All Chapters of 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—: Chapter 91 - Chapter 100

109 Chapters

91.瑞穂ノ神②

「えっと、僕が色彩の宝石なのは紅優の番だからで、紅優は瑞穂ノ神だけど、左目がなくて不完全な状態で、番もいなかったから、幽世はずっと声を届けていたけど、紅優まで届かなくて、本当はもっと前から紅優は瑞穂国の一部、って言ってたと思います」 志那津が口を開けて呆然としている。 前にそんなような顔をして叱られたなと、ぼんやり思った。「瑞穂ノ神は既にいたんだ。色んな偶然の重なりで見つからなかった神を、蒼愛という色彩の宝石が見付けたんだ。これぞまさに理が顕現した故の現象だと思わないか!」 大興奮の利荔の隣で、志那津が口元を抑えて黙り込んだ。「利荔の予測が、あたった。ずっと探していた神が、本当に、いた。しかも、こんなに近くに」 ぽろりと一滴、志那津の目から涙が流れた。 慌てて目を拭いて、志那津が顔を逸らした。「な、泣いてないからな。ただ、利荔が創世記を執筆し終えた後も研究を続けていたのは、知っていたから。正解って形で実を結んだのは、主として嬉しく思う、だけで」 利荔が志那津の頭を抱いて、髪に頬擦りした。「ありがとう、志那津様。実を結ぶかもわからない研究でも、応援して援助してくれて。一緒に怒ったり喜んだり泣いてくれるのも、志那津様だけだよ」「だから別に、そういうんじゃないって言ってるだろ」 さっきより涙があふれている志那津を、利荔が愛おしそうに撫でている。 その姿がとても温かくて印象的だった。「瑞穂ノ神が見つかった事実より、俺の研究成果を先に喜んでくれちゃうのは神様としてどうかと思うけどね。でもね、だから大好きだよ、主様」 志那津の肩がびくりと跳ねた。 まだ潤んだ目で利荔をじっとりねめつけた。「とにかく、すぐにでも淤加美様にご報告だ」「あの、待ってください!」 立ち上がろうとした志那津を、紅優が制した。「俺が瑞穂ノ神で決定のような空気ですが、俺は只の妖狐です。神ではありません」 志那津が利荔と顔を合わせて、腰を下ろした。「蒼愛は、紅優が瑞穂ノ神だって、幽世
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more

92.浄化術と結界術①

 志那津を見送った後、蒼愛たちは早速中庭に出て訓練を始めた。 「蒼愛、どう?」 紅優が短い言葉で確認する。 蒼愛は紅優を見上げて頷いた。「うん、多分、できると思う」「へぇ。やっぱり、色彩の宝石の力以外は、ちゃんと把握できているんだね。じゃぁさ、まずは結界術、やってみてよ」 利荔が感心しながら蒼愛を促した。「やってみます」 二人から離れて立ち、両手を自分の前に翳す。 日と暗の神力を感じながら、体の中で混ぜ合わせた。 目の前に転がる小石を見詰めて、閉じ込めるイメージをしながら霊力を放出した。 小石が一瞬、宙に浮いて蒼愛が作った透明な結界に閉じ込められた。「うん、いいね。強度も充分だ」 結界を叩いて触れながら、紅優が満足そうな顔をした。 利荔がそれを覗き込んで、また感嘆の声を上げた。「充分ていうか、かなり強い結界術だよね。下手したら神様だって出るのに苦労するよ。どれくらい大きいのまで、作れそう?」 利荔の問いに、蒼愛は考え込んだ。「えっと、多分、この風ノ宮くらいだったら今すぐできそうです」 蒼愛の返事に利荔が呆気に取られている。「水の壁で作った結界は自分を守る防御壁的な意味合いが強いけど、日暗の結界術は閉じ込める意味合いが強いんだ。イメージとしては封印が近いかな。覚えておくといいと思うよ」「うん、わかった」 紅優の説明に、素直に頷く。「もしかして、他の力もこんな感じで紅優が教えてたの?」 二人のやり取りを眺めて、利荔が問う。「そうですね。蒼愛は自分の中にちゃんと術のイメージがあるから、ちょっとアドバイスするとすぐに出来るようになって、教えるって感じでもないんですけどね」 そう語る紅優は物足りなそうにも誇らしげにも見える。 言葉を失くした利荔が気を取り直して蒼愛に向き直った。「じゃぁ、浄化術も確認しとく? 確かに教えるって感じじゃないから、確認で良いね」
last updateLast Updated : 2025-08-06
Read more

