Все главы 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—: Глава 71 - Глава 80

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71.はじめてのヤキモチ①

 火ノ宮に三日ほど滞在した蒼愛と紅優は、火産霊の引き止めを押しのけて水ノ宮に戻った。  読書の他にも、炎の術の使い方など教えてもらって、蒼愛としてはとても楽しい時間だった。  水ノ宮に戻ると、淤加美が険しい顔で出迎えた。「予想通り遅かったね。火ノ宮に住むつもりかと思ったよ」 緊急事態でも起きたのかと思いきや、蒼愛たちの帰りが遅かったので不機嫌になっているだけらしい。  火産霊の引き止めを考えたら、これでも早めに切り上げてきたと思うのだが。  などと話すと淤加美がもっと不機嫌になりそうなので、黙っておいた。「戻るのが遅くなり、申し訳ありません、淤加美様」 紅優と一緒に蒼愛もぺこりと頭を下げた。「蒼愛が無事なら問題ないけれど。紅優も私のモノだと、あれ程、伝えたのにね」 淤加美に横目に流し見られて、紅優が苦笑している。「大事な話は、できたのかな?」 淤加美の問いかけに、紅優が一瞬、目を見開いた。「……はい。ちゃんと伝えられました。佐久夜の話を、火産霊と一緒に」 はにかむように笑んだ紅優に、淤加美もまた安堵の息を漏らした。「ならば、良かったよ。蒼愛も元気そうだしね」 淤加美に頬を撫でられて、蒼愛も笑んだ。「二人で佐久夜様を大切にするって決めたんです。どんな神様だったのか、僕も知りたいから、これからいっぱい紅優からお話を聞くんです」 淤加美がニコリと笑んだ。「そうかい。では私も、昔語りを蒼愛に聞かせようか」 「はい! いっぱい聞かせてください」 淤加美に頭を撫でられて、擽ったい気持ちになった。「先に大事な話を伝えておこう。色彩の宝石を瑞穂ノ社に祀る日が決まったよ。五日後だ」 「五日後……」 紅優の表情と纏う気が引き締まった。「五日後には、紅優の目が戻るんだね。そうしたら、完璧な番になれるよね」 紅優の袖を引く。  蒼愛を振り返って、紅優が笑んだ。「そうだね。今より蒼愛と深
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72.はじめてのヤキモチ②

「ふぅむ、困ったね。紅優の元気がないと、心配になるよ」 淤加美がちらりと蒼愛を流し見た。「もっと紅優が寛げるように、やっぱり私の加護を授けようか。少しは水ノ宮に妖力が馴染むだろう」 淤加美が紅優の腕を引いて、その体を抱き寄せた。「え⁉ いえ、流石にそれは、あまりにも急すぎます。俺には水の適性はありませんから、馴染みませんよ」 「与えてみないと、わからないだろう? 蒼玉の番になったんだ。紅優にも水の適性が生じているかもしれないよ」 更に抱き寄せて、淤加美が紅優の顎を掴む。「淤加美様、御戯れが過ぎるかと……」 紅優の声が震えている。  嫌がっているというより、怯えている感じだ。「唇を重ねるだけだよ。すぐに済む」 淤加美の唇が紅優に触れそうになった時、蒼愛は無意識に淤加美の袖を引いていた。  動きを止めて、淤加美の目が蒼愛に向く。「あっ、ごめんなさい……。邪魔するつもりじゃ……」 我に返っても、淤加美の袖を離す気になれなかった。「邪魔する気がないのなら、離してくれないかい、蒼愛。このままじゃ、紅優に加護をあげられない」 淤加美の声がいつになく冷たく聞こえて、びくりと震える。  それでも、掴んだ袖を離せなかった。「あ、あの、淤加美様……、加護を与えるの、キスじゃないとダメですか……」 声がどんどん小さくなって、消え入りそうだ。「神力を外側から押し込んでもいいけれど、口移しが確実だよ。濃厚な神力を流せる。濃いから少し、気持ち良くなってしまうかもしれないけれどね。蒼愛にも、しただろう」 思わず顔が上がった。  淤加美の加護も神力も、口移しで何度も授かっている。だから、言葉の意味は理解できる。「じゃぁ、やっぱり、外側から……」 「蒼愛、大事な想いは、はっきり言葉にしないと伝わらないよ。大事じゃないなら、紅優に加護を与えた後でもいいね」 口の中でもごもごと話す蒼愛に、淤加美がすぱっと言い切った。  蒼愛に袖を
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73.風ノ神 志那津

