Lahat ng Kabanata ng Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─: Kabanata 91 - Kabanata 100

116 Kabanata

第90話:偉大な母の背中

「暗明の聖女様!!この、不当な幽閉は、ベルノ王国に対する宣戦布告です!」 シイナさんが、最後の抵抗として必死に叫ぶ。その声が、静まり返った大神殿に虚しく響いた。 「黙れ。お前たちの意志など、聞いておらぬ」 暗明の聖女は、氷のように冷たい声でそう言うと、私たちに向かって、すっと手をかざした。 その指先から、濃密な闇があふれ出す。それは瞬く間に私たちを円形に覆い尽くし、抗う間もなく、私の意識は深く、深く沈んでいった。 *** どれくらいの時間が、経ったのだろう。 「う……」 重いまぶたをこじ開けると、薄暗い天井が目に入った。 「お!お目覚めですね、エレナさん」 すぐ隣から、いつもと全く変わらない、どこか楽しげな声が聞こえる。 「ミストさん……?」 ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。そこは、ひんやりとした石の壁に囲まれた、埃っぽい牢獄だった。 鎖に繋がれてはいないけれど、目の前には頑丈そうな鉄格子が、私たちを外の世界から隔てている。 陽の光が、一切届かない、暗い場所。 その光景に、私の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。 あの、メモリスの牢獄で味わった……痛みの記憶。絶望と、恐怖。 身体が……勝手に、カタカタと震えだした。 (エレナ、大丈夫か?) 私の身体の震えに気がついたのか、エレンが心配そうに声をかけてくれる。 (うん…エレン、私が気を失ってる間、何が起きたか分かる?) (残念ながら、私まで意識を遮断されていたようだ。あの闇の術は、魂に直接干渉するタイプらしい) 「えっ……」 思わず、声が漏れた。 「エレンさんですか?」 ミストさんが、不思議そうにこちらを覗き込む。 「うん、エレンまで意識を遮断されてたって……」 「ふむふむ、やはりあの聖女様、只者ではなさそうですね」 ミストさんは、まるで面白い研究対象を見つけたかのように、楽しそうに言った。 その言葉に、私はあの威圧感を思い出す。 私と同じくらいの年齢なのに、彼女は、まるで完成された聖女そのもののようだった。自分の発言に揺るぎない自信があって、失敗なんて微塵も恐れていない、強い瞳。 ……私に、国を混乱させるような意思はないのに。どうして、こんなことになってしまったんだろう。 (恐ろしい程の過信に満ちた態度。あれは、自分の失敗を恐れている者のそれではないな
last updateHuling Na-update : 2025-10-15
Magbasa pa

第91話:孤高の反逆者

私の脳裏に焼き付いて離れない、母の、あまりにも偉大な背中。 それに比べて、私はなんて無力なんだろう。牢獄の中で、ただ膝を抱えていることしかできない。 「……私には、無理だよ」 か細い声が、自分の口から漏れた。 「お母様のように、たった一人で国を守るなんて……そんなこと、絶対にできない」 うなだれる私に、ミストさんは静かに問いかけた。 「……エレナさんは、先代聖女様のようになりたい、と、そう思っておられるのですね?」 「それは……」 もちろん、そうだ。私の目標は、いつだってお母様だった。 でも、その背中は、あまりにも、あまりにも遠い。 「なりたい、けど……なれるはずが、ないんだ。だって、お母様は、あの厄災から、たった一人で国を救ったんだよ。私には……そんな強さ、ないもの」 胸の奥が、きゅっと詰まる。 あの日の光景を思い出すだけで、今も身体が震えそうになる。空を覆う魔物の群れ。隕石から溢れ出す、おぞましい瘴気。それを一身に受け止めて、血を流しながら戦い続けた、母の姿。 「ですが」 ミストさんの、凛とした声が、私の沈んだ思考を打ち破った。 「研究者として言わせてもらえれば、その結論は少し、早計に過ぎるかと」 「え……?」 「先代聖女様は、確かに国を、人々を守られました。それは、歴史に残る偉業です。ですが、その代償として、ご自身の命を失われている。……果たして、それが唯一の、そして最善の結末だったのでしょうか?」 (……ミストの言う通りだ) 心の中に、エレンの冷静な声が響いた。 (結果だけを見れば、彼女は英雄だ。だが、その過程を分析すれば、改善の余地はいくらでもある。そもそも、聖女一人に国の命運を全て背負わせるという状況そのものが、致命的な欠陥だ) ミストさんと、エレン。二人の言葉が、私の凝り固まった心を、少しだけ揺さぶる。 お母様が、たった一人で戦うしかなかった状況。 それは、本当に、仕方がなかったことなのだろうか。 「どうしてだろう……」 私は、ぽつりと呟いた。 「どうして、お母様は、一人で戦わなくちゃいけなかったのかな……。周りに、誰もいなかったのかな……」 その時だった。 カツン、カツン、と。 牢獄の外の、石畳の廊下から、規則正しい足音が聞こえてきた。
last updateHuling Na-update : 2025-10-16
Magbasa pa

