Semua Bab 幼馴染の専業ニセ嫁始めましたが、どうやらニセ夫の溺愛は本物のようです: Bab 21 - Bab 30

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5.旦那様(ニセ)は、嫁(ニセ)の水着を選ぶのにVIPルームを利用致します。 その6

 帰路に就き、鬼松が運転するリムジンの中で、一矢が優しく話しかけてくれた。「伊織、そろそろお腹も空いただろう。昼食はなにが食べたい?」「あ、そうね、久しぶりにミックが食べたいな。さっき看板が見えたから」 グリーンバンブーで働いていると、普段は厨房で作った出来立ての洋食を食べることが多く、ジャンクフードのような手軽でお手頃なものを口にする機会はほとんどない。だからこそ、たまには無性に食べたくなってしまうものだ。先ほど車の窓からちらりと見えた、あの大きな黄色い『M』の看板に心を惹かれてしまった。「ミック……?」 しかし、私が何気なくその名前を口にすると、一矢は不思議そうに眉をひそめて、小首を傾げてしまった。 ――え、もしかして、ミクドナルドの略称が『ミック』っていうのを知らないの……? そんなに驚くことではないのかもしれない。だって、一矢は生粋のお坊ちゃまであり、世俗のことに疎い部分がある。だから、こうした一般庶民が親しんでいるような言葉や略称を知らなくても不思議ではない。「あの……テレビのCMとかで、見たことない?」 念のため一矢に問いかけてみた。すると彼はやや呆れたように軽く首を横に振って答えた。「俗なテレビはほとんど見ないからな」「ええと……じゃあ、普段は何をしているの?」 一矢があまりにも日常的なことに疎いので、私は思わず尋ねてしまった。一矢は真面目な顔をして、堂々と自分の生活を語り始めた。「休みの日は専ら読書をしていることが多い。歴史的な文献やビジネス書など、実務に役立つような専門書を中心に読むことにしている。平日は仕事が忙しく、書籍にじっくり目を通す余裕など到底ないからな。だからこそ休日には意識的に読書の時間を作っている。まず朝は、グリーンバンブーに寄って、お前が作った弁当を受け取る。その後に会社に行って仕事だ。朝から晩までスケジュールがぎっしりと詰まっている。会議やらセミナー、海外とのオンラインミーティングなども頻繁にあるから、息をつく暇もない。夜になれば接待やパーティーに顔を出さなければならないことも多々ある。まあ、私もこう見えて、意外と忙しい身なのだ」 彼の話を聞いているだけで息苦しくなりそうだった。一矢の毎日がそんなに過密なスケジュールで埋め尽くされているなんて知らなかったし、想像もしていなかった。彼があまりにも自然に、そん
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-07
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6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。 その1

 「キャ――! もうお願いだから止めてっ!」 だあん!「いやあ――っ!」 どんどん!「一矢の指が切り落ちちゃう――うぅぅぅ!!」 ざくぅー! ここは現在、一矢邸の広大な厨房。一流シェフたちが慌てふためいている中、誰も手を出せない状態で一矢が玉ねぎと格闘している真っ最中。視界は涙で曇っているのだろう、恐ろしいほど乱暴な包丁捌きでまな板の上の玉ねぎを攻撃している。一個の玉ねぎを半分に切るというだけなのに、まるで戦場で敵を叩き斬るかのような勢いで包丁を振り下ろすものだから、私は見るに堪えなくてつい悲鳴を上げてしまった。「伊織、頼むから少し静かにしてくれないか! 集中できないだろう!」「お願いだからもうやめて! 一矢の気持ちはもう十分わかったから……っ!」 一矢の不慣れな切り方のせいで、玉ねぎの強烈な成分が空気中に散り、私の目にも染みて涙が滲み始めた。それを私が本当に泣いているのだと勘違いした一矢は慌てて包丁を手放した。彼も玉ねぎのせいで目を真っ赤に潤ませている。普通の人ならば無様に見えるような姿も、一矢がやると不思議と絵になってしまうのだから本当に謎だ。彼という存在は、なにをしてもどこか美しく優雅なのだ。「そんなに泣くほどのことか。私は平気だぞ」「私が泣き止むのは、一矢が包丁を持つのを止めてくれた時だけよ!」 勘違いを利用してでも、一矢に包丁を手放させなくては――!「わ、わかった! 伊織に泣かれては困る。すぐにやめるからもう泣くのはやめてくれ。まさか玉ねぎを切ることがこんなに過酷なことだとは知らなかった……こんなにも涙が出るとは……」 一矢の言葉に私は心の中で呟く。それはただ単に一矢が包丁を扱い慣れていないからよ……とは口が裂けても言えない。余計なことを言えば一矢のプライドが傷つくし、また包丁を握りかねない。「そうよ。料理は本当に大変なの。だからお願い、一矢、私にも手伝わせて? 夫婦(ニセだけど)だから、協力して一緒に作業を進めていきましょう?」 私が優しくそう言うと一矢は素直に頷いてくれた。「……そうだな、伊織の言う通りにしよう」 一矢が静かに包丁をまな板に置いた瞬間、中松が心底ほっとした表情を浮かべた。彼は、万が一一矢が怪我をした時に備えて、救急用品を用意しながら心配そうに見守っていたのだ。彼もこの数分間で寿命が数年縮んだに違い
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-08
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6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。 その2