93.浄化術と結界術②

「利荔さんは、志那津様が瑞穂国に来た時から一緒なんですか?」「ん、その前、現世に居た頃からだよ。もう二千年くらい、一緒なんじゃないかなぁ」「二千年⁉」 時間の単位が壮大すぎて全くイメージが湧かない。 口を開けて愕然とする蒼愛の頬を突きながら、紅優が笑った。「神様の側仕って、滅多に変わらないから、それくらいは普通だよ」「普通なんだ……」 本当にもう番になってしまえばいいのになと思った。「一ノ側仕は、どの神様もそれくらい長いんじゃない? 淤加美様のとこの:蛟(みつち)とか、月詠見様の八咫烏とか日美子様の鳳凰とか。火産霊様の側仕だけが、ちょっと新しいのかな。今は紅優と同じ妖狐だよね?」 利荔の視線に紅優が頷いた。「一緒に幽世に来た九尾の同族ですよ。一ノ側仕だった俺が佐久夜の番になった後を引き継いで、佐久夜から火産霊まで仕えた大先輩は引退してますから。今は:吟呼(ぎんこ)が火産霊の一ノ側仕です」 紅優が微笑んで話をしている。 表情が柔らかくて、安堵した。(良かった。紅優、自分から佐久夜様の話ができている。辛くもなさそう) そう感じつつ、ふと思った。(そういえば、紅優は火ノ神様の側仕としてこの国に来たんだ。もし最初から火産霊様が幽世の火ノ神になっていたら、紅優は今でも火産霊様の一ノ側仕だったんだ) それはそれできっと仲良くやっていたのだろうなと思うが、蒼愛としては複雑だ。(佐久夜様の番になったから、僕は紅優と出会えたんだ。やっぱりちゃんと佐久夜様に感謝しなきゃ。落ち着いたら、紅優に佐久夜様のお話をたくさん聴かせてもらおう) 紅優がしていたように御霊を優しく弔う方法を知りたい。 佐久夜を大事に出来なかったと嘆く紅優の後悔を少しでも和らげてあげたい。 それができるのは、今の番の自分だと思った。「須勢理様にもいるんですか? 一ノ側仕」 何気なく聞いた問いかけに、紅優と利荔が振り返った。「いるねぇ、面倒なのが」
last updateLast Updated : 2025-08-06
Read more

94.神々の側仕①

 天上にある瑞穂ノ宮で、蒼愛と紅優は支度を整えていた。 今日は祭祀なので、いつもとは違う着物だ。 赤い袴に白の着物、袖口に赤い紐が通された変わった誂えだった。 着物には地紋が入っていて、神々の神力が感じ取れた。「蒼愛、支度できた?」 顔を覗かせた紅優の姿を見て、思わず見惚れた。 蒼愛と同じ作りの着物を着ているはずなのに、美しくて華やかで、何より神々しく見えた。「紅優、綺麗……」 蒼愛の言葉を嬉しそうに聞いて、紅優が蒼愛の髪を撫でた。「蒼愛も似合ってるよ。可愛いし、格好良い」 摘まんだ髪に口付ける。 その仕草まで艶っぽくて素敵に映る。「やっと、紅優の目が戻ってくるんだね」 蒼愛は紅優の左目に手を伸ばした。 紅の瞳に、今日の着物は良く似合う。 まるで紅優のために誂えた着物のようだ。「そうだね。千年も自分の中になかった目だから、ちょっと変な気分だ」 千年、この国の均衡を守り続けた左目が今日、主の元に戻る。 色彩の宝石を奉る祭祀自体が、紅優のための儀式のように感じられた。「ずっと側にいてね。僕の隣に居てね。紅優のままでいてね」 触れる蒼愛の手を、紅優が握った。「当たり前だよ。何も変わらない。蒼愛の紅優のままだよ」 紅優が蒼愛の手に口付ける。 「うん。紅優、愛してる」 同じように紅優の手に口付けた。「紅優、蒼愛、準備できたか?」 扉の向こうから、黒曜の声がした。「もう開けて大丈夫だよ」 紅優の声を聴いて、黒曜が扉を開けて入ってきた。 二人の姿を眺めた黒曜が、感嘆の息を漏らした。「やっぱり似合うなぁ。二人は間違いなく、天上の神様だな」 黒曜の言葉に、紅優が顔をしかめた。「やめてよ。神様じゃないよ」「いや、神様だろ。瑞穂ノ神と色彩の宝石として、祭祀の後はこの瑞
last updateLast Updated : 2025-08-07
Read more