第92話:大義

たいまつの光が、私たちが隠れている石柱のすぐそばまで迫る。 もうダメだ。見つかる……! 私がぎゅっと目をつぶった、その瞬間だった。 「おい、何をしている!持ち場に戻れとあれほど言っただろうが!」 廊下の奥から、別の騎士の怒声が飛んできた。 「し、しかし、今、物音が……」 「気のせいだ!それよりも、聖女様がいつお目覚めになるか分からんのだぞ!神殿内の警備を一刻も早く立て直す!お前は西の回廊へ向かえ!」 「は、はいッ!」 私たちを照らしかけていた光が、慌ただしい足音と共に、急速に遠ざかっていく。 光が完全に消え去り、再び廊下に静寂が戻った。 「……行きましたか」 リディアさんの、安堵の混じった囁き声が聞こえる。 全身から、一気に力が抜けていくのが分かった。心臓が、まだドクドクと痛いほど鳴っている。 リディアさんは、もう一度だけ慎重に周囲の気配を探ると、私たちに頷いてみせた。 「今のうちに。行きますよ」 彼女に導かれ、私たちは再び歩き出す。大きな扉を静かに開け、その先の短い通路を抜けると、ひやりとした夜気が肌を撫でた。 外だ……! 神殿の裏手にある、小さな庭園。月明かりだけが、私たちをぼんやりと照らしていた。 その庭園の木々の影に、見慣れた三つの人影が立っているのが見えた。 「シイナさん……!みんな……!」 「エレナ!無事だったか!」 駆け寄ると、シイナさんたちが、心底ほっとしたような顔で私たちを迎えてくれた。 「いやー……酷い目にあったな!いきなり闇魔法で気絶させられるわ、牢屋にぶち込まれるわで、散々だぜ!」 合流するなり、グレンさんが大きな声でぼやいた。 その言葉を聞いて、リディアさんが、ぎゅっと唇を噛み、私たちの前に進み出ると、深く、深く頭を下げた。 「……申し訳、ありませんでした」 絞り出すような、痛切な声だった。 「私が……私が、あなた方をこの国へ入国させてしまったばかりに……。ギルドの受付として、中立であるべき私が、個人的な感情で判断を誤ったせいで、皆様を危険な目に……」 「顔を上げてください、リディアさん」 シイナさんが、穏やかな、しかしきっぱりとした口調で彼女の謝罪を遮った。 「あなたが謝ることじゃない。俺たちも、あなたから暗明の聖女の話を聞いて、自分たちの意思
last updateHuling Na-update : 2025-10-20
Magbasa pa

