Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─의 모든 챕터: 챕터 81 - 챕터 90

116 챕터

第80話:大海賊マリー

「奪われた……もの……?」私は、目の前の男が放ったただならぬ雰囲気に呑まれて、ほぼ無意識にそう言葉を繰り返していた。「…なに、つまらねぇ昔話よ」男はそう言って顔を背ける。だけど、その横顔に浮かぶ瞳は少しも揺らいでおらず、深い影が落ちているのが、私にもわかった。「もし、良かったら……。私達にも、教えて頂けませんか?」「…………。」男は、しばらく黙って海を見ていた。「面白い話じゃねぇぞ?」「ええ。あなたのその顔を見れば、分かります」私の言葉に、男はふっと息を吐くと、ぽつり、ぽつりと語り始めた。「…俺は、見ての通り海賊でな。今、『大海賊』なんて呼ばれてる女も……昔は、俺の相棒だったのよ」「二人で命を懸けたり、バカやったり…。まあ、その…恋に落ちたりも、した」(……エレナ。これ以上は、聞く必要はないかもしれん)(ちょ、ちょっとエレン!いいところなんだから!)「は、はぁ……」こ、恋……。話が急に、思ったよりずっと個人的な方向に飛んで、私は少し驚いてしまった。まぁ……いろいろあるよね……。人生だもの。「だが奴は、俺の…!!俺の一番大事な誇を!!ズタズタに引き裂いて、奪っていきやがった!!!」男が、感情を爆発させる。「俺の……!!」彼は、何かを言いかけて、ぐっと言葉に詰まる。「お、俺の……??」この、ドラマチックな間……!!すごく……!!すごく、気になる……!!「俺の純情な心を、弄びやがったんだっ!!!」「え…………?」(つまりこれは、あれか?ただの色恋沙汰の問題で、そんな心底くだらないものを、我々は今、船の上で真剣に聞いていると、そういうことで合っているか?)エレンの、温度も感情も全てを失った、完全な無の思考が、私の脳内に直接流れ込んでくる。(な、なんか……ごめん……)(って!!いやいや!!でもほら……本人からしたら、すごく深刻な問題かもしれないじゃない……?)「俺は……!この心を奪われたまま、何年も生きてきたんだ!!」「それを、取り返さねぇと、俺の人生は前に進まねぇんだよ!!」(はぁ……エレナ。今すぐ、こいつを海へ叩き落とせ)(い、今更そんなこと出来るわけないでしょ……!!)でも、彼のあまりにも真剣な眼差しに、私は覚悟を決めた。聖女として、この迷える魂を導かなければ…!「そうでしたか……。お辛かったんですね
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第81話:誰もいない孤島

**────エレナの視点────** 先程までのふざけた雰囲気は消え、男の表情には、一転して険しい光が宿っていた。彼は、これから向かう孤島の方角を睨みつけながら、重々しく口を開く。 「……大海賊マリーは、本当に侮らねぇ方がいいぜ」 「そんなに強いのか?」 シイナさんが、冷静に問い返す。 「うーん、強ぇな。だが、ただ強ぇだけじゃねぇのが、タチの悪いことこの上ねぇ……と言うべきか」 「ただ強いだけではない……?」 シオンさんが、その言葉の真意を探るように、静かに聞き返す。 「ああ。マリーはな、勝つためなら何でもする。姑息な手を使うのも、人を欺く技術も、あいつはピカイチだ」 (なるほど。力だけでなく、知恵も回る。それは確かに厄介だな) エレンの分析が、私の頭の中に響く。 「そうなんですね……」 私がそう相槌を打つと、男は、まるで何事もなかったかのように、ニカッと笑ってこちらを振り向いた。 「まぁ!なんだ!もう見知った仲だからよ、俺も手伝ってやるぜ!」 「そ、それは構わないのですが……いいのですか?私たちが受けている依頼は、彼女の……『掃討』、ですよ?」 私は、彼が元恋人だと言っていたことを思い出し、恐る恐る尋ねる。 「ああ。実際、こんなことは海賊同士じゃよくある事だ。裏切り、略奪、出し抜き合い…とかな」 彼は、肩をすくめて続ける。 「もう慣れっこさ。それに『掃討』といっても、別に命まで奪うわけじゃねぇんだろ?」 その言葉に、私はハッとして、彼の目を真っ直ぐに見つめ返した。 「っ!!!はい!その通りです!」 「なら、やれることなんざ、いくらでもあるだろぉ?」 彼は、楽しそうにそう言った。 *** そんなやり取りをしていた時だった。前方から視線を外した操舵手の男性とミストさんが、甲板にいる男性の姿に、ようやく気づいた。 「もうすぐ島が見え……ええええぇ!? ギブソンさんじゃないですか!?」 「おや!?あなたはギルド窓口の!!」 (この人、ギブソンさんって言うんだね……) (自己紹介などするタイミングが無かったからな) 「おう!よう、久しぶりだな!」 ギブソンさんが、陽気に手を振る。しかし、操舵手さんの顔は、見る見るうちに青ざめていった。 「ギブソンさんは、今すぐこの船から降りてください!!」 「なんでだよ!?
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第82話:海賊の奇襲

