詩織はしばらく迷い、何か言おうとした瞬間、友人に呼ばれた。「ちょっと先に行ってくるね。適当に遊んでて」「ええ」詩織が席を外した後、結衣はフルーツカクテルを数杯飲んだせいか、少し頭がぼんやりしてきた。静かな場所を見つけて座り、しばらく休むことにした。まさか、座って間もなく眠ってしまうとは思わなかった。目を覚ますと、個室は相変わらず賑やかだった。結衣は時間を確認すると、すでに夜の十一時過ぎ。一時間以上も眠っていたようだ。詩織がまだ友人たちと盛り上がっている最中だったので、彼女に一声かけて先にクラブを出ることにした。クラブを出ると、外では雪が舞い始めていた。結衣の目に驚きの色が浮かんだ。清澄市の冬はとても寒いが、雪はほとんど降らない。結衣がこれほど大きくなるまで、雪が降った記憶は一、二度くらいしかない。彼女は入口に立ち、運転代行を待ちながら、ひらひらと舞い落ちる雪を見上げていた。自然と口元に笑みがこぼれる。二階の個室のテラスでは、長身の男が窓辺に立ち、階下の結衣をじっと見つめていた。顔の半分は闇に隠れていたが、それでも彫りの深い目鼻立ちと、全身から放たれる刺すような鋭いオーラがかすかに見て取れた。不意に、背後から訝し気な声がした。「ほむら、何見てんだ?」「別に」ほむらは振り返り、やって来た人物から結衣の姿を隠すように体をずらした。「ちぇっ、もったいぶりやがって」そう悪態をつくと、男はほむらと一緒に部屋へ戻るふりをし、彼が油断した隙に素早くテラスへ駆け戻ると、ほむらが見ていた方向を覗き込んだ。しかし、走り去る車のテールランプと、人気のないクラブの入口が見えただけだった。男はがっかりした顔で言った。「なんだ、こっそり美女でも見てるのかと思ったら、クラブの入口かよ……ただの門じゃねえか。何が面白いんだ?」これを聞いて、ほむらはわずかに眉を上げた。「だから何でもないって言っただろうが。お前が信じなかっただけだ」結衣が家に着いたのは、もう深夜近くだった。シャワーを浴びている時、ふと来週の日曜日が詩織の誕生日であることを思い出し、明日の朝起きたらデパートへ行って、誕生日プレゼントを選ぼうと決めた。翌朝、結衣が起きて窓を開けると、外は一面の銀世界だった。道端には雪がこんもりと積もり、どうやら
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