All Chapters of 秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座!?: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話

「玲奈、付き合う前に言ったはずだ。お前と結婚する気はない。いつかお前が出て行きたいと思う日が来たら、手切れ金は渡す。だが、将来の約束は何もできない、と」たとえ結衣がいなくても、大した学歴もなく、自分の会社で秘書止まりの女と結婚する気など、涼介には毛頭なかった。涼介は玲奈のことが好きだった。だが、それは結婚を考えるほどの愛情ではなく、単なる好意に過ぎなかった。玲奈が大人しくそばにいてくれるなら、彼女が一生かかっても手にできないような贅沢な暮らしをさせることはできる。しかし、それ以上を望むのは夢物語だ。結衣については、涼介も今の彼女に対する自分の気持ちがよく分からなかった。別れる前は、彼女を疎ましく思い、完全に縁を切りたいと願っていた。それなのに、結衣が本当にいなくなってしまうと、心にぽっかりと穴が空いたようで、何とも言えない気持ちになった。玲奈は目に涙を溜め、いかにもか弱そうに涼介を見つめた。その表情は悲しみに沈んでいる。「分かったわ……あたし、欲張りすぎたのね……」涼介の眼差しが揺れ、玲奈を腕の中に抱き寄せると、軽くため息をついた。玲奈はうつむき、自分のバッグについているお守りを見つめた。それは以前、涼介が出張に行った際、玲奈が彼に頼んで求めてきてもらったものだった。確か夏のことだった。そのお守りは九百九十九段の石段を登らなければ手に入らないものだった。何気なく言っただけだったのに、涼介は本当に行ってくれたのだ。出張から帰ってきた涼介は、そのお守りを一揃いのダイヤモンドジュエリーと一緒に玲奈にくれた。お守りを見た瞬間、玲奈の心は甘い気持ちと驚きで満たされた。お金のない男が女のためにお金を使ってくれるのは、本当の愛かもしれない。しかし、涼介のような成功した男が、女のために時間と労力を割いて些細なことをしてくれることこそ、本当にその女を大切に思ってくれている証なのだ。それ以来、玲奈はずっとそのお守りを身に着け、自分こそが涼介の真実の愛だと信じ、結衣のことなど気にも留めていなかった。今思えば、彼女はなんて愚かだったのだろう。でも……諦めない。せっかく結衣を涼介のそばから追い出したんだから。何としてでも彼と結婚する!車内は二人の呼吸音だけが響くほど静まり返っていた。どれほどの時間が経
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第42話

玲奈の瞳がきらりと光った。以前、偶然涼介がパスワードを入力するのを見かけ、その数字を覚えていたのだ。もしパスワードを変えていなければ、ロックを解除できるはずだ。一瞬ためらったが、玲奈は意を決してパスワードを入力し、ロックを解除した。緊張と後ろめたさで、バスルームのドアを横目で見ながらメールアプリを開く。涼介が突然出てくるのではないかと気が気ではなかった。メールを自分のアドレスに転送すると、玲奈は送信済みのメールを削除し、受信メールを未読に戻してから、スマホを元の場所へ戻した。玲奈がスマホを戻して間もなく、涼介がバスルームから出てきた。彼がダイニングテーブルに着くと、玲奈は用意していた粥を彼の前にそっと置き、何食わぬ顔で言った。「社長、お粥、ちょうどいいくらいに冷めてるわ」「ああ」涼介は視線を落とすと、スプーンを手に取り粥を口に運び始めた。二人の間に沈黙が流れた。涼介が粥を食べ終えると、玲奈は手早くテーブルを片付け、彼のマンションを後にした。帰り道、玲奈は早速メールを開き、添付ファイルをダウンロードした。すぐに、沢村佑介の全ての個人情報が画面に表示された。出身小学校から、その頃に経験した係活動といったことまで、詳細に記されていた。佑介の個人情報を見つめながら、玲奈は下唇を噛んだ。ある計画が胸に湧き上がってきた。