**────エレナの視点────** こうして私たちは、「大海賊マリー」が潜むという孤島へと辿り着いた。 だが、ギルドの情報とは裏腹に、そこに人の気配は全くなかった。ただ、波に洗われ続ける古い桟橋と、中身のないまま朽ち果てた木箱が、過去に誰かがいたことだけを物語っている。 風すらも止まったかのような、不気味な静けさ。私とシイナさんは顔を見合わせ、肩をすくめて引き返すことにした。 (エレン……。ギルドの情報が、外れたってことなのかな?) (……いや。ギルドの情報網は常に的確だ。外れる時もあるだろうが、今回はそれとはどこか…違う気がするな。嫌な感じがする) 心の奥でエレンと囁き合った、まさにその瞬間だった。 ――ドンッ!! 船底から、海面そのものを殴りつけられたかのような衝撃が、船体を激しく貫いた。 腹の底まで響き渡る鈍い振動に、思わず息が止まる。 「えっ!?」 操舵室の方から、ギブソンさんの怒鳴り声が飛んできた。 「こ、こりゃあまずいぜ!!! 後戻りだ! せめて孤島へ戻れ!!」 何が起きたのかわからないまま、私たちが甲板に飛び出すと―― 視界の端から端まで、巨大な黒い影が、じわじわと海を埋め尽くしていくのが見えた。 「こ、これは…! 無理だ、いつの間にこんな…!」 シイナさんの声が、いつになく焦りを帯びている。 海は、もう逃げ場のない檻と化していた。 左右と背後に回り込んだ、四隻の海賊船。そして前方には、海面を押し潰すかのように迫る、一際巨大な旗艦。 黒布の帆は太陽の光を遮り、甲板を不吉な薄暗さに染め上げていた。 「っ…! いつの間にか、四方八方を完全に包囲されていますね……!」 シオンさんの落ち着いた声すら、冷たい緊張を孕んでいる。 その船影の間から、禍々しい旗が一斉に翻った。 赤地に、白い髑髏。海風が、血の匂いすら運んでくるような錯覚に陥る。 「おい!! 操舵手!! どうにか振り切れ!!」 再びギブソンさんの怒声が飛ぶ。 しかし、直後、彼の声が一瞬途切れた。 「ん!? おい!操舵手!? あいつ、どこへ行った……!?」 返事は、ない。 誰もいないはずの舵輪が、ギィ、と軋む音を立てて、ゆっくりと勝手に回っていくのが見えた時、私の背筋にぞくりと冷たいものが走った。 「あっ…! み、みんな! 気をつけてっ!
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第83話:エレンVSマリー