95.神々の側仕②

 蒼愛は少しずつ後ろに下がって、部屋の隅に置いてある椅子に腰かけながら、紅優が囲まれる光景を遠巻きに眺めていた。「皆、強そうだなぁ」 感じる妖力は強い。 それだけでなく、妖力には神力が混ざって感じる。(利荔さんが一ノ側仕は番みたいな役割もするって話していたけど。やっぱり食事の相手もするのかな。体を繋げたり、とか? どこまで、するんだろ) そこまで考えて、はっと我に返った。(ダメダメ、今から祭祀なのに。変なコト考えちゃ、ダメ。というか、利荔さんはいないのかな)「利荔は先に現場視察に行った。後から合流する」「そうなんだ」「あそこで紅優の手を握っているのが火産霊様の妖狐で、名が吟呼。肩を叩いているのが日美子様の鳳凰で陽菜。隣にいる黒いのが月詠見様の八咫烏で世流」「へぇ、教えてくれてありがとう……」 一通り聞いてから、隣に誰かがいる状況に驚いた。 隣を見上げると、ショートボブの綺麗なお姉さんが蒼愛を眺めていた。「私が淤加美様のニノ側仕、角ある蛇の:夜刀(やと)。よろしく、蒼愛様」「よろしくお願いします……」 普通に挨拶されて、普通に挨拶を返してしまった。 気配も妖力も、全然気が付かなった。(蛇だから、気配を消すの上手なのかな。大蛇の蛇々とは、気配が全然違う。もっと澄んだ、神様に近い気配だ) 隣にいると認識したら、夜刀の気を感じられた。 同じ蛇でも違うモノなんだなと思った。「あの、夜刀さんはニノ側仕なんですか?」 今日は一ノ側仕が集まると聞いている。「淤加美様の一ノ側仕は:蛟(みつち)の:縷々(るる)。今回みたいな戦闘向きじゃないから、今日は私」「戦闘向きじゃない……」 つまりは戦闘に特化した選出ということだ。 当然なのかもしれないが、改めて危険を感じた。「あー! 夜刀、抜け駆け狡い! 俺も蒼愛様に絡みたい!」
last updateLast Updated : 2025-08-07
Read more

96.祭祀の始まり①

 瑞穂ノ宮、移動の間の円の中に、蒼愛と紅優は立っていた。 側仕の妖怪たちは各々配置に付いた。 へこんでいた紅優の気持ちも落ち着いたらしい。 円の外側には、黒曜がスタンバイしている。「淤加美様から報せが来たら、真下の瑞穂ノ社に降りる。降りたらもう、止まれねぇ」 黒曜の顔が緊張していた。「大丈夫、僕の隣には、紅優がいるから」「蒼愛は俺が、守るからね」 言葉を交わし合い、頷き合う。 黒曜の肩に、小さな竜が止まり、飛沫になって弾けた。 「二人とも、絶対に無事に帰って来いよ」 黒曜の手から流れ込んだ妖力で、足下の円が光を放つ。 大きく頷いて、蒼愛と紅優は目を瞑った。 瞼を持ち上げた蒼愛が最初に目にしたのは、背の高い大樹だった。 大きな葉を茂らせ、天にまで届きそうに枝葉を空に伸ばしたその木が、:朴木(ほうのき)だと、何故かわかった。(朴木なんて、見たことも聞いたこともないのに、どうして僕はわかったんだろう) 力強く、真下の社を守るように聳え立つ大樹を見上げていると、少しだけ切ない気持ちになった。「紅優、蒼愛。よく来てくれたね」 振り向くと、淤加美が蒼愛と紅優に笑いかけていた。 朴木の真下にある小さな社の反対側には、境内が広がる。 :椚(くぬぎ)の鳥居のこちら側が神域なのだと肌で感じた。 蒼愛と紅優は社の前に降り立ったらしい。 境内には神々が横並びに揃っている。 姿は見えないが、社の境内を囲むように側仕たちが護りを固めているのが気配でわかった。「準備は、いいかい?」 雰囲気が物々しくて、流石に緊張する。 蒼愛は、ぎこちなく頷いた。 紅優も緊張している顔だ。「祭祀が終わったら、私は紅優を様付けで呼ぶからね。覚悟しておくんだよ」 淤加美の言葉に紅優が顔を引き攣らせた。「ゆっくり少しずつ慣らしながらでお願いします」 紅優の言葉がカタカタ
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

