鬼塚は三日三晩、家でぼんやりと過ごした。何も食べず、飲まず、話もせず。ただベッドに横たわり、天井を見つめていた。頭の中は絢瀬のことでいっぱいだった。彼女の笑顔、怒りをこらえる顔。そして話しぶりも、料理をする姿も、すべてが美しかった。だが、どんな彼女も、もう彼のものではない。「もしもし、鬼塚様ですか?」知らない番号から電話がかかってきて、知らない男の声だ。「はい。何か用ですか?」「失恋ミュージアムの者です。奥様が2年前に預けられた品物がございまして。保管期間になりましたものの、奥様にどうしても連絡が取れなくて……」絢瀬の名前を聞き、鬼塚は飛び起きた。「失恋ミュージアム?」「はい。失恋されたお客様の思い出の品を預かる施設です。短期プランと永久プランがございますが、奥様は2年間のプランをお選びになりました」「場所を教えてください。今向かいます」「はい」鬼塚はすぐに車を走らせた。なぜか直感で、絢瀬が自分に関わるものを残したと確信していた。見ても悲しいだけかもと知りながら、彼は行かずにはいられなかった。何せ彼女はあまりにも残酷で、彼女を思い出されるものを一つも残していなかったから。だからたとえ残されたのは彼への呪いでも、彼も行くしかなかったのだ。そして、ミュージアムで店員に差し出された、色あせた日記帳とダイアモンドの指輪を見たとき、彼は堪らなく震えた。それは結婚式で渡した指輪だ。ずっとつけてないかと思ったが、ここに預けられたか。手を震わせながら日記を開く。そこには結婚直後の絢瀬の思いが綴られていた。【今日彼は白鳥さんを夕食に招いた。料理をたくさん作ったけど、なぜか怒られた。私は何をしても彼は怒ってばかりだ】【今日はうっかりして手が火傷をしちゃった。彼は長い間水で冷やしてくれた。心配してるように見えたけど……違うよね。白鳥さんが好きなんだから】【柳の綿にアレルギーの話をした翌日、街路樹が全て切り倒されていた。皆彼の命令だと言ったが、私のため?】【昨夜オークションで気に入った絵画が今朝届いた。彼が買ってくれたらしい。でも昨夜のオークションで落札してないはずだ……】【また彼に怒られた。千早しか愛さないからと言って、もう彼に媚びないでって言われた。でも私はまだこの家を離れてはい
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