すると希純はちらりと視線を上げて、「本気か?」と訊いてきた。架純は内心「ほらね」と笑いが止まらず、だが口調は素っ気なく答えた。「ええ、そうよ。私は、こんな話は受け入れない。あなたとは結婚しない」「……」フフンッ!どう?焦ってる?見下すように顎を上げて嗤う架純を、希純はただ黙ったままじっと見ていた。架純はそれを見て、益々彼が狼狽えているのだと思い込んだ。いい気味。これからどうやって私の機嫌を取るのか、見てやるわ。彼女はその細い指に一房の髪の毛を絡め、いかにも仕方なさそうに口を開いた。「だけど、どうしても私と結婚したいならー」だがそう言いかけた時、目の前の希純が「いや」と口を挟んできた。話しを途中で遮られて不満気に眉を顰めると、彼はスマホを手にさっと立ち上がった。それを驚いたように見上げる架純に、彼は言った。「ちょうどよかった。こっちに拒否権がないと言われてたから、どう交渉しようかと思ってたんだ。そっちが断ってくれるなら、それに越したことはない。ありがとう。肩の荷が下りたよ」「……」さっきまでの無愛想が嘘のように微笑ってそう言う希純に、彼女は呆然とした。は?なんなの?肩の荷が下りたって?どういうこと?まさか、彼も断りたかったってこと!?そう一瞬で結論付けて、今にも個室のドアを開けようとしている希純に、彼女は怒鳴った。「待ちなさい!」それにピタリと足を止め、振り返った顔には既に微笑みはなかった。「なんだ?」その冷たい声音に架純は戸惑い、幾分柔らかく問いかけた。「食事は?していかないの?」その態度の変わりように、希純は鼻で嗤った。「一人でどうぞ。俺は忙しいんだ。こんな所で時間を潰していられるほど暇じゃない」「!」その言い様に、架純の不満が爆発した。「何言ってんのよ!そっちに拒否権はないんでしょう!?」だいたい、初めから気に入らなかったのだ。自分を迎えた時、彼は立ち上がらなかった。椅子を引くのも案内係に任せた。自分の好みも訊かずに注文を済ませていた。挙げ句に、自分の機嫌も取らずに下ばかり向いていた!結婚がしたいなら機嫌を取るべきでしょう!?なぜこんなにも蔑ろにされるの!?しかも、置いて帰るですって!?架純の手はぎゅっと拳に握られ、屈辱に震えていた。だが、それに答える希純の声は、あくまでも冷静だった。「そちらか
Last Updated : 2025-09-28 Read more