一方、涼介のマンションのリビングでは――玲奈が帰った後、涼介はスマホを手に取り、秘書の直樹から届いたメールを開いた。佑介に大した経歴はなく、両親は清澄市の普通の会社員、本人も清澄市にある製薬会社のしがない研究員に過ぎないことを知ると、涼介の口元には自然と冷笑が浮かんだ。結衣のやつ、やはり適当な男を見つけてきて芝居をさせているだけか。どこをとっても平凡な男が、この俺と張り合えるとでも思っているのだろうか?スマホを無造作にテーブルに放り投げると、涼介はこの件をそれ以上気にかけることなく、結衣が根負けして自分に泣きついてくるのを待つことにした。それから一週間、結衣は彩香の案件に忙殺されていた。金曜日の午後三時、彩香が夫の健也を訴えた離婚裁判が時間通りに開廷した。結衣側が提出した証拠が十分だったため、審理は滞りなく進み、離婚が認められる可能性は非常に高かった。第一審が終わり、彩香と結
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第43話

「それならよかったですわ」彩香と別れた後、結衣はまっすぐ事務所へ戻った。事務所に足を踏み入れた途端、所長の秘書である木村杏(きむら あん)が彼女の元へやってきた。「汐見先生、お帰りなさい。ちょうどよかったです、金森(かなもり)先生が執務室へ来るようおっしゃっています」結衣は頷いた。「わかりました、すぐ伺います」五分後、結衣は主任弁護士である金森渉(かなもり わたる)の執務室のドアをノックした。中から「どうぞ」という声が聞こえ、結衣はドアを開けて中へ入った。「金森先生、おはようございます」結衣の姿を見ると、渉は満面の笑みを浮かべた。「汐見先生、お疲れ様。まあ、座ってくれ。話があるんだ」やけに親切な渉の態度に、結衣は嫌な予感を覚えた。結衣は渉の向かいに腰を下ろした。「金森先生、どのようなご用件でしょうか?」「以前、汐見先生が旅行に出かけていた間に、うちの事務所でインターンを一人採用したんだ。彼が離婚案件に興味があるというので、君に指導をお願いしようと思っているんだが、どうだろうか?」結衣の目に驚きの色が浮かんだ。彼女がこの事務所に来て数年、ずっと案件に追われ、インターンの指導を担当したことはなかった。「彼の大学での専攻は何でしたか?」「民法を専攻していたから、君の専門分野とぴったり合うだろうと思ってね。それで君に任せようと思ったんだ。ただ、なにぶん社会に出たばかりで、多少プライドが高く、生意気なところがあるかもしれない。時々、気に障ることを言うかもしれないが、大目に見てやってほしい」結衣は思わず眉を上げた。「金森先生、お伺いしてもよろしいでしょうか。そのインターンの方と先生は、どのようなご関係なのでしょうか?」一般のインターンであれば、渉がわざわざこんな話をするはずがない。渉は鼻を触りながら言った。「私とそこまで深い関係というわけではないんだが、友人の甥でね。だが、君も遠慮はいらない。叱るべき時は叱ってくれて構わない。私のことは気にしなくていい」結衣はしばらく考え、口を開いた。「お引き受けします。ですが、彼があまりの激務に耐えきれず辞めてしまっても、私の責任ではありません」結衣は多くの案件を抱え、毎月一件か二件は法律扶助の案件も引き受けている。彼女の元で働くのは間
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第44話

以前、渉から結衣が事務所の離婚案件では負け知らずだと聞いていた拓海は、てっきり中年女性だろうと思っていたが、目の前に現れたのは予想外に若い女性だった。「もちろん、汐見先生は研修期間もうちの事務所だったから、もうかれこれ五年近くになる。この五年間、彼女が手掛けた案件で敗訴したことはほとんどない。それに、汐見先生は君よりいくつか年上だ。これからは敬意を払うように」そう言うと、渉は眉をひそめている結衣に笑顔で向き直った。「汐見先生、彼のこと、任せても大丈夫か?」結衣はわずかに眉を寄せたまま口を開いた。