。「夕飯の支度も、そんな片付けも佐加江さんにやらせれば良いんですよ。越乃さん、あなたにはアルファの誇りがないんですか」「アルファの誇りとは、何かな」「皆が敬うべき存在で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-22
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百鬼夜行⑤

「海老は浩太君の好物だから使ったけど別に調理したし、他のものは佐加江が食べられるものだったのにな」「……ごめんなさい」「なぜ、佐加江が謝る。おじさんが悪かったよ、もっと注意していれば良かった。また、検査してみようか。他にもアレルギーが出てしまったのかもしれない」 部屋で点滴をされた佐加江は呼吸が楽になり、越乃に背中を向けた。 ふすま一枚へだてた隣の部屋にいた浩太が居間へ行き、テレビをつける気配がする。 シチューで汚れた畳もシーツも自分で皿をこぼしてしまった、と嘘をついたのは浩太への恐怖心からだ。「おじさんもアルファなの? オメガの僕は、孕むだけの存在だと思ってる?」 佐加江の背中を摩っていた越乃の手が止まる。声が漏れ聞こえぬよう、小声で話す佐加江は明らかに怯えた顔をしていた。「浩太君が言っていたのか」 まるで内緒話だった。「中学生の時に本で読んだの。浩太さんは……、村長さんの甥っ子さんだし良い子だよ」「そうか」 越乃が、少し安堵したようなため息をついた。「佐加江は、特別な存在だと思ってる」 「……特別?」 「おじさんの宝物だよ」 降って湧いたような浩太によるひどい仕打ちと、今まで育ててくれた越乃に別れを告げようとしている事に、佐加江は涙した。 症状が治まり、空気を入れ替えようと佐加江は開けた窓から外を眺めていた。歩くのもしんどく、鬼治稲荷へ行くか迷う。が、保育園で履こうと購入した真新しい白いスニーカーが押入れにある事を思い出した佐加江は、靴紐をキュッと結んで窓から外へ飛び出した。 今夜は雲が多く、満天の星空が見えない。 佐加江が大きく息を吸い込んでいると腕を掴まれ、庭の植え込みへと何者かによって引きずり込まれた。 「や……っ」 「佐加江、私です」「青藍!?」「嫌な予
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-23
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百鬼夜行⑥

「佐加江、今日はどうしたのですか」 社の裏でギュウッと抱きしめられた。溺れてしまいそうなほど青藍の胸は広く、小さな佐加江は必死にしがみついている。「……あのね。僕、子供が大好きなの」「保育園の先生ですものね。好きでなければ、できぬ仕事でしょう」「このあいだ、天狐様の仔狐ちゃんたちが青藍のこと、父様って呼んでるのが可愛くて」 「あやつらはうちの庭を遊び場にしていますから、いつでも会えますよ」「違う」「違うのですか」「……青藍も子供が好きなら、いつか僕が」 青藍の胸に顔を埋めた佐加江の声は、夜の闇に溶けてしまいそうなほど小さかった。「僕、本当の家族が欲しいんだ」「佐加江」「僕にできる紋は幸せがいっぱい詰まってる。僕ね、青藍と番になりたい。青藍しか考えられない」 互いに頬を染め、黙り込んでしまった。頬を寄せる青藍の胸からは、やけに騒がしい鼓動が聞こえる。「初めての事で、私もうろたえていて……。その、あちらの方の相性は良さそうですか」「あちらって、どちら?」「身体の相性は大事だと。つい先日、桐生に教わりました」 青藍を見上げると、視線をよそへ向けている。「ちょっと待って」 「はい」 「初めてって、何が?」 佐加江を抱きしめる腕に力がこもる。「……子作り、です」 「こ、子作りか」「いかかがでしたか」 真剣な眼差しで聞いてくる青藍に、佐加江は顔を真っ赤にして小さな声で「良かった」としか答えられなかった。「佐加江は、あのような感じが良いのですね。わかりました、精進します」 「いや、普通で。もっと普通で良いと、思います」 「佐加江が不安に思っておらぬなら、良いのです」 青藍は目尻を下げ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-24
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百鬼夜行⑦