 パテを丸めて軽く焼き、熱したグリルに丁寧に並べた。香ばしい香りが厨房にふんわりと漂い始めたところで、バンズも一緒にグリルに投入した。その間に、付け合わせとしてポテトチップスを手作りすることにした。本当ならハンバーガーにはポテトフライを添えたいけれど、この家には冷凍のポテトフライなど常備されているはずもない。仕方なく生のジャガイモを薄くスライスして素揚げした。これがまた、揚げたての香ばしさが食欲をそそる。カロリーを気にしなければ、仕上げにバターと塩をまぶしたり、メイプルシロップやバター醤油で味付けをするとさらに美味しくなるのだけれど。 一矢が玉ねぎを切るという騒動で大騒ぎしている間に、無農薬の新鮮野菜を丁寧に洗ってお皿に盛り付けた。美しい色合いを意識してレタス、トマト、オニオンを並べる。グリルからバンズを取り出した後、パテを最後に取り出し、温かい湯気がほんのりと立ち昇るパテをテーブルに運んだ。「伊織様、こちらでよろしいですか?」 中松に頼んで、チーズやハム、ソースと共にテーブルへと並べてもらった。「うん、ありがとう! とても美味しそうにできたわね!」「ああ、伊織と一緒に作った料理だ。食べるのが楽しみだな」 一矢も嬉しそうに微笑んでいる。簡単な特製ソースを数種類作り、小さな器に入れて並べた。広いテーブルの上は、美味しそうな料理で華やかに彩られている。「ねえ、中松も一緒に食べましょうよ。今日は特別な日、一矢が初めて料理をした記念すべき日なのよ」「滅相もございません。私は――」 中松は恐縮した様子で遠慮している。しかし、一矢が勢いよく言葉をかけた。「そうだ中松! 私が初めて自ら作った料理だぞ。お前にも是非食べてほしい」 一矢の真っ直ぐな眼差しに、中松は深々と頭を下げて答えた。「はっ、一矢様のご命令とあれば、私にはこれ以上ない喜びでございます。それでは、お言葉に甘えてご一緒させていただきます」 一矢は満足そうに笑みを浮かべている。中松が一矢に対して見せる忠実さは、いつ見ても感心してしまう。一矢は私の家族と中松にしか心を開いていない。私が作ったお弁当も必ず二人分購入するほど、中松を大切にしている。 中松とも、気が付けば長い付き合いになった――ふと彼と初めて会った日のことを思い出した。 あれは寒さの厳しい冬の日だった。中松は傷だらけの状態で三成家の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-09
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6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。 その3