「金森先生、私、彼の服装や髪型がこのようなものだとは存じ上げませんでした。もし彼が服装を改め、髪を黒く染め直すことができないのでしたら、私では指導いたしかねます」渉が眉をひそめ、何か言おうとしたその時、拓海が先に口を開いた。「問題ありません。今夜にでも髪は染め直しますし、今後は絶対にこんな派手な服は着ません。ピアスも外します。他に何かご要望はありますか?」その言葉に、渉は思わず拓海を振り返り、自分の耳を疑った。先ほど、拓海のその派手な身なりを見た時、渉も彼に注意したのだ。その時、拓海は何と言ったか?弁護士は専門性で勝負するもので、依頼人のために勝訴できればそれでいい、何も黒髪にスーツで、まるで保険のセールスマンみたいな格好をする必要はないだろう、と。依頼人が外見だけで判断して自分に依頼しないのなら、それはその依頼人に人を見る目がなく、自分の専門性が見えていない証拠だ、と。そんな見る目のない依頼人の案件など、こちらから願い下げだ、と。それが、まだ三時間も経っていないというのに、まるで別人にでもなったかのようだ。結衣がその場にいなければ、渉は拓海に「どの口が言うんだ?」と問い質したいところだった。結衣は、拓海がこれほど素直だとは思わず、その変貌ぶりに目を丸くした。これでは、先ほど渉が言っていた「プライドが高くて、生意気」という人物像とはまるで違うではないか。しかし、いずれにせよ、扱いにくいアシスタントよりも、素直なアシスタントの方がずっと気が楽だ。「他に要望は特にありません」拓海は頷いた。「ご安心ください。月曜日に出勤する時には、きっと見違えるようになっていますから」結衣は微笑んだ
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第45話

拓海が原因で結衣が事務所と対立するような事態になれば、事務所にとっては大きな損失だ。「金森おじさん、ご心配なく。俺が妙な真似をするはずがないじゃないですか!」拓海は、これまでのどの恋愛関係も、百パーセント真剣に向き合ってきたのだ。誰が拓海の恋愛に対する姿勢が不真面目だなんて噂を流したのか知らないが、多くの女性と付き合ったことが悪いことなのだろうか。拓海のどこか軽薄な様子を見て、渉は黙り込み、不意に安心した。結衣の性格からすれば、よほど目が節穴でもない限り、こんなタイプに惹かれるはずがない。拓海は渉の視線にイラついて、不満げな声で言った。「金森おじさん、その目はどういう意味ですか?」「何でもない。さっさと片付けて帰る準備をしろ。来週からは結衣の指示に従って、言われた通りに動け。自分で対処できないことがあっても、勝手な判断はするな。分かったな?うちは小さな事務所だ。お前の起こす騒動には耐えられん」そう言う渉の顔には、懇願するような表情が浮かんでいた。本当に、この御曹司がいつか厄介ごとを引き起こさないか不安で仕方なかった。そもそも一生遊んで暮らせるほどの大金持ちなのに、卒業したばかりで、どこからそんな向上心が湧いたのか、こっそり清澄市にやって来て、インターンに志願するとは。拓海は上の空で頷いて言った。「ご心配なく、金森おじさん。絶対に迷惑はかけないから」その様子は、明らかに全く話を聞いていなかった。渉もこれ以上言っても無駄だと思い、手を振った。「もういい、出て行け」拓海を見ているだけで頭が痛くなってきた。「はいよっ!」拓海は踵を返してサッと部屋を出て行った。その様子は、今にも結衣の隣に移動したくて仕方ないといった風情だった。拓海の嬉々とした背中を見送りながら、渉は思わず微笑んだ。結衣の下で働き始めたら、いつまでその笑顔が続くかな。自分の席に戻ると、拓海は急いで荷物をまとめ、20分もしないうちに全てを結衣の隣へ移動させた。結衣の隣の席は数ヶ月も空いていて、机も椅子も埃をかぶっていた。拓海は雑巾を持ってきて水で濡らし、机と椅子を拭こうとした。拓海が給湯室へ向かうため曲がり角で姿を消すと、奈緒は椅子を寄せて結衣に近づいて言った。「汐見先生、金森先生があの厄介者をあなたに押し付けたの?」
