Semua Bab Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─: Bab 1 - Bab 10

116 Bab

#0:魔法の起源

────プロローグ:砕け散った神の神話──── 遥かなる古。 万象が未だ若く、世界が清浄な静寂の中で息づいていた時代の物語──。 かつてこの地上において、人々はただ一柱の神に祈りを捧げていた。 その神の慈悲は、陽光の如く世界の隅々にまで行き渡っていた。 乾いた大地には豊穣の約束を。 日照りに苦しむ地には恵みの雨を。 病に蝕まれた者には癒やしの光を、そして果てなき争いに疲れ果てた者らには、安寧の秩序を。 生きとし生けるものすべてに、その愛は等しく、深く注がれていた。 人々は神の御業に心からの畏敬を捧げ、親愛を込めてこう呼んだ。 「魔神様」 絶対なる庇護者。この世で唯一無二の、完全なる父として。 しかし──その永劫に続くかと思われた平穏は、唐突に破られることとなる。 一人の男によって。 彼にとって神とは、崇めるべき信仰の対象ではなく、解き明かすべき「研究対象」でしかなかった。 男は巧妙に神の信頼を騙り、聖域の奥深くへと忍び寄る。 その目的はただ一つ。神が持つ奇跡の力、その根源を我が物とすること。 その心には、一片の敬虔さも、感謝も宿ってはいなかった。 そして、純粋なる裏切りの果てに── 魔神様は、砕けた。 いかなる怒りも、いかなる悲しみも浮かべることなく。 まるで長き役目を終えたかのように、静かに、音もなく崩れ落ちたのだった。 次の瞬間。 天と地を覆い尽くさんばかりの、凄絶な爆発が世界を包んだ。 神の聖なる身体から溢れ出た無尽蔵の魔力の粒子は、目に見えぬ風に乗って色鮮やかな光の雨となり、世界中へ降り注いだ。 大地に染み込み、広大な海を渡り、蒼穹の果てまで届いて── やがて、世界そのものと不可分に混じり合っていった。 永い刻が流れ、世界が神の遺した魔力で満たされた後──。 その混沌たる力に適応し、新たなる理をその身に宿した者たちが、歴史の表舞台に現れ始める。 彼らの血は神の残滓に触れて熱く滾り、その肉体は人ならざる強靭さを獲得し、魂の奥底には失われた神の記憶の欠片が微かに、しかし確かに宿っていた。 彼らは疑いようもなく”人”でありながら、同時に”人”という枠を遥かに超越した存在へと変容を遂げていたのだ。 この世の理を超えた絶対的な力──魔法を自在に扱
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#1:二つの魂

夜明けの余韻を残した空気が、朝露に濡れた草葉を震わせている。 差し込む陽光はプリズムのように煌めき、小鳥たちのさえずりが夜の帳を優しく押し上げていく。 その穏やかな目覚めに呼応するように──鐘楼の鐘が鳴り響いた。 ゴーン、ゴーン……。 低く、腹の底に響きながらも、どこか空の高みへと吸い込まれていくような荘厳な音色。 それが、ベルノ王国の新しい一日を告げる産声だ。 王国の揺るぎない象徴であり、民に等しく降り注ぐ“祈りの音”。 彼女は、その響きを誰よりも深く吸い込み、静かに瞼を閉じる。 陽光を梳いたような金の髪、湖面のように澄んだ碧の瞳──。 王国に仕える聖女見習い、エレナ・フィーレ。 まだ「見習い」の身とはいえ、人々の病や苦しみを癒やす奇跡を授かった彼女には、果たすべき使命がある。 たとえこの手が武器を握らずとも、祈り一つで世界がほんの数ミリでも優しい場所になるのなら……と。 エレナはその可能性を信じ、今日も祭壇の前で膝を折っていた。 その時だった。 バンッ!! 「エレナ様っ!! 」 静寂に満ちた聖堂の空気を引き裂くように、教会の重厚な扉が乱暴に開け放たれた。 転がり込んできたのは、一人の男。 祈りを中断し、エレナは弾かれたように顔を上げる。 男は滝のような汗を額に滲ませ、肩で荒く息をあえがせていた。見開かれた両目は焦点が定まらず、極限の恐怖に支配されているよう。 「……こんにちは。本日は素晴らしい快晴ですね。──何か、お困りでしょうか?」 エレナは努めて穏やかに、春の日差しのような声音で語りかけた。 彼の心を蝕むパニックを、少しでも和らげられるように。ゆっくりと立ち上がり、彼へと歩み寄る。 「さ、昨晩……! この街のすぐそばの森に、“人喰い”が出たんです!! グールが!!」 グール──。 その単語を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走る。 死人の肉体を栄養とし、生者を喰らう下級魔物。緑色の粘液に覆われた腐肉の体、剃刀のような爪と牙を持つ、おぞましき捕食者。 ベルノ王国にグールが現れるなど、本来あってはならない異常事態だ。 国境は精鋭騎士団によって鉄壁の守りを敷かれ、魔物はその境界線で灰になっているはずなのだから。 「グール、ですか……。冒険者ギルドへは、す
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#2:入れ替わる意識