 「ぜ――――っっっっっったいに着ないから!」 私の大声が一矢家の大きな脱衣所に響き渡った。「ぜったいに着ないとはどういう見解だ! 誰のために水着を買ってやったと思っているのだ! しかもこれは、自分で選んだものではないかっ!!」「選んでないよッ!」「手に取っていたではないか!」「だからあれはっ、選んだのじゃなくて、手に取って見ていただけ!」「だったらなぜもっと早く言わないのだ!」「言ったでしょっ! 私の話も聞かずに盛り上がって、勝手に買ったのは一矢じゃない!」「私は聞いていない!」「言ったもん!」「聞いていない!」「言った!!」「聞いていないと言っている!」「この、わからずや!」「それはお前の方だ!」 私と一矢は激しい言い争いをしている。 どうしてこんなことになったかというと――  今日の夕方、デパートで大量購入した水着が届いた。その中からお風呂に入る時に着用するための水着を選んでいたら、私の傍にやってきた一矢が嬉しそうに「お前の選んだものが早速見たい、今日はこれにしてくれ」と、真っ赤なドエロ水着を渡してきたのだ。 その水着は、布地が極端に少なくて隠す部分がほとんどない。好きな人の前でこんな大胆な水着など到底着られるはずがない。断固拒否をしているところへ―― 「なんの騒ぎですか」  バスルームで大喧嘩をしている私たちの声を聞きつけた鬼――中松が飛んできた。この男は絶対に一矢に服従しているから、私の味方になど絶対になってくれない。正直、来なくていいのに。「一矢がこれを着ろって、しつこく言うから断っているの!」 赤い水着を広げて見せると、さすがの中松も絶句した。その後、憤慨している一矢に何やら耳打ちをした。すると、さっきまで怒っていた一矢の顔色が少し青ざめ、「それは良くないな」と呟いた。 中松ったら! 一矢になにを吹き込んだの!?「伊織」一矢が私に向き直ったので、私は再び身構えた。「その水着はまた今度にしよう。然るべき時まで私が大切に預かっておく。貸せ」 一矢は、私が持っていた赤い水着をあっという間に奪い取った。 えっ、それ、着なくていいの? もしかして助かったの!? でも、「然るべき時」っていつなの? また同じ騒ぎになるのかもしれないじゃないの! 「伊織様」中松が私に向き直った。「一矢様に粗相がないようにお願
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-10
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6.旦那様(ニセ)に忠実な執事が、実はとんでもない羊被りだった件。 その4

「眼鏡が無いからあまりよく見えなくて、大体の雰囲気しか把握できないが、しっかり洗ってやるから。昨日、伊織にやってもらったらとても気持ちよかった。慣れない事を頑張っているだろう。私が労ってやるから遠慮するな」 あ、見えてなかったのね! 雰囲気ね。雰囲気。よかった!  でも…旦那様(ニセ)、背中洗いは恥ずかしいので、嫁(ニセ)としては遠慮したい案件です…。  早く座るように言われたので、仕方なく腰かけた。「み、水着、着てるから…洗えなくない?」「うむ。だから、できれば脱いで欲しいのだが」「ええっ、無理っ、無理だから!!」「だろうな」 ふっと唇の端を持ち上げ、そのままでいいから後ろを向いていろ、と一矢が優しく微笑んでくれた。  身体を洗う専用のスポンジに乳白色のボディーソープを垂らし、泡立てたものを背中に塗り、優しく擦ってくれた。  中松が選んでくれた水着は、前はワンピースタイプで上品、露出は少ないけれど、ホルターネックになっているから背中は剥き出しになっている。その部分に一矢が触れてくれて、ドキドキが止まらなくなってしまった。 美しく長い指。綺麗な手。水洗いばかりしてささくれた私の手とは大違いだ。「伊織。中松は厳しいだろう。辛い修業だと思うが、弱音も吐かずによく頑張ってくれているな」  背中を一矢の手が滑る。嬉しいけどくすぐったい。「一矢の迷惑にならないようにしたいけど…失敗が多いから中松にすっごく叱られちゃうの。でも、引き受けた以上は頑張るからね!」 張り切って答えた。私は料理しか取り柄が無いから、お嬢様に変装するには無理があるけれど、一矢のために頑張りたいっていうことだけは伝えておきたい。「伊織ならそう言ってくれると思っていたが、大変なことを頼んでしまってすまない」「いいよ。幼馴染のよしみでしょ。私が借金で困っているのをすぐに助けてくれたのは一矢だよ。あなたが困っているなら、私が助けるのは当然じゃない」「ありがとう…心強い」「婚約発表して、縁談来なくなった?」「ああ。お前のお陰で、毎日届いていた見合いの書類がぱったり来なくなったから助かっている」 ニセ嫁も役に立っているのね。「それはよかった。さ、次は私の番よ」 なんか、ニセ夫婦同士だけど、お互いを思い合っていい感じじゃない?  このまま本当の夫婦に…なんて…できれば
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-11
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7.旦那様(ニセ)とのなれそめを思い出す嫁(ニセ)。 その1