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第46話

奈緒は一瞬呆気に取られ、自分の耳を疑った。「彼、髪を黒く染めることに同意したって?これから出勤する時も、もっとちゃんとした格好するって言うの?」「ええ。だから、彼の指導を引き受けることにしたの」「……そう」結衣が旅行に行っていた数日間、奈緒は拓海が渉と大喧嘩してまで服装を変えることを、頑なに拒んでいたのを見ていた。それなのに、今になって結衣の言うことを聞いて髪を染め直すなんて、思いもよらなかった。しかし、以前渉が「拓海は離婚案件に興味がある」と漏らしていたことをふと思い出した。事務所で離婚案件を専門に扱っているのは結衣だけだ。彼が譲歩するのも理解できなくはない。奈緒は結衣に親指を立てて言った。「さすが汐見先生ね」二人が話していると、拓海が戻ってきた。奈緒はそれ以上何も言わず、椅子を滑らせて自分の席に戻った。拓海は軽い潔癖症らしく、机と椅子を何度も何度も拭き清め、さらにアルコールで消毒してから、ようやく自分の私物を机に置き始めた。整理し終えると、彼は結衣の方を向いた。「汐見先生、次は何をすればいいですか?」結衣は彼を一瞥し、彩香の案件資料を手に取って彼に渡した。「まず、この案件に目を通しておいて。第二審の時は、私と一緒に行ってもらうから」拓海は資料を受け取り、頷いた。「はい」拓海が頷いたのを見て、結衣は再び資料作成に戻り、彼のことはそれ以上気にしなかった。資料を書き終えたのは、もう夜の七時近くだった。冬は日が暮れるのが早く、窓の外はすでに真っ暗だった。結衣はパソコンの電源を落とし、帰る支度を始めた。立ち上がった途端、隣から少し恨めしそうな声が聞こえてきた。「汐見先生、もしかして忘れてません?隣に人が座ってるんですけど」結衣が振り返ると、拓海が顔を上げて彼女を見つめていた。その顔には無視されたことへの不満が浮かんでおり、なぜだか結衣は昔、隣人が飼っていた白いサモエドを思い出した。エレベーターでその隣人がサモエドを連れているのに出会うたび、結衣はその頭を撫でて、想像通りに毛が柔らかいかどうか確かめてみたいと思っていた。「どうしたの?もう終業時間よ。帰っていいわよ。資料、読み終わらなくても月曜日にまた見ればいいから」あの程度の資料、三十分もあれば読み終わる。月曜日まで待つ必要
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第47話

佑介が口を開こうとした、その時だった。拓海の声が響いた。「汐見先生、お腹すきました」結衣は拓海を一瞥し、注文用のタブレットを渡した。「先に頼んでいていいわよ。私はジャガイモの細切り炒めだけでいいから」「はぁ……」拓海はタブレットを受け取り、メニューに目を落とした。佑介は、その実におとなしそうな拓海の様子を見て、目を細めた。結衣が佑介の方へ向き直った時には、佑介はもう先ほどの穏やかな笑みを浮かべていた。「そうだ、結衣。高校の時のクラス委員長が同窓会を企画していてね、明日の夜なんだ。僕が君とまた連絡が取れるようになったと知って、みんな君に会いたがってる。それで、君が参加したいかどうか聞いてみてくれって頼まれたんだ」結衣は唇を引き結び、断ろうかどうしようか迷っていると、また拓海の声がした。「汐見先生、パクチーとセロリは食べられますか?牛肉のピリ辛炒めを頼もうと思うんですけど」結衣は拓海を見て言った。「ええ、食べるわ。頼んでいいわよ」「はい」佑介に話しかけようと振り返った、まさにその時、また拓海の声が飛んできた。「汐見先生、青ネギは大丈夫ですか?スペアリブのネギ塩焼きを頼もうかと思ってるんですが」結衣は再び拓海の方を向いた。「好き嫌いはないから、好きなものを頼んでいいわよ」「はい」しかし、拓海がおとなしくしていたのは十数秒ほど。また声がした。「汐見先生、注文終わりました。これで足りますか?足りなかったら追加しますけど」「……」結衣は佑介を見て、少し申し訳なさそうに言った。