その時。「……優」小枝を踏むパキッという音と共に、静かな凛とした声が耳に届いた。「玲子」一拍分の間の後、頭上で優さんがそう呼ぶのを聞いて、私はハッと息をのんだ。彼の胸から顔を離し、声の方向を向く。そこに、黒っぽいワンピースを着た玲子さんと、スーツ姿の瀬名さんを見つけた。「あ……」無意識に声を漏らす私に、玲子さんが視線を向ける。彼女はわずかに口元を緩め、私に「久しぶり」と言った。「れ、玲子さん……」私の方は、予期していなかった再会に、挨拶もままならない。こうして彼女と顔を合わせるのは、あのパーティー以来のこと。離婚はお互いが幸せになるための第一歩、と聞いていても、玲子さんを前に気まずい思いも胸を過る。目線を石畳に落として彷徨わせていると、彼女は無言でこちらに歩いてきた。玲子さんから一歩遅れて、瀬名さんが続く。二人は私たちの前まで来て、靴の踵をコツッと鳴らして足を止めた。そして。「優、ありがとう」玲子さんが、穏やかな声でそう言った。それを聞いて、私はおずおずと顔を上げる。彼女は、声と同じように柔らかい笑みを、優さんに向けていた。「あなたが、定期的にお参りに来てくれてるのは、ちゃんと知ってたわ」「……当たり前だろ。俺にとっても、大事な親友なんだ」優さんはやや掠れた声で答え、再び墓石を見下ろす。それにつられるように、玲子さんもそこに視線を落とした。優さんが供えた銀色のリングが目に留まったのか、ふっと口角を緩める。彼女は一歩前に出て、小さなハンドバッグから取り出したものを、腰を屈めてそこに並べる。黒い石の上に置かれたお揃いの二つのリングが、頭上から注ぐギラギラの太陽光を反射して、眩い光を発した。優さんは目を細めただけで、黙ってそれを見つめている。玲子さんは背を起こして姿勢を正すと、フフッと声を漏らして笑った。「離婚報告なのに、同じ日の同じ時間でかちあっちゃうなんて。いっそ、一緒に来てもよかったわね」そう言いながら、美しい仕草で前髪を掻き上げる。彼女の言葉に、優さんも表情を和らげて頷き返した。「そうだな。……次は友人として。四人で一緒に来ようか」玲子さんも、何度か首を縦に振って応える。「来年ここに来る時は、私もあなたも、新しい幸せな家庭を築いてるって、報告できそうだものね」「え……」私を見遣る、どこかからかうような瞳にドキッとして、無意識に胸元を握りしめた。「玲子」ちょっと困
Terakhir Diperbarui : 2025-07-02 Baca selengkapnya