翌日、佐加江が目を覚ますと昼過ぎだった。 家の中は、物音ひとつしない。 気を遣った越乃が、起こさなかったのだろう。休診日ということもあり、いつもだったら隣り村まで買い物へ出かけている時間だった。 佐加江は着替えを持って、風呂へ向かった。 昨夜、点滴をしている間、越乃が蒸しタオルで拭いてくれた髪を丹念に洗い、泡を流していると急に給湯が止まり水になった。リモコンを操作しても給湯器の電源は入らず、佐加江は頭に泡を残したまま腰にタオルを巻いて台所にあるブレーカーを見に行った。すると、居間で寝っ転がりながらスマホをいじっていた浩太が肩を揺らして笑っている。「佐加江さん、おはよう」 ブレーカーを上げ、浩太を無視して風呂へ戻るとまた、ブレーカーが落ちる。それを何度か繰り返すうち寒気がしてきた佐加江は、苛立ちを隠せなくなった。「浩太さん、もういい加減にして!」 そう言い放った佐加江を追いかけてきた浩太がドアを蹴り、靴下のまま浴室へ入って来る。 「な、なに!?」「今、誰に口利いた」 「ちょ……っと」「一発、ヌかせろよ」「え?」「いいよね、佐加江さん。女みたいな体した男がウロウロしてたから、勃っちゃったよ。ちんぽが好きなんだろ、佐加江さんは」 「何言ってるの!?」 風呂から出て行こうとした佐加江は、引き戻された。「越乃さん。神事の会合だって出かけたから、時間はたっぷりあるよ」 両手を背中で合わせ持たれ、タイルの壁に押し付けられた。浩太はボディソープを手に取り、楽しそうに佐加江の尻で泡立てている。「不浄の穴だから綺麗にしないと」 「や、やめて」「さっきまでの威勢はどうした」 双丘の狭間を何度か行き来した指がヌプッと後孔へ入り込む。「浩太さん、なんでこんなことをするの……、やぁぁッ!!」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-25
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百鬼夜行⑧

佐加江を風呂へ放置し、診療所内を物色していた浩太は越乃が診察の際に使っている椅子に腰かけ、考え事をしていた。 初等部の頃、浩太は友達と運動会のスターターピストルの火薬を盗んだ。ただ派手な音を鳴らすだけではつまらない。浩太は庭の排水溝を開け、そこを住処とする可愛がっているガマガエルを手に乗せた。 いつもそこに隠れている事を、もう何年も前から知っている。 冬眠のたびに大きくなるガマガエルは見た目よりもズッシリと重く、太陽の下で目玉がシュッと横に細くなった。 (かわいい……) 尻に火薬をめいっぱい詰めるが案外、抵抗しない。急につまらなくなった浩太は何を思ったのか、真っ白な家の外壁に向かってガマガエルを投げつけた。 パーン、と閑静な住宅街に鳴り響いた火薬の破裂音。 運動会の時よりも湿り気を帯び、くぐもった音に聞こえた。母親が驚いた顔でカーテンを開け、浩太の事を嫌悪した目で見ていた。思えば、物心ついてから母親と目が合ったのは、それが初めてだったかもしれない。 それに満足したかのように、浩太は笑みを漏らす。 対象は少しづつ大きな物に変わって行き、中等部になると、最後まで親友と信じてくれていた同級生のKをカイボウして遊んだ。 その頃は、彼が浩太にとってのガマガエルーー。 どんなに頭の良い学校でもガラの悪い連中はいる。そんな高等部の奴らとつるみ、浩太はKと一緒にいるところで絡まれるふりをした。どんな因縁をつけられたかは忘れたが、Kが制服を脱がされるのを腹のなかで笑いながら、浩太は「やめろ!」と涙ながらに訴えていた。 それは、どれくらい続いただろうか。 金銭も身体も搾取され、ボロボロになったKがやっと浩太の望む事をしてくれた。 『浩太君、もうやめよう……』 Kは最期まで浩太を親友だと信じていた、と思う。 もうあれから一年以上経った今年の夏休み、卒業した中等部から呼び出しを食らった。 外部高校の受験を苦にした同級生の自殺が蒸し返され、遺書もそれっぽいものを一緒に書いてやったと言うのに、どこからかカイボウの件がバレた。 浩太は反論するどころか、自分がした事を知らしめたかったのかあっさりと認め、親が金銭で解決したものの表向きは留学準備のための退学として、学校は辞めさせられた。 小さい頃から、なかなか治らない素行。父
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-26
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百鬼夜行⑨