第93話:当面の隠れ家

リディアさんに導かれ、私たちは街の最も古い区画へと足を踏み入れていた。騎士たちの警戒網を、まるで縫うようにして駆け抜け、やがて、彼女は蔦の絡まる大きな屋敷の前で足を止めた。 「さあ、中へ」 リディアさんが、軋む音を立てて重い扉を開ける。中は、月明かりに照らされて、分厚い埃が静かに舞っているのが見えた。 「ここは……?」 全員が中に入ったのを確認して、シイナさんが静かに尋ねた。 「ここは随分前から使われなくなってしまった空き家なので、ご安心を。しばらくは、騎士たちも見回りに来ないはずです」 リディアさんの言葉に、張り詰めていた緊張の糸が、少しだけ緩むのを感じた。 「一先ず、国の閉鎖が解除されたら報せに来るので、隠居生活となってしまいますが……お待ちください」 「あなたは大丈夫なのか?」 シイナさんの、心配を滲ませた声が、静かな屋敷に響いた。 「……恐らく、まだ大丈夫でしょう。ですが、暗明の聖女様が目覚められたら、危ういかもしれませんね」 淡々と、自分の危険を語るリディアさん。その姿に、私は胸が締め付けられた。 「そ、そんな! それならリディアさんもここに一緒に……!」 私が思わずそう言うと、リディアさんは一瞬だけ驚いたように目を見開き、それから、とても複雑な、悲しいような、困ったような顔で、小さく首を振った。 「お気持ち、感謝します。しかし、今回の件につきましては、どうも様子が変なのです」 彼女は、何かを確かめるように、ゆっくりと言葉を続けた。 「暗明の聖女様は、元々、とても責任感の強いお方でした。民のことを第一に考え、常に公正な判断をされる方だったのです」 「……」 「しかし、今回の強行や、ここ最近の聖女様のご指示は、なにかがおかしいと……騎士団内部でも、そう囁かれていたらしいのです」 リディアさんの、衝撃的な言葉の続きを、私たちは固唾を飲んで待っていた。 「詳しく聞かせてもらえますか?」 シイナさんが、冷静に、しかし鋭く切り込む。 「はい。私も、ギルドで耳にした噂話の域を出ませんが……ここ最近、聖女様の命令が、あまりにも唐突で、強引なものが増えている、と」 「……俺たちを捕らえろ、っていう命令も、その一つって訳か」 グレンさんが、吐き捨てるように言った。 「はい。そして……そのご命令の時、
last updateHuling Na-update : 2025-10-21
Magbasa pa

第94話:月下の誓い

**────エレナの視点────**あれから、数日が経った。リディアさんの言葉通り、私たちは街の片隅に佇む古い屋敷で、まるで息を潜めるようにして過ごしていた。騎士たちの警戒を知らせる鐘の音も少しずつ遠のいてはいたものの、街の門は依然として固く閉ざされているらしい。石造りの古い壁に囲まれた屋敷の中で、私たちは外の世界から完全に隔絶された生活を送っていた。そんな数日後の深夜――屋敷の誰もが寝静まったのを確認して、私とミストさんは玄関の重い扉をそっと開いた。冷たい夜気が頬を撫でる。久しぶりに感じる外の空気は、屋敷の澱んだ空気とは比べ物にならないほど清々しかった。「では、行ってきますね。あまり長くはなりませんから」月明かりに照らされた私の声が、静寂の中に小さく響く。「ああ、気を付けて行ってくれ。少しでも怪しい気配がしたら、すぐに引き返すんだぞ」見送りに来てくれたシイナさんが、いつもより低い声で念を押すように言った。その表情には、隠しきれない心配の色が浮かんでいる。「何かあったらちゃんと叫べよな!そしたら、俺がすっ飛んでってやるからさ!」眠そうに目をこすりながら、グレンさんも心配そうに声をかけてくれる。普段の豪快さとは打って変わった、抑えた口調だった。「ふふ、ありがとうございます。大丈夫ですよ」私たちはみんなに小さく頷き返すと、月明かりだけが頼りの暗い路地へと足早に姿を消した。石畳の上を歩く足音が、夜の静寂に不自然に響いて聞こえる。***さすがに何日もあの屋敷に隠れていると、身体の汚れが気になってくる。幸い、リディアさんから屋敷の裏手にある森の中に小さな泉があると聞いていた。街の喧騒から離れた、人目につかない場所だと教えてもらっていたのだ。「ようやくスッキリできますね……。外の空気も、久しぶりな気がします」夜風に髪を揺らしながら、私は深く息を吸い込んだ。肺の奥まで清浄な空気が行き渡るのを感じる。「まぁ確かに、ずっとあの家の中はなかなかきついですよね〜。埃っぽいですし、何より、気持ちが滅入ってきちゃいますから」ひんやりとした夜の空気が火照った肌に心地よく、ミストさんが楽しそうに私の隣で歩きながら言った。彼女の足取りも、屋敷を出てからは随分と軽やかになっている。「うん……匂いとかもやっぱり……ね……?」私は少し恥ずかしそうに呟く。女性として
last updateHuling Na-update : 2025-10-22
Magbasa pa