 私の方が着替えに時間がかかるので一矢がお風呂から先に上がってしまった。今度は一矢の方が寝室で待ってくれることになった。  結果今日も三成家の屋敷にお泊りになってしまったので、時間をかけて念入りに身体を洗った。  もしも、万が一、なにかとんでもない間違いが起こっては困るから――考えるだけで、顔から火が出そう。恥ずかしい。  一応、ニセとはいえ、男女がひとつ屋根の下(かなり広いけれど)で一緒に、同じベッドで眠るんだよ。なにかあるかもしれない…!  でも一矢はモテるし、私に手を出すほど女性関係に困っていないから、なにもないか。考えすぎよね。くすん。 明日からグリーンバンブーのキッチン業務も再開するし、束の間、一矢と楽しくお喋りして、契約ニセ嫁をしっかり演じ切って、ほとぼりが冷めたら一矢と別れて、誰か私だけを愛してくれる一般庶民の殿方を探そう。お金持ちじゃない人がいいな。 着替えの籠に手を伸ばした。オレンジや黄色のパステルカラーで花柄のパジャマがその中に入っていた。多分用意してくれたのは中松だろう。私が好のむ柄を彼はよくわかっている。あの男は完璧執事だから。 新品で洗い立てのパジャマに袖を通し、大きな鏡に自分の姿を映し見た。ほんのり上気した頬に、洗い立ての髪の毛。少しアレンジをして長い髪をアップにして、後れ毛を出した。 一矢に少しでもかわいく思われたい。 あっ。今からメイクするのもおかしいかな?  どうなんだろう。  淑女のたしなみ…誰か教えてくれませんか。  ネットで検索してみようと思ったけれど、スマートフォンは中松に預けているので無理だった。 気合を入れすぎて、どうこうなるのを期待していると思われても困るので、ボディークリームだけを塗って、化粧はせずに寝室へ向かった。  ドキドキする。あああ、どうしよう。心臓が…破裂しそう…!  エッチなんかしないよね? 大丈夫だよね? 昨日、なぜか一矢にキスされちゃったけど、その後手は出されなくて平気で私の横ですやすや眠っていたし、貧相な私なんかじゃ欲情しないってことよね? 一矢。昨日のキス、私のファースト・キスだったんだよ。  黙ってキスしちゃうなんて…。初めてはもっと、あなたとゆっくりい雰囲気でしたかったのに。 勝手に奪われてしまったけれど、初めての相手が一矢だと嬉しく
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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7.旦那様(ニセ)とのなれそめを思い出す嫁(ニセ)。 その2

 私が一矢を好きになって、もうすぐ二十年。初めて彼に会ったのは、確か五歳の頃だ。  幼い私が仲のいいお友達と遊んで別れた夕暮れの帰り際。グリーンバンブーのある実家まで帰る私の目に映ったのは、悲しそうに一人でぽつんと公園のベンチに座っていた同年齢の綺麗な男の子だった。夕日を背に浴び、とても淋しそうだったことを覚えている。あの淋しそうな背中と綺麗な顔は、今でも鮮明に思い出せる。 思わず声を掛けた。迷子にでもなったのかと思って「どうしたの」と尋ねた。  泣くのを我慢していたのだろうか、彼は涙の滲んだ瞳で私を睨みつけ、無言で去って行った。  嫌な態度とか、そういうことは一切思わなかった。ただ悲しかった。あんなに綺麗なのに、淋しそうな顔をする子を、私は見たことが無かったから。  彼は私の中に、かなり強烈な印象を残して行った。 その子が気になったので翌日も帰り際に公園に行くと、彼は同じようにベンチへ座っていた。『どうしたの?』 また声をかけてしまった。彼は再び私を睨みつけ、「フン」と鼻を鳴らして行ってしまった。正直ひどい態度だと思う。普通はもう声をかけるのは止めるだろう。でも、私は止められなかった。彼の悲しそうな顔をなんとか笑顔にしたいと思ったから。 それから何日か同じ時を過ごした。約束はしていなかったけれど、なんとなく一緒にベンチに座って声を掛けるのが日課になっていた。相変わらず無表情だったけれど、フンとか言われなくなったし、彼はすぐ家に帰らなくなった。 ある日のこと。彼が同じ年齢くらいの子供に意地悪をされている瞬間を目撃した。  その時、だからあんなに悲しそうな顔をしていたんだと理解した。 すごく腹が立った。彼を悲しませる原因を突き止めたので、なんとかしたい一心で突撃した。『やめなさいよっ!』怖かったけれど、拳を振って走って行ったら、すぐに彼を取り囲んでいた子供達は逃げてしまった。よく見ると、お金持ちだけが通えるこの近くの私立幼稚園の制服の子たちだ。今日は彼も同じものを着ているので、幼稚園の友達に意地悪をされたのだと思った。『だいじょうぶ?』『おせっかいだな。よけいなことするな』 嫌味を言われた。本当なら「はあ?」と言いたいところだけれど、彼は初めて嬉しそうな顔をしていた。嬉しかったんだ…。わかりにくいな、この子。『よかったね』
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
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7.旦那様(ニセ)とのなれそめを思い出す嫁(ニセ)。 その3