97.祭祀の始まり②

「月詠見、結界は?」「今、補強してるよ。破られた形跡はない」「こっちは心配ないから、淤加美は蒼愛を診てやんな」 月詠見と日美子の声が逼迫している。「志那津! 木の根を風切で根こそぎ切れ!」「やってるっ。切っても切っても再生して絡まるんだよ!」 火産霊と志那津の声が聞こえる。 淤加美が癒しの水を蒼愛の左目に当てて、治療してくれている。「ダメ、淤加美様……、須勢理様、が……」 今の状態だと須勢理がフリーだ。 逃げてしまったら、助けられない。「大丈夫、須勢理は確保した。側仕たちが抑えてくれている。これ以上は、何もできないよ」 淤加美の声を聴いて、蒼愛は何とか目を開けた。 五人の側仕が須勢理を拘束して囲んでいる。 手足を縛られて、地面に転がる須勢理の姿が見えた。「ちが……、須勢理様は……、須勢理様の、せいじゃ……」「木の根を操る術は土の神力だ。結界の中で、蒼愛と紅優に手を出せたのは須勢理しかいない」 淤加美の言葉に、蒼愛は必死に首を横に振った。「須勢理様を、殺さないで。傷付けないで。境内から、出さないで。須勢理様は、紅優を守って……、ぅっ」「守る? どういう意味だい、蒼愛」 淤加美が蒼愛の目にあてた癒しの力を強めた。 しかし痛みは、全く引かない。 「紅優を、根から、出さないで。そのままに、して」 必死に訴える蒼愛に、淤加美が迷っている空気が伝わった。 全く見えない中、手を彷徨わせて淤加美を探す。 掴んでくれた手を、強く握った。 淤加美が息を飲んだのが、気配でわかった。「火産霊、志那津、紅優の安全だけを確保しろ。根から出さなくていい」 火産霊と志那津の神力が尖っているのを感じる。「蒼愛が、それ
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

98.本物の色彩の宝石

「蒼愛、色彩の宝石、ちゃんと作ろうか」 紅優が微笑みかける。「そうだね。完璧なのを、ちゃんと作ろう」 返事をして、蒼愛は紅優と手を重ねた。 目を閉じて、神力を集中する。 互いの力を混ぜて、凝縮して、大きな玉にする。 合わせていた手をゆっくりと離す。 紅優と蒼愛二人の手に収まりきらない程の大きな色彩の宝石が浮かび上がった。「こっちは必要ないので、壊してしまいましょう。悪く使われては困ってしまうので」 三宝に乗った小さな宝石を紅優が摘まむ。 少し力を籠めると、粉々に砕け散った。「こちらの宝石に、神々の祝福をお分けください」 新しく作った色彩の宝石を三宝に乗せる。 三宝に収まりきらないくらいに大きな宝石を見詰めて、淤加美が言葉を失くしていた。「皆、集まってくれるかい。神々の加護をここへ」 淤加美の声掛けで、全員が集まった。 色彩の宝石を囲むように立った。「須勢理様も、こちらへ」 蒼愛が声をかける。 須勢理が顔を逸らした。「僕の神力じゃ、弱くて意味がないよ」「だから、その野椎と一緒に」 蒼愛を癒した後、野椎は須勢理の側を離れなかった。 拘束を解かれた須勢理が野椎を抱いて、おずおずと蒼愛の隣にやってきた。 蒼愛は須勢理の手を握った。「僕が手を握っていますから、大丈夫ですよ」 微笑み掛けると、須勢理が泣きそうに顔を歪ませた。「では、新たな色彩の宝石に加護を籠めよう」 淤加美の言葉を合図に、神々が神力を浮き上がらせた。 五色の神力が宝石の上を舞う。 野椎からも、黄色い神力が流れ出た。 六色の神力が宝石に吸い込まれる。 七色に輝く色彩の宝石が強い光を発した。「それでは、臍に祀るよ」 三宝に乗せた宝石を淤加美が臍の上に翳す。宝石は独りでに浮き上がり、強かった光が徐々に収まった。 七色の光
last updateLast Updated : 2025-08-09
Read more