「青藍……」 ーー鬼治稲荷へ行こう。 佐加江は唇を噛む。服を着て部屋へ行き、昨日、帰ってきて押し入れに隠した白いスニーカーを持って窓を開けた。 と、煙草の匂いがする。 「そうそう。え? あれ、男だよ。ヤバいだろ」 スマホで話しながら、くわえ煙草をふかす浩太は乾いた笑みを浮かべ、佐加江の手からスニーカーを奪った。 「ネット配信とか出来るかな。ここ田舎だから、めちゃくちゃ電波悪いんだよね。またあとで連絡するわ」 火を靴裏で消した浩太は、吸い殻を指先で庭へ弾き飛ばし、佐加江を押し戻して部屋へと上がって来る。 「佐加江さん、 髪が濡れたままどこへ行くつもりなの」 ならば、と佐加江は土間へ向かった。その気などさらさらない癖に、気遣う言葉を浩太は羅列する。わざとらしい大きな声に気づいたのか、診療所から顔を出した越乃に見つかってしまった。 「佐加江、ちょっとおいで。髪を乾かしてからでいいから」 まるで軟禁だった。あっけなく逃亡は阻止され、佐加江は振り返らずに越乃の元へと逃げ込んだ。 たまにカルテの片付けを手伝う診療所の壁紙は、柔らかい雰囲気になるよう越乃と選んだものだ。パステルクリームを基調にした小花模様で、通り抜けた待合室は穏やかな陽射しが差し込んでいた。が、ここが診療所であることを主張するようにクレゾールの独特な匂いが漂っている。 診察室のカーテンを覗くと、普段着の越乃がデスクで書き物をしていた。 「髪はいいのか? いつも気にしてるオシャレさんが」 いつ青藍に逢うことになるか分からなかったから、佐加江はいつも身だしなみだけは気を配っていた。 「うん……」 書いていた紙を足元の金庫へしまった越乃が、診察室にあるタオルを取って髪を拭いてくれる。 「風邪をひいたら、大変だ」 「そうだね」 「少し身体を見ておこうな。調子はどうだ」 「あまり……」 ついさっき浩太に弄ばれた身体。佐加江はシャツの裾を躊躇しながらたくし上げ、越乃に胸を晒した。聴診器を手のひらで温めてから、真剣な顔で診察する越乃は、浩太につねりあげられた跡が残る腫れた乳首を見て、ふっと笑った。 「発情あとだし、ほどほどにな。DVDがそのままになってたぞ」 「あ……」 「脈が早くなってる」 聴診器を外した越乃が、笑いながら何も書かれていない
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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百鬼夜行⑩

「佐加江さん、鬼に喰われるんだ」「別に構わない」「純潔を奪われたのに、まだそんな口利けるんだ。強気だねぇ」「浩太さんが、初めてだったわけじゃないもの。僕が純潔を捧げたのは、浩太さんなんかじゃない。あんなんで奪ったとか言われちゃ、堪んない。子供のくせに」 部屋まで付いてきた浩太に背後から腰のあたりを蹴られ、敷きっぱなしだった布団の上へ転んだ。「俺が初めてじゃないって、どういう事だ。せっかく優しくしてやったのに、使い古しかよ」 「あれで優しく?!笑わせないで。僕は、本当に心の優しい人を知ってる」「オメガの分際で」「浩太さんを産んだのは、オメガよ。自分の親にそんな事、言えるの!?」 「黙れ。お前は、鬼に喰われるんだ」 浩太の瞳には佐加江に対する、いや、オメガに対する深い憎しみがあるように見える。何か触れてはいけない部分に触れてしまったような気がしたが、浩太が表情を崩したのは一瞬で、また笑っていた。「そういえば……。さっきの顔射写真、評判いいよ」 浩太に見せられたスマホの画面には、『越乃 佐加江』と実名アカウントのSNSがあった。 そういうものがある事はもちろん知っているが、特に興味も関心もなかった。「なにそれ……」 浩太が指先でスワイプした先には、画像が投稿されていた。浩太が見下ろしたアングルから撮った写真だ。精液に溺れそうになっている顔だけでなく、申し訳程度に生えた陰毛と性器まで写り込んでいる。そんな卑猥な画像が、加工されることなく公開されていたのだ。 刻々とリプライが表示される。 この一時間足らずで、多くの人が目にしているようだった。「ちょっと、そんなおかしな事やめてよ!」「珍しい名前だし、知ってる人が見たらすぐわかりそうだよね。なんなら、住所も公開してみる?」「やめて」 スマホを取り上
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-27
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