 それから彼は困ったら私の家を訪ねてくるようになった。私の両親は来るもの拒まずだから、偉そうで横柄な態度の一矢を気にもせず、差別することなく接してくれたし、お風呂も小学校になるまでは一緒に入っていた。  大きくなるにつれ、彼も自宅での立ち振る舞いが身についてきたようで、徐々にグリーンバンブーに来ることが減っていった。  中松を拾ったのも大きかったと思う。彼の存在が一矢をしっかりとした少年に成長させたのだ。  さっきも修業が厳しいことを見抜いていたし、恐らく一矢も鬼松(鬼の中松を訳して鬼松)に相当しごかれたのだろう。  一矢が私の家を頼らなくなったけれど、適当な距離を保ちつつ友人関係は続けていた。  幼い頃は彼の親が資産家で大金持ちだということも知らなかったし、ただ、一矢が好きだった。 素直に言い出せず、一矢を想い続けたままここまで来てしまった。   淋しそうにしていた一矢を、私が明るく笑顔にしたかった。  だからお弁当を私に作ってくれと頼まれて、すごく嬉しかった。  毎日、一矢のためにお弁当のメニューを考え、作るのが楽しかった。感想メールに時々腹を立てながらも、『悪くない』とか『また食べてやってもいい』とか、そういったひねくれたメッセージに思わず笑ってしまったりして、すごく楽しかった。 どんな風に喜んでくれるかなって、一生懸命考えた日々が愛おしく思う。  でも、もうすぐ終わり。  初恋にピリオドを打つ時が来たの。  ニセ嫁の契約期間は特に設けなかったけれど、婚約発表をして、ほとぼりが冷めたら別れるのだろう。手切れ金なんかを渡されて、二度と三成家に関わらないで、なんて言われるのかもしれない。  戸籍については聞いていないけれど、入籍はできればしたくないなぁ。偽装のまま終わりたい。一瞬でも三成の姓になれば戸籍に残るし、一生思い出すから避けたい。取り決めていないから、早めに申請しておけば大丈夫かな?  とにかく来月のパーティーが無事に終わったら、ニセ嫁としての契約期間も含めてきちんと決めなきゃ。話を受けた時は、1千万円を一矢に立て替えてもらわなかったら、グリーンバンブーの存続の危機だと思っていたから、話し合いがおざなりになっていた。「ん…」 彼の寝顔を見つめながら考えごとをしていると、寝息が聞こえた。  グ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
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8.ニセ嫁、旦那様(ニセ)の為に、腕を振るって愛妻弁当を作ります。 その1