「同窓会の件、もう少し考えさせて。決まったら連絡するわ」佑介は優しい表情で言った。「うん、分かった。それじゃ、お邪魔みたいだからこれで失礼するよ」「ええ、また」佑介が去った後、結衣は再び席に着き、眉を上げて拓海を見た。「さっきわざと私たちの話を遮ったの?」拓海は注文用のタブレットを結衣に差し出しながら、さも潔白だと言わんばかりの顔で言った。「いえ?俺、邪魔しましたっけ?」「どう思う?」結衣の笑っているような、いないような視線を受けて、拓海は白状するしかなかった。「……はい、確かにわざとです。だって、汐見先生、あの同窓会に行きたくなさそうだったし、でも面と向かって断りにくそう
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第48話

「いえいえ、褒めすぎですよ!」結衣と拓海が楽しげに談笑している様子が、少し離れた場所にいた佑介の目に映った。佑介は伏し目がちになり、その瞳には何とも言えない複雑な思いが浮かんだ。夜九時過ぎ、ようやく食事を終えた結衣は、拓海を送ってから家路についた。ソファに腰を下ろした途端、LINEの通知音が鳴った。拓海からで、無事家に着いたかを尋ねるメッセージだった。結衣はLINEを開き、拓海に返信してから佑介とのトーク画面を開き、どう断ろうかと思案した。結衣が言い訳を考えていると、佑介からメッセージが届いた。【楓も明日、同窓会に来るらしいよ。君たちは何年も会ってないだろう?】佐藤楓(さとう かえで)は結衣の高校一年生の時のクラスメイトで、席も隣だった。高校時代はそれなりに仲が良く、楓はクラスの中でも結衣が気軽に話せる数少ない友人の一人だった。しかし、高校を卒業してからは連絡を取ることも徐々に減り、互いに忙しくなるにつれて、いつしか連絡は途絶えていた。結衣はあまり同窓会には気乗りしなかったが、楓には会いたいと思った。そう思うと、結衣は佑介に同窓会の具体的な時間と場所を尋ねるメッセージを送った。佑介からはすぐに返信があった。時間は夜七時、場所はグランドパレスホテルだという。その場所を見て、結衣の瞳が微かに揺れた。記憶が確かなら、グランドパレスホテルは涼介の親友である涼真が経営しているホテルだ。オープンした時、涼介は玲奈を連れて訪れ、たくさんの贈り物をしていた。調べてみると、ホテルは結衣の家からそう遠くない場所にあった。結衣はOKのスタンプを送ると、スマホを置いてシャワーを浴びに行った。シャワーを浴びて髪を乾かすと、もう夜十一時近かった。親友の詩織から電話があり、明日の夜、一緒に食事をしないかと誘われた。結衣が高校の同窓会に行くと知って、詩織は少し驚いた。「あんた、ああいうのには絶対参加しない主義じゃなかったの?それに、高校の友達なんてLINEで数人しか繋がってないのに、どうして明日の夜に同窓会があるって知ってるのよ?」「佑介さんに教えてもらったの。今夜、食事に行った時に偶然会って」「へえ、彼、彼女いるの?もしいないなら、あんたたち、いい感じになれるんじゃない?だって、海外で助けてもらったんでしょ?少しはドキッとし
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第49話

電話を切ると、結衣はフェイスパックをして、すぐに眠りについた。翌日の夕方、結衣は車を走らせてグランドパレスホテルに到着した。個室の入口まで来ると、中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。結衣がドアをノックし、扉を開けた瞬間、個室の中は一瞬静まり返ったが、すぐに楓が立ち上がり、嬉しそうに言った。「結衣、久しぶり!」楓は早足で入口まで来ると、結衣の手を取って自分の隣の席に座らせた。「おお、本当にあの美人で有名だった結衣じゃないか。昨夜、佑介がお前も同窓会に来るって言ってた時も半信半疑だったんだが、まさか本当だったとは!久しぶりだな!」声の主は、健康的な小麦色の肌をした背の高い男性だった。座っていても周りより頭一つ抜きん出ている。