ギブソンの怒号が、炎と煙の渦巻く甲板に響く。 「船の炎を消せぇぇぇぇ!!!」 だが、その声は空しく、火勢は衰える気配もない。状況は最悪だ。その絶望に追い打ちをかけるように、巨大な船影が波を割って迫る。その船首には、おぞましい蛇の紋様が彫られていた。 「ひゃひゃひゃひゃ!!! 俺たちに喧嘩を売るとは、馬鹿か!? しかも、そのザマじゃあ、海の上での戦いは素人のようだなァ!!」 敵船から飛んでくる下卑た嘲笑。その声の主を視界に捉えた瞬間、全ての状況が一本の線で繋がった。 「そういうことか……!あの操舵手め!!」 敵の甲板で不快な笑みを浮かべているのは、つい先ほどまで我々の船の舵を握っていた男だった。どうりで動きが鈍いと思った。初めから、我々をここに誘い込むための芝居だったというわけだ。 (つまり……さっきの人が情報を流してたから、孤島から姿を消してた…ってこと!?) エレナの驚きに満ちた声が、思考に割り込んでくる。私は内心の舌打ちを隠しながら、静かに肯定した。 (ああ……。そのようだ) 裏切り者は、隣に立つ屈強な女海賊へ向き直り、大声を張り上げた。 「姐さん!!! 大砲の準備、完了したぜ!!」 「よし……。――放て!!!!」 女――あの船団の頭だろう――は、短い命令を下す。無駄のない、冷徹な声だった。 「おい!!マリー!!いくらなんでもこれはひでぇだろうが!!!」 ギブソンが女の名を叫ぶ。知り合いか。だが、マリーと呼ばれた大海賊は、一切動じることなく言い放った。 「黙れカスめ……!お前たちにはここで死んでもらう」 あの瞳、あの声。交渉の余地はない。純粋な殺意だ。 「ちぃ!!」 覚悟を決めるしかない。この状況、予期すべきだった。 「やはり私が付いてきて正解だったようだな……!」 こうなる可能性を考えれば、戦力は一人でも多い方がいいに決まっている。私は即座に傍らのシオンへ指示を出す。 「シオン、頼みがある」 「わかりました……!して、何をすれば…!」 話が早いのは、何より助かる。 「私に、風属性を纏わせてくれ!私があの大海賊の元へ直接殴り込みに行く!」 「しかし、それは非常に危険では…いえ、あなたの強さは我々がいちばん知ってますね…!了解しました」 一瞬の躊躇の後、シオンは力強く頷いた。それでいい。頭を潰すのが、この状
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第84話:海賊船の戦い

私は再び剣を構え、マリーへと踏み込んだ。「はっ!!!」踏み込みと同時に、刃を振り下ろす。「甘いな!!」マリーは後退しながら、あの奇妙な銃を私に向けて連射する。赤い宝石が、唸りを上げて空を切り裂いた。一発目を身を翻して避ける。二発目は背後の船のマストを盾にする。直後――凄まじい衝撃と共に、盾にしたはずの柱が内側から弾け飛んだ。木片が、雨のように降り注ぐ。「……!」私は目を細める。「柱を貫くか……!とてつもない威力だ」正直に認めざるを得ない。「当たったら耐えられんな」だが、脅威はその程度だ。「放つ武器と理解したら」私は、マストの残骸を蹴りつける。「そこまでだ」煙幕のように舞い上がる木屑の中から、私は飛び出した。予測通り、マリーは再び銃口をこちらへ向ける。引き金に指がかかる。しかし――もう遅い。迫り来る宝石の弾丸。私は腰に差していた短剣を抜き、その側面を叩き斬るように弾いた。甲高い音を立てて、弾丸は明後日の方向へと飛んでいく。海の彼方へと消えた。「はっ!??」マリーの目が、大きく見開かれる。「斬っただと!?」彼女の顔に、初めて純粋な驚愕が浮かんだ。その一瞬の硬直が――命取りだ。「隙を見せたな!!」一気に距離を詰める。風が、頬を撫でた。「そんなモノに頼っているからだ!!」がら空きになった胴体へ、容赦なく膝蹴りを叩き込む。「ぐぅぅ……!!」マリーは苦悶の声を漏らし、くの字に折れ曲がって吹き飛んだ。船の甲板を転がり、マストにぶつかる。だが――それでも体勢を崩しながら、執念で銃を向けてくる。二発、三発。赤い閃光が、立て続けに放たれた。「ふっ!!」一発目を剣の腹で受け流す。「はっ!!」二発目も同様に。巧みに軌道を変えてやった。狙いは――彼女が守るべき背後の部下たちだ。「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」仲間が放った弾丸に太ももを貫かれ、海賊が倒れる。「がぁっ……!!」もう一人も、肩を押さえて崩れ落ちた。その無様な光景を眺め、私は周囲の敵を見回す。「さぁ」剣を軽く振る。「お前たちも掛かってくるといい」挑発の言葉。案の定、効果は覿面だった。「くそ!!バカにしやがって!!」逆上した海賊たちが、やみくもに斬りかかってくる。素人じみた剣戟。力任せの振り下ろし。私はその全てを最小
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第85話:ギブソンの奇行