夜風が、唐突に凪いだ。 それまで頬を撫でていた柔らかな大気が、一瞬にして凍りつき、研ぎ澄まされた刃のような冷徹さを帯びる。 その感覚と共に──エレンはカッと目を見開いた。 エレナが閉じたその瞼の裏で、別の理を宿した瞳が、深淵なる闇を射抜く。 覚醒した意識は水鏡のように冴え渡り、風の音、虫の羽音、遠くで揺れる木の葉の擦れ音までもが、鮮明な情報となって脳髄に流れ込んでくる。 月光を吸って白銀へと変化した長い髪を、彼は慣れた手つきで後ろに束ねた。 そして、深々と外套のフードを目深に被る。この顔を、世俗の光から隠すように。 腰に帯びた剣の柄。その冷たい感触を指先で確かめ、低く呟く。 「……捜索を開始する」 声は夜の冷たい大気に吸い込まれ、誰の鼓膜を震わすこともなく、闇へと溶けていった。 〜*〜*〜*〜 規則正しい足音を響かせる夜警の騎士団。その巡回ルートを計算に入れ、エレンは人通りの絶えた裏路地を選んで進む。 石畳の上を滑るように、影から影へ。 闇に紛れるという行為は、エレンにとって呼吸と同じほど容易く、自然なものだ。 (……騎士団の人たちは表通りばかりだね。やっぱり、下水道の線が濃いのかな?) (ああ。実務よりも形式美を重んじるのは……平和ボケした騎士団の悪癖だな) エレナの不安げな声に、エレンは心中で短く吐き捨てる。 一切の迷いなく、街の最下層──汚濁の集まる地下への入り口へと足を向けた。 分厚い鉄格子の扉は、錆びつき、何年も開けられた形跡がない。だが、指先をかけ、わずかに力を加えただけで、それは悲鳴のような軋み声を上げて開いた。 〜*〜*〜*〜 ポタ、ポタ、ピチャン……。 汚水が壁面を伝い落ちる音が、湿った石壁に鈍く反響している。 鼻腔を強烈に刺すのは、吐き気を催すほどの腐臭だ。汚泥と、錆びた鉄、そして腐敗した有機物が複雑に混ざり合い、重く澱んだ空気を形成している。 (うぅ……やっぱりここの臭い、キツそう……) (……問題ない) エレナと意識の深層で言葉を交わしながらも、エレンの集中力が途切れることはない。 全身の神経を針のように研ぎ澄まし、一歩、また一歩。 視界の効かない闇の奥深くへ、泥濘を踏みしめて進んでいく。 その時──。 ヌチャリ…… 粘性の
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#3:得意個体のグール