第95話:忍び寄る影

(よしっ…そろそろ身体も冷えちゃうし、出ないと)私は泉の縁に手をかけて、ゆっくりと立ち上がろうとした。月明かりが水滴を宿した肌を照らし、夜風が心地よく頬を撫でていく。(むっ……)突然、エレンの声音が変わった。いつもの穏やかな響きから、一瞬で鋭い警戒の色に染まる。(待つんだ、エレナ)(どうしたの?)私は立ち上がりかけた動作を止めて、心の中で彼に問いかける。エレンがこんな緊迫した声を出すということは――(早く着替えた方がいい。数名、気配を感じる)その瞬間、私の血の気が引いた。(えっ!!!このタイミングで!?み、ミストさんは!?)慌てて水から上がろうとした時、森の奥から急いた足音が響いてくる。「エレナさん!!」ミストさんの声が、夜の静寂を破って響いた。彼女の声には、明らかに緊迫した様子が込められている。「ミストさん……!今エレンが、数人の気配を感じたって……」私は震え声で言いながら、急いで泉から上がる。月光に照らされた私の肌から、無数の水滴が滴り落ちていく。「残念ながらその通りです……!」息を切らしながら現れたミストさんの表情は、普段の穏やかさとは打って変わって、深刻な緊張に満ちていた。「見つからないように早く着替えて、ここを去りましょう……!」私は慌てて身体を拭き始める。普段なら丁寧に水気を取るところだが、今はそんな余裕はない。濡れた肌に布が張り付いて、思うように拭えない。手が震えているのが自分でも分かった。あたふたと服に袖を通しながら、私は必死に身支度を整える。月明かりの下での着替えは思った以上に難しく、何度も袖を間違えそうになった。「よ、よしっ!これで大丈夫だよ…!」ようやく服を着終えた私は、まだ髪に残った水滴を手で軽く絞る。完全ではないが、今はこれが精一杯だった。「では、行きますよ…!なるべく音を立てずに行きましょう…!」ミストさんの指示で、私たちは静かに森の中を進み始めた。足元の枯れ葉が、一歩踏むたびに小さくさくさくと音を立てる。普段なら心地よい音も、今は恐ろしく大きく聞こえてしまう。月光が木々の隙間から差し込んで、複雑な影の模様を作り出している。その影に紛れるようにして、私たちは慎重に足を進めた。***やがて、パーティメンバーたちが待つ屋敷の影が見えてきた。しかし――その瞬間、私たちの足は凍り付いた。屋敷
last updateHuling Na-update : 2025-10-23
Magbasa pa

第96話:次なる一手

屋敷の薄暗い居間に、蝋燭の炎がゆらゆらと踊っている。古い木製のテーブルを囲んで、私たちは静かに座っていた。「というわけだったの」私は先ほどの一連の出来事を、シイナさんとシオンさんに詳しく話し終えた。泉での入浴から騎士たちとの遭遇、そしてリディアさんによる劇的な救出まで――振り返ってみると、まるで冒険小説の一場面のような出来事だった。部屋の隅では、グレンさんが椅子にもたれかかって、豪快ないびきを立てて眠っている。今夜の緊張とは無縁といわんばかりの、実に平和な寝顔だった。「なるほどな……」シイナさんが深く頷く。蝋燭の光が彼の理知的な眼鏡のレンズに反射して、小さく煌めいた。「俺たちも騎士たちの接近には気がついていたんだ。足音と、松明の光でな」「だから、シオンとどうするか話していたんだが……」そう言うと、シイナさんは振り返ってリディアさんの方を向き、深々と頭を下げた。シオンさんも同じように、感謝の気持ちを込めて頭を下げる。「すまない。また助けられてしまった」シイナさんの声には、申し訳なさと同時に、心からの感謝が込められていた。「リディアさん、本当にありがとうございます」シオンさんの静かな声も、深い敬意に満ちている。「いえ、お気になさらず」リディアさんは穏やかに微笑みながら、手を振った。月明かりが窓から差し込んで、彼女の美しい横顔を淡く照らしている。「それから……」彼女は立ち上がると、部屋の隅に置いてあった大きな包みを手に取った。「こちらが皆さんがこの街を歩けるための衣服となっております」包みを開くと、中からは質の良い布で作られた、街の住民が着ているような衣服が現れた。一人一人のサイズに合わせて用意されているようで、その細やかな配慮に驚かされる。リディアさんは一着ずつ、丁寧に私たちに手渡してくれた。布地は柔らかく、仕立ても上質だ。これなら確かに、街を歩いても怪しまれることはないだろう。「ありがとうございます」私は衣服を受け取りながら、改めて彼女の親切さに胸が熱くなった。「そういえば……」ふと、泉での出来事を思い出す。「エレンとさっき話したんだけど、調査のメンバーはどうするの?」私が尋ねると、シオンさんが 真剣な表情で考え込んだ。「私とシイナ、それからエレンさんかエレナさんが最適でしょうね」彼の分析は的確だったと思う。「
last updateHuling Na-update : 2025-10-24
Magbasa pa

