部屋の中に入ったら、何もなかった。 家具から本棚、机まで撤去されている状況に、唖然とする。 「え? あれ? 部屋、間違えた?」 晴翔も理解できない顔で國好を振り返っていた。 「では、移動しましょう」 國好が部屋を出ていく。 栗花落に腕を引かれて、理玖と晴翔は二つ隣の201号室に入った。 二部屋隣とは言っても、第一研究棟の二階は、二部屋を繋げたリノベーションがされている。本来、六部屋あったフロアには、三部屋しかない。 理玖が使っていた203号室も、仮眠室がある204号室と繋がっていた。 國好が201号室の扉を開ける。 中に入ると、先週までの理玖の203号室が、そのまま再現されていた。 「週末の内に、僕も引っ越ししたんですか?」 状況が理解できなくて、國好に問う。 ソファに促されたので素直に座った。 勝手知ったる顔で、栗花落がコーヒーを淹れてくれた。 「結論から申し上げると、引っ越しました。大学と相談の上での引っ越しです。ご本人への許可なく、事後報告になり、申し訳ありません」 國好が丁寧に頭を下げる。 テーブルの上に、電源タップを三つ、置いた。 「向井先生の部屋に仕掛けられていた盗聴器です。向井先生に起きた一連の事件の話を聞いて、もしやと調べたら案の定でした。折笠の件に追われて対応が遅れたことも、お詫び申し上げます」 隣にかけた栗花落と共に國好が再度、深く頭を下げる。 理玖に起きた事件の話をしたのは、先週の水曜日、折笠の所に行く直前だったから、遅い対応ではないのだろうが。 あまりの話に、咄嗟に返事が出来なかった。
Last Updated : 2025-07-20 Read more