スキー場で雪崩が起きたとき、川崎真里(かわさき まり)は吉岡美都(よしおか みと)に突き飛ばされ、雪山から転げ落ちた。美都はその場で両腕を脱臼しただけだったが、真里は山の谷底まで転落した。 彼女は雪山で、まるまる七日間も閉じ込められていた。もし足を枝に刺されて出血し、雪の中に赤い跡が残らなかったら、彼女は一生、誰にも見つけてもらえなかっただろう。真っ白な雪に広がる鮮やかな血痕は、まるで一輪の真紅の花のように浮かび上がっていた。真里は木の切り株にもたれ、息も絶え絶えで、今にも雪に溶けてしまいそうなほど弱々しかった。護衛隊が彼女を見つけるなり、すぐにトランシーバーで阿久津巧(あくつ たくみ)に連絡を入れた。「阿久津様、川崎様を発見しました!」まもなくヘリが空から降り立ち、巻き起こる風に真里は目を開けることもままならなかった。それでも彼女は、一目で巧の姿を見つけた。その彼の後ろには、やはり美都がぴったりと付き添っていた。巧は急いで駆け寄ってきて、今にも倒れそうな彼女を見た瞬間、怒りを爆発させた。「お前があちこち勝手に動き回るから、こっちは千人以上動員して探す羽目になったんだぞ!」「じっとしていれば、五、六日も無駄に探さなくて済んだんだ!」「毎日誰かに迷惑かけないと気が済まないのか!」 今は十一月、氷点下十数度の寒さで山は雪に閉ざされていた。最初、真里は迷子になるのを恐れ、その場から動かずじっとしていた。凍えながらも、巧がきっと助けに来てくれると信じてる。でも夜になると、辺りは真っ暗になり、光る緑の目がギラギラとこちらをうかがい、遠くからは不気味な咆哮が響いた。彼女は震えながら火を焚き、目を閉じることもできず、夜通し耐え続けた。やがて最後の食料も尽き、雪を掘って野草や果実を探さざるを得なくなった。けれど真冬の山では何も見つからず、指はひび割れ、血が滲んでも感覚がなかった。一日、また一日……真里の中に残っていた希望は、冷たい風に吹き消されていった。 彼の罵声を聞いても、彼女はただ力なくうつむき、何も言わなかった。巧は彼女のことを、うるさくて、感情的で、屁理屈ばかりだと嫌っていた。何かあるたび、彼はいつもこう言っていた。「また適当なこと言ってるんじゃないだろうな?今度はどんな嘘をつい
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