99.祭祀後の宴①

 瑞穂ノ宮に戻ると、紅優の予想通り宴会の準備が整っていた。 紅優と蒼愛は上座に座らされた。「ちょっと照れるね」 照れ顔でそう話した紅優から、祭祀の前のような緊張は消えていた。(幽世の声が聞こえて、紅優も僕の話を分かってくれたんだ。自分の立場とか、嫌って思っていないといいな) 神様になって様付けで呼ばれたり敬われるのを嫌がっているように感じた。 蒼愛が一番心配なのはそこだった。「紅優、神様になるの、嫌じゃない?」 蒼愛の問いかけに、紅優が少しだけ考え込んだ。「やっぱりちょっと、恥ずかしいけど、嫌ではないよ。だって、蒼愛と一緒だから」「僕は色彩の宝石で、神様じゃないよ」「違うでしょ。だって、俺たちの名前、ね?」「そうだけど……」 紅優が蒼愛の手を握った。「今のままの名前でいいなら、神様も悪くないと思えるよ。蒼愛と同じで、生きていける」「うん、そうだね。僕も、今の名前が良い。紅優がくれた蒼愛が良い」 額を合わせて笑い合う。「二人にしかわからない話をするのは、狡いな。私にも聞かせておくれ」 すぐそばに座っている淤加美が、ちょっと不貞腐れている。「名前の文字の数なのですが、俺たちの名前はそれぞれ二文字だけど」「二人合わせて四文字だから、このままでいいみたいなんです」 紅優と蒼愛が交互に説明する。 つまりは二人合わせて瑞穂ノ神という扱いらしい。 正確には瑞穂ノ神には色彩の宝石が欠かせないという意味のようだが。セットと考えていいんだろうと思う。「なるほどね。そういう話も幽世が教えてくれるのかい?」 淤加美の言葉に、蒼愛と紅優は頷いた。「結局、紅優と蒼愛はどこまで何を知っているんだい? この幽世の総てがわかるのかい?」 月詠見が不思議そうに問う。 蒼愛は首を傾げた。「教えてくれることとくれないことがあるし、聞いてなくても教えてくれた
last updateLast Updated : 2025-08-10
Read more

100.祭祀後の宴②

「現世の根の国は亡者の国って、蒼愛も知っているよね?」 小声で紅優に声を掛けられて頷いた。 理研にあった日本の神話の本で読んで、知っている知識だ。「根の国の住人や神はね、ちょっと格下扱いされて、地上では嫌な思いをすることが多いんだ」 神々が微妙な反応をしたのは、その為かと思った。 差別される神様の、唯一の友達が、伽耶乃だったのだろう。「伽耶乃様って、どんな神様だったの?」 こっそりと紅優に聞いてみる。「野の神様で、ある意味では大気津様より大地に近い神様だよ。女神様でね、おおらかでおっとりした優しい神様だよ」 確か、大気津もそんなような性格の神様と聞いた気がする。 優しい神様や人というのは、絶望すると極端な発想に走ってしまうのかもしれない。「色彩の宝石は能力も未確認で、どんな力も備わってるって噂だったから。伽耶乃を元に戻せるかもしれないって思った。僕の力じゃ、蛇々も八俣も大蛇の一族も、どうにもできない。あの頃には僕の悪行も大蛇に触れ回られていて、誰も僕の言葉なんか信じてくれないって思った。だから、伽耶乃を元に戻すしかしかないと思った」 須勢理の目が少しだけ上向いた。 その目が蒼愛に向いた。「御披露目の時、蒼愛は僕を寂しいって言った。初めて会った人間に、僕の気持ちを見抜かれた。悔しいとかムカつくより、安心したんだ。もしかしたら、やっと、この辛さから解放されるかもしれないって」 須勢理の目から涙があふれる。 日美子が須勢理の肩を抱いてやっていた。(あの時の、あの無表情な顔は、安心だったんだ。そこまでは、わからなかった)「だから須勢理様は、俺を木の根で助けてくれたんですね。蒼愛を守るために」 紅優をちらりと見て、須勢理が俯いた。「……本当は、紅優の動きを奪って左目を壊せって言われてた」 確かに、見た目上は須勢理が言った通りの展開になっていた。 大蛇の命令通りに動いたように見せかけて、守ってくれたのだろう。
last updateLast Updated : 2025-08-10
Read more
PREV
1
...
67891011
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status