 翌日。昨日の様に失敗しない為に、遠慮なく一矢をゆり起こした。ニセ嫁修行に向かおうとする私を一矢が引き留めてくる。もう少し一緒に居てくれないか、と。「ゴメン、無理よ。中松に叱られちゃう」 午前六時からグリーンバンブーの開店時間前まで、私はニセ嫁修行を遂行しなければならない。一秒でも遅れようものなら、鬼松からの嫌味攻撃が待っている。  現在午前五時過ぎ。まだ余裕はあるけれど早めに行ってスタンバイしておきたい。準備も必要だし。「どうしても行くのか」 なぜか一矢に抱きしめられていて、どうしようもできない。嬉しい反面、困っている。「パーティーまでの一か月は、朝からみっちり修行なの。我儘言わずに我慢して。修行が終わったら、時間取れるから」「…それまでの辛抱、というわけだな」「そうね」「…仕方ない。手を打とう」 しぶしぶ一矢がそう言って名残惜しそうに離れたのが、すぐにもう一度抱きしめられた。「やはり、行くな」「ダメよ、行かなきゃ。中松に怒られるから」「…仕方ない」 そう言ってくれるけれどもなかなか離してくれない。三回くらい同じことを繰り返してようやく解放してもらい、ダッシュで隣の部屋に駆け込み、中松が用意してくれたドレスを身にまとい、化粧をして髪を整え、修行部屋へ向かった。  中松は既に室内で私を待っていた。五分前到着だから怒られることはないだろう。  それにしても寸分の隙も無い男。オーラが半端ない。本気で怖いわ、この鬼。「あのっ」「伊織様、朝から開口一発で説教はしたくありませんが、先ずは挨拶です」「おはようございます」 深々とお辞儀をして中松を睨んだ。「もう少し上品に微笑むことはできませんか?」 目の笑っていない笑顔で言われた。「そんなことより、昨日のあれはなに?」「あれ、とは?」 しれっとした顔で言われた。「とぼけないで! なによ、貸しひとつだからな、って、どういうつもり?」 中松に会ったら、朝一番に聞こうと思っていたのよ!  羊の皮なんか被っちゃって! 鬼のクセに!!  化けの皮剥いでやるっ。「どのお話の件でしょうか」「昨日、お風呂場で水着を着る、着ないで一矢と揉めていた時、私に囁いて出て行ったでしょう。その時のことよ」「覚えがございません」 再びしれっと言われた。  もぉおおおぉぉ――――! 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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8.ニセ嫁、旦那様(ニセ)の為に、腕を振るって愛妻弁当を作ります。 その2

 今日は桃太郎の気分でいこう。  嫌味が飛んできたら桃太郎の歌でも心の中に流してやりすごそう。「今日はどうすればいいの」 つっかかるようにして言ったが中松は気にも留めず「先ずはテープの上を美しく歩いてください」と言った。  コルセットを装着した状態でお腹に力を入れ、ひとつ深呼吸をして、いざ勝負、と喝を入れ、歩き出した。「立ち姿がなっておりませんよ!」 歩き出した途端、中松の叱責が飛んできた。  びしっ、とムチで叩かれている姿が目に浮かび、鋭い音まで聞こえてきそうな気がした。  さらにもう一歩踏み出すと、「歩く姿はもっとエレガントに! 先日もお伝えしたはずです!」 びしーっっ。さっきより厳しく、ことさら大きな声が飛んできた。  お腹に力を入れてもう一歩踏み出すと、「背筋が曲がっていますよ! もっとしゃんとしてくださいっ」 慌てて背筋を伸ばした。もう、どうやって歩いていいのかわからない。  たった数メートルの白い線の上を一回歩いただけで、へとへとになってしまった。  中松の叱責は昨日より酷いものだ。 肩で息をする私に一瞥をくれた中松は、無情にも言い放った。「もう一度最初からやり直してください」「はい」 一矢のためだ。頑張らなきゃ。  鬼に負けるもんか! キッと空を睨み、一度深呼吸。ぐっとお腹に力を入れ、背筋を伸ばして息を止め、テープの上を歩いた。「やればできるじゃねえか」 んっ、と思って鬼松を見ると、「姿勢が崩れてますよっ」と早くも叱責が飛んできた。  慌てて姿勢を戻してテープの上を歩いた。  今、絶対、羊の皮なくなっていたよね!  聞いたもの。中松の悪魔の囁き! 見てらっしゃい。この私がいつか化けの皮を剥いでやるわ!  鬼退治、してやるんだからっ!! 朝から鬼にしごかれ、体に疲れが蓄積され、疲労困憊状態となった。朝の修業だけでこのありさま。果たして身体は持つのかな。まだ朝が始まったばかりだというのに。そしてこれがあと一か月弱も続くのだと思うと、ため息しか出ない。鬼に見つかるとうるさいから、隠れてこっそり長いため息をついた。「あっ、そういえばお弁当…」 どうすればいいのかしら。土曜日は一矢のお弁当の日じゃないから良かったんだけど、平日の月曜日から金曜日までは、一矢にお弁当を頼まれている
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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