 火ノ宮から戻って一日、ゆっくり体を休めた蒼愛と紅優は、次の日には風ノ宮に向かった。 本当は空いた時間で『瑞穂国創世記』を読みたかったが、そんな時間はなかった。「蒼愛が知りたい話は、もしかしたら風ノ宮で知れるかもしれないよ。まずは志那津と話をしてごらん」 淤加美が意味深な物言いをして、蒼愛と紅優を送り出した。 ついでに、と荷物を渡された。志那津へのお遣いを兼ねているらしい。「僕が知りたい話って、創世記の話かな?」「そうだね。行ってみれば、わかるよ。もし会えたら、蒼愛はびっくりするかも」 紅優が、ちょっと楽しそうな顔を向ける。(紅優は知ってるっぽい。僕がビックリする相手……。創世記と関りがある神様なのかな) 小さな疑問を胸に、蒼愛は風ノ宮に赴いた。 風ノ宮もまた、他の神々の宮同様に簡素ながら重厚な造りの宮だ。 余計なものがない分、大きく感じる。(話くらいは、してもらえるかな。淤加美様は形式的な挨拶だけで帰ってきてもいいって言ってくれたけど) 蒼愛としては、出来れば話をしてみたい。 蒼愛と紅優が宮の入り口に立つ前に、扉が開いた。「来なくていいって言ったのに、本当にきたんだ」 開いた扉の向こうには、志那津が立っていた。 蒼愛を横目に流し見て、すぐに目を逸らされた。(やっぱり嫌われているっぽい。ご挨拶だけして帰った方がよさそう) 紅優が一歩前に出て、礼をした。「お時間を頂戴いたしまして、ありがとうございます。番になりましたご報告とご挨拶に参じました」「わかってるよ。御披露目でお前たちの話は充分聞いた。他に用件でもあるの?」 紅優が、淤加美に預かった荷物を志那津に手渡した。「こちら、淤加美様から志那津様へと御預かりしたお届け物でございます」「淤加美様から? さっさと寄越して」 紅優の手から奪い取るように志那津が荷物を受け取る。 荷物から小さな竜が舞い上がって、志那津の鼻に口
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74.風貍の利荔①

志那津の案内で更に宮の奥に進む。 奥に進むにつれ、本や物が増えてきた。部屋の感じも変わってきた。 広い廊下に沿って狭い部屋がいくつも連なる。 その奥の方にやけに大きな部屋あった。 入り口には、部屋に入りきらないのか、詰み上げられた本や布などが無造作に置かれていた。「アイツ、また散らかし放題に散らかして……」 志那津が舌打ちしながら愚痴をこぼした。「俺は人間と馬鹿が嫌いだけど、整理整頓ができない妖怪も嫌いなんだよ」 聞く度に志那津の嫌いなものが増えていく。 志那津が嫌いなものを教えてくれている、と言った方が良いのかもしれない。 眉間に皺を寄せた志那津が、散らかった部屋に不機嫌な足取りで入っていった。「おい、:利荔(りれい)! 執筆するなら実験の後片付けをしてから! 実験するなら執筆で使った紙と筆と資料を片付けてからと注意しただろ!」 志那津が部屋の中に怒鳴り込んでいった。 その姿を、紅優が可笑しそうに眺めていた。「どうやら、会わせてもらえそうだね」 呟いた紅優を見上げる。 「風ノ宮はね、別称が智慧ノ宮と呼ばれていて、志那津様は勿論、この宮に仕える者のほとんどが学者や文筆家や何かの専門家なんだ。瑞穂国の知恵の総てが風ノ宮に詰まっていると言われているんだよ」 蒼愛は只々感心していた。 今まで回ってきた宮とは、明らかに雰囲気から違うと思った。「志那津様が入っていった部屋の利荔って妖怪は、志那津様の側仕なんだけどね。文筆家であり郷土史や自然学の学者でもあってね。瑞穂国に利荔さんより賢い妖怪はないって言われるくらい何でも知っている妖怪なんだけど。瑞穂国創世記を書いた妖怪でもあるんだよ」「えぇ⁉」 前のめりになる蒼愛を紅優が嬉しそうに眺める。「書いた本人にならきっと面白い話が聞けるだろうし、会えたら蒼愛は嬉しいかなって思ったんだ」「嬉しい! 書いた本人に会えるなんて、思わなかった!」 現世でだって、作
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75.風貍の利荔②