結衣は見覚えがあるような気がしたが、名前が思い出せなかった。隣にいた楓は結衣が相手に気づいていないのを察し、小声で耳元に口を寄せた。「あれ、高校の時の体育委員だった赤木達也(あかぎ たつや)よ」楓にそう言われて、結衣も思い出した。「久しぶりね」個室にいたみんなが次々と結衣に挨拶し始め、結衣が分からない人がいると、楓が隣でそっと名前を教えてくれた。すぐに個室は元の賑やかさを取り戻した。「そういえば、佑介はまだ来てないのか?もう七時過ぎてるぞ。あいつ、道に迷ってるんじゃないだろうな?」「ありえるな。あいつ、高校の頃からそんなとこあったよな。家に帰るのにいつも道を間違えるんだ。電車一本で帰れるはずなのに、毎回乗り間違えて、結局乗り換える羽目になってた」達也がからからと笑い、何かを匂わせるように言った。「あいつが方向音痴なわけないだろ。好きな子と少しでも長く一緒にいるため、わざとあの電車に乗ってたんだよ」結衣の気のせいかもしれないが、達也がそう言った時、こちらを一瞥したような気がした。「そうだ、結衣。俺、今こっちの清澄市で働いてるんだ。LINE交換しようぜ。これから暇な時にまた集まろう」結衣は頷いた。「ええ」二人がLINEを交換し終えた、ちょうどその時、個室の扉が開き、佑介が入ってきた。「佑介、おせーぞ!遅れてきた罰だ、『かけつけ三杯』いってもらうぞ!」佑介の視線は、まず結衣に向けられた。今日の結衣は淡いピンク色のウールのコートを羽織り、中にはベージュのドールカラー
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第50話

彼の言葉が終わるか終わらないかのうちに、周りからどっと囃し立てる声が上がり、皆がニヤニヤしながら結衣と佑介を見ていた。「佑介、確か汐見さんって今フリーだよな?アタックするなら早い方がいいぞ!」「それも汐見さんのお眼鏡にかなうかどうかだろう。お前ら、無責任に囃し立てるなよ」「ははは、佑介はイケメンだし性格もいい。汐見さん、彼のこと考えてみたらどう?」……結衣は唇をきゅっと結んで微笑み、口を開いた。「今は仕事が一番なので、恋愛のことは、自然の流れに任せようと思っています」佑介のことは嫌いではなかったが、好きというほどでもない。だから、二人の間はまず友達でいるのが一番良い。それに、今は恋愛をする気にもなれなかった。その場にいたのは皆、いい大人だ。結衣がそれとなく断っていることを見抜けないはずがなく、どこか同情するような目で佑介を一瞥した。高校時代、佑介が結衣に密かに想いを寄せていることには、少なからぬ人が気づいていた。ただ、告白する機会がなかっただけだ。大学時代、彼も恋愛はしたが、長続きせずに別れてしまい、それ以来、誰とも付き合っていなかった。佑介はまるで気にしていない様子で、笑って言った。「よせよ、僕はただクラスメイトとして心配しただけだ。誰が隣に座ったって同じようにするさ。僕たちのことをからかうのはやめて、別の話をしよう」佑介がそう言うと、皆もそれに乗じて話題を変えた。宴もたけなわとなり、個室の雰囲気も盛り上がってきた。結衣が化粧室へ立とうとすると、楓も一緒についてきた。二人で化粧室から出て、手を洗っていると、楓が不意に言った。「結衣、佑介のこと、どう思う?」結衣は手を洗う動作を止め、彼女の方を向いた。「どうして急にそんなことを聞くの?」「実は高校の時、佑介、あんたのこと好きだったんだよ」結衣はペーパータオルを一枚引き抜き、手を拭きながら言った。「それも高校の時の話でしょ。もしかしたら、もうとっくに私のことなんて好きじゃないかもしれないじゃない」楓は笑った。「私が見る限り、彼のあんたに対する態度はそうは見えないけど」結衣は、楓のその言い方にどこか違和感を覚え、わずかに眉をひそめて黙り込んだ。今回の再会で、楓との間に、以前のように気兼ねなく話せない、見えない壁があるような
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