「申し訳ありません、如月さん……お子さんは助かりませんでした」医者がそう告げた瞬間、東條誠司(とうじょう せいじ)の目に一気に涙がにじんだ。如月律(きさらぎ りつ)が身ごもっていたのは男の子。五ヶ月目で、もう安定期に入っていた。今回はきっとうまくいく――そう信じていた。誠司は、針痕だらけの律の手首を握りしめ、かすれた声で懇願した。「もうやめよう……もういいだろ……!」本当に……やめていいのかな。律は、テーブルの上に置かれた体外受精のパンフレットをぼんやりと見つめていた。彼女と誠司は、七年前に結婚した。婚前検査で、「多嚢胞性卵巣症候群」と診断され、自然妊娠はほぼ不可能と宣告された。それでも誠司は気にしなかった。親や友人の反対を無視し、彼女の家の窓から入り込んで、結婚届けをもらいに行ってきた。子どもは好きじゃないし、いなくてもいい。一緒にいられれば、それで十分――そう言っていた。でも、律にはわかっていた。あれは彼の優しさ、慰めの言葉にすぎない。実際は、彼は子どもが大好きだった。正月になると、甥っ子や姪っ子たちと本気で遊びまくるくせに。律に見られた時、ふと我に返ったように、子どもたちを両親に押しつけて、急に無表情になる――そんなところがあった。だからこそ、律は体外受精に賭けた。この五年間、どれだけ薬を飲み、注射を打ち、何度手術を受けたか分からない。痛くても、苦しくても、何度も踏ん張ってきた。それでも結果は、成功しないか、流産するかの繰り返し。そのたびに、誠司と一緒に、希望に満ちた「もうすぐパパになる」の喜びと、突き落とされるような絶望を味わった。だから、今になって、彼はもう耐えきれなくなったのだ。「頼む、もう体外受精はやめてくれ、律……このままだと、お前の身体が壊れてしまう。俺には、お前がいてくれれば、それだけでいい。何も足りなくないんだ」医者も看護師も、彼の言葉に頷きながら、やさしく律を諭した。帰り際、彼女の耳に、小声の羨望まじりの会話が聞こえてきた。「如月さんって本当に幸せよね……東條様、子どもより奥さんのことを大事にしてるんだもん」「普通の男なら、もう離婚して別の人と子ども作ってるって。あの財産、後継ぎなしなんてもったいないわ」そう――京城市中の誰もが
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