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All Chapters of only/otherなキミとなら: Chapter 61 - Chapter 70

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第61話 特別なフェロモン①

 息を切らせて走る。 第三学生棟の大講堂から第一研究棟の理玖の研究室までは、かなりの距離がある。 学内の校舎の中で、対角線上で一番遠い距離だ。 (無事でいて欲しい。晴翔くん、晴翔君、晴翔くん……!)  いつもより急いで走っているのに、全然前に進まない。 転びそうになりながら、やっと第一学生棟から第一研究棟一階に続く渡り廊下に辿り着いた。 「向井先生!」  栗花落が必死の形相で理玖に向かって手を上げている。 理玖に駆け寄ると、その腕を掴んで走り出した。 「晴翔君……、晴翔君は……」  息が上がって、言葉が続かない。 「学生に興奮剤を打たれたけど、内服薬を飲ませて様子見てるっす。応急処置でしかないから、早く病院に連れていきたいんすけど、救急車の到着が遅れてて……」  理玖の腕を掴んで階段を駆け上がりながら、栗花落が説明をくれた。 「学生に……」  積木が話していた白石だろうか。 密かに晴翔に想いを寄せていた白石に興奮剤を持たせて襲わせたのだろうか。 (人の気持ちを利用して、非合法な薬を使って、非人道的な行動を促してまで、WOの人口を増やしたいのか。それがRISEの理想か)  だとしたら、どれだけ考え直しても賛同など出来ない。 「向井先生ならこの場でも何とかできるかもしれないから、迎えに行きたかったんすけど。すれ違っても嫌なんで、あそこで待ってたんす」  第一研究棟と学生棟を繋ぐ通用口は一か所しかない。 だが、学生棟は階段もエレベーターも何か所かあるから、理玖がどのルートで戻ってくるか、わからな
last updateLast Updated : 2025-07-08
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第62話 特別なフェロモン②

「……理玖、さん……ぁ……、はぁ……」  晴翔の口から、苦しそうな弱い声が零れた。 晴翔の眼瞼を持ち上げて眼球を確認する。軽度の上転が見られた。 (体温上昇と大量発汗、頻脈、恐らく血圧も高い。興奮剤オーバードーズの副作用だ。この眼球上転は、tripしかけているのかも)  晴翔の体がビクビクと小さく痙攣している。 規定をはるかに超える量の興奮剤を、恐らく短時間で一気に打たれたのだろう。中毒を起こしかけている。 大量のフェロモンで絶頂する時に起こるはずのtripが、薬の影響で引き起こされる可能性がある。 (限りなく自然に近い発情を、薬剤で意図的に引き起こされた状態なら、絶頂すれば収まるだろうけど。飛びかけている今の状態で絶頂したら、確実にtripする)  tripしたら正気を失って、場合によっては意識障害を引き起こす。 最悪、酩酊状態のまま断続的な発情を続ける、脳機能障害を起こす危険もある。 ワイドショーが面白がって取り上げる犯罪集団Dollが好んで使うtripという手段は、実は大変に危険な方法だ。  かといって、違法に持ち込まれたであろう外国の治験薬を中和できる拮抗剤は、今の日本にはない。 病院に搬送されたところで、適正な処置がされるかは疑問だ。 (tripさせずに助ける方法。考えろ、何か方法があるはずだ。僕なら思い付く、僕なら出来ることが何かある)  晴翔の手を強く握る。 汗ばんだ手に力がない。どんなに握っても、晴翔は握り返してくれない。 (tripを避けるためには、絶頂させられない。でも、興奮を醒まさないと……。薬で煽られているのに、イカせないで興奮を醒ますって、どうすれば……)  薬剤投与で脳科学物質を刺激されている、本人の意志に反し
last updateLast Updated : 2025-07-08
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第63話《5/13㈫》入院①