「ぁ……、ん、ぁ……、これ、ダメ……」 口付けで吸い上げられる以上に体中に快楽が走って、疼く。 蕩けた目で、手を伸ばす。 紅優より早く、志那津が蒼愛に駆け寄った。「おい、大丈夫か? 利荔、吸い過ぎだ!」 唇を離さない利荔を志那津が突き飛ばした。 ぐったりと力が入らない蒼愛の体を志那津が受け止めた。「蒼愛! 具合が悪いのか? 霊力を喰われ過ぎたのか?」 志那津が、かなり心配している。 初めて見る顔だと思った。(初めて名前、呼ばれた、かも) 抱えてくれる志那津に抱き付く。 志那津の体がビクリと震えた。「いっぱい、気持ち善く、なっちゃう……。志那津、さま……」 持て余した快楽をどうしていいかわからずに、志那津に縋り付いた。 震える蒼愛の背中を紅優が摩ってくれた。「ありがとうございます、志那津様。やはり志那津様は、お優しいですね」「そういうんじゃない。たまたま、近くに居ただけ。利荔の不始末は俺の責任だから、それだけだよ」 いつもの不機嫌な顔に戻ってしまったのが悲しくて、蒼愛は志那津に手を伸ばした。「名前、呼んでくれて、嬉しい、です。僕、もっと志那津様と仲良しに、なりたい。笑った顔、観たいです」 自分から志那津に唇を重ねて、霊力を流し込んだ。 流れ込んだ霊力に反応して、志那津の腕が震えながら蒼愛を強く掴んだ。 顔を離すと、驚いた表情の志那津が蒼愛を見詰めていた。「僕の霊力、美味しい?」 小首を傾げると、志那津の顔が真っ赤になった。「お、おま、お前……。番の目の前で他の相手に口付けて、しかも自分から霊力を流し込むとか、馬鹿なのか!」 真っ赤な顔のまま、志那津が怒っている。 何故、怒っているのかよくわからない。 
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76.おまけなんて言わないで①

 暗い、只々真っ暗で、何もない。 目を瞑った時の瞼の裏より暗くて、まるで黒い絵の具を一面に溢してしまった空間のようだと思った。 誰もいないのに、たくさんの気配を感じる気がする。 大勢のようで一人にも感じる。 その誰かは、泣いているようだった。『……憎い、私を捨てた者たちが。嫌い、みんな喰われて消えればいい。総て壊れてしまえばいい、人も妖怪も神も、この世も。何もかも、消えてなくなればいい』 悲しい感情が流れ込んでくる。 同じくらい強い怒りの感情が、恐ろしかった。『お前が壊しなさい、蒼愛。この世を何もなかった頃に戻すの。お前は意志を持つ色彩の宝石。私の敵になってはいけない。神々にかどわかされては、いけない。真実を知りなさい』 何も見えないのに、何かが近付いてくる。 あれはきっと触れてはいけない何かだ。 聞いてはいけない声だ。 怖くて走って逃げた。「紅優、紅優、助けて、助けて!」「蒼愛! こっちだ。ここに居るよ。手を握っているよ」 右手に温もりを感じて、ようやく胸に安堵が降りた。「紅優、僕を引き上げて。紅優の胸の中で、抱き締めて」 呟きながら、蒼愛はゆっくりと目を閉じた。  目を開くと、紅優の匂いがした。 顔を上げたら、紅優が心配そうに蒼愛を見下ろしていた。「大丈夫? うなされていたみたいだけど、怖い夢でもみた?」 蒼愛は力いっぱい紅優に抱き付いた。 紅優の着物を強く掴んでも、手の震えが消えない。 そんな蒼愛に気が付いて、紅優が蒼愛の体を抱きしめてくれた。「誰かが、この国を壊せって。神様に騙されるな、真実を知れって」 紅優が息を飲んだ。気配が緊張したのが分かった。「あれは、聞いちゃいけない声だ。僕を、色彩の宝石を使って、悪いこと、するつもりの声だ」 思い出すだけで怖くて、体が震える。「蒼愛はそんな風に、感じたんだね」 紅優
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77.おまけなんて言わないで②