第97話:情報収集

**────エレナの視点────**屋敷を出て、石畳の街路に足を踏み出した瞬間、久しぶりの街の喧騒が耳に飛び込んできた。商人の声、子供たちの笑い声、馬車の車輪が石を叩く音――すべてが生き生きとして聞こえる。「じゃあエレン、お願いね」私は心の中で彼に声をかけた。これから始まる情報収集は、エレンの冷静な判断力と洞察力が必要だ。(ああ、任せてくれ)その返事を聞くと同時に、私の意識が徐々に内側へと沈んでいく。まるで温かい水の中に身を委ねるような、穏やかな感覚だった。そして――私の外見が静かに変化していく。金髪が、月光のような白に近い銀髪へと変わり、碧い瞳が真紅の炎のような色に染まった。街の人々には、まるで別人のように見えるだろう。**────エレンの視点────**「よし……準備完了だ」身体の感覚を確認する。エレナの意識が奥に引っ込み、私が完全に表に出た。久しぶりの主導権だ。フードを深く被り、顔の大部分を隠す。基本的な変装だが、十分に効果的だ。「行こう」シイナの指示で動き出す。足音を殺し、目立たないよう街路を進む。歩き方一つで印象は大きく変わる。エレナとは全く違う動きを心がけた。***街の中心部で自然に散開する。効率を重視した配置だ。三方向への分散により、短時間で広範囲の情報を収集できる。「では、私はこっちの方へ情報収集に入る」東の区域を指差す。商業地区のようだ。店舗や工房が密集している。人の出入りが激しく、情報も集まりやすいはずだ。「念のため近くにはいるが、戦闘になったら知らせてくれ」二人に釘を刺しておく。シイナは研究者、シオンは斥候タイプだ。実力は確かだが、無力化に関しては私の方が役に立つだろう。「分かった。俺もこっちの情報収集をしてくる」シイナが西の方角を示す。冷静で判断力のある男だ。信頼できる。「では、私はあちらの方へ」シオンが南を指差す。三方向への分散。理想的な布陣だ。「ふふ、完璧な連携だな」思わず口元が緩む。久しぶりに有能な仲間と組む感覚だ。グレンやミストも悪くはないが、こういった繊細な作業には向かない。「はは……確かに。あいつらがいるのも悪くはないんだが、こと隠密に関しては……」シイナが苦笑いを浮かべる。確かに、あの二人に隠密行動は期待できない。「この三人で動くのは正解でしたね」シオンの評価も的確だ。適
last updateHuling Na-update : 2025-10-25
Magbasa pa