 あの後、すぐに救急車が到着して、理玖たちは病院に搬送されたようだった。   晴翔の上で眠ってしまったらしい理玖も一緒に運ばれたようで、気が付いた時は診察台の上だった。理玖に身体的異常はなく、フェロモン量の測定と軽い全身検査をWO外来で行い、終了した。 眠ったまま搬送された晴翔は、夜には目を覚ました。搬送時に行った一通りの検査で異常なかったが、精密検査のためWO専門内科に入院となった。今のところ一泊二日の入院予定だ。  一先ず元気な顔をしてくれている晴翔に、理玖は安堵した。 「予想していたとはいえ、積木君の話はショックですね。ていうか、怖いです」  晴翔が理玖の弁当を食べながら厳しい顔をした。  救急搬送された次の日。 理玖は晴翔の病室で一緒に、遅めのランチをしていた。 午後の二時くらいまでは検査があるとの話だったので、終わりそうな時間に合わせて面会に来た。 入院食だけでは足りないだろうと弁当を作って持参したのだが、思った以上に晴翔が喜んでくれたので良かったと思った。 「RISEの話は白石君もしてたから、積木君に誘われて入ったかくれんぼサークルで洗脳されたのかな。……バスケ上手な、良い子だったのに」  箸を止めた晴翔が、悲しそうな顔をした。 真野や晴翔が話していた白石凌の人柄と、晴翔を襲った白石の奇行を照らし合わせると、とんでもない豹変だ。 「RISEで洗脳されたには、違いないだろうけど。かくれんぼサークルが拠点では、なさそうだよ」  積木大和の言い回しは意味深だった。 理玖がRISEの拠点はかくれんぼサークルなのかと聞いた時、 『そこはまだ、理解できてないんだ。ちょっと早かったかな』  積木大和は、そう答えた。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第64話 入院②

「それこそ、RISEの本拠地に連れて行ったのかもね。薄暗い部屋、ぼんやりした灯にゆっくりした一定間隔の音。外部の刺激を極力なくして、同じ場所に何日も閉じ込めると、人は思考力が低下する」「かくれんぼサークルのヤリ部屋みたいな?」  晴翔の問いに理玖は頷いた。 ヤリ部屋という表現が、何とも生々しい。 「睡眠を出来る限り削り、食事を少なめに、特に糖質を減らして更に思考力を削ぐ。その環境で、二人にとって心地よい言葉だけを与え続ける。例えば……、好きな気持ちを隠さなくていい。空咲さんと恋人になれる方法がある、とかね」  晴翔が、ぐっと息を飲んだ。 「心地の良い言葉とセットで、RISEの理念を教え続ける。WOは至高の存在、normalは愚物、onlyはotherの子供を産むべき。WO同士なら好きになっていい。……積木君の話から抜粋すると、そんな感じかな」  晴翔の顔が蒼褪めた。 「思考を低下させた状態で、二人の気持ちや本音を聞き出して、RISEの理念と共に心地よい言葉を与え、行動を促す。成功例が、晴翔君を襲った白石君なんだろうね」  自分で話していても、吐き気がする。 人間の自由意思を奪ってまで子供を産ませて人口を増やそうとするやり方が、気持ち悪い。そこまでしてWOを増やして、何がしたいのだろう。 「白石君が、俺を想ってくれていたなんて、全然気が付かなかった。それどころか俺にとっては、大勢いるバスケ部員の一人でしかなくて。真野君みたいによく話すわけでもなかったから、むしろ印象の薄い子でした」  晴翔が後悔した顔で俯いた。 「もっと話し掛けていたら、何か違ったのかな」  理玖は手を伸ばして晴翔の頭を撫でた。 「学生全員と話ができるわ
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第65話 入院③

 ノックされた扉を返事しながら開く。 スーツ姿の國好と栗花落が立っていた。 「体調は、如何ですか?」  部屋に入った國好が晴翔に声を掛けた。 「もう全然元気です。國好さんには助けていただいて、ありがとうございました。……恥ずかしい姿も、見られちゃいましたね」  晴翔が恥ずかしそうに目を逸らした。 服で隠れていたとはいえ、興奮剤でガチガチに勃起している姿を見られたのだから、晴翔としては恥ずかしいんだろう。 「健康に支障がなければ、何よりです」  前から思っていたが、やはり國好の話し方は業務的で淡白だなと思う。 今の晴翔には、有難いだろうが。  椅子を勧めたが断られた。 むしろ理玖が座るよう、手で勧められた。 仕方なく、理玖は椅子に腰を下ろした。 「それにしても、随分立派な個室っすねぇ。検査入院なんすよね?」  栗花落が部屋の中を見回して感心した。 それについては、理玖も昨晩から思っていた。 一泊二日の検査入院にしては、広いし綺麗で豪華な個室だ。 通常なら、四人部屋か二人部屋を勧められそうなパターンに思う。 「いや、まぁ。空き部屋の問題というか。それより、御二人は、お見舞いに来てくださったんですか?」  晴翔があからさまに話題を切り替えた、ように見えた。 「昨日の事件がありましたので、御二人には多少、お話を聞かなければいけません。その前に、俺たちの話をしないといけないので、お見舞いに来ました」  栗花落が大きな果物の籠を理玖に手渡した。 お見舞い品の定番中の定番だ。本物は初めて見たなと思
last updateLast Updated : 2025-07-10
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第66話 入院④