「蒼愛……」 紅優の手が伸びて、蒼愛の涙を拭った。「こっちにおいで」 優しく肩を抱かれて、紅優の上に横たわる。「ごめんね、蒼愛。俺もちょっと寂しくなってた。蒼愛が遠くに行ってしまいそうで、怖くて。俺の蒼愛なのに、皆に愛されている蒼愛に、ちょっとだけ嫉妬した」 神々に会うたびに加護と称してキスしたり、それらしい行為をしてしまっているので、何も言えない。 そういうのも、きっと紅優を不安にさせているんだろうと思った。「もう、神様に会っても加護とかもらったりしないから……」「それはダメだよ」 紅優が蒼愛の言葉を遮って、ぴしゃりと言い切った。「神様の加護を貰って、神様に愛されるのが蒼愛の、色彩の宝石の務めだ。蒼愛はそれを受け入れなきゃ。勿論、俺もなんだけどね」 紅優の腕が蒼愛を抱きすくめる。「僕の全部って言ってくれて、嬉しい。どうしようもなく嬉しい。他の誰にも触らせたくない。どこかに仕舞い込んで俺だけの蒼愛にしてしまいたい。けどね、皆に愛されてる蒼愛を見ているのも、俺は好き。俺の大好きで大事な蒼愛を皆も大事にしてくれてるのが、嬉しいんだよ」 顔を上げると、紅優が優しく微笑みかけてくれた。「大事な蒼愛を失わないためには、神様の加護も、神に愛されるのも、今の蒼愛には大事だよ。身を守る手段になる。俺たちは今、淤加美様の試練の最中だ。試練を終えたら、永遠の祝福を貰えるでしょ」「あ! そうだった」 色々あって、すっかり忘れていた。 永遠の祝福を貰えれば、紅優とこれからもずっと番でいられる。「だから今は、頑張ろうね」 紅優の言葉に、蒼愛は素直に頷いた。「でも、紅優。もう、おまけ、なんて言わないで。僕が一番大切なのは、紅優だけだよ」 紅優が嬉しそうに蒼愛の目尻を指でなぞった。「そうだね、ごめん。蒼愛が頑張るのは全部、俺と幸せを見つけるため、だもんね。二人で芯との約束を叶えないとね」 
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78.不穏な声

 寝所を出て、広間に向かう。 途中、従者らしき者に声を掛けられ、奥の間に案内された。 部屋に入ると、文机とノートのような冊子に筆が、きっちりと準備されていた。「なんだ、もう平気なのか?」 後ろから志那津に声を掛けられて、振り返る。「急に眠っちゃって、すみませんでした。すっかり元気です」 深々と頭を下げた。 利荔に霊力を吸われた後、蒼愛は意識を失って倒れたらしい。 怖い声を聴いて、気が付いたら紅優に抱かれて寝ていた。「あれは利荔の無礼のせいだから、気にしなくていい。むしろ謝るべきは俺だ。すまなかった」 志那津に真っ直ぐに謝られて、ぽかんと口を開けてしまった。「なんだよ、その締まりのない顔は。余計に阿呆に見えるから、せめて口を閉じろよ」 指摘されて、慌てて口を閉じた。「調子が戻ったのなら、学びを始める。まずは漢字の書き取りから。ある程度の漢字を覚えたら、創世記の説明を利荔にさせるから。今日は漢字の書き取りをびっしりやってもらう。三日しかないんだから、効率よく集中して覚えろよ」「はい! わかりました」 志那津が早口でまくし立てるので、思わず背筋が伸びた。「志那津様、時の回廊は、今、どうしていますか?」 さらっと紅優が質問を挟んだ。「常時と変化ない。ここ数百年は誰も入っていないよ」 志那津が訝し気な視線を紅優に向ける。「実は先ほど、蒼愛の夢に何者かが入り込んだ様子で。声しか聞こえなかったんだよね? 姿は見た?」 紅優に質問され、蒼愛は首を振った。「真っ暗な場所で、声を聴いただけだよ。とても怖くて、逃げたんだけど、どこも真っ暗で、どこに逃げればいいか、わからなくて。ずっと紅優の名前を呼んでた」 思い出すだけでも背筋が寒くなる。 そんな怖さだった。 志那津が、あからさまに顔色を変えた。「どんな声だった? 男? 女?」「よく、わかりません。女性だったようにも思うし、男性だった気もす
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79.瑞穂国創世記 第一章 第二章 ※読み飛ばし可※

