雪が喫茶店を出ると、一台の車が店の前で待っていた。周囲を見回し、誰も見ていないことを確認してから、車に乗り込んだ。「お待たせしました。研究施設までお願いします」車に乗ってから、彼女は自分の手にナイフが握られていることに気づいた。家を出る前に、引き出しから持ち出したものだった。礼とは学生時代から社会人になってからの7年間、ずっと一緒に過ごしてきた。彼女は礼のことをよく理解していた。彼は欲しいものは何が何でも手に入れようとする男だ。もし、今日、自分が言葉だけで拒絶すれば、彼はどんなことをしてでも、自分を連れ戻そうとするだろう。自分の命を賭けることでしか、彼を諦めさせることはできない。雪は苦笑した。策略をめぐらせることが大嫌いだったのに、初めて使う相手がまさか礼になるとは。彼女は窓の外を眺めた。車は街を離れ、砂漠の奥へと進んでいく。「礼、さようなら。これで、私たちはもう他人よ」もう二人が同じ道を歩むことはない。これからは、彼は彼の道を、彼女は彼女の道を歩む。二度と交わることはない。潤が喫茶店に着くと、礼は床に座り込み、虚ろな目で割れたお守りを握りしめていた。手のひらは血だらけだった。しかし、彼は痛みを感じている様子もなく、ただ入り口の方をじっと見つめていた。潤は駆け寄り、彼を椅子に座らせた。お守りを握りしめた手を広げようとしたが、びくともしなかった。「社長、小林さんはもう行ってしまいました。ここで血を流していても無駄ですよ。小林さんも、社長がこんな風になっているのを見たら悲しみます。きっと、社長が立ち直ることを願っているはずです」「そうだろうか……」礼は潤の方を見た。彼女はまだ自分のことを気にかけてくれているのだろうか?今しがた言われた言葉の一つ一つが、彼の胸に突き刺さっていた。彼女はきっと、自分に心底失望し、もう二度と自分のことなど気にしないはずだ。「もちろんです。小林さんは優しい方ですから、社長がこんな風になっているのを見たら、きっと悲しみます」潤は思いつく限りの慰めの言葉をかけた。礼と雪がどんな話をしたのかはわからなかったが、おそらく、彼女はもう二度と礼の元へは戻らないだろう。礼はゆっくりと手を広げた。手のひらは血だらけだった。彼の血がお守りを赤く染め、娘の血と混ざり合っていた。彼は血ま
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