エレンがマリーたちを捕らえてくれた後、私たちは船内の物陰でそっと入れ替わった。荒れた甲板の中心で、マストに縛られている大海賊マリーさんと向き合う。さっきまでの喧騒が嘘のように、船の上は静かだった。 ふと、一つの疑問が浮かぶ。 「そういえば……他の海賊船はどうしたんですか?」 私の問いに、グレンさんがニカッと笑って答えてくれた。 「おう!俺が派手に一隻沈めてやった後、ギブソンの奴が潜って、もう一隻の船底に風穴開けてやったのさ!」 (そんな事になってたんだ……) エレンとマリーさんが戦っている間に、そんな激しい戦闘が繰り広げられていたなんて。グレンさんは、さらに得意げに言葉を続ける。 「残りの一隻は、シオンの奴が一人で静かに潰してたぜ」 「ああ。だが、最後の船は勝ち目がないと見て逃走した。……詰めが甘かったな」 冷静に補足してくれたのはシイナさんだった。それを受けて、ギブソンさんが吐き捨てるように言う。 「海賊なんてそんなもんさ。裏切りは日常茶飯事よ。どうせまたどこぞのバカと手を組むだけだ」 逃げた船もいるんだ……。でも、それよりも気になることがあった。 「あの、沈没した船に乗っていた海賊の方たちは……?」 (悪い事をした人達だけど……命が失われることは、やっぱり嫌だから……) 私の心からの祈りにも似た呟きに、エレンが優しく応えてくれる。 (そうだな。君のそういうところは、美徳だと思う) その時、ミストさんが「ご安心を!」とでも言うように、ぱっと明るい声を上げた。 「エレナさんが心配すると思って、全員きっちり捕獲済みですよ!」 (良かった……) ミストさんの言葉に、私は心の底からほっとした。 その声で意識が戻ったのか、マリーさんが呻きながら顔を上げた。 「くそ……この私が、こんな奴らに捕まるとはね……」 その悔しそうな声を聞き、それまで黙っていたギブソンさんがズカズカと彼女の方へ歩いていく。 「よォ、マリー。随分と派手にやってくれたじゃねえか」 「……ギブソンか。今更何の用だい」 「決まってんだろ。俺から奪っていったモンを、きっちり返してもらうだけだ」 ギブソンさんはそう言うと、どこからか取り出した巨大な斧をその手に構えた。危ない! 「待ってくれ!俺たちの依頼は海賊の掃討だ!捕まえたのなら命まで奪う契約ではない!
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第86話:母の眠る国

**────エレナの視点────** いくつもの船が停泊する港町。その一角にあるギルドの内部で、私たちは今回の依頼の完了報告と、捕らえた海賊たちの引き渡しを行っていた。 「この度は……本当に、本当にすみませんでした……!」 カウンターの向こうで、依頼をくれたあの受付嬢さんが、深く深く頭を下げていた。その声は、申し訳なさで震えている。 「い、いえ!大丈夫ですっ!どうか、頭を上げてください……!」 私は慌ててそう言った。彼女が悪いわけじゃないのに、そんなに謝られるとこっちまで恐縮しちゃう。 「いえ……今回の不備は、完全に我々ギルドの不手際によるものです。まさか、あの『紅の海蛇』の内通者が、ギルド所属の操舵手に紛れていたなんて……」 「確かに、それはそちらの不手際だ」 今まで黙っていたシイナさんが、厳しい声でそう言った。ピリッ、と空気が少しだけ緊張する。でも、彼の言葉はすぐに和らいだ。 「だが、結果として依頼は達成できた。今後はこのようなことが無いよう、人員管理を徹底してくれればそれでいい」 「……お言葉もありません。そのお詫びと言ってはなんですが、皆様をへレフィア王国へ渡れるよう、こちらで手配いたします」 受付嬢さんの口から、思いもよらない言葉が飛び出した。 「な、なに!?それは本当だろうか!?」 シイナさんが、思わずといった様子で声を上げる。 「ええ。私、へレフィア王国の出身ですから。そのくらいの融通は利かせられます」 「きっと、明日にはへレフィア王国へと渡れるでしょう」 彼女はそう言って、少しだけはにかんだ。 へレフィア王国へ……。 その言葉が、私の胸に温かく染み渡っていく。 もうすぐ……もうすぐ、お母様に会えるんだね……。 ずっと張り詰めていた気持ちが、ふっと軽くなるのを感じた。 今まで、一度もへレフィア王国へいったこ (エレナ……二人で、君の母君に挨拶を済ませよう) エレンの、優しくて力強い声が響く。 (うん……) 私は、心の中で強く頷いた。 「そういえばなのですが」と、受付嬢さんが思い出したように付け加えた。 「あなた方が連れてこられた、ギブソンという海賊ですが……彼は船の器物破損、及びギルド所属船への無断乗船の罪で、現在、地下牢に幽閉中です」 (そ、そうなんだ……) あの人のことを考えると、正直、少
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第87話:高鳴る鼓動