『瑞穂国創世記 ―第一章―  人と妖怪と神が、今より遥かに近しい時代。  昼も夜も曖昧で、天と地も今よりずっと近くにあった神代の頃。 人間と妖怪がより良い関係で互いに生きるため、惟神クイナは幽世・瑞穂国を作った。水が潤い喰うに困らぬ国であるようにと、この名を付けた。  幽世が歪まぬために「色彩の宝石」を臍に置き、国を維持した。  良き国を作るため、信を置く六柱の神に国を任せた。 神々には「色彩の宝石」を守るよう告げた。この宝石こそが幽世の理そのものであり、最も守るべき存在であると伝えた。 水ノ神・淤加美は現世では竜神であり、罔象の分身である。この幽世の神々の長となり、皆を纏める。水は命の源、癒しの力である。 日ノ神・日美子は現世では日向神の巫女であり、その神力を授かった神である。暗ノ神・月詠見は夜を守り月を読む神である。幽世の暗部を守る。  二柱が力をあわせると、強い結界が生まれる。その結界が幽世を守り、瘴気を浄化する。 風ノ神・志那津は若いが淤加美の信頼厚い神であり、強い神力と類稀な知恵を持つ。 火ノ神・火産霊は一度は現世に残り、代わりに弟神の佐久夜が幽世に入った。妖力が強い火の妖狐を側仕として伴い、やがて番となったが、神力弱く妖狐に飲まれた。その後、火産霊が幽世に入った。罪を焼き罰を与える火を使う。 土ノ神・大気津は現世では保食の神であり、土壌を豊かにし豊富な作物を実らせる種を持つ神である。クイナと一層仲が良かった。人を愛し、人喰の妖怪を嫌った。それ故に、幽世の有様に憂いた。 クイナが作った幽世・瑞穂国は妖怪が住む国であり、人喰の妖怪も多くあった。  人を愛し、妖怪を愛し、神に愛されたクイナは「喰わねば仲良くなれるかと言えば、そうでもない。喰わねば飢えるは人も妖怪も同じ。抗うのも当然の摂理なら、喰らうも摂理。それでも共に生きる法を探したい」という。 大気津はクイナの言葉を汲み、自ら幽世の土となった。 「私が自ら土となり、多くの食料を実らせよう。人を喰わずとも済む食料を宿そう。いつか人を喰らう妖怪がなくなるように」と願った。
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80.瑞穂国の違和感①

 瑞穂国創世記の第一章と第二章を読んだ蒼愛は言葉を失くした。 「蒼愛に必要な部分を抜粋するとしたら、この辺りかなぁ。ちょっとショッキングかもしれないけどね」 紅優に手伝ってもらいながら創世記を読み始めたら、利荔がすぐに来てくれた。 難しい表現や漢字を気にしなくていいように、要約して語って聞かせてくれた。「どうしてこの国で、人間が餌か奴隷なのか、よくわかりました」 人間と妖怪の棲み分けのために作った国に、豊かで住みやすそうだからという理由で侵略を仕掛ける人間は、蒼愛でも醜いと思う。(この国の民はあくまで妖怪だ。国の民を守るために神様が侵略者を排除するのは当然だ) まるで自業自得としか言いようのない事情に、何も言えない。(でも、ちょっとわかった。色彩の宝石を盗んだ犯人と、その理由) ずっとモヤモヤしていた胸の中の霧が、ほんの少しだけ晴れた気がした。「色彩の宝石を人間が現世に持ち去った時に、手助けした者がいたんですよね」 蒼愛は、利荔に問い掛けた。 色彩の宝石を盗んだのは神様だと、月詠見は話していた。「そうだよ。この幽世に色彩の宝石があると都合が悪い者がいるのさ。蒼愛は、誰だと思う?」 創世記のページを、じっと見詰める。 第一章の神様のページを、蒼愛は指でなぞった。(御披露目の時は、須勢理様だと思った。だけど、違う。色彩の宝石があって、本当に困るのは)「大気津様、ですよね。全部、須勢理様のせいのように見せかけているだけで」 隣にいる紅優が息を飲んだ。「何故、そう思った? 根拠は……、そう思った理由は、何?」 志那津が問いを投げる。 蒼愛が難しい言葉を知らないので、言い直してくれる辺り、優しいと思う。「須勢理様は現世では根の国の、亡者の国の神様だったんですよね。今の大気津様は、そういう状態じゃないかと思って。御披露目で会った時、須勢理様だけ他の神様と気配が違ったんです。強い死の匂いを纏っているような感じ
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