「かくれんぼサークルの乱交集会は年に四回、バレンタイン、GW、夏休み、クリスマスに行われます。薬を使って学生に性交させて、その現場を折笠が招いた教授連中が観察し、お気に入りの愛人《ペット》を探すための集会、というのが実情です」  國好が淡々と説明した内容があまりに驚愕すぎて、理玖と晴翔は蒼褪めた。 「ペットって……。それじゃまるで、報道されているDollの実情と、大差ない……」  思わず零れた理玖の言葉に、栗花落が軽く頷いた。 「そうなんすよ。人身売買の闇オクとまではいかなくても、乱交集会は会員制で、参加する教授から、折笠は見物料を受け取っているはずなんす。愛人《ペット》の購入には百万以上とか、単発のセフレ《レンタル》なら一回五万以上とか、金が動いてると思うんすよね」  栗花落が困った顔で笑う。 全く笑える話ではない。 「そこまで詳細がわかっていて、どうして折笠を検挙出来ないんですか? 現行犯でないと難しいんですか?」  晴翔が難しい顔で問う。 「Dollは慶愛大学だけじゃない。全国の大学にかくれんぼサークルのような実態を隠した乱交サークルが存在し、各々に仕切り役《Doll》が潜伏しています。過去に検挙した大学の例を参考に折笠に狙いを定めていますが、慶愛大学での実情はいまだ掴めていません」  聞けば聞くほど、恐ろしい。 メディアの報道があながち間違っていないのが一番、恐ろしいと思った。 「トカゲの尻尾きりじゃないすけど、末端の仕切り役をどれだけ掴まえても、Doll本体は止まらない。本部に関わる幹部に、俺らは辿り着きたいんす。だから慎重に捜査してんすよ」  栗花落の目から笑みが消えた。 「折笠先生が、Dollの幹部だと……?」
last updateLast Updated : 2025-07-10
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第67話 入院⑤

「僕に、どうしろと……?」  RISEなんて組織は昨日、積木に聞くまで知らなかった。 崇められているのも、初めて知った。 「我々の捜査に協力をお願いしたい。向井先生の存在は勿論ですが、考察力とWOの豊富な知識は我々にとり有益です。どうか、お願いいたします」  國好と栗花落が理玖に向かい、深々と頭を下げた。 なるほど、これだけ詳細な情報を開示してくれたのはそういう訳かと納得した。 「WOの知識はありますが、考察力と言われても」「真野君と話している時の先生のかくれんぼサークルの考察はお見事でした。他にも思い付いている事柄とかあったら教えて欲しいっす。先生の弁当窃盗や報告書事件についても、是非!」  栗花落が話すと無邪気に聞こえて、素直に話してあげたくなるから不思議だ。 「いやでも、僕はただの研究者で講師でしかないので」「俺は反対です。今でも充分危ない立場なのに、これ以上、理玖さんを危険に晒したくない」  理玖の腕を強く掴んで、晴翔が國好に強い目を向けた。 「だからこそです。我々と共に行動してくれれば、向井先生も空咲さんも、もっと近くで守れる。第一研究棟二階に常駐になりながら、空咲さんを危険に追い込んだのは、俺の失態です。申し訳ありませんでした」  國好が晴翔に向かい、頭を下げた。 「もっと近くで、守らせてほしい。向井先生や空咲さんの知恵と知識を借りたい。どちらも俺の本音です」  真っ直ぐな眼差しが、晴翔に向く。 その目には、覚えがあった。十四年前、不器用にぎこちなく理玖を励ましてくれた警察官も、同じ目をしていた。  晴翔が何も言えなくなっている。 理玖は晴翔の手を握り直した。
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第68話 キスの熱