へレフィア王国へ向かう船旅は、驚くほど穏やかだった。海は陽光を受けて宝石のようにきらめき、波は柔らかく船体を持ち上げては下ろす。その規則正しい揺れが、心臓の鼓動と重なって、妙な安心感を与えてくれる。潮風は冷たく、けれど鼻を抜けるとどこか甘さを含んでいて、これから訪れる新しい土地の匂いを運んでくるかのようだった。しばらく進むと、視界の先に大きな船影が現れる。白銀の装飾をまとい、陽を浴びて輝くその姿は、海の上を行く巨大な聖堂のよう。あれが、へレフィア王国の騎士団の船――。私たちの船が近づくと、操舵手さんが甲板に立ち、胸を張って声を張り上げた。「騎士団の皆さん! お疲れ様です!」その呼びかけに、鎧を着込んだ騎士が姿を現す。鉄靴が甲板を打つ音さえ、威厳を帯びていた。「お疲れ様でございます。……そちらの方々は、見ぬ顔のようですが?」「彼らはナヴィス・ノストラのギルド受付嬢の推薦を受け、へレフィア王国へ向かっているところです!」操舵手さんが誇らしげに言うと、騎士団の人たちは一瞬だけ視線を交わし、そして私たちに柔らかな笑みを向けてくれた。「なるほど。あの方の推薦であれば、何も問題はございません。――へレフィア王国への上陸を許可します」(やっぱり……エレン、あの受付嬢さん、すごい人なんじゃない?)(ああ。ギブソンにも物怖じせぬ胆力、そして王国騎士団すら動かす信頼。ふむ……市井に埋もれさせておくには惜しい人材だ)エレンの声が、少しだけ感心を含んで響く。私は胸の奥で頷き、改めて、あの受付嬢さんに助けられたことを深く感謝した。「では、失礼します!」「皆様も、王国で実りある日々を」騎士の言葉に見送られ、船は再び速度を上げる。風が強まり、白い飛沫が甲板に散った。***やがて船着き場が近づき、仲間たちは次々と下船していった。私は最後に、木の板を踏みしめて石畳の港へ降り立つ。潮の匂いに混じって、どこか清冽な空気が流れ込んでくる。深呼吸すると、胸の奥に冷たさと同時に清らかな熱が広がるようだった。顔を上げた瞬間、言葉が喉に詰まった。――空が、狭い。正確には、空を覆い隠すかのようにそびえる建物のせいだ。天を貫くほどの巨大な大聖堂。その壁はクリーム色に近い温かな白で築かれ、どこまでも高く伸びている。首が痛くなるほど見上げても、その頂は霞に隠れて見えない
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第88話:未来予知