(エレン……大丈夫? 数が多いけど……!) エレナの隠しきれない不安が、意識の深層でさざ波を立てる。 エレンは夜の静寂に溶けるほど小さな吐息と共に、しかし鋼のような確信を込めて短く返した。 (雑魚に関しては問題は数ではない。「司令塔」を潰せば、残りはただの動く肉塊だろう) フードの端を指先でわずかに引き、深紅の瞳が捉える獲物──奥に控える「司令塔」へと照準を絞る。 その射線上に立つ四体のグールは、エレンにとって単なる障害物に過ぎない。 予備動作ゼロ。 筋肉のバネを一気に解放し、弾かれた矢のように敵陣の中央へ滑り込む。 最短距離。最速の太刀筋。 一体目の胴を袈裟懸けに裂き、その反動を利用して手首を返し、二体目の首を刎ねる。 さらに回転の遠心力を乗せ、三体目の心臓を正確無比に貫いた。 一息も置かない。三つの命を摘み取るための、冷徹で効率的な連続動作。 ズシュッ、グシャリ、ドチャッ──! 生々しい断末魔が重なり、鮮血が闇夜に三日月の軌跡を描く。 数瞬前までの喧騒が嘘のように、場の時間が凍りついた。 残る二体のグールは、仲間が一瞬にして肉片へと変わる様を目の当たりにし、完全に戦意を喪失していた。 じりじりと後退するその濁った瞳には、捕食者に対する原始的な恐怖だけが張り付いている。 「……悪いな。これ以上の被害は出せない」 背を向けて逃げ出した一体に向け、エレンは右手の長剣を躊躇なく投擲した。 銀色の円盤となって空を裂いた剣は、吸い込まれるように背中を貫き、胸から血に濡れた切っ先を覗かせる。 「グ、エ……ッ!」 断末魔と共に崩れ落ちる敵へ疾駆し、背に突き刺さった剣の柄を掴む。 引き抜くと同時に、恐怖で硬直していた最後の一体へ肉薄。 重心が浮いたその刹那、身体を反転させ、渾身の回し蹴りを叩き込んだ。 ──ドゴォッ!! 鈍く重たい破壊音。 顔面一点に衝撃を集中させた一撃で、グールは枯れ木のように宙を舞い、石壁に激突して崩れ落ちた。 足元には、虫の息の二体。 慈悲も躊躇もなく、その首を正確に斬り落とす。 再び、下水道に完全な沈黙が訪れた。 鼻腔を刺す、濃密な鉄錆の匂い。 剣先から滴る血を一瞥し、勢いよく剣を払う。刃にこびりついた脂と肉片が、血と共に闇へ飛び散
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#4:戦う者と祈る者

夜の闇に完全に順応した深紅の瞳が、眼前の異形を冷徹に捉える。 右手に長剣、左手に逆手の短剣。 二刀の構えは、流れる水のように静かで、かつ激流の予兆を孕んでいる。 立ち塞がるのは、先ほどまでの雑魚とは一線を画す、異質な瘴気の塊。 腐肉と異常発達した筋繊維が醜悪に重なり合い、皮膚の亀裂からはタールのような紫黒の体液が滴り落ちている。 石畳に落ちた雫がジュッ、と焼ける音を立て、鼻腔を焦がす悪臭が濃度を増した。 「……来るがいい。その首、私が貰い受ける」 挑発に応えるように、魔物が喉の奥で汚泥を煮詰めたような唸り声を上げ、巨大な爪を振り下ろした。 ヒュンッ!! 風を裂き、死の刃と化した爪が迫る。 エレンは最小限の体捌きで身を捻り、紙一重でそれを躱した。 直後、爪が石壁を豆腐のように砕き、礫が散弾となって飛び散る。鋭利な破片がエレンの頬を掠め、一筋の紅い線を刻んだ。 (……硬いな。だが、生物である以上、弱点は存在する) (まずは視界を奪う) 着地と同時に踏み込み、全体重を乗せた刺突を放つ。 長剣の切っ先が、白濁した巨大な右目へと吸い込まれた。 ──ブチリッ。 果実を押し潰すような不快な感触が、柄を通して掌に伝わる。 『ギョエェェェェェェェッ!!!』 魔物が絶叫した。湿った下水道の空気を震わせる音波が、鼓膜を内側から殴りつける。 苦痛に狂い、横薙ぎの暴風が襲う。 エレンは大きく跳躍し、空中で身を翻す。右目に突き刺したままの剣を強く握り、力任せに引き抜いた。 ブシャリ、と紫色の汚血が噴水のように散り、鉄錆と腐敗の混じった匂いが喉にへばりつく。 (……さて、次だ。もう一方も潰す) 左手の短剣を順手に持ち替え、残された左目へと、落下エネルギーを乗せた渾身の一撃を叩き込む。 刃が眼窩の奥深くへ沈み込み、グジュリとした、抵抗のあと、脳を抉る重い手応えがあった。 両目を失った巨体が、狂乱のままに暴れ回る。 丸太のような腕が壁を砕き、天井を削り、濁った汚水を激しく巻き上げる。 (……ふむ。脳の一部を破壊されても活動を止めないか。とんだ化け物だ) 動きは無秩序だが、その膂力と異常な肉体強度は依然として脅威だ。 暴れる巨体の隙を縫い、背後へ滑り込む。 剣を高く振りかぶり、脊
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#5:討伐報告