第98話:聖女の命令

**────エレンの視点────**「申し訳ない。お忙しいところを邪魔した」私は軽く頭を下げて、商人との会話を終えた。「とんでもない!お役に立てたなら何よりですよ」男は相変わらず人懐っこい笑顔を見せてくれる。悪意のない人間のようだ。こういった素朴な住民が多いのは、情報収集には有利だろう。私は礼を述べてその場を後にした。聖女の意識不明が定期的に起こっているという情報は貴重な収穫だった。だが、まだ断片的だ。別の角度からの証言も必要になる。「次は……」街を見回しながら、次の情報源を物色する。住民だけでなく、外部の人間の見解も聞いてみるべきだろう。多角的な情報収集が事態の全容を掴む鍵となる。「あの男にしよう」少し離れた場所で、明らかに旅装束の男が一人佇んでいるのを発見した。革製の防具と実用的な装備から判断すると冒険者のようだ。住民とは異なる視点を持っているはずだ。私は自然な足取りでその男に近づく。冒険者は往々にして情報通だが、同時に警戒心も強い。アプローチには慎重さが求められる。適度な距離を保ち、威圧感を与えないよう注意を払う。「失礼する。少々お時間をいただけるだろうか?」私は相手の表情を注意深く観察しながら声をかけた。「……何の用だ?」冒険者の反応は、先ほどの商人とは明らかに違った。隠そうともしない警戒の眼差しだ。やはり職業柄、用心深いのだろう。こういった相手には、より慎重に情報を引き出す必要がある。「聖女様の件についてお聞きしたいことがある」私が切り出すと、冒険者の表情が瞬時に変わった。「この国の聖女についてか……」私が言い終わる前に、冒険者が苦い表情で口を挟んできた。その反応だけで、住民とは全く違う立場にいることが読み取れる。「この国の連中にとっては有り難い存在かもしれんが、我々冒険者にとっては迷惑千万だ」先ほどの商人とは正反対の評価だった。これは興味深い発見だ。内部の人間と外部の人間では、聖女に対する認識が大きく乖離しているということか。「現在、その聖女が国境封鎖の命令を下したせいで、我々は出入りすら叶わぬ有様だ」(国境封鎖……?)これは重要な情報だ。聖女が意識不明だと聞いたばかりなのに、命令が発令されているということか。それとも、意識を失う前に出された命令なのか。状況が複雑さを増している。(エレン、これって……どう
last updateHuling Na-update : 2025-10-26
Magbasa pa

第99話:怪しい情報屋

**────エレンの視点────** 声のする方向へ顔を向けると、薄暗い路地の奥で怪しげな雰囲気を纏った男がこちらを見て手招きしていた。痩せこけた体躯に、小狡そうな目つき。一目見ただけで胡散臭さが滲み出ている人物だ。 だが、情報を得るためには選り好みをしている余裕はない。私は慎重に歩を進めて、その男に近づいていく。 「……何の用だ?」 「ひひひ、お嬢さん。聖女様について聞いて回っておられるそうですねぇ」 男の言葉遣いは見た目通り怪しげで、どこか計算高い響きを含んでいる。 (人は見た目で判断しちゃいけないけど……なんというか、不気味な人だね……) エレナの不安そうな声が意識の奥から聞こえる。彼女の直感も同じことを告げているようだ。 「……そうだ。聖女様について、知りたいことがある」 私は素直に認めた。隠したところで、既に察知されている以上意味はない。 「それはどうしてでございましょうかねぇ?」 男が値踏みするような視線を向けてくる。 思考を巡らせる。当たり障りのない理由が必要だ。ヘレフィア王国といえば聖女。それなら知的好奇心があるという設定で問題ないだろう。 「別に深い理由はない。この国といえば聖女様だろう?単純な興味だ」 「ほほう……確かにこの国といえば、暗明の聖女様でございますねぇ」 男が意味ありげな笑みを浮かべる。 「でしたら、とても興味深い情報がございますよ」 (何か知ってるみたい……?) エレナの困惑した声が響く。 「ひひっ、いかがいたしますか?」 「その前に……お前は何者だ?」 私は警戒心を隠すことなく尋ねる。正体不明の相手から情報を得るのは危険だ。 「あたしは情報屋でございます」 (なるほどな) 合点がいった。この男は情報屋故に、私たちが聖女について聞いて回っていることを察知したということか。街中で情報収集をしていれば、こういった職業の人間の目に留まるのは当然だろう。 そして、つまりそれは無償ではないということだ。 「代価は何だ?」 「これはこれは……話が早いお方でございますね」 男が感心したような表情を見せる。 「あたしから何かを求めるわけでは、ございませんが……」 男は少し意味深な笑みを浮かべた。その表情には、何か企みがあることが明確に表れている。 「聖女様の情報を差し上げる代わりに……聖
last updateHuling Na-update : 2025-10-26
Magbasa pa
PREV
1
...
789101112
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status