気を張り詰めたままの食事がようやく終わり、ホッとしたのも束の間のこと。 一矢が、ふいに「風呂に入る」と言い出した。 私はてっきりバスタオルやガウンなどを用意するのかと思い、ここは妻の見せどころ、と準備に取りかかろうとしたのだが、そういった身の回りのものはすでに使用人の方々によって、隙のない完璧な状態で整えられていた。さすがは一矢の家……私の出る幕は、なにひとつ残っていなかった。 どうしたらいいのか分からず、ぽかんとしていた私に向かって、中松がさらりと放った言葉が、私の心臓を一気に凍り付かせた。 「一矢様のお身体を、どうか洗って差し上げてくださいませ」 きゃあああああああああっ!?!?!? なななな、なにをおっしゃいましたか今ッ!?!? 「な、なななっ、なんで私がそんなことをっ!? それってつまりどういう……!」 反論しようとしたその瞬間、中松は私の抗議などものともせず、見事な力技で私をバスルームへと放り込んだ。 そして、ガチャリという無慈悲な音とともに、外から鍵が掛けられた音が響く。「ちょっと、待って! 中松っ、鍵開けてよ!! 開けなさいってばぁっ!!」 私は扉をドンドンと叩いたが、まるで鉄のように頑丈なその扉は、びくともしなかった。『これは、一矢様のご所望でございます。伊織様、どうか腹を括って、覚悟をお決めくださいませ』「で、でもっ! 心の準備ってものがっ!!」『一矢様をこれ以上お待たせするわけにはまいりません。主人の命令は絶対。どうぞ、伊織様も潔く、従っていただきたく』「無理に決まってるってば!!」『借金一千万円の肩代わり、の件ですが…』「うぐっ……わ、わかったよ、やります!! やればいいんでしょ、やれば!!!」 なんなの、いったいこれは!? 私の借金じゃないのに! お母さんが巻き込まれた形とはいえ、なんで私ばっかりがこんな目に遭うのよ……っ! このニセ嫁修行が無事終わった暁には、お父さんに臨時ボーナス三万円を請求してやるんだからっ!! 意を決し、さっきまで着ていたワンピースを脱ぎ、しっかりと体をバスタオルでぐるぐるに包んだ。 その上から就寝用のガウンを羽織り、まるで鉄壁の防御態勢。濡れることなんて、もう気にしていられない。 きっと一矢は、これまでに数えきれないほどの女性と関係を
Last Updated : 2025-05-29 Read more