「本当に……本当に、ありがとうございました! エレナ様、そしてエレン様にも、どうかよろしくお伝えください!」 ギルドの受付カウンター。 分厚いオーク材のデスクから身を乗り出すようにして、馴染みの受付嬢が深々と頭を下げた。 彼女の声には、心からの感謝と、張り詰めていた糸が切れたような安堵が滲んでいて、酒場の喧騒の中でもひときわ真っ直ぐにエレナの胸へ届いた。 「依頼を受けたのは、エレンですから。次に本人が夜に顔を出したとき、直接お礼を伝えてあげてください。……きっと、喜びますから」 エレナはにっこりと微笑み、彼女の手をそっと包み込むように言葉を添える。 「もちろんです! 必ず、感謝をお伝えします! ……それにしても」 受付嬢は顔を上げ、ふと声を潜めるような仕草を見せた。 周囲の冒険者たちに聞かれぬよう、身を寄せて囁く。 「今回の特殊個体のグール……討伐後の調査チームから、信じられない報告が上がってきているんです。『もし、ギルドに所属する他の冒険者が担当していたら、単独での討伐は不可能だったかもしれない』と」 (ベテランの冒険者の方々でも……? 不可能?) エレナは思わず、小さく息を呑んだ。 この国の上位冒険者といえば、一国が抱える“戦略級兵器”にも等しい、選ばれし実力者たちだ。 魔法の粋を極めた彼らですら、苦戦必至の相手だったというの?と、エレナは戸惑う。 「そんなに……手強い個体だったのですか……?」 驚きと戸惑いが、素直に声に出てしまう。 受付嬢は、神妙な面持ちで、こくりと頷いた。 「ええ。回収した体組織を王立魔法研究所で緊急分析したところ……通常の魔物とは構造が根本から異なる、『魔法耐性』の反応が出たそうです」 「──!」 彼女の言葉に、背筋が凍るような感覚を覚える。 魔法研究所。その名は、あの下水道で出会った奇妙な研究員、ミストの姿を連想させた。 「だからこそ……皮肉な話ですけど、その規格外の怪物を無傷で、かつ完璧な形で処理できたのは、この国で唯一“魔法が一切使えない”エレンさんだったからこそ……というのが、ギルドマスターの正式な見解なんです」 ドクン、と心臓が大きく脈打った。 もし、他の高名な魔人たちが挑んでいたら? 既存の魔法理論に縛られ、効かない攻撃を繰り返し、
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#6:魔法闘技の開幕

数日後。 その日は、まるで世界の再誕を祝福するかのように、一点の曇りもない紺碧の空が王都の上に広がっていた。 王都の中央に鎮座する巨大な円形闘技場。 その上空には、いくつもの巨大な“魔導結晶”が、真昼の星座のように静かに浮遊している。 それらは、これから繰り広げられる激闘の一部始終を鮮明に映し出し、会場に入りきれなかった場外の何万という人々にまで、臨場感と熱狂を届けていた。 パパーン、パパパパーン!! 地軸を揺るがすかのようなファンファーレが高らかに鳴り響く。 それに呼応して、すり鉢状の観客席を埋め尽くした人々から、堰を切った激流のごとき歓声が沸き上がった。 『さあ皆さま!! 長らくお待たせいたしました! 王都が一年で最も熱く、最も激しく燃え上がる季節がついに到来です! 栄光と誇り、そして己の魔導を懸けた決闘の祭典──魔法闘技、ただいまより、華々しく開幕でございます!!』 風魔法で増幅された実況の声が、ビリビリと空気を震わせる。 『出場する若き英雄たちへ! そして、今日この場所で紡がれる新たなる伝説へ! 魂のこもった声を届ける準備はできているかァァァーーッ!!?』 「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」 地鳴りのような咆哮が天を突き、大気そのものが熱波となって波打つ。 エレナは控室の窓越しにその光景を見つめながら、高鳴る胸をそっと手で押さえた。 〜*〜*〜*〜 「……エレナ君。そろそろ、時間だ。エレン君と交代してくるといい」 静かに声をかけてきたのは、王都大教会の司祭様。 エレナたちが“二人でひとつ”の存在であることを知り、秘密を守り続けてくれている、数少ない理解者の一人だ。 「……はい。今から、エレンと交代してきます。司祭様、いつもありがとうございます」 深く一礼し、エレナはあてがわれた人気のない一室へと足を運んだ。 ここが、エレナたちが意識を交換するための、ささやかな聖域。 重厚な扉を閉じ、鍵をかけると、外の喧騒が嘘のように遠ざかる。 エレナは長椅子に腰を下ろして目を閉じ、深く、深く内なる海へと沈んでいった。 (エレン、準備はできてる? ……緊張は、してなさそうだけど) (ああ、問題ない。むしろ楽しみなくらいだ。
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#7:焦燥する炎の騎士

