「暗明の聖女様!!この、不当な幽閉は、ベルノ王国に対する宣戦布告です!」 シイナさんが、最後の抵抗として必死に叫ぶ。その声が、静まり返った大神殿に虚しく響いた。 「黙れ。お前たちの意志など、聞いておらぬ」 暗明の聖女は、氷のように冷たい声でそう言うと、私たちに向かって、すっと手をかざした。 その指先から、濃密な闇があふれ出す。それは瞬く間に私たちを円形に覆い尽くし、抗う間もなく、私の意識は深く、深く沈んでいった。 *** どれくらいの時間が、経ったのだろう。 「う……」 重いまぶたをこじ開けると、薄暗い天井が目に入った。 「お!お目覚めですね、エレナさん」 すぐ隣から、いつもと全く変わらない、どこか楽しげな声が聞こえる。 「ミストさん……?」 ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。そこは、ひんやりとした石の壁に囲まれた、埃っぽい牢獄だった。 鎖に繋がれてはいないけれど、目の前には頑丈そうな鉄格子が、私たちを外の世界から隔てている。 陽の光が、一切届かない、暗い場所。 その光景に、私の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。 あの、メモリスの牢獄で味わった……痛みの記憶。絶望と、恐怖。 身体が……勝手に、カタカタと震えだした。 (エレナ、大丈夫か?) 私の身体の震えに気がついたのか、エレンが心配そうに声をかけてくれる。 (うん…エレン、私が気を失ってる間、何が起きたか分かる?) (残念ながら、私まで意識を遮断されていたようだ。あの闇の術は、魂に直接干渉するタイプらしい) 「えっ……」 思わず、声が漏れた。 「エレンさんですか?」 ミストさんが、不思議そうにこちらを覗き込む。 「うん、エレンまで意識を遮断されてたって……」 「ふむふむ、やはりあの聖女様、只者ではなさそうですね」 ミストさんは、まるで面白い研究対象を見つけたかのように、楽しそうに言った。 その言葉に、私はあの威圧感を思い出す。 私と同じくらいの年齢なのに、彼女は、まるで完成された聖女そのもののようだった。自分の発言に揺るぎない自信があって、失敗なんて微塵も恐れていない、強い瞳。 ……私に、国を混乱させるような意思はないのに。どうして、こんなことになってしまったんだろう。 (恐ろしい程の過信に満ちた態度。あれは、自分の失敗を恐れている者のそれではないな
Huling Na-update : 2025-10-15 Magbasa pa