大神殿へと続く、長く、美しい石畳の道。その荘厳な雰囲気とは裏腹に、私たちの周りには今、冷たい緊張感が張り詰めていた。 「待て!!! 止まれ!!」 どこからともなく現れた屈強な騎士の一団が、私たちを取り囲み、その鋭い切っ先をこちらへ向けている。 「……これはどういうことだ?」 シイナさんが、冷静さを保ちながらも、警戒を露わにして問いかけた。 「すまないが、君たちの入国は許可できなくてね。この国へ通した手前、悪いが、君を幽閉させてもらう」 騎士団のリーダーらしき人が、無感情な声でそう言うと、その指はまっすぐに私を指し示した。 ど、どういうこと……? 私の頭は、真っ白になった。 「ま、待ってください!!! 私は何も悪いことなんてしていませんよ…!?」 「これから起きるのです。ですので、一度、あなたを捕らえます」 これから……? この人は、一体何を言っているのだろう。未来のことなんて、誰にも分からないはずなのに……。 「『これから……起きる』……?」 シイナさんが、怪訝な顔でその言葉を繰り返す。 「ちょっと待ってくれ、それはどういうことだ?納得のいく説明をしてもらいたい」 「そうだぜ!! なにもやってねぇのに、『これから起きるから』なんて訳の分からねぇ理由でエレナを捕まえるなんて、理不尽にもほどがあるだろうが!?」 グレンさんの怒声が、静かな街に響き渡った。 「これは『暗明の聖女』様からの、絶対なるご指示だ。『金髪の女性……いや、聖女見習いがこの国に来たら、捕らえろ』とね」 「あの方様には、未来が見える。『未来予知』の力をお持ちなのだ。そして、『金髪の聖女が、この国に厄災をもたらす』と、そう予知なされた。」 私が、聖女見習いであることが知られてる……? それに、私を……捕らえる? 暗明の聖女という人の、命令で? 一体、何がどうなっているのか、全く理解が追いつかなかった。 (暗明の聖女の指示……? それに未来が見えるだと?) エレンの、鋭い声が心に響く。 「ちょっと待ってください」 ミストさんが、すっと一歩前に出た。いつもの彼女からは想像もできないほど、真剣で、知的な光を宿した瞳だった。 「何故、エレナさんが捕らえられなければならないのか、せめてその理由を、論理的に説明していただけませんか」 「『暗明の聖女』様には、未来
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第89話:絶対的な命令

シイナさんの提案を、騎士のリーダーはしばらく黙って考えていた。やがて、彼は重々しく頷くと、その険しい表情を少しだけ和らげた。 「……わかりました。正直なところ、我々もこの命令には戸惑っておりまして。先ほどは声を荒らげてしまい、大変申し訳ありませんでした」 その丁寧な謝罪に、私は驚いてしまった。 「い、いえ……!」 こうして、私たちはひとまず「案内」という形で、騎士の方々と共に大神殿へ向かうことになった。 のだけど……。 「先ほどの無礼のお詫びも兼ねて、大神殿へ向かう道すがら、この国を少しだけですが、ご案内させて下さい」 騎士のリーダーは、そう言って歩き出した。彼の後ろについていくと、目の前には、どこまでも続く壮大な大通りが広がっていた。 ここは、この国の歴史そのものなのだと、彼は語ってくれた。世界中に散らばる聖女が、その命を終えた時、彼女たちの眠る棺は必ずこの道を通って、あの大神殿の地下墓所へと運ばれていくのだという。 「では、私のお母様も、この道を……」 私は、そっと石畳に触れた。この道を、お母様が運ばれていったんだ……。そう思うと、なんだか胸が締め付けられる。 「……ええ。ベルノ王国の先代聖女様は、偉大な方であったと、我々もそう認識しております」 騎士の人は、少しだけ誇らしげに言った。でも、彼の次の言葉は、私の心を凍りつかせた。 「数年前、ベルノ王国を襲った大厄災……その影響で、先代聖女様の亡骸は、それはひどい有様で……」 「そこまでだ」 シイナさんの、氷のように冷たい声が、騎士の言葉を遮った。 「彼女は、その聖女様のご息女だ。言葉を発する前に、相手への配慮というものを頼む」 シイナさんの鋭い指摘に、騎士のリーダーははっとしたように口をつぐんだ。 「っ……!失礼しました……!」 彼はそれだけ言うと、気まずそうに視線を伏せた。私は、まだ胸の奥でズキズキと痛む何かを、ぐっとこらえた。 「大丈夫か?お前はひとりじゃないぜ」 グレンさんが、私の背中にぽんと優しく手を当ててくれる。その温かさに、私は少しだけ救われた気がした。 「うん……ありがとう」 私たちは、再び歩き出した。騎士のリーダーは、気持ちを切り替えるように、目の前の大神殿を指し示す。 「次に、目の前にそびえ立つ大神殿ですが、地下には、世界中の聖女様が静かに眠ら
last update최신 업데이트 : 2025-10-14
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