灼けた砂の匂いと、耳をつんざくような大歓声が、円形闘技場の器を満たしている。 先程までの激しい攻防で抉れた地面の上で、グレンがゆっくりと、しかし確かな意志を込めて立ち上がった。 大きく上下する肩、滝のように流れ落ちる額の汗。 だが、その瞳から敗北の二文字は消え失せていた。 「……アンタ……人間離れした動き、しやがって……!」 掠れた声でグレンが絞り出す。 そこにあるのは恐怖ではない。未知の強者と相対したことによる昂揚……武者震いだ。 (……いい目だ。折れていない) エレンは剣の切っ先をわずかに下げ、口元だけで静かに笑って応じる。 「あいにく魔法は使えなくてね。その代わり、この身一つ。誰よりも研ぎ澄ませてきたつもりだ」 「へっ……なにが“魔法が使えない”だ。アンタの動きは、どう見ても魔法による肉体強化の領域だぜ。じゃなきゃ、俺の剣をあんな紙一重で避け続けられるもんかよ!」 彼の声の震えは、明確な興奮に変わっていた。 強者との戦いを渇望する騎士としての本能が、理性を凌駕して全身を高揚させているのだ。 (……次が来る!) 彼の指先が微かに動いた瞬間、私は即座に思考を切り替えた。 「さっきは不覚を取っちまったが! 今度こそ俺の番だァ!!」 グレンが吠えると同時、両の手に揺らめく炎が宿る。 彼の手のひらから、灼熱の火球が二発、時間差で放たれた。 (牽制、あるいは足止めか。だが、狙いが素直すぎるな) ゴウッ! 空気を焦がす音を立てて迫る火球。エレンはその軌道を冷静に見極め、最短距離で右へとステップを踏む。 一発目がエレンの横を通り過ぎ、背後の壁で爆ぜる。 「オラァァァァァ!!!」 しかし、エレンの移動先を塞ぐように、計算された二発目の火球が的確に正面へと飛んでくる。 逃げ場はない。 だが──逃げる必要もない。 迫る灼熱の塊に対し、エレンは一歩も引かなかった。 半身に構え、火球の「魔力の芯」を見切る。剣の腹をしならせるように使い、柳に風と受け流した。 パァンッ! 乾いた破裂音と共に、軌道を逸らされた火球が闘技場の側壁に叩きつけられ、盛大に爆ぜて消えた。 「はぁ!? 火球を剣で弾いただと!?」 グレンの口があんぐりと開く。その驚愕が、ほんの一瞬、彼に致命的な隙
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#8:奇跡のような魔法

