(大気津様は人が好きだったから人喰の妖怪を嫌っていただけだ。それ以外の、人を喰わない妖怪が、身勝手な理由でたくさん殺されてしまったら。殺したのが人間だったら。人間を嫌いになってしまうかもしれない) 人喰の妖怪は瑞穂国でも二割程度だと、火産霊が話していた。 人間が侵略に来て殺した大勢の妖怪は、そのほとんどが人喰しない妖怪だったはずだ。 大気津は神として自国の民が殺されていくのに心を痛めたのだろう。信じていた人間が愛する民を殺したのなら、反動で人間を嫌いになってしまうのも、わかる気がした。「人間が嫌いになった大気津様は、土の中で生きながら、人間を狩ってるんだよ。人喰の妖怪に分けてあげたり、自分が喰ったりしている。色彩の宝石がない今なら、現世との結界が緩くて狩り放題なんだよね。その分、迷い込んでくる人間も多いけど、そんなの大気津様や人喰妖怪には都合が良いからね」 利荔がとても怖い話をしている。 迷い込んでくる人間は、黒曜が管理して人喰の妖怪に卸していると聞いた。「結界は基本、日と暗の力なんだけどね、色彩の宝石があるからこそ、盤石になる。勿論、普通の妖怪の妖力程度じゃ破れないけど、神力なら穴を開けずに人を攫うくらい、わけないんだ」「紅優の左目でも、弱いの?」 紅優が眉を下げて頷いた。「俺のは、あくまで代わりでしかない。本物の色彩の宝石には、敵わないよ」 蒼愛は、じっと考え込んだ。 きっと良くない考えだと思うが、話してみようと思った。「あの……、今の状態って、瑞穂国にとって、そんなに悪くない気がするけど、色彩の宝石は必要なんでしょうか」 志那津と利荔と、紅優まで、同じ顔をしている。 三人とも、ぱちくり、と目を瞬かせた。「蒼愛の指摘は、またも正しいよ。適度に結界が機能していて、それなりに人間が狩れる。国としては潤うよね」 利荔が肯定的な見解をくれた。「だからこそ、中途半端な状態が千年近く続いて来たんだよ。それはそれで成り立ってしまっているからな」 志那津も同じような言葉
Последнее обновление : 2025-07-30 Читайте больше