結衣は表情を変えず言った。「神崎さんは長谷川さんのご友人でしょう?私、もう彼とは別れたんです」その口調は、これ以上関わるつもりもなければ、気まずさを感じる必要すらない、という拒絶の意志を明確に示していた。「俺は涼介の友達でもあるし、君の友達でもあるつもりだよ」それを聞いて結衣はかすかに笑った。「神崎さんにそう言っていただけるなんて光栄です。ですが、私にはもったいないお言葉です」結衣のよそよそしい態度を見て、涼真は口元に笑みを浮かべたまま、その話題にはもう触れなかった。「この間バーで会った時、聞きそびれたんだけど、本当に涼介と別れるつもりなのか?」「もう別れたと申し上げたはずですが。それが全てです」結衣の冷ややかな表情を見て、涼真は続けた。「じゃあ、涼介がいつか後悔して、君のところにヨリを戻しに来たら、復縁する?」「ありえません」結衣は顔を上げて涼真を見つめ、真剣な面持ちで言った。「神崎さん、どういうおつもりでそんなことをお聞きになるのか分かりませんけれど、もし私が長谷川さんに付きまとうとでもご心配されているのなら、どうぞご安心ください。別れた相手にみっともなく復縁を迫るほど、落ちぶれてはいませんから」涼真は一瞬言葉を失い、そして釈明した。「いや、そういうつもりじゃなかったんだ。もし俺の質問が君を傷つけたなら、ごめん」「謝っていただくには及びません。ただ、探るようなことはおやめいただきたいだけです。まだ用事がありますので、これで失礼します」そう言うと、結衣は涼真のそばを通り過ぎてその場を後にした。涼真は結衣の後ろ姿を見送りながら、心の中でそっとため息をついた。結衣は、本気で涼介にもう何の未練もないようだった。二度と振り返ることもないだろう。しかし数日前、飲み会の席で涼介は、まだ結衣が泣きついて戻ってくるのを待っている、などと言っていたのだ。涼介が、結衣が本気で自分を捨てたと知った時、一体どんな顔をするだろうか。結衣が個室に戻った頃には、宴会もちょうどお開きの雰囲気だった。しかし、皆はこのまま解散するつもりはなく、二次会でカラオケに行く準備をしていた。結衣は時間を見た。もうすぐ午後十時だ。「もう遅いですし、これで失礼します。皆さんは引き続き楽しんでくださいね」その言葉に、
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