『勝者は――エレンだァァァ!! 圧倒的! 魔法を使わぬ剣士、初陣を見事勝利で飾りましたァァァ!!』 地鳴りのような大歓声が、巨大な闘技場の石壁を揺るがし、エレンの鼓膜を激しく震わせる。 先ほどまで鳴り響いていた、鋭い剣戟の金属音はもう聞こえない。 ただ、人の作り出す熱狂の渦だけが、圧倒的な質量を持ってそこにあった。 (……ふぅ。エレン、お疲れ様。すごい戦いだったね。……ちゃんと、満足できた?) 試合の興奮冷めやらぬエレンの意識の奥で、労うようにエレナが静かに問いかける。 その声には、怪我なく終わったことへの心からの安堵が混じっていた。 (ああ。初戦の相手としては申し分なかった。久々に血が騒ぐ、ヒリつくような感覚を味わえた。……実に楽しかった) エレンは内心の昂ぶりを隠すことなく答える。 その声は、獲物を仕留めた獅子のように満足げだ。 (なんだか……最後の方、ちょっとお師匠様みたいだったよ? グレンさんのこと、すごく見定めるような目で見てたから) エレナがくすくすと楽しそうに笑うと、エレンの気配が少しだけバツが悪そうに揺らいだ。 (……ふん。磨けば光る原石だったからな) (ふふ、そういうところもエレンらしいね) (……さて、エレナ。名残惜しいが、そろそろ代わろうか。長居は無用だ) (うん。わかった。ありがとう、エレン) エレナはゆっくりと意識の主導権を受け取る。 視界が一度、真っ白に染まり──次に色が戻った時。 身体に感じる重みや、肺を満たす空気の匂いが、先ほどまでの「戦場のそれ」とは少し違って感じられた。 〜*〜*〜*〜 (よし、っと。私の身体、ただいま) 手足を軽く動かし、感覚を確かめる。 闘技場の喧騒が、一枚の薄い膜を隔てたかのように、少しだけ遠くに聞こえる。 (ねえ、エレン。せっかくだから、他の選手の試合も少し観ていかない? 他にも面白そうな魔法を使う人がいるかもしれないし……) (ふむ、それも一興だが……。確か君は今日、昼過ぎから教会で外せない『務め』があったはずだ。忘れたわけではあるまいな?) エレンの、少し呆れたような、それでいて冷静な声が脳裏に響く。 (あ"っ……!!) (──そうだった!!) すっかり、綺麗さっぱり、記憶の彼方へ吹き飛んでい
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#9:風薙ぎの傭兵

石造りの観客席から降り注ぐ地鳴りのような歓声が、闘技場の乾いた空気を絶え間なく震わせている。 今日もまた、強者との邂逅を求めて、白銀の髪を持つ剣士──エレンはこの場に立っていた。 今回の対戦相手は、“風薙ぎの傭兵”と異名を取る、風使いのシオンという男。 事前情報によれば、風魔法を応用したトンファー術の使い手であり、魔法使いという枠を超えた近接戦闘のエキスパートだという。 (……一筋縄ではいかない相手か。面白い) 先のグレンという若き騎士との戦いもそうだったが、この魔法闘技という舞台は、存外、彼女の戦士としての渇きを癒してくれるのかもしれない。 強者との戦いは、いつだって彼の心を昂らせる最上のスパイスだ。 (エレン、今日も油断しないで、頑張ってね。応援してるから!) (ああ) 内なる半身──エレナの真摯な声援に、エレンは絶対的な自信を込めて応じた。 彼女の支えがある限り、この肉体に敗北はない。 『さあさあ皆様! 本日もやってまいりました、魔法闘技! 大会最注目の剣士、エレン選手の登場だァァァ! そして迎え撃つは、神出鬼没の風の傭兵、シオン選手の入場だァァ!!』 実況の熱狂的な声が響く中、闘技場の反対側のゲートから、対戦相手が静かに姿を現した。 息を呑むほどに中性的な美貌。 すらりとした長身にしなやかな肢体。艶やかな濡羽色の髪の一部が左目を隠すように流れ、その静謐な立ち姿は、どこか捉えどころのない風そのもののようだった。 まるで実体を持たない精霊が、人の形を借りて現れたかのような神秘性を纏っている。 彼はエレンの方へゆっくりと歩み寄り、優雅な仕草で一礼すると、鈴を転がすような、性別を感じさせない透き通った声で名乗った。 「初めまして、エレンさん。私はシオンと申します。ご覧の通り、風属性の魔法使い……そして──」 その言葉と共に、彼は腰の一対の鉄製トンファーを、軽やかに、音もなく抜き放つ。 その動作は水の流れのように自然で、一切の無駄がない。 「──風を纏い、風を操る傭兵でもあります。どうぞ、お見知りおきを」 (自らのスタイルを、臆することなく堂々と晒すか。よほどの実力者か、あるいは私を試しているのか。どちらにせよ、実に興味深い) ──ゴォォォォォォォォォォン…… 開始の鐘が、重低
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