All Chapters of 雪降り、雲深く我を渡さず: Chapter 21

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第21話  

あの日以来、鬼塚は本当に絢瀬の前に姿を見せなくなった。 もしかしたら来ていたのかもしれないけど、絢瀬にはもうわかるはずがなかった。 今の彼女には、何も見えないのだから。 ある晴れた日、窓から差し込む陽光が絢瀬の体を優しく包んでいた。 源蔵はベッドの傍らでリンゴの皮をむきながら、冗談を言って彼女を笑わせようとしていた。 「若菜、検査結果は上々だそうだ。あと数日で退院できるよ」 源蔵の目には憂いが浮かんでいたが、声は明るく振る舞っていた。 絢瀬は唇を噛み、力強くうなずいた。「うん」 「目については……まだ希望はある。大丈夫よ。お祖父さんは世界中の名医を探して、必ず治してみせる」絢瀬の胸が突然刺されるように痛んだ。リンゴを持った手が空中で止まり、源蔵の方に向った。その瞬間、世界は深い静寂に包まれた。耳元で、春風が桃の花びらを揺らすかすかな音が聞こえるような気がした。「お祖父さん、実はあの日、医師の話は全部聞こえたの」源蔵は一瞬、呆然とした表情を浮かべ、慌てた様子を見せた。絢瀬はさして気にも留めないように、ほんのりと微笑んだ。「医者が言うには、私の目はもう二度と治らないかもしれないそうだね。でも大丈夫。もう暗闇にも慣れた。これからも普通に生きていけるよ。たとえ見えなくても、人生の色々な色彩はもう十分味わったし、生まれつき目が見えない人たちより、私はずっと幸せなんだから」「それに......」彼女は言葉を続いた。「私にはまだお祖父さんがいるんじゃない?こんなに私を愛してくれる人がいて、本当に幸せなの。だからこれからも、しっかりと生きていくよ」その言葉を聞いた源蔵は、とうとう涙を抑えきれず、涙が溢れ出した。この年寄りが、まだ若い孫娘ほどに悟れていないとは。 しかし同時に、彼はこんなに強かな孫娘がいることに、心から誇らしさを感じていた。「若菜、心配するな。お祖父さんが必ずお前の目を治してみせる」絢瀬は、にっこりと笑った。 3ヶ月後。源蔵に伴われ、絢瀬は北米行きの飛行機に乗った。源蔵は絢瀬のために、角膜移植手術の名医を手配した。手術前、絢瀬はなぜか緊張した様子で源蔵の手を強く握りしめた。「お祖父さん、この角膜を提供してくださった人は誰なの?お礼を言いたいの」源蔵は喉を詰まらせな
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