「玲奈、付き合う前に言ったはずだ。お前と結婚する気はない。いつかお前が出て行きたいと思う日が来たら、手切れ金は渡す。だが、将来の約束は何もできない、と」たとえ結衣がいなくても、大した学歴もなく、自分の会社で秘書止まりの女と結婚する気など、涼介には毛頭なかった。涼介は玲奈のことが好きだった。だが、それは結婚を考えるほどの愛情ではなく、単なる好意に過ぎなかった。玲奈が大人しくそばにいてくれるなら、彼女が一生かかっても手にできないような贅沢な暮らしをさせることはできる。しかし、それ以上を望むのは夢物語だ。結衣については、涼介も今の彼女に対する自分の気持ちがよく分からなかった。別れる前は、彼女を疎ましく思い、完全に縁を切りたいと願っていた。それなのに、結衣が本当にいなくなってしまうと、心にぽっかりと穴が空いたようで、何とも言えない気持ちになった。玲奈は目に涙を溜め、いかにもか弱そうに涼介を見つめた。その表情は悲しみに沈んでいる。「分かったわ……あたし、欲張りすぎたのね……」涼介の眼差しが揺れ、玲奈を腕の中に抱き寄せると、軽くため息をついた。玲奈はうつむき、自分のバッグについているお守りを見つめた。それは以前、涼介が出張に行った際、玲奈が彼に頼んで求めてきてもらったものだった。確か夏のことだった。そのお守りは九百九十九段の石段を登らなければ手に入らないものだった。何気なく言っただけだったのに、涼介は本当に行ってくれたのだ。出張から帰ってきた涼介は、そのお守りを一揃いのダイヤモンドジュエリーと一緒に玲奈にくれた。お守りを見た瞬間、玲奈の心は甘い気持ちと驚きで満たされた。お金のない男が女のためにお金を使ってくれるのは、本当の愛かもしれない。しかし、涼介のような成功した男が、女のために時間と労力を割いて些細なことをしてくれることこそ、本当にその女を大切に思ってくれている証なのだ。それ以来、玲奈はずっとそのお守りを身に着け、自分こそが涼介の真実の愛だと信じ、結衣のことなど気にも留めていなかった。今思えば、彼女はなんて愚かだったのだろう。でも……諦めない。せっかく結衣を涼介のそばから追い出したんだから。何としてでも彼と結婚する!車内は二人の呼吸音だけが響くほど静まり返っていた。どれほどの時間が経
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