本社ビルの車寄せから、タクシーに乗った。都会の片側三車線の広い道路に走り出し、スムーズに車線に合流する。窓の外で、長く連なる赤いテールランプに目を遣りながら、私は無意識に「信じられない」と呟いていた。私とは逆サイドの窓枠に肘をのせ、同じように外を眺めていた優さんが、大きな手で口を覆ったまま、私に視線だけ流してくる。二人の間で、指を絡めて繋いだ手に、クッと力がこもる。「信じられないって、なにが?」優さんからそう問われて、私は我に返った。「え……?」「俺の離婚か?」遠慮なく直球で確認されて初めて、心の声が漏れていたことに気付く。ゴクッと唾を飲み、意を決して優さんの方に顔を向ける。彼もゆっくりと口から手を離し、私に向き合ってくれている。「ど、して?」たどたどしく、訊ねる。優さんは眉尻を上げるだけで、言葉を挟まない。そうやって、私に先を促している。「だって、この間。優さん、玲子さんと向き合えた、って……」さっきから、頭の中でぐるぐる回り続けている疑問。私は混乱を強めながら、なんとか口にした。優さんが、シートに深く沈めていた背を起こした。モゾッと身じろぎして、身体ごと私に向かい合う。「一からやり直す、と言った記憶はない」「し、幸せについて、一緒に考えるって……!」「そう。考えたよ。一緒に、お互いの幸せについて。二人で出した結論は、離婚だった」優さんはどこまでも淡々と畳みかけて、私から反論の芽を奪っていく。言葉に詰まり、狭い車内で目を泳がせる私に、彼は小さな溜め息をついた。「もう十分ほどで、家に着く。そうしたらちゃんと説明するから、君は俺の話を冷静に聞く準備を整えておいて」しっかり前に向き直ると、鷹揚に腕組みをする。「い、家?」そう言われて初めて、このタクシーがどこに向かっているのか、行先を気にした。窓に身を寄せて外に目を遣る私に、優さんが「俺の家」と被せてくる。「え? ゆ、優さんの、って……」私はギョッとして、窓枠に手を置いたまま、勢いよく優さんを振り返った。彼は姿勢を変えず、目線だけ私に向けて、「そう」と頷く。「しばらくの間、仮住まいのつもりでいるから、狭いけどね。……玲子と暮らしていたマンションから、引っ越したんだ」抑揚のない淡々とした口調で言い添える優さんに、私は無意識にこくりと喉を鳴らした。私の反応を拾ったのか、彼がわずかに口角を上げて微笑む。「先週引っ越したばかりで
Terakhir Diperbarui : 2025-06-30 Baca selengkapnya