 國好と栗花落が帰ってから、晴翔が布団に転がって不貞腐れていた。 「あんなの、狡いです。普通に格好良い。誰でも惚れる」  國好の話をしているんだろう。 跪いて手を握る様が、まるで物語に出てくる騎士のようではあったが。 「確かに格好良かったけど……。晴翔君、國好さんに惚れちゃったの?」  理玖には確実にない要素だ。 そういう部分に晴翔も惚れるのだろうか。 ゴロンゴロンしていた晴翔が動きを止めた。 「今のは一般論です。俺は惚れません」  晴翔の手が伸びてきて、理玖の顎を掴まえた。 「理玖さんの、こういう顔が見られるなら、ちょっと許せる」  晴翔がニコリと笑む。 「こういうって、どういう?」「俺が他の人に惚れたかもって思って、不安になる顔」  顔が近付いいて、唇が触れるだけのキスをする。 理玖を見詰める瞳が妖艶で、そっちの方が何倍もドキドキした。 (國好さんは騎士《ナイト》系イケメンだったけど。晴翔君は晴翔君で王子様系イケメンだからな。僕は爽やか笑顔の王子様が好きらしい。……時々、ワンコ系だけど)  理玖の乙女脳が解析を始めた。 あざと可愛い系の栗花落といい、何とも個性的だなと思う。 自分が一番、没個性だと理玖は思った。 「というか、積木君はどうなったんでしょうね。佐藤と一緒に講堂に置いてきちゃったんでしょう?」  晴翔の素朴な疑問を聞いて、理玖も思い出した。 「そうだった。國好さんに聞き忘れちゃった。佐藤先生は警察の協力者かと思ってたん
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第69話《5/14㈬》ティータイム

 國好たちが晴翔の入院先に見舞いに来た次の日は、水曜日だ。 折笠と午後二時に話をするアポを取っている。 國好と二人で行こうと思っていたら、午前中に退院した晴翔が大学に午後出勤してきた。 (昨日、話に出なかったから、てっきり忘れていると思っていたのに)  だから理玖もあえて、話題には出さなかったのに。 「今日、退院したばかりなんだから、無理しないで家で休んでいいよ」  敢えて促してみる。 晴翔が、じっとりと理玖を|睨《ね》めつけた。 「俺は忘れてませんから。ちゃんと考えてましたから。國好さんと二人だけでは行かせませんから」  どうやら、しっかり覚えていたらしい。 理玖が休めというのを見越して、晴翔も敢えて話題に出さなかったのだろうか。 「というか、皆さんは何をしているんですか?」  晴翔が大変、怪訝な顔でテーブルを眺める。 二人掛けのソファに挟まれて置かれたテーブルの上には、籠に山盛りのクッキーが置いてある。 理玖と向かい合って、國好と栗花落が座っていた。 「今日の午前中、僕は休みだったから、國好さんたちと一連の事件の擦り合わせをしていたんだよ」  本当なら理玖も昨日一日、療養休暇の予定だったが、火曜日の午前には二年生のWO講義が二限に入っている。だから休みを昨日の午後と今日の午前にずらした。 「そうですか……。クッキーは理玖さんの手作りですか?」  一目で理玖の手作りと見抜く辺り、晴翔も慣れてきたなと思う。 昨日、晴翔の見舞いから帰っても何となく落ち着かなくて、気晴らしに作ったクッキーだった。 
last updateLast Updated : 2025-07-12
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第70話 潜入の本音①

 俯いていた晴翔が、思い出したように顔を上げた。 「研究室に来る前に、事務に寄って聞いたんですが。積木君も父親の病院に入院しているって。二週間の休学申請が出ているそうです」  驚いた理玖とは裏腹に、國好と栗花落は訳知り顔をしている。 「入院? 頭を打ったからかな。そういえば、僕が講堂を出た後のことをまだ、聞いていませんよね。佐藤さんと積木君は、どうなったんですか?」  積木はあの時、佐藤に思いっきり蹴り飛ばされて頭部を教壇に強打していたから、入院したとしても納得だが。佐藤は、どうなったのだろう。 (というか、國好さんたちと、どういう関係なんだろう)  午前中は弁当窃盗から報告書事件、かくれんぼサークルの話でほとんど終わってしまった。 國好が、あからさまに理玖から目を逸らした。 「積木大和は頭部を打撲する怪我をして一週間の入院だそうっすよ。都合が悪い事実が発覚した時の政治家や有名人ばりの雲隠れっすかねぇ」  RISEの存在を警察から隠すための時間稼ぎだろうか。 理玖が積木との会話を警察に話せば、任意の取り調べくらいはあるかもしれないが。 「向井先生との会話だけでは、証拠不十分で逮捕には至れません。白石が持っていた違法な興奮剤の出所の特定と向井先生の事件で証拠が上がれば、引っ張れないこともないですが」  理玖は國好をじっと見詰めた。 さっきから國好に目を逸らされている気がする。 「僕はまだ、積木君との会話の内容を國好さんにお伝えしていませんが」「協力者からの情報提供です」  早口で言葉を切ると、國好があからさまに顔を逸らして押し黙った。 あの状況での協力者など、佐藤満流以外にいないと思うのだ
last updateLast Updated : 2025-07-13
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