彼は、自分の耳を疑った。中絶?そんなはずがない!あれは、自分と悠璃の子供なんだぞ。彼女がそんなことをするはずがない!看護師は驚いた様子で言う。「ご存じなかったんですか?昨日の深夜、篠宮さんがわざわざナースステーションまで来て、当直医を起こして中絶したいって言って。てっきり家族と相談済みかと……」楓は、唇まで震わせながら言葉を絞り出す。「今言った篠宮さんって、篠宮悠璃のことか?」「そうです」看護師は急いでその薬を彼の手に押し付ける。「明日もう一度、この薬を飲むよう必ず伝えてください」看護師はそのまま足早に去っていった。楓は薬をしっかり持つこともできず、白い錠剤は床にばらばらと転がり落ちた。目の前に転がるその白い薬を、ただ呆然と見つめるだけだった。心の中は荒れ狂う嵐。波が彼を飲み込もうとする。その時、突然スマホが鳴り響き、楓は無意識に通話ボタンを押した。「楓お兄ちゃん、まだ来ないの?」莉奈の不満げな声が響く。バンッと、楓は握っていたスマホを壁に叩きつけた。そして、怒声が口を突いて出た。「ふざけるな、俺にこんな手を使うとはな?」彼の両目は充血し、まるで獰猛な獣のように上階へ駆け上がる。病室の前で待っていた秘書は、彼を見るなりすぐに頭を垂れて報告する。「社長、ご指示通り、莉奈さんに朝ごはんをお届けしました」「悠璃の居場所をすぐ調べろ」楓は歯ぎしりしながら、一語一語を噛みしめるように命じた。「見つけたら、必ず連れ戻せ!」「俺の子を……俺の子を勝手に……あいつ、頭がどうかしてる!」その言葉に、莉奈が興奮を隠せずに問いかける。「本当に、中絶したの?」楓の目が鋭く彼女を射抜く。さすがに気圧された莉奈は、すぐに口調を和らげた。「楓お兄ちゃん、私はただ、楓お兄ちゃんのことが心配で……きっと、あれは楓お兄ちゃんへの脅しだよ。もしかしたら看護師もグルかも。彼女の思うツボじゃん。焦って追いかけてくる楓お兄ちゃんを見て、どれだけ喜ぶか!これからどんどんつけあがるよ」楓は黙ったまま、何も返さなかった。その沈黙を、莉奈はチャンスと見て、さらに一歩踏み込んだ。「こういう時こそ、彼女に思い知らせてやるべきだと思う。篠宮家の社長が、そう簡単に操れる存在じゃないって」「どうやって?」「私と結婚しちゃえばいいじゃ
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