浩介は、晴奈の笑顔に一瞬目を奪われた。その直後に投げかけられた言葉に、心臓がぎゅっと縮まる。「……どういう意味だ?」晴奈はただ、ふわりと笑って答えなかった。以前の彼女はずっと、浩介とはるなは互いに想い合っていたのだと信じていた。そして、はるなを失った彼が代わりを求めるのも、愛の裏返しなのだと思っていた。けれど——今日、おばあさんから語られた過去の真実を知って、晴奈は気づいてしまった。浩介の想いは、独りよがりだった。はるなは、彼を愛していなかった。誰もが憧れ、愛されて育ったはるな。そんな彼女にとって、浩介のような男はよくいる「尽くしてくる人」の一人に過ぎなかった。もしあの夜の事故がなければ、果たして彼女は、浩介のことを思い出すだろうか?彼の家柄や立場を、頼ろうとしただろうか?晴奈は、浩介の青ざめた顔色を意に介さず、言葉を重ねた。「……ああ、そうそう。もっと哀れなパターンがあるわ。好きな人に、『道具』として使われること……そうでしょ?」その軽やかに聞こえる一言一言が、浩介の胸に鋭く突き刺さった。彼女が記憶を失っていることを知らなければ、まるでわざと核心を突いて皮肉っているのではないかと疑いたくなるほどに。——そう、あの日からずっと胸に引っかかっている「棘」。はるなが事故を起こした夜、自分の家を訪ねてきたのは「愛していたから」ではなかった。彼女は分かっていたのだ。浩介が自分をどう想っているか。その気持ちを利用すれば、どれほどの問題でも揉み消せると。浩介は確かにはるなを愛していた、でも同時に恨んでもいた。あれだけのことを背負わせておいて、自分だけあんな形で命を絶ち……浩介だけを「悪者」としてこの世界に取り残して。晴奈の問いに答えられず、浩介はその場を逃げ出すように去った。走る車窓から景色が後ろに流れていく中、彼の脳裏には、さきほどの晴奈の笑顔が焼きついていた。同じ顔。同じ瞳。同じ微笑み、けれど——もうそこに、はるなの影はなかった。浩介は、不意に不安を覚えた。……なぜだ?これは、自分の気持ちの変化なのか?それとも——晴奈が、変わってしまったのか?秋風に舞う銀杏の葉が、道を黄金の絨毯のように覆っていた。郊外の風景はまるで絵画のようで、晴奈はイーゼルを立て、写生をし
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